同棲契約

森川圭介

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#1同棲契約

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受付でチェックインし、部屋に向かった。予約していた部屋は結構綺麗だ。
家とは違って広めのベッドに大きなソファとテレビがある。
第一女の二人暮らしになるとこんなに綺麗に保てない。
どちらかが絶対にだらしなくて、変な時間におやつを食べ出す。
お風呂も寝る時間も好きにしていて、机の上にはいつも何か乗ってる。
やっと一人でゆっくり出来る。暫くするとお湯が沸いたアナウンスが流れた。
空色は悪く大粒の雨が降っている。その時チャイムが鳴り響いた。
ルームサービスにしては時間が遅すぎる。
開けるとそこには高畑君がいた。
「あれ、高畑君どうしたの」
「どうしたの、じゃないっすよ。こんな姿なんで中に入れてもらえますか。」
シャツはびしょ濡れだった。すっかり髪も濡れている。
「大変。ちょっと待って。」
そういえば独身アラサーの部屋にはトランクから出した雑誌や化粧が散乱している。それに、下着も置いたまま。
「ごめん。タオル貸すからちょっと待って。」
彼は扉に手をかけるとぐいっと開けた。
「何か僕に見せられないようなやましいこととかあるんですか。」
部屋がぐちゃぐちゃでとても見せられたもんじゃない。
でも、寒いし雨がやむ気配もない。凄くかわいそうだからしょうがない、クローゼットに全部入れておこう。
「じゃあ足拭くタオル持ってくる。ちょっと待ってて。」
玄関にあげると彼は少し不機嫌な様子だった。
「こんな簡単に男を部屋に上げていいんですか。もう少し用心してくださいね。世の中には悪い男がいくらでもいるんですから。」
私のことを心配してくれている。どういう意図で言ったのかはわからない。
「簡単にじゃないよ。高畑君だからだよ。しかも、こんなにすごい雨だし。こっちへどうぞ」
「うわー傷付く。僕は恋愛対象じゃないみたい」
部屋に入れるとココアを出してあげた。
「ありがとうございます。温まります。」
無邪気に笑う顔はまだ子供だ。彼は部屋を見渡した。
「夕食は食べた?」
私はつけっぱなしの火元を見に行った。
「まだです。ちょっと散歩してたら雨に降られちゃって」
火を消すと部屋に帰った。
「高畑君の部屋は」
「この二つ上の階です。ビールとおつまみなら買ってきました。」
「ここで食べる?」
「いいんですか」
私達はテーブルにおつまみとお酒、私の買ってきた惣菜を並べて食べることにした。
高畑君はビールを何本か飲み干した。いつも上機嫌だけど、いつも以上に機嫌がいい。
「どうしたの。妙に上機嫌ね」
「篠崎さんに告白されました。全然興味がなかったんですけど、やっぱり女の子に告白されるのは嬉しい。何て返答すればよいか分からなくて。
僕は追うより追われる方が好きなんですよ」
篠崎さんは新卒で彼の五才下。それになんといっても可愛い。
「あっそう。で、どうするの」
「食事に誘われたんですよ。明日、いってきます。
あ、でも勘違いしないで下さいね。僕の本命は先輩なんですから」
私は目をそらしてビールを飲む。
「高畑君もどうせ本気じゃないんでしょ。こんなおばさんやめときなよ。
絶対に篠崎さんの方がいいよ。」
好いてくれるのは嬉しいけど、相沢さんの顔がちらつく。
「もしかして、先輩ってビッチだったり。部屋に男を招き入れるなんて。」
彼が本気なのか冗談なのかわからない声色で言う。
「後輩とホテルで二人きり。しかも男。そんなの絶対に展開が決まっているじゃないですか。イメージと違うな。清楚なキャリアウーマンだったのに。」
「それは、高畑くんが部屋に来たからでしょ。自分の部屋に帰れば良かったじゃない。雨に降られたからいれて下さいって言われたら誰でも入れない訳ない。」
「その危機感の低さが駄目なんですよ。それじゃあ、これなんでしょう。」
手に持っているのは、紐のついた丸いものと棒状の物。
先週宅配で勇気を出して買ったやつ。何故か鞄に入っていた。
あちゃー。荷物を詰める時にベッドの側の机に置いてあったスキンケアを持ってきた時に間違えて入れてたのか。
「ちょっと、返して」
咄嗟に手を伸ばしたが、届かない。
「赤面して可愛い」
彼は少し笑みを含んだ顔で挑発してくる。手にそれを持って立ち上がる。
「年上をからかうもんじゃないわよ。本当にお願い。返して」
すると、急に立ち止まり身体を押された。
しまったそう思った時にはもう遅かった。ベッドに押し倒され、彼は上に乗り耳元に口を寄せた。
「隙が多いんですよ。危なっかしくてみてられない。ねぇ、いつも誰を想像してるんですか。僕ですか、それとも元上司の相沢さんですか。それとも元カレですか」
恥ずかしくて何も答えられない。
「答えられない…か。だよな、毎日使ってるなんて言えないし」
起き上がろうとするけど、完全に布団との間に挟みこまれている。
「どんなふうにこれ、使うんです?ねぇ、やってみてくれませんか。」
私は首を横に振った。彼は完全に雰囲気が違う。
手に握らせるけれど、私は何も動かさない。
「残念だなぁ。先輩のひとりでしてるの見たかったな。
まぁ、いいですよ。僕がやりますから。」
やりますってどういうこと。
「短パンに長いTシャツって…エロい。 それにいい匂いがする。女の人の匂い。この辺、鎖骨の辺りからする」
私に唇を重ねた。そして、下にするりとあれを当ててくる。
「ちょっと、あっ」
下着の振動が下に響く。身体をよじってもぐいぐいといいところに当たる。
「エっロい声出すんですね。」
唇を離すと満足そうに見つめている。
「こんな声を彼氏さんにも聞かせてたんですか。」
執拗に攻めて来る。
「僕が相沢係長が先輩の上司だったと何故知っているのか驚いたでしょう。
勿論、鬼だと恐れられていた相沢係長の噂をずっと聞いたことないはずがなく、先輩が怒られているのを何度も見ていましたから。
でも、さっきの先輩のあの目は元上司というのとは違いました。相沢係長のこと好きなんですよね?仕草でバレバレです。」
好き。そう見えるんだ。
「相沢さんに電話をかけて下さい。」
頭を横に振ると彼はじっと見ているだけだった。
「僕がかけてあげる。」
携帯をとられないように抵抗したけど、子供みたいな彼も男だった。
「僕だって鬼畜じゃない。下のは止めてあげる。」
モーター音が止まり、息を吸う間もなく携帯の画面が発信中に変わった。
お願いだから出ないで。その思いも数秒で打ち消された。
「相沢です。浅田か」
出来る男は電話にでるのが早いんだよって言っていた。
「お疲れ様です。夜分遅くに申し訳ありません。」
「どうした。何かあったのか」
取引先からの帰りに報告でデスクにかけることはあったが、直接相沢さんにかけたことがない。
「声が聞きたくなりまして」
「ついさっきまで話していただろう。」
耳にふっと熱い息がかかり舌が耳を嘗める。
「女のコって耳も弱いってきくけど本当なんだ」
彼が小さく呟いた。声が漏れないように声に力をこめる。
「あの、今度食事に連れて行ってくれませんか。」
「分かった。何か食べたいものはあるのか」
携帯から生活音が聞こえる。エアコンの音とテレビの笑い声。
相沢さんの声に痺れる。ドキドキして息が上がる。
「体調が悪いのか。大丈夫か。それといま高畑の声が聞こえた気がしたんだが。」
「隣の部屋だからじゃないですか。前に言っていた相沢さんのおすすめのフレンチでお願いします」
「分かった。それじゃあ、早く寝るんだぞ。お休み」
体力を消耗してへたりこんだ。
「目が潤んでる。そんな顔は俺が一番始めに見るはずだったのに。
まぁいいや。先輩の可愛い反応が見れて嬉しい」
彼は引き出しからあれを取り出した。
「我慢できない。もういいですよね」
軽く唇に触れると手が下に向かった。
「本当にやめて。こんなの駄目だよ」
チャックを下ろす音がし、足を開かされる。固いものが押し付けられる。
もう少しでしてしまう。彼の頬に平手打ちをした。
「最低。真面目で紳士的な人だと思ってたのに。無理やりするなんてあり得ない。無理やりやられて好きになることなんてない」
彼はぶたれた頬をおさえ、数秒間の沈黙があった。
「そうっすよね。確かに好きな人にすることじゃなかったです。すみませんでした。俺って最低。」
目に見えて耳を下げた彼を止めそうになる。
「俺のこと嫌いになりましたよね。今日攻めないと落ちてくれないと思って焦り先走り過ぎました。」
「ちゃんと段階を踏もう。一夜の関係でいいならここで終わり。私は高畑君とは出来ない。ちゃんと好きになった人としかしないの。
今回のことはなかったことにしてあげる。」
彼は振り返り目を開いた。
「え、許してくれるんですか」
「信頼のハグから始めよう」
彼は近づき背中に手を回した。
「部下から友人、理想の恋人に昇進できますか」
「それはどうかな。今はまだ友達以上恋人未満」 
彼は不服そうに下を向いた。
「僕のこと好きですか」
「まぁ後輩としては」
「なんですかそれ。まぁいいや。ハグからじゃなくてキスからで。」
唇を重ねていた。身体を離すと抱き締めていたせいで服が濡れている。
「孝輔くん、ちゃんと服を拭きなよ。濡れたじゃん」
離れてTシャツが濡れていることを確認する。
「風呂に入ったのにしょうがないなぁ。着替えよう」
トランクに向かおうとすると腕を掴まれた。
「透けてる。ピンクが」
手で身体を隠した。
「それ友人に言ったらセクハラだからね」
「わかってて言ってるんですよ」
長い手が延びてきて頭を撫でる。
「恋人に言われても大丈夫でしょう。早く昇格したいんです」
「あなたね、年下らしくしなさいよ。生意気なんだから」
着替えて戻ってくるといつもののんびりした彼に戻っていた。
テレビの前で胡座をかいている。アニメのcmが流れている。
「このアニメ面白いですよね。僕は単行本買ってます。また来月に新刊出るらしいですね。」
「うん。主人公が頑張ってるからついつい応援したくなる」
「本当に。今度映画に行きませんか。」
「いいけど、それだったら私の奢りに…?」
十も上だったら私持ちか。
「あと、オンリーショップに。限定グッズ買わないと。部屋に帰る前にお風呂借りますね」
「うん…ん?」
彼を見返した。
「風邪引きそうなんで。借りますよ」
「うーん、いいけど。自分の部屋で入りなよ。」
こういう隅々まで図々しいところがある。
彼は目の前でシャツを脱いだ。引き締まった体だ。
「シャツは帰るときに着るのでこのヒーターの前に掛けときます。」
引き締まった身体にすべすべとした肌が現れた。
視線に気づき私を見返す。
「なんです?そんなに男の身体を見るのがご無沙汰なんですか」
皮肉っぽい。
「いや、彼氏いたよ。経験もそれなりに」
「それとも見とれてる?」
その通りかもしれない。漫画のような綺麗と言える身体。
「図星か。僕と付き合ったら普段からこの姿を見れますよ。」
「考えておく」
この子は本当に本気なのか。もて遊ばれているのは私の方じゃないのか。
「可愛い。じゃ、あとで」
額に軽く唇を当てられる。彼は風呂から上がると、ビールを飲み帰っていった。



    
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