26 / 75
第二章 誤解!? 確信! 仕事!!
26
しおりを挟む「レナート様」
「どうした?」
「あの、化けの皮が」
「……言ってくれるな」
ホールの前の方で、王女にべったりと張り付かれている銀狐。感情が全部死んでる。あれは、あとで大暴れだよなあ。愚痴聞いてあげなくちゃ。
それにしても、ソフィの方がまだマシって思っちゃうのは良くないか。王女様だしね。うん。
あ、あれが国王と王妃かな。ステージのすごい大きな椅子から降りてきた。
「キーラ」
「はい」
「陛下のダンスが終わったら、一度だけダンスをしよう」
楽団が楽器を構えて、静かに音楽が始まった。
「わかりました」
「初めてが、私の相手では申し訳ないが」
「どうしてです? 私は、レナート様がいいですよ」
「そ、うか。よかった」
あ、耳の頭が赤くなっている。眉間のしわが少し緩んだ。
「レナート!」
すると、少し青みがかった黒い髪を後ろで結んだ、体格の良い男性に声を掛けられた。
「団長。お久しぶりです」
「お前も団長だろ」
「そうでした」
「珍しく、可愛い子を連れているじゃないか。紹介してくれないか」
「は。私の専属事務官の、キーラです」
「キーラと申します!」
即座にカーテシーをした。ちゃんとできているだろうか。
「そうかしこまらなくて良いよ。私はアルソス騎士団団長、フレッドだ」
あ、優しい! すぐに姿勢を戻せた。
「フレッド様。ごきげんうるわしゅう存じます」
「うん。レナートの前の上司。よろしくね」
「え?」
「そういえば、言ってなかったな……」
「おいレナート、無口にも程があるぞ」
「……」
「キーラ。レナートはもともとアルソスの人間なんだ」
「そうなのですか」
「うん。師団長として素晴らしい功績だったから、メレランドの団長に推薦したのさ」
「なるほど! わかります。真面目ですし、強くて頭も良いですし、何より優しいですもんね」
フレッドとレナートが、きょとんとしている。
「あれ? 私、変なこと言っちゃいました……でしょうか」
だんだんフレッドの口角がぷるぷるしてきた。
え? これもしかして怒られる!?
「ぶはっ」
「キーラ……嬉しい」
「へっ、はい」
「くっくっく。 安心した! キーラ、レナートをこれからも宜しく頼む。本当にとても良い奴だからな」
「はい!」
じゃ、と笑顔でひらひらと手を振って去っていく。その背中を、周囲のご令嬢が羨望の眼差しで追っているが、全て無視していくのがまた、堂々としていてかっこいい。
「すごくかっこいい人ですね」
「うぐ」
「レナート様?」
「……天国から地獄……」
「へ?」
「なんでもない」
なんか急にしゅんとしちゃった。私、またやらかしちゃったのかな。
「レナート様、私何かおかしなことを」
「いや。キーラは素敵だ。今のもとても良くできていた」
「そうでしょうか」
「さあキーラ。ダンスだ」
す、と差し出されるレナートの手。
私はたくさん練習したことを思い出しながらも、不安になる。
「大丈夫だ。楽しもう」
でも、レナートが優しく微笑んでくれたから。
「はい!」
私は、一歩、踏み出せる。
◇ ◇ ◇
「キーラ、僕とも踊ってよ」
レナートとのダンスが終わって戻ってくると、ロランに話かけられた。
王女様は? と首を巡らせると、むくれた顔で金髪碧眼の男性のダンスの誘いに従っている。
「あれは、アルソスの王太子。ナルシス王太子殿下、ね」
「なるほど」
「ごほん。キーラ嬢。このわたくしめと、ぜひダンスを」
ロランがかしこまってお辞儀しながら手を差し出すので、私は笑いをこらえながらその手を取った。
「レナート、キーラ借りるね」
「……俺のものじゃない」
「え、そうなの? 僕はてっきり」
にやける銀狐に、なんだか腹が立つ。
「ロラン様、それどういう意味ですか?」
「あー。なるほど鈍感!」
「は!?」
「眉間にしわ。それ、レナートじわって言うんだよ」
「おいこら」
「ぷっ、あははは!」
思わず大笑いしちゃった! マナー違反。やらかしちゃった。
「いいじゃん。いこ、キーラ」
ダンスホールのシャンデリアの下で微笑むロランは、やっぱり貴族なんだなあと思う。
場慣れしているし、所作も綺麗。華麗にターンをさせられるリードも、柔らかなステップも、さすがだ。
「どう? 見直した?」
性格以外はね! って言ったらすごく笑われた。
でも私は、レナートの実直で優しいダンスの方が好きだなと言ったら
「それ、レナートに言ってやりなよ。絶対だよ」
となぜかすごまれた。
◇ ◇ ◇
あの平民の赤髪! いきなり舞踏会なんて、絶対に恥をかくだろうと思って呼んでやったのに。
なんでちゃんと振る舞えているの?
しかも、私のロランとダンスするなんて! ロラン、笑ってる。なんで? 私、王女なのに! あんな風に笑ってくれたことなんか、ない!
あの女、絶対許さない。絶対、絶対、許さない!
◇ ◇ ◇
帰りの馬車で、レナートはたくさん労ってくれた。
「陛下への挨拶も良くできていたし、ダンスも上手だった。たった十日間でよく頑張ったな」
「レナート様とロラン様の教え方が上手だったからです」
「……もしかしたら」
「はい」
「いや、なんでもない。疲れたな。明日は休みだ、ゆっくりしよう」
「そうですね! めちゃくちゃ寝ます!」
「ははは」
「あ、でも」
「なんだ?」
「ロザンナさんと、メリンダさんと、アメリさんに、お礼をしたいです」
「そうだな。一緒に何か買いに行くか」
「一緒に?」
「ああ。まだ事務官の給料は入っていないだろう。それに今回は私からも礼をしたい。キーラをこんなに可愛くしてくれた」
「……嬉しいです」
また、可愛いって言った!
胸が、なんか、すごいドキドキするよ。
「あの」
「ん?」
「ロラン様に言えって言われたので、言います」
「なんだ」
正直に、私はロランより、レナートの実直で優しいダンスの方が好き、と言ったら。
「うぐごほ」
レナートが真っ赤になって固まってしまった。
私はどうやら、またやらかしたみたい……
でも私は、確信を持って言える。
あの時ロランの誘いに乗って、ここに来て良かった。
仕事にはやりがいがあるし、優しくて真面目なレナートに、こんなにも大切にしてもらっている。
「また、お仕事がんばりますね!」
「ああ。よろしく頼む」
その夜は、心地よい疲労感ですぐに眠った。
後日、あんな騒動に巻き込まれるとは知らずに――
0
あなたにおすすめの小説
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉
狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。
「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。
フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。
対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。
「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」
聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。
「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」
そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。
イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。
ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼
そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ!
イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。
しかし……。
「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」
そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。
美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ
さら
恋愛
会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。
ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。
けれど、測定された“能力値”は最低。
「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。
そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。
優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。
彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。
人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。
やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。
不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜
禅
恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。
だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。
自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。
しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で……
※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる