【本編完結】ワケあり事務官?は、堅物騎士団長に徹底的に溺愛されている

卯崎瑛珠

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第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!

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 私は意を決して、言ってみた。
 
「今日。一緒に寝ても、良いですか」

 ティーカップを口に持っていく姿勢のままで、レナートが固まった。
 
「……な、ん、……?」
「一緒に寝ても、良いですか、と聞きました」

 レナートは、目をまんまるにしたあと、何度かまばたきをして、それからゆっくり紅茶を飲み下し、深呼吸をしてから口を開いた。
 
「ごほん。それは、その」
「分かっています。はしたないことだって。でも、ひとりでいるのが怖いんです。暗いと、きっと耐えられないと思います。ダメならダメって、言ってください」

 勢いで理由をまくしたてた後、答えを待つ。
 沈黙になり、静寂が続く。
 レナートは何度もカップを傾けて紅茶を飲み、眉間にしわを寄せ、天井を仰いでから――ようやく口を開いた。
 
「その……ベッドがひとつしかないんだが」
「はい」
「それでも、良いか」
「……! はい!」
「ふう。わかった」
「良いのですか」
「うむ。大丈夫だ。今、色々覚悟した」
「覚悟? って?」
「ああ。寝ぼけたキーラに蹴られても、怒らない」

 ――ぽかん。

「へっ!?」
「寝返りされて場所が狭くなっても、怒らないぞ」
「ちょ」
「よだれで枕を汚したら、一緒にアメリに謝ってやろう」
「んもう!」
「はは。さて」

 椅子から立ち上がったレナートは、をしている。
 タウンハウスは、彼にとって心安らげる場所だったはずなのに。
 私がそれを、壊してしまったのかもしれない。
 甘えるのって、難しくて苦しいね。

「キーラ。おいで」

 差し出された手を取ると、温かくて、泣きそうになる。

「不安にならなくていい。俺は嬉しい」
「嬉しいのですか?」
「そうだ。キーラ。いつだって、そうやって甘えて欲しい。何でも言って良いんだ」
「よかった、です」

 アメリさんの言ったことは、正しかった。レナートなら受け止めてくれる、と。それは事実だった。
 
 ――その夜、同じベッドで並んで横になった。

 緊張してモゾモゾしていたら、
「安心してくれ。キーラが嫌がることは、絶対にしない」
 とレナートが言ってくれて。
「心配していません。あの。手を繋いでも、良いですか?」
「……もちろんだ」
 シーツの中で繋ぐ手は、なんだか特別な気持ちになって、胸が波打つぐらいにドキドキした。
「ありがとうございます。おやすみなさい」
「おやすみ」
 
 隣で静かに聞こえる、レナートの規則正しい呼吸音。そのリズムに誘われて、だんだん眠たくなってきて。
 でもまぶたを閉じてみたら、暗闇にまたあのいやらしい声が響く――何度もビクッとなって申し訳なかった。
 けれどもその度にレナートが
「大丈夫だ」
 と言って、手をぎゅっとしてくれた。
 
 何度目かで、ようやく安心して眠った。

 
 
 ◇ ◇ ◇


 
 それから三日間。
 私はずっとレナートと一緒に寝てもらっている。
 
 次の日の夜にどうしようかと思っていたら、黙って手を差し伸べてくれて、その次の日は「仕事で遅くなるから、先に部屋で待っていてくれ。本でも読んだらいい」と言われて、三日目の夜は「キーラの枕も持っておいで」となり。

 あれ、これ、当たり前になりつつある?
 朝、アメリさんが意味深にずっと微笑んでいるのが、もう、なんか、こそばゆい!
 しかも、レナートと一緒に本部とタウンハウスの間を歩く間も、手を繋ぐ。
 むしろ繋いでないと、あれ、何か忘れてる? なんて思うくらいの馴染みっぷり。

 私、毎日、好きな人の隣で、手を繋いで寝ている。
 本当なら幸せなことなんだろうけれど、レナートからしたら、私の恐怖心がなくなるまでの治療行為なんだろうなと思って……むしろ切なくなる。

 そんなことを考えながら、歩いて本部の門が見えてくると、不穏な騒ぎが聞こえてきた。目を合わすまでもなく、私は即座に手を離し、それを合図にレナートが走り出す。
 
 私が本部に入る頃には、騎士団員たちがバタバタと走り回っていた。

「見張りは、何してやがった!」
「知らん!」
「逃げたって?」
「どこへ!?」
「わからねえ」
「とにかく手配だっ」

 ――逃げた?

「団長命令だ! アーチーを即座に手配! 巡回の団員にも、通達を!」

 酒が抜けてから聴取しようとしていたアーチーが、逃げた……?

 レナートが颯爽と歩きながら指示を飛ばすのを見ながら、私は愕然とした。
 けれども仕事はしなければと、無理矢理足を動かす。

 団長室へと向かう道すがら、ルイスとボイドが向かい側の離れた廊下で話しているのが見えた。
 あの二人が話しているのを初めて見たな、と何気なく見ていると、ボイドは下卑た笑いで身体をゆらゆら。対するルイスは、しかめっ面で腕を組んでいる。
 仲良くは無さそうだけれど、どこかその距離感には、馴れ馴れしさを感じた。
 しかも、ボイドが一瞬出したハンドサイン。

 ――あれは、『勝ち』だ。
 
 漁師たちが賭け事をする時に、奥さんや恋人にそうと知られないようにする仕草(賭け事なんて! て叱られるから)。『お金』の意味もあるそれは、人差し指と親指の腹を二、三回くっつける。賭け事をしない者は、知らないだろう。
 

 何に勝った? もしくは、何のお金?


 ボイドがいやらしい笑いで手を振り、ルイスは無表情できびすを返し、去って行く。
 

 寒気が止まらない。
 ――私はこれを、誰に言うべきなのだろう。または、言わないべきなのだろう。
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