25 / 43
夫婦生活
白蛇とカエル
しおりを挟む「セラちゃん。勝手を言って申し訳ないのだけれど、しばらくこのお屋敷に滞在するわね」
「え」
「わたくしも獣人王国に帯同することになったの」
「そう、だったのですか」
パワフルな白蛇様が、私の部屋でキビキビと動き出した。
「さ、ドレスが届いているでしょう? 小物とか、一緒に確認しましょ」
泣き腫らした目をした私の背を、そう言いながらそっと押してくれる。
ユリシーズと同じ、涼やかな翠の目が、優しい。
「不器用な兄を許してね」
「いえ! 私が、酷いことを」
「あら。あれは怖いわよー。ガツンと叱っておいたから、安心して!」
明るくふふん、と笑ってくれるのが、とてもありがたかった。
「マージェリー様……お気遣いありがたく存じますわ」
「妹なのだから、堅苦しいの止めましょ。あれ? あらやだわたくしったら。兄のお嫁さんなら、義姉ですわね!?」
「ふふ。妹の方が嬉しいです」
「あーよかった! 気軽にマージって呼んでね」
「はい、マージさん」
「かんわいい~~~ギューってしちゃう!」
「あはは」
そのやり取りを見守っていたミンケが気を利かせて、オートクチュールから届いた箱を開けてみせると、たっぷりパニエのエメラルドグリーン色のドレスが出てきた。王都で最終調整も済ませた、完成品だ。同じ布地のパンプスも作ってあり、ドレスの上からは黒いオーガンジーのチュールストールを羽織る。
同色のヘッドドレスには、ところどころにエメラルドが縫い付けられていて、お値段はちょっと想像したくない一品だ。
これとはまた別で、ウェディングドレスも――
憂鬱な私に、マージさんはドレスを持ち上げて当ててみる。
「うん、とっても似合うわ! それにしても、お兄様の独占欲ったらすっごいわね」
「あーその、前に作ってもらったエメラルドのチョーカーを使いたいって言ったから」
「ふふ。それでもよ。だってこれ、完全にユリシーズ・カラーじゃない!」
ずしん、とドレスの重みが増した気がした。
今の私に、これを着る資格はあるのだろうか、と珍しくグズグズ考えてしまう。
「セラちゃん。急にやってきた旦那の妹なんて、信じろって言っても無理だろうし厄介でしかないかもだけど。愚痴とか何でも聞くからね」
「……はい」
こんなに明るくて良い人が、なんでまだ独身なのだろう?
と思ったのが、そのまんま顔に出てしまったようだ。失態すぎる、と私が頭を抱えそうになっていると、マージさんはあっけらかんと話し始めた。
「わたくしなんてね。毒を吐きまくる大魔法使いが兄で、変な薬草を育てる役人をクビになった父がいて、縁談全部ぜーんぶ断られたけど、元気よ!」
それからマージさんは、ふん、と力こぶを作ってみせる。
「今はね、王都の孤児院で教師をしているのよ。子どもたちに読み書きやマナーを教えているの」
「え!」
「それはね、兄からセラちゃんのお話を聞いたからなのよ」
「ええ!?」
「わたくし、あちらこちらから『行き遅れのどうしようもない女』って扱いをされててね。これでも暴れまくって……じゃなかった、言い返しまくってたんだけど、めんどくさくなって。じゃあ自分に何ができるかな? て考えた時にちょうど、ね」
ふふふ、と照れたように笑うマージさんは、とても可憐だ。
「そっか、読み書きできるなら、教えれば良いんだって気づいたのよ。それからは毎日楽しいし、子どもたちは可愛いしで、とっても充実しているわ! だから直接会って、お礼を言いたかったの」
「私に、お礼?」
「うん。あの常にしかめっ面の兄に幸せをくれて、さらに行き場のなかったその妹にもやりたいことを教えてくれて。ありがとう!」
「そ、んな……私は、ただ、必死で」
マージさんは、確認し終わった小物を慣れた手つきで箱に戻しながら笑う。
「だから良いんじゃない! 打算とか財産とか、爵位とか、そんなの関係なしに頑張るから、兄はあなたが大好きなのよ」
「……まだ、好きでいてくれてるでしょうか」
「ふふふ、当然じゃない! 今回の件は、絶対に奴が悪いんだからね。気にしなくて良いわよ」
「ええ!?」
どう考えても、勝手に拗ねて勝手にキレた私が悪いですけど!?
「何言ってるの~。あの甲斐性のなさ、妹のわたくしでもドン引きよ? ちょっと反省してもらいましょ!」
うひひ、とイタズラっぽく笑うマージさんが楽しそうでホッとした私は、ようやく「あのでも、早く仲直りしたいんです。助けてもらえますか?」と本音を言えた。
「いやーん、かんわいいんだからもー。もちろんよ!」
本物の夫婦なら、仲直りの仕方もあるんだろうけれど――怒らせたユリシーズに、どう接したら良いのか全然分からないのだ。
だから、マージさんの存在は本当にありがたかった。
まさか、ユリシーズが別の事情で呼んでいただなんて、この時の私には知りようもなかったけれど。
2
あなたにおすすめの小説
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……?
しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし!
危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。
彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。
頼む騎士様、どうか私を保護してください!
あれ、でもこの人なんか怖くない?
心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……?
どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ!
人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける!
……うん、詰んだ。
★「小説家になろう」先行投稿中です★
異世界シンママ ~モブ顔シングルマザーと銀獅子将軍~【完結】
多摩ゆら
恋愛
「神様お星様。モブ顔アラサーバツイチ子持ちにドッキリイベントは望んでません!」
シングルマザーのケイは、娘のココと共にオケアノスという国に異世界転移してしまう。助けてくれたのは、銀獅子将軍と呼ばれるヴォルク侯爵。
異世界での仕事と子育てに奔走するシンママ介護士と、激渋イケオジ将軍との間に恋愛は成立するのか!?
・同じ世界観の新作「未婚のギャル母は堅物眼鏡を翻弄する」連載中!
・表紙イラストは蒼獅郎様、タイトルロゴは猫埜かきあげ様に制作していただきました。画像・文章ともAI学習禁止。
・ファンタジー世界ですが不思議要素はありません。
・※マークの話には性描写を含みます。苦手な方は読み飛ばしていただいても本筋に影響はありません。
・エブリスタにて恋愛ファンタジートレンドランキング1位獲得
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる