2 / 15
一話 子犬とヘアピン
2
しおりを挟むいきなり話しかけられて驚いた私は、何も答えることができず、かろうじて首を横に振ってから校門へ向かった。
「おかしいなぁ」
失礼な態度を取ったのに、その男子はのんびりとそう言うだけ。
だから余計に(悪いことしちゃったな)と思いながら、歩く。
「気のせいかぁ。でもなあ、確かに……うーん?」
けれども男子は、背後で大きなひとりごとを言いながらついてくるから、だんだんイライラしてきた。
「いたと思ったんだけどなぁ」
「(生きている犬は)いないってば!」
「おわ!」
しまった、思わず。
と思ったけれど、もう遅い。
「あはは! 悪い悪い。ところでさ、どこ行くの?」
「え」
下を向いてずんずん歩いているうちに、校舎の中に入っていたのはいいけれど、職員室がどこにあるか分からない。
「てか君、何年何組? 俺はねえ、五年一組!」
俯いたままの私は、顔が上げられない。黄色帽で目を隠したまま、かろうじて「……五年」だけ言えた。
「おー? 同じ学年? でも、見たことないな……ってことは、転校生か! んじゃ職員室行かなきゃ? こっち、ついてこいよ」
足が止まったままの私に、彼は明るい声で言う。
「俺、ソウ。橋本ソウ。よろしくな!」
「……」
「大丈夫だって、ここ学校内だからさ。変なとこなんか連れて行かないよ」
私が黙っているのを、怖がっているのだと勘違いされたみたい。
でも違う。
どうせ仲良くなっても、気味悪いって離れていくのに、て思っているだけ。
「遅刻しちゃうしさ。こっち、こっち」
進行方向へ向かって二、三歩駆け出してからこちらを振り返ったソウは、ようやく目を上げた私に、爽やか笑顔を向けている。
ますます胸が痛くなってくるけれど、職員室には行かなくちゃ。
――私はまた俯いて、足だけ踏み出した。
◇◇◇
担任の先生は、男の先生で、池沢と名乗った。
眼鏡をかけているけれど、少しだけフレームが傾いている。耳の高さが違うのか、歪んでいるのかは、分からない。
後頭部のつむじのところに寝癖がついていて、半袖ポロシャツにチノパン。
人の良さそうな見た目だけれど、私は絶対に油断しないと心に決めている。
「浜崎ミオさん。隣の学区から転校してきたなら、道とかは困らないかもしれないけど。授業の進み具合とか、違うところもいっぱいあると思うから、何かあったらいつでも僕に相談してください」
廊下を歩きながら言われたけれど、私はまともな返事すらできない。
相談したら、親に電話するでしょう? そして、児童心理カウンセラーを紹介して、おしまい。
ママは鬱陶しそうに聞いて、一応電話予約取ろうとして「半年後? そんな先の予定なんか、わかるわけないでしょ!」ってキレておしまい。
誰も、私の話なんてちゃんと聞かないの、知っているから。
「浜崎さん?」
池沢先生が立ち止まって、目の前の教室へ入るように促した。
「ここが、五年一組です。中から呼ぶまで、ちょっとここで待っていてね」
前の扉を横にスライドさせて、先生は教室の中へと入ってしまった。
いつの間にか、廊下から生徒はいなくなっていて、みんな教室の中へ入ったんだと気づく。
ポツンと、廊下に一人。
先生が朝のホームルームを始める声が聞こえてきて、「おはようございます!」と無駄に声を張る男子の声が鳴り響いた。
他の教室からも、同じように。
(やだな)
やんちゃな男子も、気の強い女子も、好きじゃない。
前の学校で言われた、された、たくさんの嫌なことを思い出してしまった。ランドセルの上からさらに重いものが乗せられているみたいに、体が重くなる。
「浜崎さん。さあ、どうぞ」
中から呼ばれたことに気づかなかったようで、池沢先生が教壇から降りて迎えにきてくれた。
膝が震えるけれど、仕方がない。私は諦めて、教室の中へ入った。
「……よろしく……します」
かろうじて一言だけ発して、あとはずっと俯いていたら、先生が窓際一番後ろの席へ顔を向ける。
「あそこが席だよ」
横に六列、縦に五列。
(ひとクラス三十人、か)
前の学校は二十人だった。こちらの学校の方が規模が大きいのは、近くに大きな駅とマンションがあるからだろう。
生徒数が多い分、目立たないようにしていたら大丈夫かも、という淡い期待は――
「浜崎って言うんだな! よろしく!」
ホームルームが終わった瞬間、偶然隣の席になったソウが大きな声で言って、無駄に終わった。
なぜなら。
「ソウと知り合いなの?」
「いんや、朝偶然会っただけ」
「おいおい。それ、ナンパってやつじゃね?」
「ちょっとケンシン! ソウがそんなことするわけないじゃん」
「おぉ~、ヒナがオコだぞ~」
と、クラスメイトたちに注目されてしまったから。
私は無言で、一時間目の時間割を見てから、国語の教科書を出す。教材は同じだと聞いていたから、ノートとペンケースも。
「何、無視? すっげ感じわる」
ケンシンと呼ばれたやんちゃそうな男子が、斜め前の席から絡んでくるけれど、私は黙々と準備をする。
無視も何も、私は話しかけられていない。
けどこういう男子って、反応してもらわないと無視って言って大袈裟に騒ぐ。
(やっぱり、どこに行っても同じなんだ)
「まあ、まあ。知らない学校って緊張するしさ」
ソウも優しくしているつもりかもしれないけれど、私の考えは聞かず、勝手に判断して言っているだけ。
――早めに分かって、良かった。どこに行っても、一緒。
87
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
【奨励賞】おとぎの店の白雪姫
ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】
母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。
ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし!
そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。
小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり!
他のサイトにも掲載しています。
表紙イラストは今市阿寒様です。
絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
【3章】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。
瑠璃の姫君と鉄黒の騎士
石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。
そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。
突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。
大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。
記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
オバケの謎解きスタンプラリー
綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます!
――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。
小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。
結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。
だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。
知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。
苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。
いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。
「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」
結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか?
そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか?
思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる