ペット霊探偵に、なっちゃった!

卯崎瑛珠

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一話 子犬とヘアピン

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 いきなり話しかけられて驚いた私は、何も答えることができず、かろうじて首を横に振ってから校門へ向かった。

「おかしいなぁ」

 失礼な態度を取ったのに、その男子はのんびりとそう言うだけ。
 だから余計に(悪いことしちゃったな)と思いながら、歩く。
 
「気のせいかぁ。でもなあ、確かに……うーん?」

 けれども男子は、背後で大きなひとりごとを言いながらついてくるから、だんだんイライラしてきた。
 
「いたと思ったんだけどなぁ」
「(生きている犬は)いないってば!」
「おわ!」

 しまった、思わず。
 と思ったけれど、もう遅い。

「あはは! 悪い悪い。ところでさ、どこ行くの?」
「え」

 下を向いてずんずん歩いているうちに、校舎の中に入っていたのはいいけれど、職員室がどこにあるか分からない。

「てか君、何年何組? 俺はねえ、五年一組!」

 俯いたままの私は、顔が上げられない。黄色帽で目を隠したまま、かろうじて「……五年」だけ言えた。
 
「おー? 同じ学年? でも、見たことないな……ってことは、転校生か! んじゃ職員室行かなきゃ? こっち、ついてこいよ」

 足が止まったままの私に、彼は明るい声で言う。

「俺、ソウ。橋本ソウ。よろしくな!」
「……」
「大丈夫だって、ここ学校内だからさ。変なとこなんか連れて行かないよ」

 私が黙っているのを、怖がっているのだと勘違いされたみたい。
 でも違う。
 どうせ仲良くなっても、気味悪いって離れていくのに、て思っているだけ。

「遅刻しちゃうしさ。こっち、こっち」

 進行方向へ向かって二、三歩駆け出してからこちらを振り返ったソウは、ようやく目を上げた私に、爽やか笑顔を向けている。
 ますます胸が痛くなってくるけれど、職員室には行かなくちゃ。
 ――私はまた俯いて、足だけ踏み出した。

   ◇◇◇

 担任の先生は、男の先生で、池沢と名乗った。
 眼鏡をかけているけれど、少しだけフレームが傾いている。耳の高さが違うのか、歪んでいるのかは、分からない。
 後頭部のつむじのところに寝癖がついていて、半袖ポロシャツにチノパン。
 人の良さそうな見た目だけれど、私は絶対に油断しないと心に決めている。

浜崎はまさきミオさん。隣の学区から転校してきたなら、道とかは困らないかもしれないけど。授業の進み具合とか、違うところもいっぱいあると思うから、何かあったらいつでも僕に相談してください」

 廊下を歩きながら言われたけれど、私はまともな返事すらできない。
 相談したら、親に電話するでしょう? そして、児童心理カウンセラーを紹介して、おしまい。
 ママは鬱陶しそうに聞いて、一応電話予約取ろうとして「半年後? そんな先の予定なんか、わかるわけないでしょ!」ってキレておしまい。
 誰も、私の話なんてちゃんと聞かないの、知っているから。

「浜崎さん?」

 池沢先生が立ち止まって、目の前の教室へ入るように促した。
 
「ここが、五年一組です。中から呼ぶまで、ちょっとここで待っていてね」

 前の扉を横にスライドさせて、先生は教室の中へと入ってしまった。
 いつの間にか、廊下から生徒はいなくなっていて、みんな教室の中へ入ったんだと気づく。
 
 ポツンと、廊下に一人。

 先生が朝のホームルームを始める声が聞こえてきて、「おはようございます!」と無駄に声を張る男子の声が鳴り響いた。
 他の教室からも、同じように。

(やだな)

 やんちゃな男子も、気の強い女子も、好きじゃない。
 前の学校で言われた、された、たくさんの嫌なことを思い出してしまった。ランドセルの上からさらに重いものが乗せられているみたいに、体が重くなる。

「浜崎さん。さあ、どうぞ」

 中から呼ばれたことに気づかなかったようで、池沢先生が教壇から降りて迎えにきてくれた。
 膝が震えるけれど、仕方がない。私は諦めて、教室の中へ入った。

「……よろしく……します」

 かろうじて一言だけ発して、あとはずっと俯いていたら、先生が窓際一番後ろの席へ顔を向ける。

「あそこが席だよ」

 横に六列、縦に五列。

(ひとクラス三十人、か)

 前の学校は二十人だった。こちらの学校の方が規模が大きいのは、近くに大きな駅とマンションがあるからだろう。
 生徒数が多い分、目立たないようにしていたら大丈夫かも、という淡い期待は――

「浜崎って言うんだな! よろしく!」

 ホームルームが終わった瞬間、偶然隣の席になったソウが大きな声で言って、無駄に終わった。
 なぜなら。
 
「ソウと知り合いなの?」
「いんや、朝偶然会っただけ」
「おいおい。それ、ナンパってやつじゃね?」
「ちょっとケンシン! ソウがそんなことするわけないじゃん」
「おぉ~、ヒナがオコだぞ~」

 と、クラスメイトたちに注目されてしまったから。

 私は無言で、一時間目の時間割を見てから、国語の教科書を出す。教材は同じだと聞いていたから、ノートとペンケースも。

「何、無視? すっげ感じわる」

 ケンシンと呼ばれたやんちゃそうな男子が、斜め前の席から絡んでくるけれど、私は黙々と準備をする。
 無視も何も、私は話しかけられていない。
 けどこういう男子って、反応してもらわないと無視って言って大袈裟に騒ぐ。

(やっぱり、どこに行っても同じなんだ)

「まあ、まあ。知らない学校って緊張するしさ」
 
 ソウも優しくしているつもりかもしれないけれど、私の考えは聞かず、勝手に判断して言っているだけ。

 ――早めに分かって、良かった。どこに行っても、一緒。
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