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第三章 疑惑!? 騒動! 解決!!
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しおりを挟む長い長い夜の打合せの後で。
いつも通りレナートが優しい顔でベッドへと誘う。
――なんて言ったらすごく素敵な感じだけど実際は……
「疲れただろう。今日ぐらいは一人で寝るか?」
「いいえ。レナート様は、一人で寝たいですか?」
「……いや。なんだかキーラと寝るのに慣れてしまった」
「私もです」
ただ手をつないで、目をつぶって、シーツの中でレナートの温もりを感じるだけ。
もう少しくっつきたい。ぎゅってして欲しい。――なんて言ったら、困らせるだろうか?
「どうした?」
私の、好きな人。初めて好きになった人。できれば、このまま。
「なんでもないです」
「……おやすみ」
「おやすみなさい」
ずっと、このままで、いたかった。
――その他には、なんにも、いらなかったのに。
◇ ◇ ◇
明日にはブルザーク帝国の一行が王都入りするという日の朝。
思っていた通りに、事件は起きた。
「あの……! マントがなくなっています……!」
当直の騎士団員二名が顔面蒼白で、団長室に駆け込んできた。
メレランド騎士団全員、新調したマントを身に着けて街道に並び、歓迎の意をと思って備品庫に用意していたはず。
「なんだと!」
レナートが厳しい表情で立ち上がると、彼らは頑強な体を精一杯縮こませて、頭を垂れる。
「本日お配りすると聞いたので、用意しようと備品庫に行ったら!」
「木箱の中身が、ないのです!」
そのマントは、メレランド騎士団の紋章が入ったもので、おいそれと他の物に変えられる物ではない。
「鞘は」
同様に、鞘も新品に変更する予定(こちらは国王の依頼)で、備品庫に保管してあった。
「「あります!」」
「分かった。で、誰が用意しろと指示を出した?」
「「ルイス隊長です」」
「そうか」
「あの!」
「俺たち、どうしたら!」
「えっと、ブルーノさん」
「!」
「ダリルさん」
「おうっ」
「お二人の他に昨日か今日、備品庫に入った方、ご存じでしょうか?」
私が聞くと、二人は顔を見合わせる。
「誰か見たか?」
「いいや」
「分かりました。ありがとうございます!」
「え、キーラちゃん?」
「これ、事件なんじゃ?」
「お二人は一番隊所属でしたね」
「「うん」」
「ルイス隊長から、王宮へ報告が行っていると思いますので、持ち場に戻って大丈夫です!」
二人ともこげ茶の髭をたくましく生やした、頑強な騎士。それがキョトンとしていて、なんだか可愛い。
「そう?」
「うん?」
「任務ご苦労」
「「はあ」」
顔に疑問を貼り付けたまま、二人が退室する。
「思った通りだな」
「ええ」
私は、鍵のかかる書庫の扉を開錠するために、立ち上がる。
絶対に蹴破れない頑丈な扉には、ロランが手配した魔道具の鍵が付けられていた。
五箇所の錠は、二種類の鍵(しかも最後のは同時に回し入れる)でないと開かない、念の入れよう。
「団長、鍵は」
「ここに」
レナートが、自分の胸をそっと叩く。
私とレナートで、それぞれネックレスにした鍵を持つようにした。つまり、二人そろわないと開けられない。
「まさかここにマントがあるとは思わないだろうな」
「移動させておいて正解でしたね」
団長と副団長が備品を運ぶ姿は、なかなか圧巻だった。
そうと分からないように、少しずつ分けて、上には書類をたくさん入れて。
備品庫の木箱には、職人が『見本で』何枚か作ってくれた物を一番上にして、同じ色の布を入れておいた。
「あの役人もどき、来ますかね」
「ふは。もどきとはな。一応本物だぞ? まあ、来るだろう」
「じゃ、備えましょう」
私はついでに、書類の束をよいしょ、と出した。
「嫌がらせには、嫌がらせで返したいですよね~」
「手加減なしで良い」
「団長許可! ありがとうございます!」
見上げるとそこに、ふわりと微笑むレナート。
それだけで、力が湧いてくる気がする。
「大丈夫だ。側にいる」
ずっと側にいてくれ――そう言ってくれた。
「はい!」
……ずっと、側に、いたかった――
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