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獣人王国
誕生日パーティ 後
しおりを挟む「ありがたいですわ! ヨヘム殿下!」
サユキ嬢が、ふふんと傲慢な笑みを浮かべる。
そこに冷たい水を容赦なく差すのが、ヨヘム殿下だ。
「だが一方で、サユキ嬢。貴女には残念ながら、我がナートゥラ王族の友人に対する名誉棄損罪が適用される」
「は!?」
「ご存じの通り、私の身分は『行政大臣』である。獣人王国において住民の生活や記録、犯罪に関わる業務を一手に引き受けている組織の長として、このような公の場で来賓を侮辱するなどと、看過できない」
「何をおっしゃいますか!」
「しかも、言葉の意味を分かっていると言った」
「!!」
「意図して人を傷つける。これは傷害罪にもあたる行為である――騎士団に命ず、即刻身柄を拘束しろ」
「そ、んな……」
へなへなと膝を崩し顔面蒼白になるサユキ嬢の両脇を抱えるようにして、騎士たちが引きずっていく。両親もがっくりと首を垂らしたまま、その後ろに従ってホールを出て行った。
なんかこの光景見たことあるな? デジャブかな? と思ったらヒルダのことを思い出した。
そういえば彼女も、罵詈雑言を吐いて排除されたのだっけ、とまるで遠い昔のことのようだ。
「さあて、諸君! 寸劇は楽しんでもらえただろうか? 邪魔者はこの通り去ったし、我が可愛い弟の晴れ舞台だ。気を取り直して、身分も種族も問わず、盛大に祝ってやって欲しい!!」
うおおおおおかっこいいです、ヨヘム様~~~~~~!!
思わず胸の前で両手を握りしめて祈っちゃいましたよね! きりっとした白虎がばっさり成敗! 勧善懲悪最高です!!
「……おいセラ、おまえまさかあいつに惚れたわけじゃあるまいな」
「え! ちょっとセラ、嘘だよね!?」
「くっそお、俺の出番全然ないとか! 長男なのに!」
それからは、黒蛇と白虎三兄弟、それからマージェリーお姉様と共にとっても幸せなひとときを過ごすことができた。
――壇上でぽかんとしている国王陛下のことは、王妃殿下がよしよしと慰めていた。
◇ ◇ ◇
パーティの終盤。
ユリシーズが、王太子であるシェルト殿下や第二王子のヨヘム殿下と今後のことを密談している、その横で。
少し暇を持て余した私は、涼むためにバルコニーへ出てみる。
「セラ」
すると、ディーデも追いかけてきてくれた。
「ディー。これから大変ね」
「うん。セレーナもだね」
「そうね……」
ユリシーズが調べたところ、私を襲ったのは『五重の枷』とまったく同じ原理の封印と判明した。『研究しつくしていたからこそ、解くことができた』と苦笑いで教えてくれた。
子猫の獣人になんらかの魔道具を持たせ、私との会話か目線かで発動したに違いないということだった。つまり、王宮の魔導師が関わっているのは間違いない。
モント伯爵家は、腐っても伯爵だ。既得権益も爵位も失っていない。獣人への憎しみと、私への個人的な恨みを考えると、中途半端な手段では問題解決には至らないだろう。頭が痛い、とユリシーズも言っていた。
「でも、ひとりじゃないから。大丈夫よ」
「あは。本当に、振られちゃったなあ」
「ディー……」
掛ける言葉が、見つからない。
振られるより振る方が難しい、とよく言うけれど、その通りだと思った。
「あーあ。ほら、ぼくって、ものすごく可愛がられて育ったからさ。セラみたいにぽんぽん『ダメでしょ!』とか『手伝って!』とか、言われたことなかったんだ」
「そんなの……最初は王子って知らなかったからよ」
「畑づくりでこき使われたのは、初めてだったな~」
「それは忘れていただけると……」
虎、すごい! 力持ち! ってひたすら褒めたら、びっくりするぐらい土掘ってくれたな~。あれはものすごく助かった。
「絶対に忘れないよ! 楽しくて、嬉しくて。この子とずっと一緒にいたいって思ったんだ」
「ディー」
「でもセラは、ユリシーズのことが大好き。ずっと、分かってた」
「っ……」
夜空の下で、サファイアブルーの瞳が瞬いている。
風が冷たくて少し震えてしまう私を見たディーデは、肩に着けていた毛皮のマントを外すと、そっとかけてくれた。温かい。
「ユリシーズのことが大好きなセラが、ぼくは大好き」
「!」
「ふたりとも、ぼくにとって、かけがえのない。大事な大事な友だちなんだ」
「わたしも! わたしもよ!!」
「あはははは! うれしいな~!」
その泣き笑いみたいな笑顔が切なくなって、思わず抱き着いてしまった。
ディーデはそんな私を無言で受け止めて、背中をぎゅっと抱きしめる。
彼の顎下のふわふわとした毛が、耳の上に触れる。少しだけ獣の匂いがした。
「セラ。大好きだよ。ずっと」
「うん。うん……」
「また遊びに行くからね」
「もちろん」
「ぼくにも、歌を聞かせて欲しいな」
「あは!」
笑いながら体を離したら――眉根を寄せて困った表情の、ユリシーズがいた。
空気がぴりっとするけれど、ディーデが明るい声で言ってくれた。
「こんなので誤解しちゃだめだよ、ユリシーズ。その顔、怖い怖い。はい、ちゃーんとお姫様をお返しします」
エスコートをするように、ユリシーズの前へと私の背を押す。
「ぐす、ずび。りじゅーーーー」
私が泣きながら呼んだら、眉尻が下がった。
「りじゅって誰だよ」
「うわああああああん」
「はあ。……がんばったな」
歩み寄って、そっと抱きしめてくれた。
――もふもふもいいけれど、やっぱり私は、ユリシーズのふかふかの胸筋が大好きだ。
◇ ◇ ◇ 別視点です ◇ ◇ ◇
「ふう。なんとか役目は、果たせたかしらね……」
同じバルコニーの隅でひとり、グラスを傾けるマージェリー。
今日は可愛らしい色を着なくても良いな、と自分で選んだのは、シルバーグレイのドレスだ。デコルテも背中もブイカットされているノースリーブデザインで、銀糸の細やかな刺繍とメレダイヤがそこかしこに縫われ、パニエも控えめなためボディラインも大人っぽい。レディというよりマダムが好みそうなデザインのため、ラーゲル王国では着るのを躊躇していたが、ここならと思って身に着けた。
ユリシーズとセレーナが夫婦喧嘩をしたときはどうしようかと思ったが、話すきっかけがあれば問題ないだろうと、セレーナの方を後押しした。
あの頑固な兄は、どうしたらよいか分からないままいたずらに時を消費するだろうから。わだかまりもすれ違いも、帰国してからゆっくりと話せばよいと思っている。
「わたくしは、どうしようかしらね」
白狼の騎士団長に惹かれている自分に、戸惑っている。
真面目で実直。何より、年や見た目などではなく、自分自身を見てくれた喜び。我の強さも気の強さも、汚点として男性に嫌われ続けてきた自分にいきなり現れた人。
弱気な自分は、らしくないと自嘲する。
手に持ったシャンパングラスを、星空に掲げてみた。
答えがこの中にあれば良いのになどと、現実逃避をしながら――中身を一気に飲み干した。
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お読みいただき、ありがとうございます!
第二王子のヨヘムは、セラに『下賎』と言っていました。だからこそその言葉の重みを知っていて、余計に怒っているという裏話があります。
マージェリーお姉様を口説く絶好の機会でしたが、レイヨさん、公爵家の身柄確保に動いておりまして……帰るまでにチャンスがありますように。
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