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第一章 世界のはじまりと仲間たち
〈17〉思い付いたら実行なのです
しおりを挟むこの前ラザールに言われたように、今年の北都復興祭は大々的に行われる上、来賓の数も物凄く、ベルナルドが臨時予算案を決裁するのに数ヶ月かかった。
レオナは、だから帰れなかったのね……と納得しつつ不憫に思う。
突然あれやりたいだの、お客が増えるだの、カンタンに言うが調整する方はめちゃくちゃ大変なのだ、と前世の記憶で知っているからだ。
介護用品の小規模な展示会ですら、やれ手土産だの、どこそこの社長がお気に入りのお菓子用意してだの、現金が足りないだの、てんやわんやだったのに、それが王国規模となると想像だけで寒気がした。正直絶対に関わりたくない案件である。王宮には文官達の生ける屍が累々転がっているらしい。ラザールの愚痴も分かるなと思った。そして騎士団は仕事しろ。ゲルゴリラめ! とも。
ドレスの発注も同様で、帝国皇帝と隣国王太子出席の噂を聞きつけて、我も我もと貴族達がこぞって新調のオーダーを入れたものだから、名だたるドレス工房は軒並みパンク状態らしい。
御二方ともに独身で、婚約者もまだ決められておらず、未婚の娘を持つ家は血眼で準備に奔走しているとかなんとか。
レオナのドレスは、本人には何が似合うのかサッパリ全く分からないので、母であるアデリナに丸投げしていた。
寸法だけ測ってもらうのにすら二時間かかり、二度と嫌だと思っていたのに『でも成長期だから、デビューしたら頻繁に測るわよ、お茶会と夜会のドレスは違うのだし、しょっちゅうドレス作るわよ』とアデリナに言われて絶賛絶望中のレオナである。思わずシャルリーヌに愚痴ったら『楽しいじゃない、ドレス作り! いいなー!』と逆に言われてしまい。
そ、そういうものなんだろうか?
この楽しさ? 全く分からない!
あれからカミロ研究室には、できる限り手作りの食事とポット(保温機能の魔道具、超高級)の紅茶を差し入れしている。
前世では一人暮らしが長く、一通り料理もできたのだが、お茶に疲労回復の効果を付与できるなら食事にもできないか? と思うに至った。
公爵家の料理長と相談しながら、片手でも食べやすいランチバスケットを作るようにしてみたのだ。最初はお嬢様自らお料理なんて! と及び腰だった料理長も、今やすっかり協力的に。二人して厨房で新しい料理や調味料に目を輝かせているのを、半ば呆れ顔で護衛するヒューゴーと、微笑ましく見守るマリーとの温度差が激しい。
流石にランチでも四、五人分ともなると大荷物なので、学院の食堂に全面協力してもらい、朝公爵家厨房から食堂に配達して、昼頃研究室に届けてもらっている。その代わり、食堂にもレシピや、調味料を提供したりしている。特に新人調理人であるハリーが『早速学生のメニューに取り入れたいです!』と柔軟に対応してくれるお陰で、所謂ウィンウィンの関係で大満足であった。
フィリベルトもカミロも大変喜んでくれ、
「もう食堂で食べる気がしないよ、レオナ」
「ええ、この回復の効果ももちろんそうですが、何よりも、美味しい!」
と言ってくれるのがまた、レオナのモチベーションになっている。
たまにシャルリーヌを連れて研究室で一緒に食べるのだが、ラザールもなぜか結構な頻度で食べに来ているので、にぎやかなランチタイムを楽しんでいる。
その脇で、これが胃袋を掴むってことね……とシャルリーヌにブツブツ言われたレオナだったが、残念ながら違うのよ、メインは回復効果付与の方だからね! と苦笑いしてしまった。
「今日の揚げ鶏も格段に美味いな」
ラザールが唐揚げをもしゃもしゃ食べている。唐揚げ、というと中国伝来のになってしまうから揚げ鶏と呼ぶことにした。お野菜も食べてね? とさり気なく薦める。
「この油、植物か? いい風味だな」
そう、正確に言うと胡麻は穀物だが、売っていると聞いて大量に仕入れて、魔法制御の特訓も兼ねて絞ってみたのだ。
火魔法で煎って、風魔法で圧力をかけて絞り、水魔法で油だけ除去して、土魔法で作った壺の中で熟成させる、という全属性チートな薔薇魔女印のごま油だ。最初はまっ黒こげだったり不純物が混じったり壺が割れたり、できても雑味や渋味がすごかったりで大変だったけれど、ようやく人に出せるものになったのだ! 我ながら頑張った! とエッヘンなレオナである。
「胡麻から抽出した油だよ。最初に聞いた時は私も驚いたんだけどね」
カミロが微笑む。ろ過が一番難しかったので、たくさん相談に乗ってもらった経緯があった。残念ながら大量生産はできないが、学院の食堂にもおすそ分けしており、大変評判が良い。きんぴらが食べたくなってきたので、今度作ろうと誓う。
「魔法で調味料を作る発想はなかったな。四属性網羅とは、連携の良い訓練にもなる。うちでも取り入れるか」
ラザールのは全く冗談に聞こえないが、ひょっとして魔術師団の資金調達のお役に立つだろうか? と少し元経理の血も騒ぐレオナだった。
「相変わらず回復効果も素晴らしい。頭がスッキリするようだ」
ラザールが万年頭痛持ちと言っていたように、レオナ自身時々頭痛がするようになってきた。
魔法を出力するようになったので、体内の魔力生産ラインが稼働し始め、貯蔵庫がキャパオーバーになると痛む、という感じかなと推測している。ごま油生産は良い魔力消費でもあった。
「そういえば、ジョエル兄様は? 最近またお見かけしませんわ」
あー……とカミロが苦笑した。剣術の講義は、なんとエドガーの近衛騎士、ジャンルーカが代理で見てくれている。
近衛任務は? と聞いてみたら、王国史の間ぐらいはセリノ一人で十分ですよ、と。そりゃそうだと、皆、腑に落ちた。
ジャンルーカは、非常に温厚かつ冷静で品位もある騎士で、実力も確か。
さらに近衛という立場はハゲ筋肉ことイーヴォと異なる組織(イーヴォは王都警護が主任務の第一騎士団所属。近衛は王宮と式典警備、第二は魔獣討伐)なので、変な軋轢もない。ジョエルの人選には皆で感謝である。
考えてみれば、新たに講師を派遣する必要もなく、まさにベストチョイスであった。ちなみにゼルは『副団長とはまた違った強さで楽しい』そうだ。
「ゲルルフは辺境騎士団との交流試合しか頭にないからな」
部下の鍛錬しかしていない、とラザールが食後の紅茶を飲みながら淡々と言う。
「王宮会議で魔術師団と警備体制を連携する話を持ちかけたら、ジョエルに丸投げだ」
フィリベルトが顔を顰めるが、ラザールは
「ここ数日まともに寝ていないと言っていたぞ。良い意見だからすぐに稟議を上げろと陛下直々のお達しだからな。通常勤務もこなしながら、検討会議に書類作成、決裁の事前確認、おまけに部下のフォローと配置決め」
と続けてニヤリとする。
「死ぬなら戦場で死にたいって嘆いていたな。全く同感だ」
シャレにならないんですけど! と言いそうになったのをグッと飲み込み、代わりに
「でしたら、お食事の差し入れは難しいですわね……」
と独り言を発すると
「お菓子ならどう?」
とシャルリーヌの助言が。
「焼き菓子なら日持ちするし、持ち歩けるし、いつでも食べられるわよ」
そ・れ・だー!
「さすがシャルだわ!」
思わずギューッと飛びついてしまった。エッヘンなシャルリーヌが可愛くて、思わずほっぺスリスリしてしまうレオナに、フィリベルトがぐぬぬ、と唸る。
「お兄様の分ももちろん作りますよ!」
「んん、それなら、うん」
確か簡単なクッキーならレシピを覚えている。早速料理長と相談してオーブン貸してもらおう。いや、火魔法でやってみるか……水魔法の応用で生地を冷やして寝かせて……うん、これも良い制御の練習兼魔力消費だなと心の中で算段していると――
「おい」
「あの、私達の分も……できれば……」
くたびれ御二方も恐る恐る手を挙げるのに、思わずレオナは笑ってしまった。
「皆様にふるまえるように、練習いたしますわ」
疲労回復クッキー、やってみよう! と気合いを入れた。
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お読み頂きありがとうございました。
2023/1/13改稿
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*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
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