死神と呼ばれた俺は聖母と呼ばれた彼女に恋をした。

尾高 太陽

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~始まりの異変~

ー序列ー

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 どうすればいいり
 そう自分に問いかけた。
 あのサイズの頭にナイフを刺したところで脳まで届かないだろう。
 かと言って頭を切断するだけの力も道具もない。
 どうすれば……。
 すると誰かが俺の肩を強く掴んだ。
 振り返ると、そこにはベルセルクがいた。
 おそらくベルセルクだけ先に戻ってきたのだろう。
 ベルセルクはハァハァと肩で呼吸していたが、その目は疲れなど一切を感じさせなかった。
 〈何故〉や〈何のために〉などと言う言葉は省略し、本題を口にする。「どうするつもりだ。」と。
 ベルセルクは呼吸を整えると、真面目な表情で蛇を真っ直ぐと見る。
 そして………「分かりません」と言い放った。
 こいつは何をしにきた。
「いやいやいや!無理ですよ!自分がマイケルに聞いた蛇は大きくても2メートル少しですよ!?何ですかアレ!アレ一頭で何人分の肉が取れると思っているんですか!!」
 アレは食えるのか?
 いや、残留害物質に汚染されているからどちらにせよ無理か。
 そんな事を言っていると蛇を誘い込んでいた男の1人が料理用の包丁を胴体へと振り下ろした。
 その刃は、数センチだけだがギィと音を立てて胴体へと突き刺さる。
 しかし蛇は何もなかったかのように他の男を目で追いかけており。男は不思議に思ったのか包丁を抜いた。
 たしかに包丁の刺さった跡はあったが、それは肉にまで達しておらず、寧ろ包丁の刃先が欠けている。
 無理だ。脳に届く届かないの話ではなく…あの鱗を通れない。
 たとえ通れたとしても中には、あの巨体を支える分厚い筋肉と骨がある。
 ましてや脳を守る頭蓋骨、人間の頭蓋骨ですら簡単には貫けないのに、あの巨体な頭を守る骨をどうやって貫く。
 そんなことを考えていると、呼吸を整えたベルセルクが「タナトス様は」と静かな声を出した。
「タナトス様は少し考え過ぎな所があります。何もかもが情報どうりでは無く。たまには〈試してみる〉というのも1つの手だと思いますよ?」
 試す……試す?
 何に、どうやって、いやそれ以前に…何を?
「訳の分からない事を言うな。」
 するとベルセルクはやれやれと言うように小さく笑い、懐から小さなナイフを取り出した。
「では、自分が〈試して〉きます。」
 そう言ってベルセルクは蛇へと向かって走り出す。
 やめておけ、と言ってもあの様子ではやめなさそうだ。
 それにさっきから蛇は1人も殺していない。
 数十人に囲まれて困惑、混乱しているのか、元から俺達の事を獲物として見ていないのか。
 仮にもベルセルクは付き人だ、護衛の訓練で並よりも強い攻撃が出来るだろう。
 するとベルセルクについて行くように、さっきから黙って見ていたヘーパイストスが金槌を手に蛇へと走って。
「グェ!」
 行こうとしたのを襟首をつかんで阻止した。
「な、なにを!」
 なにを、だと?
「あまり興奮するな。いいか?ベルセルクのような付き人ならまだしも、俺達のような権利持ちがやすやすと命をかけるな。それでも死にたいと言うのなら、製作者最高責任者の機密情報を記してから行け。」
 するとヘーパイストスは俺を睨みつけた。
「命に序列をつけるな。」
 その声は探索前の明るい雰囲気ではなく、まるで威嚇しているかのような威圧感のある声。
 だがそんな威圧は慣れている。
 街へ出れば恐怖と敵意の視線ばかりだからな。
「そんな事はわかっている。しかしお前がこのシェルターの重要人物なのは確か。それにもし命に序列を付けたくないのなら………。何故戦える、何故走れる、何故立てる、何故…生きている。」
 するとヘーパイストスは俺の顔を見つめたまま顔を暗くした。
「な、にを…」
 分かっているんだろう。
 だがスケールの重要人物達は、言わない、言えない、言いたくない。
 それを今、ここで、お前に言ってやる。
「二ヶ月前に死んだ4619番。その死因は……餓死だ。」
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