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第四章 別離?? 決意!? 溺愛!!
番外編2 女子トークってやつを、してみた結果
しおりを挟む皇城の書記官執務室。
コの字に並べられた机は、部屋に入って左壁沿いにロラン、正面サシャ、右壁沿いに私。
手前の応接テーブルとソファの上にも書類がうずたかく積まれていて、お茶は各自の机で飲むようになった。
「ねーサシャくん」
「なななんでふか」
「なんで皇城って女性が皆無なの!?」
「こここ皇帝陛下に、いい言い寄ってしまうからですねえ」
「なるほど……ラース兄様って、キリッとしててカッコイイもんね。それで皇帝ってなったら、そりゃそうか」
「いちいち相手してられないね、そんなの」
「そう言うロランも、凄かったて聞いたけどねー」
「キーラ!?」
「キャーキャー言われてたんでしょ? ルイスさんが副団長への差し入れの仕分け業務してたって苦笑いしてた」
「ルイスめっ。サシャ、僕は君ひとすじだからね!」
「……はひゃいっあああの、こここれ出してくるです!」
サシャの動きに、ロランが眉を寄せる。
「急ぎのなんてあった?」
「ぷぴょっ、いいいってきまーす!」
首を捻るロランと、ぽかんの私のことを置いて、サシャは色々なところにぶつかりつつ、早歩きで行ってしまった。
「なんだ?」
「なんだろうね?」
顔を見合せて同時に首を傾げる、残された二人だった。
◇ ◇ ◇
「あー……そりゃ、後ろめたいんだろ」
「後ろめたい!?」
「俺も過去の遊びは後ろめたいもんな」
「むう!」
「肩に力が入りすぎだ。もっとエスコートを信じろ」
目の前で笑うのは、ディートヘルムという。
陸軍大将アレクセイの一人息子で、現在は帝国学校を卒業して陸軍曹長として皇城に配属になった、将来の幹部候補生だ。
恵まれた体躯、短く刈り込んだ輝く金髪に碧眼。マクシムが誠実そうなら、こちらはずばり『女性の扱いに慣れていそう』だ。
「ディートを信じる……?」
「まだ無理か」
「無理」
「人妻に手は出さねえよ」
「そういうとこ!」
「はは。あ、今のステップは違う」
「ぐぐぐ」
「休憩すっか」
身体を離して、壁際に置かれた椅子にさりげなくエスコートしてくれるこの美丈夫は、名門ツルハ家ということもあり、夜会では引くほど女性が群がるらしい。が、「忘れられない人がいる」とことごとく全ての縁談を断っている。
そんなディートヘルムと何をしているかというと
「ドレスは決まったのか?」
「採寸中だよー」
「そうか。まさか陛下が祝わせてくださるなんてな」
ブルザーク帝国皇帝であるキーラの腹違いの兄、ラドスラフの誕生日パーティに備えて、ダンスの特訓だ。
同い年というこのディートヘルムに白羽の矢が立ったのは、レナートが近衛師団長に就任して激務であることと、年が近い方が打ち解けるだろうとの配慮からだった。
しかも――
「あの鼻たれキーラが人妻だもんなあ」
と、昔の私を知っているらしい。
「ラースの後ろに隠れて、いつも恥ずかしがっててさ。俺がお前の初恋相手だったんだぜ? 思い出せよ」
「わすれたのー!」
「わはは」
かつて皇子だったラドスラフを暗殺の脅威から匿っていたツルハ邸に私も居た時期があるのだとか。
「サシャとお茶会でもしてみたらいーんじゃね? 女って好きだろ、そういうの」
「サシャ君は違うし」
「……あー、と、その、なんつうかほら、本音ぶっちゃける会みたいな?」
陸軍大将の息子なのに、この口の悪さ!
「なるほど!」
「サシャってあんなんだからさ、遠慮して喋れねんじゃねーの? 旦那もずっと側にいるだろ。気分転換させてやれば」
でも意外と優しい。みんなこのギャップにやられるのかなあ。
「お? 惚れたか?」
「……ディートの忘れられない人って、誰?」
「手の届かない人だ。その人には、とても愛している婚約者がいる」
「そっかぁ」
「結婚式に行くつもりだ。それを見たら、心に区切りがつけられる」
「それは……辛くない?」
「そうだなあ。でも、幸せになったところを見たいんだ」
――めちゃくちゃ好きなんだね。
「ディートって、良い奴だね!」
「お、じゃあダンスもうまくできるな」
「うげー! 撤回!」
そうして厳しいダンス練習が続くのは、仕方がない。
それからしばらく、ディートヘルムの話ばかりしていたら、レナートが拗ねたのはまた別の話。
◇ ◇ ◇
「ねー、サシャくん、お茶しない?」
「ぴ!?」
「いいね!」
「ロランはダメ」
「えっ」
「私が、サシャくんと二人でしたいの。いい?」
「うぐ。サシャが良いなら……」
「はははい、ぼぼ僕はいーでしゅよ」
しゅんとする銀狐に、一人ではなかなか厳しい量の書類を押し付けて(万が一にもこっそり追いかけて来ないように)、皇城の庭にあるガゼボに誘う。歩いている途中でレナートに会い、遠巻きの護衛を二人付けられたけれど、この距離なら話し声は聞こえないだろう。
「涼しいね」
「……」
帝国に来て一年半。
日々は目まぐるしく、あっという間に過ぎるし、気づけば季節も変わってしまっている。
「あああの」
侍女たちには予め用意をお願いしてあったので、テーブルの上にはサンドイッチや焼き菓子とティーセットが並んでいた。対面で腰掛け、それぞれのカップにお茶を注ぎ入れる。
「うん?」
「どどどどうし……」
「サシャくん、一日中ロランと一緒でしょ? たまには離れて、愚痴とかノロケとか言う時間あってもいいかなって。もちろん、サシャくんから聞いたことは内緒にするよ!」
「……ききキーラしゃん……ありがとでしゅ……ぼ、ぼく」
真剣なサシャの様子に、淹れたばかりの紅茶の香りを楽しむ余裕はない。
「ぼ、ぼく……こ、こここわいです」
「こわい?」
「し、幸せすぎて」
「へ?」
予想と全然違った言葉に、思わず面食らった。
「今まで、僕は、どちらかというと嫌悪されてきました。もちろん、家族たちは優しかったけど、どこか違う人間みたいな扱いでした……こんなだから。唯一陛下だけが、この脳みそを最大限帝国のために使うなら、辛さや苦しみを忘れる毎日を報酬としてくれてやる、と仰って。それだけでも幸せだったのに」
流暢な言葉が、サシャじゃないところから出てくるみたい。
「女性たちには気持ち悪いと言われたし、出会う軍の人たちや役人たちも、陛下の庇護なしには接することができないくらいの酷い対応でした。キーラちゃんも知っての通り、この国は男尊女卑文化が根強い。男は強くなければならない。なのに僕は女より弱い男で、最底辺の扱いでした」
「そんなっ」
にこり、とサシャは微笑む。
「それでも、良かったんです。陛下が居場所をくれたから。そして、好きな人を遠目に見ているだけで、この命がいつか尽きれば良かった……まさか」
ぼ、とサシャの顔から首までが真っ赤に染まる。
「愛される日が来るだなんて。未だに夢かワナかなって思います」
「サシャくん……」
「ぼ、僕には過去に好きだった人たちや、初めてキスをした人もいます。もしそれをロランが知ったら、この幸せが壊れてしまうのかもって、不安に思っ……」
ぎゅ、と大きな丸眼鏡の中でつぶられる目には、涙が滲んでいる。
「ね、サシャくんとロランって、喧嘩しないの?」
聞いてみたら、ぱちぱちと潤んだ目を瞬き、サシャは首を傾げた。
「し、しししないでふ……」
「してみたら良いのよ!」
「ぴ!?」
「怖いの?」
こくこく、とサシャが無言で頷く。
「でもさー、私思うんだけど、死ぬまで毎日って続いていくじゃない?」
「そそそでふね」
「話し合いや喧嘩のできない人と、年取ってもずーっと一緒にって、居られるのかな?」
「!」
私は、木苺のパイを一切れかじる。
「そりゃあできるだけ言い合いとかしたくないけど、私は、レナートに全部ぶつけてるよ!」
「はわわわ! きき気まずくならないでしゅか!?」
「そりゃーなるよー!」
レナートの眉間のしわが、すごいことになるもんね!
「でもさ、仲直りできるっていうのも、お互い好きってことじゃない? 私、そういう時のレナートも好きなんだー。えへへ」
それはもう、たーっぷりと甘やかしてくれるのだ。
「ふあああ……ぼ、ぼくはいつも、い、言えなくて……」
銀狐に押し切られるサシャが、想像ついてしまった。ロランの悪いところだ。
「うーん……あ! 良いこと思い付いた」
「?」
「言いづらいなら、手紙は?」
「!」
「で、お返事もらうの」
ぱあああ、と顔全体が明るくなった。
「そそそそれならば!」
「何書くの?」
「えとえと……えへへへ」
――後日。
「キーラ、僕幸せ過ぎてダメかもしれない」
執務室に出勤する道を二人で歩いている時、ロランに盛大にノロケられた。
「未だに僕の顔が好みすぎて緊張して、直視できないのごめんねとかさあ!」
「ぶは」
「なんなの!? あの生き物! 可愛すぎない!?」
「……で、なんて返事するの?」
「そんな時は、後ろから抱きしめさせてね、かな」
――ふむふむ、レナートに後ろからハグされるのも、良いなあ。
「ファーストキスの相手がアレクセイ閣下とか、昔夢中になってた麗しの蒼弓とか、どうでも良くなっちゃったな~」
――あ、やっぱり気にしてたんだ。特に『麗しの蒼弓』と呼ばれる、隣国の見目うるわしい騎士団長のことを、サシャくんはずーっと好きだったらしいもんね。今は既婚者らしいけど。
「良かったね」
「うん。陛下の誕生日パーティに来るらしいんだよ、麗しの蒼弓と、あと陛下が失恋したって噂の公爵令嬢」
「へ、へえ」
「楽しみだな」
――なるほど、書記官としていち早くその情報を知ってたから、サシャくんは憂鬱だったのかあ……そういうの、これからは向こうから打ち明けてくれるような、そんな仲になりたいなあ。
その誕生日パーティで会った、隣国の招待客たちがあまりにも豪華過ぎて(公爵令嬢とか伯爵家の騎士とか、貴族だらけで緊張しすぎた!)、目眩を起こして大変だったのは、私の笑い話。あ、公爵令嬢さん、めちゃくちゃ良い人だった! 仲良くなれて、結婚式に呼んでくれたよ、嬉しいな。
皇帝の妹って大変だけれど、本当に充実している毎日です。
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お読み頂き、ありがとうございました。
幸せな後日談を書くと、私も幸せな気分になれるのです。
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