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第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!
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しおりを挟む泣き止んだ後でレナートは職人の手配をかけ(騎士全員の鞘をきれいに揃えたら見栄えが良いだろう、という国王の思い付き。迷惑!)、今日は一緒に帰って一緒にご飯を食べよう、と誘ってくれた。
「私は大丈夫ですよ。忙しいんじゃ?」
と遠慮したら、
「キーラの方が大事だ」
って真顔で言われて、心臓が壊れるぐらいドキドキした。
けれどもすぐに
「それに、キーラの型どりを着替えないとな」
騎士服にできた『涙の顔型』を指差されたので
「もう!」
と怒ったふりをしながら、タウンハウスへと歩いて帰る道。なんだかレナートと手をつなぎたくなった。
「怒ったか?」
数歩後ろで困ったように立ち止まるレナート。
「ちょっと怒ってます!」
私がそう言いつつ手を差し出すと、レナートはそれをそっと握り返してくれた。そのまま引っ張るようにして歩きだしたら、レナートの目がまんまるになった。
「怒っているのに、手はつないでくれるのか」
「疲れたので!」
「そうか。……そうだな疲れたな」
「あははは!」
「豚でも食べるか」
「ぶた! ぶーぶー!」
「っっ……」
つないでいる手が、ものすごく震え始めた。
「また笑ってるー!」
「違うぞ、あまりにも可愛くてだな」
「!?」
「もう一回言ってくれないか」
「……ぶーぶー?」
「ぐふふふ」
「団長、変な声出てますよ」
「ぐは、すまん」
「変な団長」
「……っ」
レナートは、ものすごくショックを受けた顔をしていて、私はそれを見て思い切り笑う。
そうして、着替えてから連れて行ってくれた豚のお店は、高級感のある素敵な場所で――とてもぶーぶーなんて言える雰囲気ではなかった。
お店の中にもシャンデリアってあるんだね。あと絨毯が赤い。え、服装これで大丈夫?
「あの、団長」
「今は騎士服を着ていないぞ」
「レナート様」
「なんだ」
「こ、ここ高いお店なんじゃ」
「気にするな。晩さん会でのマナーも習っただろう。お披露目してくれ」
「げげげげ」
「そんなことを言ってはだめだな」
「わたくしには、とてもいたしかねます……」
「一応準備した方が良いだろう。また突然何に誘われるか分からん」
「なるほどですわね」
「くっくっく」
「あまり、そうお笑いにならないでくださいませ。わたくし、余計に緊張してしまいますわ!」
「うおっほん。わかった」
――もちろん豚料理はとってもおいしくて(お肉なのに柔らかくて甘いってすごいね)、マナーも一応は及第点をもらえたものの。
「うん。やはり言葉遣いだけだな」
「無理ですよー」
「普段からやるか」
「まじで言ってますかでございますの?」
「ぶはっっ……くくく。俺が悪かった」
といった調子だった。言葉遣いだけは、身近に女性のお手本がいないと無理だな、という結論に至った。
◇ ◇ ◇
「団長、おはようございます」
「おはよう」
タウンハウスでの、朝。
朝食はいつも通りに用意した。メイドのアメリさんの旦那さんがパンやさんで、毎朝美味しいパンを届けてくれるのが、とても助かっている。
「事務官の服装に着替えてくれ。一緒に行こう」
「へ? どちらへ?」
「本部へ。いつも通りに」
「え」
「キーラ。冷静になれ」
レナートは優雅にパンをちぎっている。
「たかだか礼が遅れたぐらいで解雇など、放っておけば良いことだ。王女に騎士団の指揮権はない。団長として次から気をつけろと指導した、で済ませられる話だ」
「なら、ロラン様は知っていて、あえて」
「ああ。それに、拒否できるならしたいだろう。ついでに嫌われたかったのかもしれん」
――あの、銀狐めえ!!
「団長も人が悪いです」
「言ったぞ? まあ、耳に入っていないだろうなとは思ったが」
「うぐ」
――はいはい、そういえば言ってましたね! それにしても私の性格、そこまで把握されちゃった!?
「良かったです! まあでも頬っぺた叩かれたのは、やり返したいですけどね」
レナートが、目を見開いた。
「……今、なんと?」
「頬っぺた叩かれました。あ! あと、それでお気に入りのティーカップ割れちゃいました! あれまだ売ってますかね?」
「……」
ごわ、とレナートの周りの空気が歪んだ気がした。
「あ、あの」
「許さん」
レナートから、熱気があふれてくる。熱気? いや、きっと殺気だこれ。さすが団長……とか言ってる場合じゃない!
「絶対許さん」
「あああの、もう大丈夫ですから!」
「他には」
「えーっとなんかギャイギャイ言ってましたけど……」
「わかった。絶対に報いを受けさせる。もう駄々っ子という段階ではないな。成人しているわけだし、罪は償ってもらう」
「罪!? おおげさな」
「おおげさではない」
食べ終わった皿をテーブルからキッチンに戻しながら、レナートはきっぱり言う。
「これが、もっと幼い子供相手だったらどうだ」
「絶対許せません……!」
「だろう。権力は振りかざすためにあるのではない。正しく行使するためにあるのだ」
レナートって、すごいなあ。かっこいいなあ。
――恥ずかしいから、本人には言えないけどね。
「じゃあ私、まだ事務官でいられるんですね!」
「もちろんだ。ずっと側にいてくれ」
「はい!」
――んん?
「ごほごほ。じゃあ。行こうか」
なんかすごいこと言われたような? ま、いっか……
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お読み頂き、ありがとうございました!
レナート、それはプロポー……ごほごほ。
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