異世界転移女子大生、もふもふ通訳になって世界を救う~魔王を倒して、銀狼騎士団長に嫁ぎます!~

卯崎瑛珠

文字の大きさ
22 / 54
魔王降臨

第22話 集結した模様

しおりを挟む


【アズハッ】
 慌ててその身体を支えるガウル。だが杏葉の身体はまた熱を持っている。
【熱い……!】
 
【覚醒しつつあるということか。とにかく急いで客室へ】
 シュナの言葉に頷き、横抱きにするガウル。
【じゃあ、オイラはこいつら収容してくるねー】
 気絶したブーイを仲間のエルフに背負わせ、ランヴァイリーはウネグを促す。
 一方ダンやジャスパーは事態が呑み込めずにオロオロするだけだ。

「父さん、ジャス。この子を部屋に連れてくみたい」
「エリン!?」
「え? 話せる!?」
「あんまり話せないけど、分かる!」

 ダンとジャスパーは顔を見合わせた。
 それから三人は、ガウルたちの背を追いかける。

「ああそうか、バザンのお陰か!」

 ダンは、半郷で言葉を教わったと解釈した。
 
「なるほどっす」

 納得するジャスパー、驚くのはエリンだ。
 
「え、ちょ、バザンに会ったの!?」
「ああ。ったく、勝手に飛び出した挙句、勝手に結婚して、勝手に孫を産むとはな! しかもまた勝手に!!」
「相変わらずだよほんと」
「あ~はは~」

 ジャスパーは、じろりとエリンを睨む。

「ダンさんは、エリンを死んだと思ってたんだ」
「っ、だって、書き置き残したでしょう!?」
「獣人の国に行って、生きてるわけないだろうさ!」
「そっ……」

 エリンはどうやら、ジャスパーに言われるまで、そのことに思い至っていなかったらしい。
 ダンは、それもまたエリンらしいと溜息をつきつつ、許してしまう自分に呆れる。

「……病気はもういいのか」
「え、うん……薬草のお陰で、だいぶいいよ」
「そうか」
「ねえ父さん。獣人騎士団長は噂で知っているけど、あの子はいったい?」
「俺の娘だ」
「は!?」

 リリが心配そうに振り返るので、ジャスパーがまた【大丈夫】のハンドサインを出す。
 納得していない顔で【了解】が返ってくる。
 きっと気持ちを嗅いでいるに違いない、とダンは苦笑した――

、拾ったのね?」
「そうだな」
「んもー。父さんらしい。ま、妹できたの嬉しいけど!」
「残念、同い年だな」
「えー。でも後からだから。妹!」
「姉になったら、少しは落ち着くか? あー無理か。母親になっても変わらないもんな」
「うっ」
 
 ダンがからかう目線の先には、エリンの背中で、すやすや寝ている茶髪の赤ちゃん。
 ジャスパーもそれを見て感心する。

「こんな時に、大人しく寝てるのすげえ」
「うん、賢くていい子。熊って、冬眠中に出産するんだって」
「「へえ!」」
「だから、お乳飲んだらずっと寝てる」
 
 だから無茶したのか、とダンが言うと
「それもあるけど……半郷に行ったなら、話が早いわ。ソピアから来た仲間が言っていたの。儀式が行われているって」
 ツリーハウスの根元で、エリンが深刻な声を出す。眼前では、ガウルが杏葉を背負って梯子を登っていた。
「「儀式!?」」
「……中で話すわ」

 ジャスパーはごくりと唾を飲み下し、ダンは
「まさか……いにしえの黒魔術師団、か!」
 忌々しげにその固有名詞を吐き出した。

 

 ◇ ◇ ◇


 
【あー、どーしよー】

 クロッツは、エルフの里の前で項垂うなだれていた。

 ブーイとウネグの騒ぎに乗じて里への侵入を試みたものの、精霊の木に弾かれて途方に暮れているのである。
 門番小屋を見上げても、中の騒動に手を取られているためか、誰もいない。

【ボク、がんばったのにな~トホホ】

 振り返る先には、怪我を負って地面に座り込んでいる獣人たち。

 ブーイは、自分の直轄部隊を率いてきたわけだが、皆相手がガウルということは知らされていなかったらしい。
 ここでようやく目的を知った団員たちは【元団長とは戦いたくない!】【どういうことだ!】と詰め寄り、頭に血が上ったブーイは全員蹴散らして強引に里に入った、ということだった。
 
 バッファローは暴れだすと、誰も止められない。

 クロッツは隠れてその様子を窺い、ブーイとウネグが消えてから助けに入り、国王レーウの命令を命令書と共に正しく伝え――

【副団長、まさか、団長を殺す気なのか!?】
【団長を辞めさせるなんて、ありえない!】
【団長が辞めるなら、俺も辞めるぞ!】
【宰相もブーイも、いったい何を考えているんだっ】

 と、副団長直轄部隊にあってもガウルの人望を改めて目の当たりにした。
 もちろん、

【人間を助けるなんざ、ありえねえ】
【獣人が一番つええんだよ!】

 と鼻息の荒い連中もいるが、ごく一部。それもクロッツが国王御璽ぎょじの命令書を見せたら、押し黙った。
 金獅子王に逆らってまでという者は、獣人王国にはいないのである。
 
【クロッツ様】
 心配そうな、ウサギの獣人騎士が潤んだ目で訴える。
【ガウル様は、ご無事でしょうか……】
 
【団長のことだから、大丈夫っしょ! それより、怪我痛いよね~手当しなくちゃ。どうやって中に知らせようかな?】
 コテン、とクロッツが首を傾げると
【おれ、行ってみます】
 手、というか翼を挙げたのが
【アクイラ?】
【はい】

 珍しいわしの獣人、アクイラだ。この中で一番若く精悍な黒鷲は、金色の瞳をまっすぐにクロッツに向ける。

【空から行ってみます】
【わかった。頼んだよ!】
【はい!】

 バサバサと翼をはためかせると、あっという間に上空へ飛んだ。
 そしてアクイラは、ありったけの声で鳴く。

【ピイィーーーーヒョロロロロローーーー】

 獣人たち全員が、彼の美声に酔いしれるように、見上げる。

【ピイィーーーーヒョロロロロローーーー】

 すると、ワサワサと草が音を立てて、やがてひょこり、と顔を出したのが
『呼んだぁ?』
 プラチナブロンドの長い三つ編みのエルフ。ランヴァイリーだ。
 
【あ! 大使! 良かった!】
 クロッツがすかさず駆け寄ると
【わー、犬男爵ダー】
 わしゃわしゃと両頬を撫でられた。
 
【その呼び方やめて!】
 
 だが、まんざらでもないクロッツ。思わず喉が鳴る。

【うわ、なんか修羅場ダッタ?】
【うちのバカ牛が暴れたようでね~】
【ああ! 捕まえといたヨン】
【それなら良かったッス。団長は無事でしょうか!?】
【無事だヨン。おやまあ、怪我人たくサン】
 
 ランヴァイリーが、ぽりぽりと頭をかいた。

【こんなにお客さん来たことナイネ】
【入れてくれるんすか!?】

 クロッツは、あまりの驚きで耳もしっぽもピーン! となった。
 
【その様子だと、ガウルはまだ団長ダショ?】
【そーっす!】
【んじゃー、正式に獣人騎士団のご訪問てコトデ】

 全員がホッとしつつ、肩を貸したりして立ち上がる中、何人かはまだのを見とがめたランヴァイリーは、

【暴れたら、つるでぐるぐる巻きにして牢屋に入れるカラネ。ブーイの野郎、頭冷えないカラ、逆さ吊りで水責め中ダヨ~】

 と牽制けんせいした――全員、大人しくなった。

 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...