アヒル

司悠

文字の大きさ
14 / 15

運命(さだめ)

しおりを挟む
  夕霞から朝霞まで
  秋の夜は長い

  明日の人の運命(さだめ)
  星めぐるうちに
  ひとつひとつ
  地にストンストンと
  降りていく

  膨大なルーチンワーク

  5Gをはるかにこえて
  すべては天のなせる業(わざ)

  今日のさだめに
  幸あれ 幸あれ

脚本『阿比留』、運命(さだめ)という詩の一節だ。

 きのう、風が哭いた。左目から、ずーっと涙が出ていた。
宇宙はこんなにも歪んでいたのか。季節の変わり目って、なんとなく落ち着かない。モノが動き、風景が変わるからかな。そわそわ、そわそわ、心までそわそわ動く。
山も河も、空も海も、雲だって、ボクらはすべてのものからメッセージを受け取る。
「落日」ってコトバがあるのなら「昇日」ってコトバがあってもいいだろう。落日に夕陽と赤い夕焼け、昇日には朝陽と橙色の朝焼けだ。けさは昇日だ、橙色だ。
 ボクは『阿比留(アヒル)』の脚本の最終章を書いていく。

「落日」の似合う町、例えば京の町。昔、維新の志士たちが三年坂から五年坂へ夕陽に向かって走り抜けた。機は熟し落日。それから、それから、静かに赤い夕陽が落ちていく。西の空は革命の色だよ。クレオパトラの鼻があと一センチ高かろうが低かろうが、歴史は変わらない。歴史はそんな幻想的なものじゃない。歴史は夜つくられる。落日から昇日までの間、夕陽から朝陽まで、夕焼けから朝焼けまで、赤色から橙色までの間、京の町を走り抜けた維新の志士みたいに歴史は夜つくられる。
「リアルなものだ」アヒル男のコトバだ。
 代償はあったけれど、醜いアヒルはハクチョウになったのだ。アヒル女は今を生きる、もう生き始めている。アヒル男は過去を生きる。アヒル女は過ぎ去った恋を忘れる。女は、今を、明日を生きるイキモノだ。その身代わり、心変わりのスピードに男は戸惑う。
男は、今を、昨日を生きるイキモノだ。男の昨日と女の明日が交わる時、今が始まる。

 昔、昔の夕暮れ。人が人なら心まで見てた。見透かすまで見てた。ボクは囚われていく。攫われていく。歳とともに固定観念ってやつに。まるで醜いアヒルだね。ハクチョウみたいにもっとしなやかでありたいネ。柔らかでありたいネ。
 固定観念、ボクは厄介なやつに囚われてしまったネ。ストレスたまるネ。ある思考に拘束される。これじゃ羽ばたけないネ。ハクチョウみたいに自由に空を飛びたいネ。与えられた青空に申し訳がたたないから、青が消えちゃった。グレイの空になっちゃった。アヒルの心になっちゃった。これをやって、あれをやって。こうなるやろ。あれぇ~ならない、ならない。アカン、アカン。ああすれば、こうなって、ああなる。あれぇ~ならないよ。イカン、イカン。困り果てた、最近のボク。まるでアヒル男のルービックキュゥーブみたいだ。
 アイ、長い人生の中で空白ってあるよね。ボクはアイを都合のいいようにボクの瞳のなかへ閉じ込めってしまったのだ。その空白には、どんな意味があったのか。
ナンセンス? そうかもしれない。
センス? そうかもしれない。
雑多? そうかもしれない。
斉一? そうかもしれない。
無為? そうかもしれない。
有為? そうかもしれない。
陳腐な時、虚偽の世界、青くさい虚像、多感な実像だったネ。いや前世の出来事だったのかもしれない。人って明日も明後日も昔話を作っていくんだネ。だってそうだよ。
 昨夜、西の空に三日月、あっ!危ない! あっ! あっ! 
赤く点滅した飛行機が三日月を確かにかすめていったのだ。そして宇宙に抜け、闇に消えた。でも、なんともなかったネ。 静謐感、それが三日月を平面的にたたえていたネ。
三日月はまるで遠い遠い昔話のなかで正義を振りかざしたみたいに。いや、三日月が舟形のシーソーのようにバランスよく宇宙を支えていたのかも。はるか彼方の、大いなる秩序のように。宿命っていうやつのように。
けさ、寒いけど陽が射している。花冷えだ。左目の調子は、ぶんちゃっちゃ、ぶんちゃっちゃ、とワルツ奏でていく。調子は良いよな、悪いよな。ぶんちゃっちゃ、ぶんちゃっちゃ。陽射し分だけいいのかな。
 あぁ、いい天気。ボクは光エナジーからの啓示を受けたように氏神神社へ行ってみた。サクラが人の志しを高めるように咲き誇っている。老婆が腰を曲げ「咲きました、咲きました」とつぶやきながら通り過ぎていった。
 ボクはつぎはぎだらけの『阿比留』の脚本を読みつぶしていく。

 ハクチョウにはハクチョウの運命があり、アヒルにはアヒルの運命がある。でもアンドロギュノスのハクチョウはアヒルの運命に縛られ、アンドロギュノスのアヒルはハクチョウの運命に縛られていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...