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第一章 世界のはじまりと仲間たち
〈23〉白か黒かではないのです
しおりを挟む魔法理論では眠気と戦い(ゼルは前の席でぐっすり寝ていた)、戦い抜いた後の今日のランチを、いつものごとく研究室で頂く。
シャルリーヌも一緒で、フィリベルト、カミロと四人。
今日もジョエルは来られないらしく、午後の剣術実習はジャンルーカとのこと。
「うええー、じゃあ午後はまたジャンルーカ様いらっしゃらないのかあ」
とはシャルリーヌ。
「どうしたの?」
「王国史、セリノ様だけだと王子様が暴走しがちなのよ」
暴走、というのは先生を差し置いて演説したがる、ということらしい。
我が王国はこれらのなんたらを誇って、王宮ではうんちゃらかんちゃらと。そして皆で持ち上げて素晴らしい! と拍手するまでがお約束の流れ。
「ジャンルーカ様がいらっしゃれば、先生のお邪魔をしてはいけませんとか、そのお話は王宮外ではしてはいけませんとか言って下さるんだけどね」
王子のコンプラどうなってんの? ガバガバだな、とレオナは呆れる。
「シャル嬢……それぐらいに」
フィリベルトが困ったように咎め、
「あっ! ごめんなさい、失礼しました。私ったら」
シャルリーヌが慌てて謝罪する。
家なら良いのだが、一応ここは先生の研究室である。
「私としても、リラックスしてもらえて嬉しいのですが……」
「カミロ先生、ごめんなさい」
「いえいえ、シャルリーヌ嬢の良いところは、そういう素直なところですよ」
カミロは王立学院講師だ。王族への愚痴を看過するわけにはいかないだろう。
「それからお二人には非常に言いにくいのですが」
そしてカトラリーを静かに置き、苦しそうに切り出す。
「一部の生徒が贔屓されているとの苦情が、学院長宛に入って来ているそうです。フィリベルトは共同研究者として席がここにあるからよいのだけれど」
――なんと……!
「特にレオナ嬢は、個人相談といってもご飯を一緒に食べたり、毎日のようにいらっしゃるのは良くないようです。私としても不本意ですが……」
「しかし、レオナは」
フィリベルトはフォローしようとしてくれるが、レオナとしては迷惑をかけることは本意ではない。
「お兄様。大丈夫ですわ。先生、正直に言って下さってありがたく存じます」
冷静に端から見れば、確かに贔屓と言われても仕方がない。(もちろん、成績や待遇を考慮されたことはないが)
カミロが王国のお抱え魔道具師であることは、公にされていないにしても、ハイクラスの担任だ。
研究室にジョエル副団長や、ラザール副師団長が出入りしているとなると、学院だけではなく王国騎士団、魔術師団という組織にも関わる。
この国で『公爵家』というネームバリューは非常に強いのだ。拒絶反応を起こしたり、権力集中を危惧したり、重箱の隅をつついて足を引っ張ったり、の貴族社会である。もう少し配慮すべきであった、とレオナは後悔する。
「確かに、皆さんとのランチが楽しすぎて……度を越してしまったことは否めませんわ……差し入れも、良くなかったですわ」
「……そうかもしれないな」
フィリベルトも苦しげだ。妹を守りたいが、先生に迷惑はかけたくない。こういったことに『正解』はないのだ。
「今後はお昼は、食堂で頂くようにしますわ。お陰様でだいぶ論文も読み進められましたし、もっと必要になった時には、お兄様を経由してお借りしても?」
「貸し出すのはもちろん構わないよ」
カミロの返事を聞いてフィリベルトも同意する。
「そうしよう。私も食堂で食べるようにする。レオナの料理が食べられなくなるのは非常に残念だが」
「お兄様の分はお作りしますわよ?」
「いや、こういう輩には、自分の要求が通ったと見せた方が良い。私も対応したとあれば、それなりの効果はあるだろう」
「皆さん、申し訳ない」
カミロが深々と頭を下げた。
「とんでもないですわ! どうかお顔を上げてくださいませ」
「謝罪の必要はない。貴方の上司は学院長だ」
「……でも、今後ももし困ったことがあれば、いつでも知らせて欲しいのです。担任としてそこは譲れない」
「感謝いたします、カミロ先生」
「私からも礼を言おう」
責任感の強い先生で有難い。出会いに感謝である。
「さて、レオナ。午後は剣術でしょう? 着替えに時間がかかるのではなくって?」
シャルリーヌが空気を変えてくれた。
「は! そうでしたわ!」
バタバタとランチボックスを片付ける。後で食堂の方(主にハリーさん)が取りに来て屋敷に届けてくれるのだが、このやり取りもしばらくお休みと連絡せねば。
「私からハリーには言っておこう。心配せず講義に行っておいで」
フィリベルトが送り出してくれたので、その言葉に甘えることにした。
研究室を出て更衣室に向かうレオナは、クラスルームに向かうシャルリーヌと途中で別れる。
「レオナ……今日はお家に寄ってもいい?」
「もちろん!」
王国史のある日はなるべくシャルリーヌとお茶をするようにしている。
「ありがとう! では、寄らせてもらうわね」
「ええ、後でね」
※ ※ ※
一方研究室にて。
「申し訳ない、フィリベルト」
カミロは情けない、と肩を落とした。
「謝罪には及びません。理解できますゆえ」
居住まいを正し、淡々と答えるフィリベルトは、適した口調に戻している。
「力になると言ったのに、結局は身動きが取れなくなるんだな。情けないよ……」
おでこに手を当て、大きく息を吐くカミロは、弱々しい。
「カミロ様。あなた様には色々制約があることは存じておりますよ。私も、もちろんジョエルもラザールも」
「ありがとう……しかしあれほど聡明で優しいご令嬢はそうはいないであろう。力を持てば驕り高ぶる部分もあろうに……ましてや公爵令嬢であの魔力。それでも変わらないというのは奇跡の存在だと言える。せめて不安ぐらい拭う手伝いをしたかったのだが」
「そのお申し出だけでも、妹は救われております。兄として感謝申し上げます」
フィリベルトは畏まって礼をする。
「そういってもらえると助かる。ローゼン公爵家への恩は、これからも返していきたいんだ」
「恩などと。その高い技術力を我が国に提供頂けるだけで、十分です」
「はは。王宮設置の結界石を、魔力制限ではなく一時的に魔力無効にするんだったな」
「ええ。念のために」
「……魔石の消費が激しいが、結界を上書きしよう。それにあたって……」
また今日も二人は、研究室から帰れないのであった。
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お読み頂きありがとうございました。
2023/1/13改稿
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