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第二章 運命の出会いと砂漠の陰謀
〈110〉皇帝の学院見学 中
しおりを挟む「なかなか活発だな」
ラドスラフは足を組み、頬杖をついて、優雅に学生達の予選の様子を眺めている。
「ええ、できるだけ学生達の自主性に任せております。前期は、二人の魔法を融合した攻撃を見せよ、という課題でした。後期はお互いの短所、弱点を洗い出して改善するのが課題になっております」
ラザールが淡々と説明をする。
「なるほど、良く考えられている」
「ありがたく存じます」
「誰と誰が組むのかは、調整したのか?」
「いいえ、全く」
「それは面白いな。相性もあろう……ふむ。実地を見据えているのか」
ラザールは目をパチクリさせた。
「不躾ですが陛下」
「ん?」
「魔法のご経験は」
「ないぞ。魔力もない。だがまあ、考えれば分かる」
「……ご慧眼、いささか驚きました」
「はは! そなたに褒められたなら誠だと信じられるな。ジョエル殿と違って」
「ジョエルが何か失礼を?」
ジャンルーカとルスラーンも、思わずビクッとしてしまった。
「くくく、いや。訓練場で勝負を挑んだんだが、全ていなされてしまった。その上で腕を褒めるから、素直に受け止められん」
「左様でしたか。御無礼を」
「いやいや。余がレオナをくれと言ったのが悪かった」
途端にギョッとする三人。
ラドスラフは、これでルスラーンが自分に何らかの反応――あわよくば殺気――をするのではと踏んでいた。が、予想に反して平静。逆手に取って次の剣術講義で、と目論んでいたことが、肩透かしになった。
(心境の変化か? 肝が据わったように見えるな……つまらん)
「……お戯れを」
ラザールが静かに返したので
「はは、からかい過ぎたか」
と場は収まった。
「ん? あれは、なんだ?」
ラドスラフが眉を寄せる。
「……少し様子を見て参ります」
ラザールがすぐに対応する。
ブリジット組での予選は予想通りレオナ・テオ組で決まったが、トーマス組が揉めている。
「平民のくせに!」
ハイクラスの男子生徒が杖をジンライへ向け、恫喝しているようだ。
「杖を引っ込めて! 人に使うのは禁止!」
トーマスがジンライとヒューゴーを背に庇って警告しているが、相手は聞く耳を持たない。
「何をしている」
「ぐ……なんで! こいつが!」
トーマスのことを小馬鹿にして、落とし穴に落とさせたこともある伯爵家の男子学生の組だ。日頃から態度は横暴で、トーマスからは、ジンライに害が出たら対処する、と報告を受けていたラザールである。
「どうした?」
ラザールにトーマスが
「ヒューゴー・ジンライ組が勝ったのが、不満のようです」
とシンプルに告げる。
「ほう。なぜだ?」
ラザールが男子学生に向き直って、理由を尋ねると
「平民だからですよ! あとそいつも、ブノワ直系じゃない、ただの見習いです!」
「ならば……私がこの講義の始めに言ったことは忘れたのか?」
「……」
「魔法の前では、身分は関係ない。この場での無責任な振る舞いは、万死に値すると心得ろ。どんな家柄だろうと、評価に値しない者は容赦なく叩き出すので、そのつもりで。と言ったはずだが」
「……っでも! 皇帝陛下の御前に平民を出すなど!」
ラザールが眼鏡を押し上げて、説教しようと口を開きかけたところに
「出すなど、なんだ?」
「陛下……」
いつの間にか近くに立っていたブルザーク皇帝に、ざわざわと学生達が動揺している。
ずいっ、とラドスラフは学生に近寄り、ジャンルーカとルスラーンが緊張感を走らせる。
「発言を許そう。平民だと障りがある理由はなんだ?」
「皇帝陛下へのご披露に、相応しくないからです!」
「ふむ。分かった。ならば……ラザール殿、御前披露は彼に」
「っ、は」
途端にドヤ顔をする男子学生に、ヒューゴーとジンライは、皇帝の意図が分からず戸惑う。
「さ、時間も惜しい。始めよ」
「は!」
トーマスとブリジットは、手早く誘導して学生達を演習場後方へ並べて列を整えさせる。ラザールは、
「では、御前披露を行う。まずは、そちらから」
とレオナとテオを誘導した。
風と水の融合で、テオが攻撃メインとなるレオナ組は、魔法練習用の木の的を五本、立ててもらった。
「では、始め」
ラザールの声で、レオナとテオが丁寧にラドスラフへお辞儀をし、レオナは杖、テオはローブを脱いでナイフを構える。
お互い見つめあって、タイミングを合わせ……
「いくよっ!」
テオの掛け声で空中を駆け上がり、振り上げるナイフの速さに鋭い水を乗せる。
レオナの誕生日パーティでは、一度しか切れなかったが、今は――
「はっ、ほっ、はっ」
テオはなんと、地に足をつけることなく、空中でステップを繰り返して、くるりくるりと回転しながら、次々と五本の的を切り倒した。
たし、と最後に地面に足をつき、二人呼吸を合わせて礼をする。
完璧なユニゾン、威力も申し分がなかった。
薔薇魔女の魔力を差し引いても、テオの身のこなしは、とても魔法を始めて一年も経っていない者のそれではない。
ブリジット組は、全員が納得の選出であった。
「素晴らしい!」
ラドスラフが立ち上がって拍手をし、賞賛。
後ろの学生達も、ラザール達講師も、全員で拍手をして讃えた。
「では次」
問題の男子学生の組は
「チャールズ・ダリル組、御前披露の機会を頂き、誠に光栄でございます! 素晴らしき融合魔法を、今からご覧に入れます!」
とアピールをしたので
「期待している」
とラドスラフ。
レオナは、嫌な予感がするなあ、と密かに杖を握り直し、ラザールとアイコンタクトをした。
「はあ!」
ごうっと杖の先で燃え上がる炎。
もう一人も、炎。
二人は十歩ほど離れた距離で並んで立ち、それぞれ杖をグルグル回し始め……最初は手持ち花火程の大きさだった火が、どんどん大きくなってくる。やがて、
「ファイアアロー!」
中級レベルの魔法を唱え、お互いの炎の槍が真ん中でぶつかってさらに大きくなり――切っ先がジンライの方向へ向いた。周りの学生達から悲鳴が上がって、少しでも遠くへ離れようと逃げ惑った。
「「アライアンス!」」
そして二重の槍が、襲いかかる。
「ちっ」
ラザールが杖を向けると、なんとジンライが手でそれを止めた。
「ストーンウォール」
巨大な土壁が瞬く間に炎の槍を防ぎ、さらに
「……バインド」
「!!」
ラザールが得意とする、土属性の弱体魔法のうちの一つを、即座に二人に放つ。
その場に縛りつける高度な魔法で、講義で教えてはいなかった。
全員が呆気に取られる中ジンライは、事も無げに土壁を崩し、にへへ、と笑いながら
「危ないっすよ?」
と杖をくるっと回してバインドも解いた。そして
「かっこいいすねー! ファイアアロー」
と屈託なく褒めるので、この場の全員が一気に毒気を抜かれた。
「くく、素晴らしい」
ラドスラフが立ち上がり、賞賛の拍手を贈りながら近づいていく。
「さて。血気盛んなのは良いが――今のは人を殺す魔法だな?」
そしてチャールズ・ダリル組に近寄り、音もなくするりと剣を抜くや否や、あっという間に一人の首にピタリと当てる。
「余の前で殺意をひけらかす者は、帝国では即刻斬首だ」
「陛下っ」
「陛下!」
ジャンルーカが、ラドスラフを身体ごと止めようと前に踊り出て、ルスラーンが学生を背に庇い、ラドスラフの剣の切っ先を代わりに自身の首で受ける。
「見たか? お前達の浅はかな行動で、近衛の二人、首が飛ぶぞ」
「えっ」
「そんなっ!」
「身分を語るなら、まず自身の身分を把握せよ」
がく、と二人が板張りの床に両膝を着くのを見て、ラドスラフはようやく剣を収める。
「そこの講師に感謝するのだな。見よ」
チャールズとダリルが振り返ると、がくがくしながら杖を構えるトーマスがいた。
「あっ」
「!」
「自身の命を投げ出し、貴様らを救おうとした者達の顔を、とくと覚えよ。これこそがまさに、身分ある者の責務だ。良いな」
一人は返事なく項垂れ、もう一人は皇帝を睨め上げた。――それだけで首を刎ねられてもおかしくはない態度だが、ラドスラフは無視をしてやった。若さゆえの向こう見ずな態度は、嫌いではない。
「くく、心配かけたな、ラザール殿。その杖を引いてくれるか?」
ラザールは、首を刎ねられると思っていたので、ようやく緊張を解いた。
「は」
「そこの――ヒューゴーと組んでいる、そなたは」
「へ? は、はいっ!」
「名はなんという?」
「あ、じ、ジンライ、です!」
「ジンライ。素晴らしいものを見せてもらった」
「わわ、ありがとうございます!」
「最初の壁は分かるが、二番目のはなんだ?」
「あ、う……」
「ん? ああ、発言を許そう」
「はい! バインドといって、相手の行動を縛る魔法です!」
「ほお……興味深いな……傷をつけずに、か」
「はい! あの、公開演習でラザール先生が使っていて、真似を」
「!」
「ほほう」
「……ジン、初見で真似たのか?」
ラザールが驚いている。
「あ、はい。あの、ダメでしたか!? すみません、傷つけずに止めたくて」
「いや……」
「あの、鍛治では真似て覚えるのが、基本なんす! もしダメなら」
「鍛治? 鍛治職人なのか?」
ラドスラフが、さらに問うと
「は、はい! ギルドで修行中です!」
「ほお……」
レオナは、テオと顔を見合わせる。
「ジンったら……」
「興味持たれちゃってるね……」
向こうでヒューゴーも、苦笑いしている。
「良いものを見せてもらった」
ラドスラフは、満足げに頷き、そして学生全員に呼びかけた。
「皆の者。例え余の前での披露はならなくとも、そちらこちらでその方らが懸命に取り組む姿勢は、然とこの目で見た」
学生達が、固唾を呑んで皇帝の次の言葉を待つ。
「良い講師に教えられれば、皆、良い技術を習得できよう。とくと励むがよい」
「「「はい!」」」
「素晴らしき講師達に、賞賛を」
ラザール、トーマス、ブリジットが深深と礼をすると、ラドスラフが拍手のポーズをし、全員で拍手をした。
何とか収まって、ホッとしたのはレオナだけではない。
ふう、と息をついて解散しようかと思った、その時。
「ラース様っ」
レオナの前を横切る、ピンク色のふわふわの髪の毛。
「わたしのも、見て欲しかったですうー」
えええええ!
「……ユリエ嬢、下がりなさい」
ブリジットがすかさず肩を掴んだ。掴まないと止まらないぐらいの、猪突猛進っぷりだったのだ。
「え、なんで!」
「皇帝陛下へ近づくことは、許されません」
「はあ!? じゃあなんでレオナは良い訳!?」
おおーう! 呼び捨てされたー!
「えぇ……」
テオがドン引きしているので、多少は冷静さを取り戻せたレオナだが、次のセリフで気絶しそうになった。
「サシャ」
「は、はははい! れれレオナちゃんは、ここ皇帝陛下の特別な人なので、いいんです!」
ちょおーーーーーーーっ!!
「は!?」
硬直するユリエをそのままに、ラドスラフは
「時間が惜しい。次はなんだ?」
と続ける。
ガン無視皇帝陛下のご降臨です。
ラザールがしぱしぱ目を瞬かせて
「は、えっと……お昼……お食事、かと?」
ジャンルーカを振り返る。
「はっ、ええ、そうです、食堂へご案内致します」
珍しくギクシャクしている近衛筆頭。
「分かった、ゆこう」
「は」
「……こちらへ」
能面のような無表情の、ルスラーン。
ちょちょちょと、待てえーい!
否定していけーえい!
レオナにぱちり、と余裕のウインクを返すラドスラフ。そしてその隣で、なぜかワクワク顔のサシャ。やりおったな! と言いたいレオナだが、時すでに遅し。
呆気に取られる学生達を置き去りに、さっさと去って行った。
「レオナさん……」
「ちち、違うわよ!?」
「うん、でも……手遅れぽい……」
後ろを振り返ると、学生達の好奇と嫉妬の視線の数々。
特にユリエには、呪い殺される勢いで睨まれている。
「あー、おっほん」
ラザールが
「皆、ご苦労。本日の実習は以上で終了とする。各自次の講義までに、さらにお互い話し合って、改善していくこと。では、解散」
と締めた。
レオナが頭を抱えそうになっていると、ヒューゴーとジンライが合流し
「やられましたね」
とヒューゴーが眉をひそめる。
「レオナさん、すごいっすねー」
なぜかほのぼのジンライ。
「これ、ゼルさんが知ったらまた」
とテオ。
――のおぉぉぉぉ!
思わず頭を抱えて声が出てしまったレオナに、男子三人の視線が痛い。
「接待しすぎ」
とヒューゴーが言ったかと思えばテオが
「レオナさんて、たまにやり過ぎるからね」
とよく分からないことを言い
「うーん次の剣術で、ゼルさんどうなりますかねー」
とジンライが不穏なことを。
「おーまい……」
「「「おーまい?」」」
ガッ、と言いたいところをゴクンと飲み込み
「……なんでもない……」
と深い深い息を吐く、レオナだった。
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∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
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