死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ー育児者ー

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 俺の名前は…なんだっただろう。
 あぁ、タナトスか。
 たしか地上が平和だった頃の伝説に出てきた死神の名前だとか。
 俺は生まれた時からの〈死神〉。
 今までに何人の人を殺しただろう。
 ………全員覚えている。
 184、184人だ。
 184もの人を俺が適当に選んで殺した。ただ俺の家の前を通った高齢者の中から適当に選んで。
 そんな考えを何度繰り返しただろう。
 このシェルターで1年に生まれる子供は約15人。俺が5歳の時から選抜して184人……。
 そうか、もう17才だったのか。
 そんな事も思い出せない……。全員のナンバーと顔は忘れられないというのに…。
 すると、俺の家の扉が叩かれた。
「……誰だ。」
「スケールから召集がかかりました。」
「すぐ行く。」



 このシェルターを管理している組織〈スケール〉。
 俺はスケールの〈解放政策最高責任者〉として席を置いている。

「タナトス。いつもすまないね。」
「お疲れ様。ゆっくりと休んでくれ。」
「大したことはできないが、何かあれば言ってくれよ。」
 スケール管理棟では俺とすれ違う誰もがそう言う。
 そう、ここでは俺の辛さを理解して……。
 いいや、みんな安心と同情の目だ。
 知っているはずなのに、いつも騙されそうになる。
「そんな慰めはいい。早く集まれ、さっさと終わらせたい。」



「では今からスケール第1256回報告会議を始める。」
 と、シェルター及びスケール最高責任者のジジイがいつもの七面倒な前振りをした。
 この会議ではシェルターの問題や活動の報告をする。
 まぁ、大抵が問題だけだが…。
 会議室は薄暗く、中央に置かれた細長い机を囲むように俺のような最高責任者、通称〈権利持ち〉が座る。
 そしてその後ろにはその権利持ちの付き人が立つのだが、身長や立ち位置によっては灯りが当たらず、姿が影に隠れていた。
 この場で最も位の高いジジイは会議室の一番奥に座り、俺はその隣に座っていた。



「では次、タナトス。」
 気付けば俺が報告する順番だった。

 たまにこういうことがある。
 自分を思い出すように、自分を忘れないように、自分の名前から過去の記憶を振り返る。
 そんな事をしているといつの間にか数時間。酷い時は2日、3日過ぎている。
 だからといってなんだという話だがな。

「今日4586番に解放命令を出した。家族の1人は抵抗したが本人は抵抗せず。場所や時間はいつも通り。一応伝えたには伝えたが、想定外の事が起きたため、念のためにもう一度伝えておいてくれ。後は解放門の鍵が少し錆付いていた。削るなり溶かすなり変えるなりやっておいてくれ。以上。」
 会議室がざわついた。
 どうせ人を殺したのになぜ落ち着いていられるんだ、とか考えているのだろう。
 するとジジイが手を叩いた。
「では最後に報告がある。本日育児権の1つが移動した。新しい育児者だ。」

 育児者、それはこのシェルターで新しく生まれた子供の育児を手伝う者。
 このシェルターでは、一年に生まれる子供が異常に少ない。そのため育児による悩みや質問を相談する相手がいない。
 その相談相手になるのが育児者だ。
 大まかに言えば俺と反対の立場になる。

 そして影から出てきた1人の少女。
 その少女を見て、誰もが言葉を失った。
「初めまして……じゃない人もいるかもですが。育児者に選ばれたマリアと言います。よろしくお願いします。」

 夕陽だ…。
 閲覧制限古書に乗っていた黄金色に輝く夕陽。
 その黄金色に輝く髪と瞳、そして美しい笑顔。
 この少女を天使だと言えば誰もが信じ、この少女を悪魔だと言っても誰も信じないだろう。
 年は……俺より1つ2つ下か?
 まあ俺が見惚れたところで何かあるわけではないが。
 むしろ一つの命を育てる彼女が俺の仕事を知れば軽蔑し、同情し、安堵するだろう。
 死神は死神らしく生きなければいけない。

「以上、スケール第1256回報告会議を終了する。解散。」
 さっさと帰ろう。
 俺は会議室を出て、薄暗い廊下を歩いて行く。
 次に生まれる子供は3ヶ月後。
「当分仕事はない……か?」
 服の裾が引っ張られた。
 また嫌がらせか。
 スケールでやるとは、なかなかの度胸だ、な。
 振り返ると、そこには彼女がいた。美しいとしか言えない黄金の髪を揺らした彼女。
 たしか………マリアか。追いかけてまで悪口を言いに来るとは。よほど嫌われてるな。
「あ、あの。タナトスさん!」
「……何だ?」
「す、少しいいでしょうか?」
 マリアは涙目だった。
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