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回り舞台
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自販機明るい、クルマのテールランプが赤く通りゆくし。動き出した町、あの人だって、この人だって、風だって、少し躊躇ってうず巻いている。 靴音鳴って、きのうの道を今朝も行く。いつも行くし、 明日もそうやし。ハクチョウになれないし。ハクチョウになるまで行くし。
ユウーー 目に見えないモノって? なに?
ワタシの世界、疑問符だらけやし、疑問符(?)って耳の形に似てるし。
「永遠の真実は目に見えない、モノの心みたいなもんよ。自然の心、山の心、河の心、ボクたちは目に見えない心によって支えられている」ユウが言ったし。
「目に見える宇宙は目に見えない宇宙に支えられて、世の仕組み、真実やね」そうも言ったし。
ワタシは人差し指と中指で定期券をはさみ自動改札をすべらす。だんだん、だんだんと、幼虫の心から蛹(さなぎ)の心へ。
「ご乗車ありがとうございます」とアナウンス。
その頃、ワタシはすっかり身体まで大人になっている。駅、いつもの駅、人が溢れていくし。線路にこぼれんばかり。ワタシの心のなかで眠っていた何か、何かが動き始めたし。始動、ワタシはいつものように電車に飛び乗った。潔く風景が流れていくし。木々の緑も青い空も白い雲も、光だって、影さへも潔く、潔く。まるで喝采やし。潔くありたいし。
ワタシは三つの川を渡って職場まで行く。まづK電車でY川を渡る。
ワタシはお気に入りのキャラクター扇子をあおぎながら、ごく普通の鉄橋を渡る。K電車の下、K鉄道が堤防沿いに走っている。K電車とK鉄電車が出会う。初めは偶然、それが必然、いつものことになっちゃった。ワタシのなかで人生の約束ごとみたいに、確かなものになっていくし。必然のメカニズムかな。
遠く青空に夏の名残雲が沸き立っている。まだまだ暑いし。こういうのを残暑って言うんでしょ。残暑お見舞い申し上げます。ワタシは心のなかでハガキみたいに言ってみたし。
それから、K駅の手前、N川を渡る。鉄橋らしきものを渡る。空気が少し変わっていく。
街路の空気だ。喉がイガっぽくなるし。だからワタシは、
「えっへん! 」といつも言う。(えっへんおじさん)登場やし。
(えっへんおじさん)って? どんなおじさんやねんって?
(えっへん)ばかり言っている謎のおじさんやし。どこにでもいる。ほら、あそこにもここにもいるし。
「えっへん、えっへん」
「えっへん、えっへん」
「えっへん、えっへん」
最後はY川を渡る。心して渡る。長い、長い、象さんの鼻より、キリンさんの首より長い鉄橋、なにが起きるかわからない。だから心して渡る。呼吸を止めて、レントゲンみたい、厳粛に、静粛に、ある映画でみたように右拳で左胸を二回叩き、心の力と念じ、左拳で右胸を二回叩き、心の力と同様に念じる。仕事前の儀式やし。ルーティーンやし。
今、渡り切ったし。電車はポイントを切り替えワタシの降車駅へ。ワタシも、今、仕事モードへポイントを切り替えた。ワタシは仕事人間の役を演じる。ニャオニャオとは言わないが退社まで猫の面を被る。ほら、被った。働く、ってことは本当に辛いし。
「男は生活力だよ」霞ちゃんが言う。霞ちゃんはワタシと同郷の同居人。ワタシを知り尽くしている。ワタシも霞ちゃんにはなんでも言うし。
「アイちゃんのいまの彼氏だめだよ。」霞ちゃんはユウが生活力なしとキッパリ言ってのける。
「ユウはまだ学生やし」ワタシは言う。
霞ちゃんは白鳥みたいに優雅やし。霞ちゃんはユウみたいに土足でワタシの心に入り込んでくる。ワタシがそれを言うと、
「姉の特権やし」と。そう、霞ちゃんはワタシの三つ違いの姉やし。
「人は三種類。勤勉な人と怠惰な人と、そのどちらでもない人と」、「心だってホットとクールとそのどちらでもない心と」霞ちゃんが立て続けに言う。
ワタシはユウにあてはめていく。ユウは勤勉? 怠惰? どちらでもないし。ユウの心はホット? クール? どちらでもない心やし。どちらでもない心ってマイルド。なんかコーヒーみたい。霞ちゃんはなおも言う。
「自然だって三種類。喧騒と、静謐と、そのどちらでもない自然」
ワタシはアヒル? ハクチョウ? ワタシはS? M? ワタシはドMなアヒル。
でも、人って多面的だと思う。コレステロールみたいに善玉も悪玉も持ち合わせているし。人は相反するもの二つ、相いれぬもの二つ持っているし。それが人が人たる所以。要はどちらが表面に出ているかだよ。表面だけで人を評価するのもどうかだよネ。
う~ん、考えるの面倒くさくなっちゃったし、複雑。
「考えて、考えて、突き抜ければシンプルになるよ」、「人生はシンプル、シンプル、シンプルにだよ」。ユウがそんなこと言ったっけ。
アヒルからハクチョウになるって? そういうことかな。
店長とのこと、ユウにいくら説明したってわかってもらえない。ワタシのなかでは、ユウとはまだ始まっていない時のハナシやし。ユウは始まっていたと言うけれど、店長に抱かれて初めてユウのこと好きだとわかったワケ。それからワタシのなかでユウと始まったし。
「やっぱり醜いアヒル」って、ユウのコトバ。それ以後、店長は誘ってきたけど、
「ユウと付き合ってる」って、キッパリ言ったし。
店長はプライド高いから腹いせにユウに言ったみたい。なんか涙出てくるし。
あぁ、会いたいネ。早くユウに会いたいネ。今頃、ユウはどこで? 何を? しているの。ウエァ? ワッツ? ビー? ワタシは英語の単語を並べてみる。
もう会わないなんて言わないでーー
ある日、ユウは、
「三ヶ月の猶予を与える。三ヶ月でアヒルからハクチョウになること」ワタシにミッションだと言った。
ワタシは従順なアイだからアイアイサーと敬礼をしたし。ユウは調子に乗って、
「ミッションインポッシビルはないぜ」そう言ったし。
ユウ、雲の形が変わったよ。秋の雲はエレジーやし。ワタシは走る。アヒル頭がからっぽになるまで走るし。ハクチョウになるために、郵便局を左に曲がり、たわわな柿を右手に見ながら、いくつもの路地を抜け、タバコ屋の角を右に折れ、西日を背に坂をあがったし。走る、走るし。ユウに届くまで走る。風を感じながら走るし。人生に風はつきもんやし。冷たい風、意地悪な風もあるし、向い風、容赦ない風もあるし。人生の八割がたはそんな風だ。ユウが言ってたし。二割は、暖っかい風、嬉しい風、救いの風、お~い、追い風。時にはねぇ、でなきゃ、走ってられないし。
もうすぐユウに会えるし。そんなことを思いながらワタシは郵便局まで戻ったし。
「人生は戻るべきところへ戻るようになっている。ハクチョウが旅から戻るように」
またユウのコトバが蘇ってくる。ワタシはハクチョウみたいに戻れるかしら。
郵便局の傍、グリーンの葉っぱをつけたタラヨウの木がある。タラヨウの木は大きな郵便局のそばに必ずある木。郵便の木、葉書の木と呼ばれている。古代人はその葉っぱの裏に尖ったもので文字を書き、手紙・葉書の代わりとしていたらしい。グリーンメッセージってやつ。これもユウからの受け売り。
ワタシは家々の軒先にある水路を見ていたし。水の流れのなかに夕陽がゆれてちぎれ、赤く染まりゆく西の空から風に乗って、内容は定かでないが有線放送が聞こえてくる。水路の突き当たりは氏神神社と公園やし。公園まで行くと、
「もうすぐだ、もうすぐだ」と老婆が意味不明のコトバを言いながら歩いて行く。犬を散歩させる老人の姿が見えた。
ワタシは鉄棒で小さい頃のようになぜか逆あがりをしたし。
天地逆さまやし。老人が犬に引っ張られていく。
黒い影が二つ、アヒル男? アヒル女? 重なり合っていく。
ユウの影、影。誰かが舞台を回している。
少しはハクチョウになれたし。
ユウーー 目に見えないモノって? なに?
ワタシの世界、疑問符だらけやし、疑問符(?)って耳の形に似てるし。
「永遠の真実は目に見えない、モノの心みたいなもんよ。自然の心、山の心、河の心、ボクたちは目に見えない心によって支えられている」ユウが言ったし。
「目に見える宇宙は目に見えない宇宙に支えられて、世の仕組み、真実やね」そうも言ったし。
ワタシは人差し指と中指で定期券をはさみ自動改札をすべらす。だんだん、だんだんと、幼虫の心から蛹(さなぎ)の心へ。
「ご乗車ありがとうございます」とアナウンス。
その頃、ワタシはすっかり身体まで大人になっている。駅、いつもの駅、人が溢れていくし。線路にこぼれんばかり。ワタシの心のなかで眠っていた何か、何かが動き始めたし。始動、ワタシはいつものように電車に飛び乗った。潔く風景が流れていくし。木々の緑も青い空も白い雲も、光だって、影さへも潔く、潔く。まるで喝采やし。潔くありたいし。
ワタシは三つの川を渡って職場まで行く。まづK電車でY川を渡る。
ワタシはお気に入りのキャラクター扇子をあおぎながら、ごく普通の鉄橋を渡る。K電車の下、K鉄道が堤防沿いに走っている。K電車とK鉄電車が出会う。初めは偶然、それが必然、いつものことになっちゃった。ワタシのなかで人生の約束ごとみたいに、確かなものになっていくし。必然のメカニズムかな。
遠く青空に夏の名残雲が沸き立っている。まだまだ暑いし。こういうのを残暑って言うんでしょ。残暑お見舞い申し上げます。ワタシは心のなかでハガキみたいに言ってみたし。
それから、K駅の手前、N川を渡る。鉄橋らしきものを渡る。空気が少し変わっていく。
街路の空気だ。喉がイガっぽくなるし。だからワタシは、
「えっへん! 」といつも言う。(えっへんおじさん)登場やし。
(えっへんおじさん)って? どんなおじさんやねんって?
(えっへん)ばかり言っている謎のおじさんやし。どこにでもいる。ほら、あそこにもここにもいるし。
「えっへん、えっへん」
「えっへん、えっへん」
「えっへん、えっへん」
最後はY川を渡る。心して渡る。長い、長い、象さんの鼻より、キリンさんの首より長い鉄橋、なにが起きるかわからない。だから心して渡る。呼吸を止めて、レントゲンみたい、厳粛に、静粛に、ある映画でみたように右拳で左胸を二回叩き、心の力と念じ、左拳で右胸を二回叩き、心の力と同様に念じる。仕事前の儀式やし。ルーティーンやし。
今、渡り切ったし。電車はポイントを切り替えワタシの降車駅へ。ワタシも、今、仕事モードへポイントを切り替えた。ワタシは仕事人間の役を演じる。ニャオニャオとは言わないが退社まで猫の面を被る。ほら、被った。働く、ってことは本当に辛いし。
「男は生活力だよ」霞ちゃんが言う。霞ちゃんはワタシと同郷の同居人。ワタシを知り尽くしている。ワタシも霞ちゃんにはなんでも言うし。
「アイちゃんのいまの彼氏だめだよ。」霞ちゃんはユウが生活力なしとキッパリ言ってのける。
「ユウはまだ学生やし」ワタシは言う。
霞ちゃんは白鳥みたいに優雅やし。霞ちゃんはユウみたいに土足でワタシの心に入り込んでくる。ワタシがそれを言うと、
「姉の特権やし」と。そう、霞ちゃんはワタシの三つ違いの姉やし。
「人は三種類。勤勉な人と怠惰な人と、そのどちらでもない人と」、「心だってホットとクールとそのどちらでもない心と」霞ちゃんが立て続けに言う。
ワタシはユウにあてはめていく。ユウは勤勉? 怠惰? どちらでもないし。ユウの心はホット? クール? どちらでもない心やし。どちらでもない心ってマイルド。なんかコーヒーみたい。霞ちゃんはなおも言う。
「自然だって三種類。喧騒と、静謐と、そのどちらでもない自然」
ワタシはアヒル? ハクチョウ? ワタシはS? M? ワタシはドMなアヒル。
でも、人って多面的だと思う。コレステロールみたいに善玉も悪玉も持ち合わせているし。人は相反するもの二つ、相いれぬもの二つ持っているし。それが人が人たる所以。要はどちらが表面に出ているかだよ。表面だけで人を評価するのもどうかだよネ。
う~ん、考えるの面倒くさくなっちゃったし、複雑。
「考えて、考えて、突き抜ければシンプルになるよ」、「人生はシンプル、シンプル、シンプルにだよ」。ユウがそんなこと言ったっけ。
アヒルからハクチョウになるって? そういうことかな。
店長とのこと、ユウにいくら説明したってわかってもらえない。ワタシのなかでは、ユウとはまだ始まっていない時のハナシやし。ユウは始まっていたと言うけれど、店長に抱かれて初めてユウのこと好きだとわかったワケ。それからワタシのなかでユウと始まったし。
「やっぱり醜いアヒル」って、ユウのコトバ。それ以後、店長は誘ってきたけど、
「ユウと付き合ってる」って、キッパリ言ったし。
店長はプライド高いから腹いせにユウに言ったみたい。なんか涙出てくるし。
あぁ、会いたいネ。早くユウに会いたいネ。今頃、ユウはどこで? 何を? しているの。ウエァ? ワッツ? ビー? ワタシは英語の単語を並べてみる。
もう会わないなんて言わないでーー
ある日、ユウは、
「三ヶ月の猶予を与える。三ヶ月でアヒルからハクチョウになること」ワタシにミッションだと言った。
ワタシは従順なアイだからアイアイサーと敬礼をしたし。ユウは調子に乗って、
「ミッションインポッシビルはないぜ」そう言ったし。
ユウ、雲の形が変わったよ。秋の雲はエレジーやし。ワタシは走る。アヒル頭がからっぽになるまで走るし。ハクチョウになるために、郵便局を左に曲がり、たわわな柿を右手に見ながら、いくつもの路地を抜け、タバコ屋の角を右に折れ、西日を背に坂をあがったし。走る、走るし。ユウに届くまで走る。風を感じながら走るし。人生に風はつきもんやし。冷たい風、意地悪な風もあるし、向い風、容赦ない風もあるし。人生の八割がたはそんな風だ。ユウが言ってたし。二割は、暖っかい風、嬉しい風、救いの風、お~い、追い風。時にはねぇ、でなきゃ、走ってられないし。
もうすぐユウに会えるし。そんなことを思いながらワタシは郵便局まで戻ったし。
「人生は戻るべきところへ戻るようになっている。ハクチョウが旅から戻るように」
またユウのコトバが蘇ってくる。ワタシはハクチョウみたいに戻れるかしら。
郵便局の傍、グリーンの葉っぱをつけたタラヨウの木がある。タラヨウの木は大きな郵便局のそばに必ずある木。郵便の木、葉書の木と呼ばれている。古代人はその葉っぱの裏に尖ったもので文字を書き、手紙・葉書の代わりとしていたらしい。グリーンメッセージってやつ。これもユウからの受け売り。
ワタシは家々の軒先にある水路を見ていたし。水の流れのなかに夕陽がゆれてちぎれ、赤く染まりゆく西の空から風に乗って、内容は定かでないが有線放送が聞こえてくる。水路の突き当たりは氏神神社と公園やし。公園まで行くと、
「もうすぐだ、もうすぐだ」と老婆が意味不明のコトバを言いながら歩いて行く。犬を散歩させる老人の姿が見えた。
ワタシは鉄棒で小さい頃のようになぜか逆あがりをしたし。
天地逆さまやし。老人が犬に引っ張られていく。
黒い影が二つ、アヒル男? アヒル女? 重なり合っていく。
ユウの影、影。誰かが舞台を回している。
少しはハクチョウになれたし。
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