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はじまり
第4話 町へ行ってみよう
しおりを挟むジャスパーが、また綺麗な二度見をした。
「……今、なんつった?」
「私の任務!」
「いやその前さ」
「通訳して戦争回避?」
「つうやく」
「うん、通訳」
「頭痛くなってきた!」
「じゃ、頭痛薬?」
「くそお、あじゅって結構頭の回転いーな!」
「それほどでも?」
ダンはそのやり取りを、二本目の葉巻をふかしながら楽しそうに眺めている。
「ダンさん!」
ジャスパーが振り返る。
「おう」
「通訳て!」
「あーなんか、タヌキの言葉が分かったんだと」
ジャスパーが、ぽかんとした後にジトーッと杏葉を見る。
「うっそおー」
「ほんとだもん!」
「いやだって【がうあう】とか【ぎげら】とかにしか聞こえねーぜ?」
「魚食うか? とか、町に連れてってやるとか、言われたもん。この手首だって、逆らったから……」
「まーじーでーかー」
信じてくれないの!? と頬を膨らませる杏葉を、ヤレヤレという顔で見るジャスパー。それでも懐から塗り薬を出して、タヌキの爪で引っかかれたところへ雑に塗る――沁みて、眉を寄せる杏葉。
「ま、タヌキの言葉しか分からんかもしれん」
ジャスパーを宥めるようにダンが言い、横から杏葉の手首の傷を確かめると、慰めるように頭を撫でた。
「そーっ……すね」
「ここで野宿して、町に行ってみよう。賭けだが、こうしていても仕方ない」
「あーこの先に小さい町、ありそうですよね。轍からして」
「ああ。アズハは、馬車で寝るといい」
「ダンさん達は?」
「気にするな」
「交代で火の番よん。この辺りは獣人少ないみたいだけど、念のため、な」
「……分かった」
杏葉は、まだこの世界のことを知らない。
下手に交代を申し出るより、大人しく従うことにした。
◇ ◇ ◇
そうしてダン達の言葉に甘えて、馬車の荷台で横になった杏葉だったが、なかなか寝付けないでいた。
「……眠れないか?」
モゾモゾする杏葉を、ダンが外から気遣って声を掛けてくれる。
「ん……」
木の板に布を敷いただけの簡易な寝床だが、野宿だ。幌の中で、視界が切れているだけでもありがたいと思わなければ、と思いつつも、不安感に襲われる。目が覚めたら……元の世界? それとも? と。
「添い寝してやろうか?」
月光を背負ったダンは、暗くて表情が読めない。だが杏葉に迷いはなかった。
「うん」
「……よ、と」
荷台に上がり、ダンは杏葉の横へ仰向けになり――
「ほんと、警戒心がないなあ」
と笑いながら、杏葉の後頭部に腕を通す。
「お父さんだもん」
杏葉は素直に、腕枕に身を任せた。ダンからは、葉巻のスパイシーな香りがする。
「……騙してるかもしれないぞ」
「異世界人なんて、騙す価値ないでしょ?」
「奴隷にするつもりかもしれん」
「なら、拘束して逃げられないようにするはずよ」
杏葉は、昔読んだコミックや、見たアニメの知識を総動員して、答え続ける。
「くく。あどけないと思えば、頭の回転は早い。警戒心がないと思えば、計算はしている。面白いなあ」
「夢だったの」
「ん?」
「通訳になるのが、夢だった。だから、状況の変化とか、相手の言いたいことを、少ない情報で掴む練習はしてたつもり」
「なるほどなあ」
「あとね、目を見れば、分かる」
「目?」
「うん、目は口ほどに物を言う、って言うでしょ」
多額の保険金を手に入れた杏葉へと、近づく汚い大人たちを山ほど見てきた。
嘘をつきまるめこもうとする、親切心の皮を被った搾取者たちの顔は、嫌でも学んだのだ。
「……えーと、そうなのか?」
「あ、私の世界の言葉なんだけど」
「言い得て妙だな」
とん、とん、とダンは杏葉の肩を、枕に差し出した腕の先の手で、器用に優しく叩く。
「ふたりとも、嘘はついてない……隠し事は、してるけど」
「はは、まいったな」
とん、とん。
「私に、利用価値があるなら」
とん、とん。
「利用して、一緒に、いさせ……」
とん、とん、とん。
「……利用、なあ」
ずしり、と重くなった杏葉の頭の後ろから、ダンはそっと腕を抜いた。
「寝た?」
ジャスパーがひょこりと顔を見せる。
「ああ……心配するな、娘と同い年だ。手を出したりなんかしない」
「はは、んな心配してねっすよ」
「せめて一緒に死ねば、怖くはないと思ったんだが」
本当は、帰り道のない旅である。
わざわざ死刑になどせずとも、獣人の国に放り込めば、人間は死んだも同然。
前々から国王に逆らうダンは、目をつけられていたのだが。
「まさかジャスパーまで巻き込むとはなあ」
「今さらっす」
ジャスパーはジャスパーで、その腕を戦争に使われて死ぬよりは、恩人であるダンのために働いて死んだ方がマシだからと強引についてきた。
国王に忖度ばかりする冒険者ギルドを見限ったのもある。
「やったところで、どうせ負けるっすよ」
獣人騎士団は、屈強な獣人ばかりで構成されている。特にその団長の『銀狼』と呼ばれる男には、誰も敵わないと言われている。
「人間はどうなるんだろうなあ」
「全滅、とまではいかないかもっすけどね」
人間の持っている魔力は、年々失われて来ている。
獣人たちの頑強さと拮抗するための魔法は、今やもう風前の灯火と言っても過言ではない。だからこそ国王は焦っているとも言えるが。
「アズハは、なぜここに来たんだろうな」
「神様のお導き!?」
「ふは。本当に言葉が通じるなら、活路が見い出せるかもしれんな」
もしくは。
――この子だけでも無事で。
ダンが飲み込んだ言葉は、夜の闇に溶けた。
◇ ◇ ◇
翌朝、近くの町へと馬車を走らせる三人。
荷台ではダンが寝転がり(あんなに固くて揺れるのによく寝られるね!? と杏葉が驚いたら、慣れさ~とジャスパーに笑われた)、馬の手綱を握るジャスパーの横で、この世界の話を色々聞くことにした杏葉。出会って二日目とは思えないくらいに打ち解けた。
「ジャス、魔法できる?」
「おーよ。伊達にサブマスじゃないわけよー」
「見たい!」
「こんなとこでぶっぱなしたら、さすがにやべーぞーう」
「そ、か」
「お! 見えてきた」
「わー、ホントだ。思ったより立派!」
町の入口と思われる、木の柵に囲まれた門が見えてきた。
その中に、人影がいくつか。
「ダンさーん、着くよー」
杏葉が後ろに声を掛ける。
「ん……」
起き上がって伸びをするダンと違って、ジャスパーは気配を尖らせる。
「人間に友好的じゃなかったら、すぐ逃げるぞ」
「うん、分かった」
杏葉は、デニムの膝の上で、拳を握りしめ
「川下の町」
唐突に、言った。
「「かわしものまち?」」
「うん、あそこに、そう書いてる」
杏葉の指先を辿る二人の目線の先には、門の上に掛けられた、木の看板のようなもの。
「マジかー!」
「……驚いたな」
「もしかして、読めない?」
「「読めない」」
もしかして!? の期待をこめて、三人は町へと近づいていく……
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