異世界転移女子大生、もふもふ通訳になって世界を救う~魔王を倒して、銀狼騎士団長に嫁ぎます!~

卯崎瑛珠

文字の大きさ
23 / 54
魔王降臨

第23話 銀狼、戻る

しおりを挟む

 
 杏葉を客室へ寝かせた後で下りて来たガウルが、困った顔で歩いていく先は、エルフの里の広場だ。

 騎士団員たちは広場の地面に直接座り込んで、エルフたちから手当てを受けている。ほとんどが、ブーイとの衝突での傷だ。全員が暴走を止めようと体を張った結果なので、ただの内輪揉めと言えなくもないが、中には血を流している者も。
 
 ランヴァイリーはガウルに
【バッファロー、起きてまた暴れてるみたいだから、そっち行くネー】
 と託して場を離れ、ガウルは深々と頭を下げた。
 
 無傷のクロッツが
【団長!】
 と呼ぶのに対して、
【俺は、罷免ひめんされたはずだが】
 ガウルは思わずそう返してしまった。若干八つ当たりしてしまったな、と大きく息を吐くと
【あくまでも宰相の独断でした。陛下が認めないって、めちゃくちゃ怒っています】
 そう耳を垂らす男爵に、申し訳ない気持ちになる。
 
【……そうか。なら、俺には貴様らを率いる責任が、まだ残っているということだな】
 ぐるるる、と喉を鳴らす銀狼に
【団長がいないとっ】
 悲痛な声を上げるのは、黒鷲の獣人であるアクイラだ。
 ガウルは歩み寄って、その肩を優しく撫でる。
【騎士団が、あっという間にめちゃくちゃになって!】
【めちゃくちゃ、とは?】
 おそらくもっとも若手であるアクイラは、むしろおくすることなく意見を言える立場にあるのかもしれないな、とガウルは皆の様子を見ながら予想した。

【強さが正義だって。小型のウサギやリスの獣人たちを足蹴あしげにするようになったんです!】
【なんだと!】

 がう! と漏れ出る覇気に恐れをなしてこうべを垂らすのは、いわゆる大型の獣人たち。この程度の威嚇で萎れるぐらいなら、大人しくしておけ! と言わんばかりに、後ろめたさを感じる団員らを次々と睨むガウル。
 よく見ると、集団が真っ二つに分かれている。これでは、騎士団としての結束が乱れていると言わざるをえない。
 
【ブーイめ……】
 
 バッファロー自身は草食動物だが、戦闘力や速さは肉食動物に匹敵する。
 群れを成すことに慣れていることから、部下を制御する性質も長けていると見ての抜擢ばってきだったが、ガウルの前では忠実なをしていたようだ。
 
【団長に……戻るにゃね?】

 リリが、ガウルの感情をいち早く察知した。

【リリ……】
【アタイは、団長についていくだけにゃよ!】
【すまない。これを放置するわけにはいかない。自由に生きるのは、全てを片付けてからにしよう】
【はいにゃっ】
 アクイラが、喜びでその羽根をぶわりと羽ばたかせる。
【戻ってくださるのですか!】
【もちろんだ。このような事態、とても見捨てられないし、レーウ――国王陛下には逆らえないからな】
 
 ガウルの脳裏には、怒りのあまり逆立って質量が増しまくりな、金色のたてがみが思い浮かんでいる。
 背筋を走る寒気を払うため、ぷるぷると頭を振ると、ガウルの顔周りの毛も一瞬逆立った。杏葉が見たらまた「もふもふ!」と騒いでくれるに違いないと思ったが、今彼女がここにいないことが――どうしようもなく寂しい。
 
【さあ皆。今までに何があったのか、話してくれ。それから、これからどうするかを考えよう】

 誇り高き銀狼の帰還に、団員たちはようやく気を抜くことができ、少しずつ笑顔が戻っていく。

【んっとに役立たず男爵にゃね! 置いてきた意味ないにゃ!】
【うわーほんとだ! 僕、結局なんにもしてない!】
 
 リリの尻尾でゲシゲシ脚を払われるクロッツだけが、涙目だった。

 

 ◇ ◇ ◇


 
【アタシ、マホウ、オシエル】
 
 杏葉をベッドに寝かせた後、そのツリーハウスのダイニングで、ダンの娘のエリンがそう宣言した。
 エルフの里の長であるシュナが、杏葉のこの状態は魔力が使われず、体の中で膨れていることに原因があると言うので(会話はエリンのカタコト通訳でなんとかなった)、魔法を使って消費するのが一番手っ取り早いという結論に達した。
 
「エリンは、魔法が得意なんだ」
「俺もエリンに教わったんす」

 ダンとジャスパーが賛成するので、杏葉の目が覚め次第、練習することになった。
 念のためエリンが杏葉と同室で休み、ダンとジャスパー、ガウルやリリにも部屋が割り振られ、しばらく休息を取ることにした一行。
 ガウルとリリが、ランヴァイリーの迎え入れた騎士団の様子を見てくる、と家を出て行ったあとで、一人焦るエリンだけが落ち着かない。

「エリン……」
 ダンが、それに寄り添う。
 
 エリンが言うには、密かに半郷に出入りしている、人間の国ソピアに住む仲間が、魔王降臨の儀式がされたという噂を持ってきたのだという。
 大量の人間の遺体が、とある教会で見つかったという情報だ。ついに『いにしえの黒の魔術師団』が始動したと、人々は恐れを抱いている。冒険者ギルドにも要人や商人の護衛任務が次々と舞い込んでいて、人手が足りないのだそうだ。
 
「まさか、父さんが獣人の国に来ているなんて!」
「意図的な策略を感じるっすねー」
「ギルマスとサブマスを排除すれば、冒険者ギルドは大きな問題に太刀打ちできないだろうからな。戦力にならないだろう――儀式を止めたくとも」
「冒険者って基本、個人主義っすからね。ダンさんが動かない限り、誰も指揮なんかしない」
「あたし! 父さんに言って、仲間集めて止めさせなきゃって! でも、これじゃ間に合わないっ」
 
 言葉が通じない今、それを話しているのは人間の三人だけだが、シュナはその緊迫している空気を読み
【焦らず。まずは休め】
 とお茶と食料を置いていってくれた。
 エリンは子供の世話もある。体力を温存するに、越したことはないのだ。

「事情は分かったよ、エリン」
「うん。安心しなよ」
「父さん、ジャス」
「魔法をアズハに教えて、エリンを半郷に送り届けたら、次はソピアだ」
「そっすね。戦争じゃなかった、魔王に備えてた! って言うだけ言ってみましょう。ガウルさん来てくれるっすかねー」
「……頼むしか、ない」

 ダンは、眉間に深いしわを寄せた。

「今度こそ、帰り道のない旅かもしれんが、な」
「っすね……」
「じゃ、アズハ? が目覚めるまで、共通語、教えるわ」
「「!!」」
「魔力を使うの。ふたりなら、できる! いい、いくわよっ」

 思わず顔を見合わせるダンとジャスパーが、
「暴走娘」
「母ちゃんになっても、強引なの変わんねーな!」
 と溜息をついた後、色々諦めて素直に従った。
 
 アーリンは、何度か母乳を飲みつつも、ずっと寝続けてくれた。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...