【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです

卯崎瑛珠

文字の大きさ
46 / 229
第一章 世界のはじまりと仲間たち

〈41〉憂鬱ですが準備です

しおりを挟む

 
 復興祭二日前に、レオナのデビューで身につけるドレスとアクセサリーが届いた。
 
「お待たせしてしまって大変申し訳ございません」
 と、オートクチュールのマダムは深く謝罪をするが、三日寝てないと聞いて、寝て下さい! とレオナは慌てて言った。
「いえ、試着を見届けませんと……」
 ものすごいプロ根性に脱帽する。

 瑠璃色のサテン生地をベースにした、アシンメトリーなフリルデザインのドレスは、あえてレースは使わず同生地のフリルのみでボリュームを出している。
 ところどころに、深紅の薔薇のコサージュが縫い付けられており、散りばめられたダイヤやルビーで夜の薔薇園のよう。
 腰は同じくサテン生地の、太い深紅のリボンが後ろで結ばれ、わざと長く流されていて歩くと動きが出る。
 お揃いのサテンのハイヒールも、薔薇のコサージュがアクセントで、ヒール部分をパールで装飾してあった。ダンスでドレスの裾が翻ったら、映えるんだろうなあと気付いた。
 三連パールのルビーチョーカーとお揃いで作られたイヤリングは、ゴールド地にバランスよくパールが並べられ、小粒のルビーが揺れる。
 金糸とレースと赤いサテンで作られたヘッドドレスまで……正直に言おう。やり過ぎである。

「……ふう、宜しいようですね」
 マダムが満足そうで良かったと思った。
「お嬢様、薔薇の生まれ変わりのようです。大変お美しくて……」
 涙ぐむマダムに、あとはお任せ下さい、とマリーが気合いを入れていた。
「ありがとう。どうでしょうか、お母様、シャル」
 シャルリーヌには、ドレスのでき上がり日をお手紙で知らせたら、絶対に見に行くと返事をくれ、来てくれたのだった。
 アデリナの瞳も心なしか潤んで見える。
「いやあね、ベルナルドの病気がうつったかしら? レオナをどこにも出したくないって思ってしまったわ。とても綺麗よ、レオナ。私の愛する自慢の娘」
「ありがたく存じます、お母様」
 嬉しくてモジモジしてしまう。

「……シャル?」
 シャルリーヌがなぜか必死な顔だ。
「綺麗。綺麗すぎよ、レオナ。夜会で変な男に捕まっちゃダメよ! 私は近くにいられないんだから! 油断しちゃダメだからね、ちゃんとキッパリ断るのよ! 分かった!?」
 大袈裟すぎる。シャルリーヌも大概過保護だと思う。本人は気付いていないようだが。
「分かったわ」
「……って言って分かってないのがレオナだもんなー、フィリ様に念押ししなくちゃ……」
 とブツブツ言われるのを聞きながら、シャルリーヌとフィリベルトの仲の良さを改めて思う。

 ちなみに、過去にフィリベルトのことを男性としてどう思うか? とシャルリーヌに聞いたところ『完璧超人、息が詰まる』とシンプルにすげない回答だった。
 シャルリーヌが義姉になる日は来なそうで残念だ。でも確かに完璧超人よね……とレオナも思う。
 
「こんなに素敵なドレスを、感謝いたしますわ、マダム!」
「こちらこそありがたく存じます。お嬢様の小さな頃から沢山のドレスを納めて参りましたが、デビューのドレスを作らせて頂けるなんて、感無量にございます。素晴らしい夜会となりますこと、心よりお祈り申し上げます」
「ありがたく存じますわ!」
「相変わらず良い仕事ね、マダム。ありがとう」

 アデリナと共にお礼を伝えると、ルーカスがマダムを帰りの馬車へ案内した。一刻も早く休んで頂きたい。男性陣には当日のお楽しみとしているので、さっさとこれ脱ごう。お茶しよう、と思ったレオナだったが。
「じゃあお茶を飲みながら、出席者の確認をしましょうね。シャルも将来のために聞いてらっしゃいな」
 アデリナが言う。
「はい」
「はい!」
 他国からの賓客も多い。失礼があってはならない。せめて名前と家名、爵位や役職は叩き込まなければ! となると休憩はだいぶ先になりそうだ。
「うげー、こんなに……」
 リストを見てシャルリーヌが引いている。


 
 が、頑張ろ……

 

 ※ ※ ※


 
 ブルザーク帝国皇帝になってから、初めて国境を超えるために馬を走らせていたラドスラフは、違和感に気づいていた。
 ちなみに帝国の男達は皆『狭くて息苦しい』という理由で馬車が嫌いであり、帝国内で馬車は、老人や子供や女性が乗っているものと荷馬車ぐらいである。
 
「サシャ」
「はひゃいっ」

 書記官兼外交官のサシャと呼ばれた彼は、常に側近として皇帝に侍っている人間の内の一人で、ラドスラフが最も信頼を寄せている人間でもある。

 頭脳明晰で歴史、政治、経済だけでなくあらゆる文化にも通じ、非常に優秀ではあるのだが、大きめの眼鏡が頻繁にずり落ち、さらに常時挙動不審である。
 もちろん武力は皆無で、ラドスラフが気まぐれにデコピンするだけで、三日は寝込む貧弱さだ。

 その代わり仕事には誇りを持っており、マーカムに行くのも遠いからと断り続けていたが『余の好きなように貿易協定結んで来ても良いのか?』と聞くと一言で『行きます』と翻した。ただ馬には乗れないので、ラドスラフの後ろにちょこんと乗っている。
 
「あれは、自然の魔素に湧く魔獣の量として、適正か?」
「さささすが陛下でっすね」
 
 ――この話し方に慣れているのもラドスラフだけだ。特に軍部の連中は、あからさまに嫌な顔をする。

「たたたぶん南の奴らが、嫌がらせで撒いたですよ、獣粉じゅうふん
 獣粉じゅうふんというのは、魔獣を野焼きにして作る人工の粉で、わざと魔獣を呼び寄せたい時に使う物である。
 素材狩りに活用したり、冒険者ギルドが初心者救済措置として買い取っていることもあり(死体を焼くだけなら誰にでも出来る)、帝国内の市場には割と流通している。
「なぜ南の奴らだと?」
「みみ南の冒険者ギルドの在庫が一気に減ったです」
「ほう」
 
 こいつそんなことまで把握しているのか、と若干呆れたラドスラフに、サシャはもちろん気づかない。
「して、これがなんになる?」
「ぼぼ妨害と、ひょ評判を貶めたいのでっしょ。ここ皇帝の行くところ、なな難ありって」
「くだらんな」
「ですです……ま、ほほんとのことでっすけど」
 ラドスラフは、またデコピンしたい衝動を辛うじて抑えてはあー、と長い溜息をついた後
「ヨナターン」
「は!」
「即時殲滅せよ」
 と命令を下す。
 
「御意」
 皇帝直轄の陸軍大将アレクセイは、念のために帝国に置いてきた。ヨナターンは州軍総大将であり、地方の軍には彼の命令の方が、むしろ通りやすい。
 
「アーモス! ボジェク!」
 ヨナターンは、自身直轄軍五将のうちの二人を連れてきていた。
「はっ」
「は!」
「最短で終わらすぞ!」
「「御意!」」
 獣粉の件は、念のためベルナルドに言っておくか、とラドスラフは先を急いだ。
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...