婚約破棄から始まるハッピーエンド

にび

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婚約破棄から始まるハッピーエンド

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「私、アルベルト=アインホルンはアンネリーゼ=クラウゼとの婚約を破棄する!!」


静まり返ったきらびやかなホールに、アインホルン王国第三王子の声が響き渡る。


…あ、私は所謂悪役令嬢なのかしら?

私ことアンネリーゼ=クラウゼは霧がかった頭がスッキリしていくのを感じながら今の状況を考えた。

この土壇場で、どうやら私は前世の記憶を取り戻したらしい。

しかし、前世は乙女ゲーなどやっていないしなんとなく流行っていた断罪ストーリーという物を聞きかじっていただけだ。

とにかくこの場を乗り切らなくては…


「…殿下の御心のままに」


令嬢としての作法に則り丁寧に頭を下げた後、扉に向かって歩みを進める。


王子様に婚約破棄されたしがない侯爵令嬢としての私がこの先どうなるのかはわからないが、とにかくこの場で見世物になっているのは耐えられない。

それに、公衆の面前で婚約破棄を宣言するような心も頭も足りない残念王子と縁が切れるのは正直な所嬉しい話だ。

領地に引っ込められるのか、何処かの後妻に収まるのか、はたまた勘当されて家を出るのか…

後妻は嫌だなと思いつつ、困惑している扉係に声を掛けた。


扉が開き外に出ようとしたその時、勢い良く誰かが飛び込んで来た。

その拍子に、令嬢のか弱い身体に重たく身動きの取りづらいドレスの私はバランスを崩してしまう。

あ、倒れる…

思わず目を瞑り衝撃を待つが、それは一向にやってこない。

むしろ…


ゆっくりと目を開けた私の目の前にあったのは見目麗しい顔だった。


「アンネリーゼ嬢、失礼した。」


「こちらこそ、支えていただきありがとうございます。殿下」


その美しすぎる顔面凶器にクラっとなりながら、第二王子であられるジルベルト殿下から距離をおこうと身をよじる。

しかし、腰を支えている大きな手は一向に私から離れない。


…なにこれ!?

内心パニックになりながらもそこは令嬢としての教育が上手く表情を取り繕うのに役立つ。


「あの、殿下?」


じっと私の顔を見つめるジルベルトに声を掛けると、ようやく私の腰から手が離れた。


「私はこれでは失礼致します。」


ただでさえ注目の的だったのだ。

私の一挙手一投足を見ている筈のご子息ご令嬢に貴族の皆様はこの一連の流れもしっかりと見ている事だろう。

怖くて振り向く事はできないが…


「アンネリーゼ嬢、待っていただけないか?」


やっとここから出られる…

そう思ったのに、何故かジルベルトから呼び止めれた。

王子様からの言葉を無視は出来ない。

仕方なくジルベルトに向き合い、何でしょうか?と尋ねる。


「よろしければ、一曲ご一緒していただけませんか?」


ジルベルトは綺麗な顔で微笑み、私に手を差し出した。

今来た所とは言え、このパーティーの途中とは思えない異様な空気を感じないのだろうか…

誰一人踊っている者は居らず、曲さえ流れていない。


「あ、兄上!!」


ニヤニヤと私の惨めな姿を眺めていたであろうアルベルトが声を上げた。

しかし、ジルベルトは一向に気にする事なくさぁ、と手を差し出してくる。

この状況でホールを去るという選択肢はない…


「喜んで」


令嬢の仮面をつけてもひきつる笑顔で、私はジルベルトの手をとった。


「アンネリーゼ!お前どういう立場かわかっているのか!!兄上も!」


尚も騒ぎ立てるアルベルトに一瞥くれると、ジルベルトはジルベルトの後に続いて入ってきた騎士に合図を送った。

騎士達は一斉に動き出す。


「何やら獣がギャーギャー騒いでいるが、直ぐに静かにさせるからね。さぁ、行こう。」


訳も分からず、ジルベルトにエスコートされ私は先程断罪されていたホールの中央に舞い戻ってしまった。

ジルベルトの合図と共に曲が流れる。

この異常事態に踊っているのは当然私達だけだ。

いつの間にか静かになったアルベルトが気になるが、ジルベルトによってそちらは伺いしれない。


長年踊りなれたダンスに、動揺にも負けず淀みなく身体は動くが、気持ちはそうではない。

密着しすぎているのではというジルベルトのダンスのエスコートに身を委ねながら声を掛けるタイミングを伺っていると、ジルベルトが口を開いた。


「アンネリーゼ嬢は何も考えなくて大丈夫だよ?全て片付け終わったからね。だから折角の僕と君との初めてのダンスをもっと楽しもう?」


ジルベルトの破壊力抜群な笑顔と、言葉、更に近づいた距離に戸惑う。


「殿下?」


「殿下だなんて!僕の事はこれからジルと呼んでくれないか?」


微笑みながらサラッと可笑しな事を言うジルベルトに私は困惑した。

そもそも、第三王子の婚約者であった私と第二王子であられるジルベルトとはこれまでほとんど関わった事などなかった。

婚約者として城に上がる事もあったが、もともと私を良く思っていないアルベルトとのお茶の時間は最低限の物であったし他の王族とテーブルを共にする事もなかった。

パーティーでも最低限の時間をアルベルトの隣で過ごしたあとは直ぐに退席をするのが常だった為に交流も何もないし、そもそもジルベルトは長いこと留学していた為、大きな式典のみに帰国し参加していた。


因みに退席は全てアルベルトの指示で、私が居なくなった後にアルベルトはいかに私が駄目な令嬢かを語り、気に入りの令嬢を侍らせていたそうだ。

その場に居なくとも、貴族社会は噂話に満ち溢れており聞きたい、聞きたくないに限らず耳に入ってくるのだ。


死んだ魚のような目になる私に、ジルベルトは優しく微笑み掛ける。

ようやく曲がラストを迎えこれで今度こそかえれると、そう思ったのは間違いだった。

曲が終わり手が離れると、ジルベルトは片膝を付き、私に言った。


「アンネリーゼ嬢、私と婚約していただけませんか?」



その後、あれよあれよという間に私は第二王子殿下であるジルベルト殿下と婚約した。

元より私に選択権などない。

私の数々の噂話は第三王子アルベルトが王位継承権を剥奪された事と共に全て偽りの事実であると広められ、今までと態度をころっと変えた貴族達がすり寄って来ているが全てジルベルトが一蹴している。


半年後には、私はジルと結婚し婿養子となるジルと侯爵領を経営して行く事になる。

私の長年の苦しみを放置していた両親は、ジルに侯爵を明け渡したら直ぐに隠居する予定だ。

権力欲しさに、アルベルトに何をされようが逆らってはならないと娘を叱責してきた事を知ったジルが有無を言わさずに決めた。

ジルの愛は少々重いが、それでも幸せだ。

少しずつ前世の記憶を使ってジルを助けながら領地を豊かに出来たら良いと思う。


私は、悪役令嬢じゃなかったのね…


転生した私は幸せに生きる。





「…なんて可愛らしいんだ」


それは妖精と見間違う程にキラキラとした女の子だった。

柔らかそうな銀の髪が光を纏い、理智を秘めたアメジストの瞳が揺れる。

私、ジルベルト=アインホルンはアンネリーゼ=クラウゼに恋をしたのは10歳の事だった。


その恋心は直ぐに砕けた。

アンネリーゼは腹違いの弟であるアルベルトの婚約者だったからだ。

アルベルトの母親は何としてでも自分の息子を王にする為、力のあるクラウゼ侯爵家と手を組んだのだ。


悲しくはあったが、アンネリーゼが幸せであればと断腸の思いでその恋心に蓋をした。

しかし、アンネリーゼは幸せなどではなかった。

失恋のショックから他国に留学する事8年…。


帰国した私の耳に届いたのはアンネリーゼを中傷する噂の数々だった。


噂と、アルベルトとアンネリーゼの事を調べさせるとアンネリーゼは相変わらずの天使である事実とアルベルトの悪事の数々が露呈した。


急いで裏付けを取り、王や兄に事実を告げ、アルベルトの長年の浮気相手とその家族を捕まえた。

アルベルトの悪事のほとんどは浮気相手の家の力を借りた物であった為だ。

王族が犯罪行為など言語道断である。

王や兄は直ぐに動いてくれた。


アルベルトの浮気相手の家に突入し、諸悪の元凶である令嬢を捕まえると今日のパーティーでアンネリーゼは婚約破棄を告げられる予定だと言うではないか。


慌ててホールに向かい、そしてそこで初めて私はアンネリーゼに触れた。



そこから流れるように時間は立ち、初めは戸惑っていたリゼも私に心を許してくれるようになった。

時々、よく分からない事を口にしたりもするがとても可愛らしく、そして聡明なリゼ。

私の焦がれて止まない妖精は、私だけの物になったのだ。



クラウゼ侯爵領は、独自の技術により栄えた。

その中心にはいつもクラウゼ侯爵夫婦が居り、その姿はとても仲睦まじいものだった。


侯爵夫妻が技術を秘匿する事はなく、それは侯爵家を中心として国全土に広がりアインホルン王国はやがて黄金期を迎えた。


アインホルン王国の影にクラウゼあり。

その言葉は後世まで語り継がれる。



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