【本編完結】公爵令嬢は転生者で薔薇魔女ですが、普通に恋がしたいのです

卯崎瑛珠

文字の大きさ
55 / 229
第一章 世界のはじまりと仲間たち

〈50〉勝利より勝るものがあるのです 後

しおりを挟む


「まあ見ておけばわかる」
 嬉しそうに、ヴァジームが笑んだ。

 レオナは、固唾を飲んで闘いを注視する。

 
 シュンッシュンッ
 
 
 有り得ない速さで舞う、漆黒のクレイモア。
 とても目で追えない。幾重もの黒い線の残像だけが残る。
 ソゾンが全てを紙一重で避けている。こちらも神業だ。
 シャルリーヌが、斜め後ろからレオナの腕にしがみついてきた。
「こ、こわい」
 
 黒竜の如く、黒く速い影となったルスラーンは、息をもつかせぬ怒涛の剣技で、ソゾンを徐々に圧倒していく。

 それでもソゾンは剣圧をくぐり抜け、何度か反撃する。
 ヒュイッと風が鳴り、演習場と観客席とを隔てている壁が削れた。
 ルスラーンの頬が裂け、鮮血がパッと散る。
「きゃあっ」
 貴賓席のご令嬢達が、悲鳴を上げた。
 体勢を崩して足を止めたルスラーンに対して、戦斧を構え直し、トドメだと言わんばかりに一気に襲いかかるソゾン。

 ――刹那、蜃気楼がもう一回り大きくなった。そして。
「が、ぐ」
 懐に潜り込んだ漆黒の剣の柄頭が、ソゾンの鳩尾を抉った。
 たまらず地面に片膝をつく彼の首に、くるりと背後に回ったルスラーンが、クレイモアをピタリと当てた。
 
 一呼吸の後、ソゾンは苦笑いで、膝を着いたまま武器から両手を離し、挙げる。
「……っぷう、やりよった」
 ヴァジームが、息を吐く。

「勝者、ルスラーン!」
 
 ジョエルの右手がルスラーンの手首を掴み、掲げた。
 どおおおおおっと揺れる演習場。
 
 立ち上がり、握手を求めるソゾン。
 がっしりと握手を交わすと、ソゾンがルスラーンの肩をぽんぽん叩いている。すると、ルスラーンがソゾンの手を掴んで挙げた。観客達に二人で手を振る。お互いがお互いを讃えていることが分かる。
 
 わああああ! と一気に盛り上がる演習場は、割れんばかりの拍手に包まれた。
「……これが決勝戦で良いのでは?」
 思わずレオナからこぼれた。だって悪いが次はあのハゲ筋肉である。
「ぐはははは、確かにの」
「同情しますね」
「やめさせるか?」
 ベルナルドのは洒落にならない。
 
 ふと、ルスラーンがこちらを見た。
 ヴァジームに拳を挙げた後、レオナをチラリと見て、くしゃりと笑った。
 瞬間、レオナの心臓が、ギューン! と跳ねる。
 
「うわぁ、あれかあ」
 シャルリーヌが独りごちている。
 


 ドッドッドッドッ
 自分の心臓が、こんなにもうるさいと感じるなんて!
 


 すると、ジョエルがルスラーンを呼び戻し、耳元で何かを囁いた。二人が王族席に目を向けると、ゲルルフが戻れと演習場の中央を指で差している。その先には、イーヴォがスタンバっていた。
 
「まさか」
 レオナは驚愕する。
「……連戦とはね」
 冷たいフィリベルトの声。
「おーおー、形振なりふり構わんのう」
 どこか楽しげなヴァジーム。
「だ、大丈夫なんですの!?」
 この席の男達は、全員無言で、微笑んで見守っている。

 ルスラーンは、ぽりぽりとこめかみをかくと、素直に真ん中へ戻った。
「……では、決勝戦を始める!」
 
 ぶううう! とシュプレヒコール。
 わああああ! と歓声。
 
 様々な声が入り混じるその中で、ルスラーンはなぜか背中の両手剣を下ろし、マントも外し、ジョエルに手渡した。
 それから両手を組み合わせて、パキポキ骨を鳴らすと、首を左右に回す。
 イーヴォは体術。――まさか。
 
「あいつ、相変わらず短気だなあ」
 とフィリベルトが、おかしそうに笑う。
「連戦で不利な上、お前の得意分野で闘ってやるぞ、と。なかなかいい性格をしているな」
 と楽しげなベルナルド。
「売られた喧嘩は買う奴だわい」
 とヴァジーム。

 

 えーっと、ハゲ筋肉、ご愁傷様?


 
「では、決勝戦を行う! 第一騎士団所属、イーヴォ!」
 むうん! と腕を曲げて筋肉アピール。パラパラと拍手。
「第二騎士団所属、ルスラーン!」
 軽く手を挙げると、どおおおおっと演習場が沸いた。
 頑張れ悪魔の息子ー! とヤジが飛んで苦笑いしている。
 
「両者構えて……始め!」
 日が傾き、夕陽が眩しい。黒鋼が光っている。
 静かに構えるルスラーンに対し、
「ぬうん!」
 と襲いかかるイーヴォ。
 ゴツッ、ガツッ、と硬いものでお互いを殴る、鈍い音が響く。
「――ねえ、これ言ったらダメだと思うんだけど」
 シャルリーヌがポツリと呟く。

「あの人って、ほんとに強いのかしら? ルスラーン様の動きがさっきと全然違う」
 


 シャ、シャルさーん!


「「「ぶっ!」」」


 
 多分みんな思ってるけど言ってないよ!

 

「あーその、ガンバッテー! とかレオナちゃんが叫んだら張り切るかも」



 ジーマ様ったら!
 叫びません!


 
「……レオナちゃんだと?」


 
 あーあー、お父様からも冷気来ちゃったよっ。
 ローゼン家伝統ブリザード、コンプリートだね!


 
「ぐーぐー」


 
 寝たフリしない! 決勝戦見て!


 
 ドカッバキッドゴン!
 地味な肉弾戦が、眼下で繰り広げられている。

「あいつは、相手によって全力が変わるタイプだからな」
 フィリベルトの苦笑。
「ムラっけがあるからのぅ」
 ヴァジームも同意している。
 
 だが、ガキィッとルスラーンの頬が殴られ、口許から血が飛んだ。先程の傷も開き、頬から大量の血が滴り落ちている。ブッとすかさず血を吐いて、彼は体勢を立て直す。

「……あんにゃろう」
 ヴァジームが、珍しく語気を荒らげた。
「ありゃあ門外不出のはずだが」
「分かる者はいないでしょう」
 フィリベルトが険しい顔でフォローする。
 どうやら、かなり姑息な手を使っているようだ。
 ジリジリとルスラーンが後退し、頬の出血が増えていく。
 ハラハラと見ていると、
「ようやく切り替える気になったか」
 とヴァジームがほくそ笑む。

 またゆらりと蜃気楼。
 
 次の刹那、大きく踏み込んだルスラーンが、その拳をイーヴォの腹に、思いっ切り叩き込んだ。

 吹っ飛ぶ巨体は、演習場の遠い端まで無惨に舞った後、どさりと落ちた。

 

「……そこまで! 勝者、並びに優勝者、ルスラーン!」


 
 わあああああああああああ!


 
 拍手喝采の中、めんどくさそうに雑に頬を拭うルスラーンは、血が目に入ったようだ。


 
 痛そう!


 
 それでも、片手で頬を押さえながらこちらを振り返る彼は、またニカッと笑った。
「ご褒美楽しみだのう」

 
 ヴァジームの声は、もうレオナの耳に入っていなかった。
何よりも、彼が無事なことが嬉しいと思った。

 

※ ※ ※

 
 
 表彰式で、国王から優勝の盾を受け取ったルスラーンは、あまり目立つのが好きではないらしく、ささっと列の中に隠れてしまった。それでも背が高いので、おでこは見えるけれど。
 
「素晴らしき闘いであった! 勝った者も負けた者も、全力で闘ったことを誇るように!」
 
 国王の締めの挨拶で、無事交流試合が終わった。ぞろぞろと観客達が会場からはけていく。
 
「ハー。疲れたー」
 また柵越しの、だらけ副団長が戻ってきた。
「ジョエル兄様、とっても凛々しくて、カッコよかったですわ!」
 パレードで女性達に人気があるのも納得である。今日ももちろんキャーキャー言われていた。それに余裕で手を振り返したりしているのがまた、ファンサすごっ! と思っていたレオナである。
 
「ははは、叫んでただけだけどねー。でもありがとー」
 ニコニコして
「良かったねー。ルス、すごい頑張ったから、いっぱい褒めてあげてー」
「はい!」
「あ、でも今日はこれから騎士団で、盛大に宴会だから」
 ああ、なるほど、それはそうかとレオナが思っていると
「また別の日にゆっくり会えるからねー」
 別の日? と問う暇もないまま、ジョエルは『じゃーねー』とひらひら手を振って行ってしまった。
「わしもさすがに少し顔を出すかのう。ではな、レオナちゃん、シャルちゃん」
「ごきげんよう、ジーマ様」
「またお会いしたいです、ジーマ様!」
 破顔して、嬉しそうに立ち去っていく、救国の英雄。優しくて、お茶目な方。息子の優勝は、やはり嬉しいだろう。
「さて、我々も撤収しましょう。父上はどうされますか?」
「王宮に戻るよ」
 疲れた顔のベルナルドとは、ここで別れた。どうか無理はしないで欲しい。クッキーを渡すべきはあっちだったか……
 
 観覧席から出て、馬車に乗り込もうとしていると、
「フィリ!」
 人混みを掻き分けてやって来る、黒い長身。頬にはガーゼがあてられている。
「ルス!」
「……はー、わりぃ、色々捕まって……えーとレオナ嬢と」
 シャルリーヌに気付く。
「あ、私の大事なお友達の、シャルリーヌですの」
「シャルリーヌ・バルテです! 初めまして!」
「おお、ルスラーン・ダイモンだ」
「「「優勝おめでとう」ございます」」
「あ、ありがとう」
 ぽりぽりとこめかみをかいて、照れるルスラーン。
「これから宴会じゃないのか?」
「あー、それなんだが、ちょっとフィリも来てくれないか。頼む」
 と、いきなりがしっとフィリベルトの肩を掴んで引き寄せ、耳元でボソボソ話すルスラーン。
「……はあー。……仕方ない。少しだけだぞ」
「わりぃ、マジで。恩に着る」
 何か問題でも? 不安になって見やると、フィリベルトが安心させるように言う。
「大丈夫、ただの面倒臭ーい、お酒のお付き合いなだけだから。先に二人でお帰り。シャル嬢も、今日はありがとう」
「こちらこそですわ。では失礼いたします」
「わりぃ、またな」
「ごきげんよう」
 

 レオナはもう少し話したかったが、主役が宴会に遅れるわけにはいかないだろう。
 見送られて、馬車に乗った。
 
しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで

ひーにゃん
ファンタジー
 誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。  運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……  与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。  だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。  これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。  冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。  よろしくお願いします。  この作品は小説家になろう様にも掲載しています。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...