同棲契約

森川圭介

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#1同棲契約

秘密の電話

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恋をしているときこそ、恋愛を上手く描けるんです。
小説家がテレビで言っていた。
「仕事上、弊害がありまずいから俺達の関係は隠そう。二人きりでの出張とかは許されなくなるだろうし、色々と面倒事が増える」
「確かにそうですよね」
恋愛をすっ飛ばして同棲だし。なんだか寂しいけれどしょうがない。
色々と困ることがあり社内恋愛は大変だ。
「なんだか浮かない顔ねぇ」
城崎がまじまじと顔をみてくる。
「ん、ちょっとね」
内線が鳴る。
「浅田です。」
「もしもし、俺だけど。」
この声は。平静を装う。
「もうすぐ帰る。昼食終わったら、この間のレポート会議室に運んでおいてくれるか」
「はい」
会社の前の信号の音が電話越しに聞こえる。
「ええと、それと。今晩はおでんがいい」
「分かりました。それでは」
ドキドキと心臓の音が鳴る。にやけるのを抑えるのが大変だ。
私たちの関係は秘密なんだから。内線でイチャイチャしてると思われたら困る。
ふと、横をみると後輩がじっとこちらを見ていた。
「誰と話していたんですか。すごく楽しそうでしたね」
「いや、同期の子。久しぶりで」
「いいですね、私もたまに同期の友人とごはんに行きますよ」
遠山さんがやってきた。
「由佳ちゃん今から行く?」
いつも遠山さんと影山ちゃん同期と後輩、パートさんとランチに行っている。
「あっ、今日は約束してて。ありがとうございます」
「そっか、じゃあ後でね。」
皆が部屋を出たのを見計らい、隣のビルの屋上に向かう。
見晴らしがよく、一般に解放されているガーデンになっている。
スーツの後ろ姿を見つけて駆け寄る。
「お疲れ様です」
朝に見送ってから直接取引先に顔を見せていたために、会社では初めて会う。
「ふぅ、疲れた。お腹空いたな。」
私が持ってきたお弁当を一つ渡す。
「ありがと」
「卵焼き焦がしちゃった」
「そんなの気にしない。美味しい。」
私だけ抜け駆けしているみたい。
今頃、皆は愚痴大会で盛り上がってるんだろうな。優越感と罪悪感。
彼の横顔を見れているだけでいい。
「パートさん達と食べてきても良かったんだぞ。俺がお弁当を取り忘れたんだし」
わざわざ届けさせて悪いと思っているんだな。
「いいんです。一緒にいたいから。」
彼は少しだけ照れた。
「由佳の笑顔を見るとなんだか回復する。午後も頑張ろうって。」
ポカポカと日差しを浴びてお弁当を食べた。
「ほい」
ミルクティーとチョコレートをくれた。
「元気を出すにはこれだろう」
相沢さんは缶コーヒーを開けた。
自分のを買うのと同時に買ってくれたんだ。その瞬間は私のことだけを考えていた。
「何ニヤニヤしてるんだ」
「なんでも」
「なんだ」
彼は私をじっと見る。
「可愛いなと」
彼は顔を背けた。
「それは君の方だろう。スカートで張り切って」
今晩の夕食のために、スカートをはいたのはばれていた。
「楽しみです」
「楽しみだな。それより、俺的には会社の男達にスカートを見られていると思うとなんだかモヤモヤする。」
「なんですかそれ」
私が笑うとムッとした。すぐにいつもの顔に戻った。
「嫉妬、か」
二人で会社に戻っているとエレベーターは二人きりだった。
なんだか緊張する。
「午後の会議は白熱しそうですね」
横目で見て、そうだなと呟いた。
ネクタイと襟を整えた彼は私に近づいた。そっとキスをした。
「ちょっと、扉が開いたらどうするんです」
熱い顔を抑えて言う。彼はニヤリと笑うと前を向いた。その瞬間、扉が開き同期の三人が入ってきた。
「おー、由佳っち。相沢部長お疲れ様です。」
挨拶するとすぐに相沢さんを視界から消したように話しかけてくる。
「ねぇ、今晩どう?私と優衣、浜田君がくるし。あとはもろもろ」
「あー、えーと今日はちょっと先客がいて」
「いーじゃんね」
どうしよう。断りにくいな。
「ほらほら、由佳っちいこーよ。高収入のビジネスマン呼んでるから」
「それってつまり?合コン」
「うん。人数足りなくて。この通りお願い。由佳っち可愛いし。頼むよー」
会話が丸聞こえじゃん。なかなか諦めてくれない。
「向こう持ちだよ。来ない理由がないじゃん。今度こそ彼氏を」
エレベーターが到着した。
「悪いが、居酒屋で俺と会議だから」
相沢さんはそれだけ言うと出ていった。絶対に怒ってたよね。
三人はそっかーそれはしょうがないわ。頑張ってねと他人事のように離れていった。追いかけて隣を歩く。
「誰のせいで居酒屋になったんだか」
ポツリと呟く。
「それは、でも行きたかったバーに行きましょうよ」
「そんなの男女で行ったら怪しまれるだろう」
ふいと席に向かった。

女性更衣室で、制服から着替えながら皆でゆっくり雑談をする。
盛り上がれば一時間近く話しているときもある。
「この間、大森さんの名札が山下になっててビックリした。」
「ほんと、いつの間に結婚したのってかんじ」
本間さんの前ではタブーではないかと思うんだけど、本間さんもいつも楽しそうに話している。
「この中からも気がついたら結婚してるかも」
「裏切り者ー」
「そういえば、浅田さんって彼氏いるの?」
これは嘘つく理由もない。お誘いの抑止になるらしい。
「うん、いる」
「どんな人?」
「うーん、寡黙な人。だけど、あれはこーだとかうるさい時もあるよ。」
「そっか、うちの彼氏は束縛がきつくて」
ほら、マウントとられた。
「いっつも、何してるとか聞いてくるわけ。それに飲み会には極力行かないでほしいとか。皆はない?」
束縛なんて全くない。私って愛されているのかな。
「私も、連絡が少し遅くなっただけで催促される」
悩みがそれぞれあるんだな。
「由佳ちゃん。ぶっちゃけ誰?」
皆の視線があつまる。
「それはちょっと」
「あー、彼女いるけど名前伏せてるのって板垣さんと井上さんじゃん。
下田さんはないかー浅田さんの十個上だし。あとは、相沢部長か」
心臓が止まるかと思った。
「なわけないじゃんね、高畑君は年下か、絡んでたよね」
「高畑さんって篠原さんと付き合ってるんだよ。知らなかったの」
「あの二人お似合いだもんね。佐伯さんでは」
そろそろ否定モードになる。
「高校のときのクラスメイトだし皆知らないよ。言っても」
「なーんだ、社内かと。」
心底がっかりした顔を見せた。
「わたし、佐伯さんと付き合ってるんです」
場の空気が固まり、一斉に声の主に振り向いた。
モテ男の佐伯と付き合えるのはどんなやつだろう。
口紅を塗り直している影山ちゃんだった。数人が影山ちゃんを取り囲む。
「いつから?」
「先週から」
こんにゃろ、相沢さんが好きだったんじゃないの。すんなり乗り換えやがって。
「それでそれで、どんな感じで」
「えーと、佐伯さんと同じプロジェクトやってて。私が失恋して落ち込んでいたところに、そんなやつほっておいたらいい。俺と付き合う?みたいな」
「うわ、佐伯パワー。」
色めき立った。
「さすが佐伯だけある。言うことが違うわ」
「で、どうなの?」
「とっても優しくて紳士的ですよ。いつもレディファーストで、扉開けてくれたり道路側を歩いたり。ただ、本命かどうかはわからない。
連絡はマメにくれないし、ご飯は小綺麗な居酒屋だし。
ディナーというより飲み会みたいな。キス以上の進展はないし。
私最優先じゃないっていうか、プライベートは持っていて、テリトリーには入れてくれない。」
皆が首をかしげる。
「それってどうなんだろう。本命が別にいるってこと?」
「んーわからない」
「あいつはモテ男だからなー」
既婚の先輩達が頷く。
「顔と性格は好青年を絵に描いたような感じで、それなのに壁はなくて誰にでも優しくて気さく。怪しいなー。それとなく、皆調査してみようか。
私は同期の高野君に聞いてみるし。」
高野。聞きたくない名前だ。その後、それぞれ大嶋さんと木下くんに聞くという人を募集した。
「ねぇ、由佳ちゃんは直属の上司なんだから相沢部長に聞いてみて。」
「了解」
彼は教えてくれるだろうか。そして、結局はバーに行くことになった。
落ち着いた半個室の薄暗い照明の店だった。
「ここなら大丈夫だろう」
料理とお酒を頼み、久しぶりの外食だから何を話していいかわからない。
食べながら他愛もない会話を交わすも弾まず沈黙が続く。
「なんですぐ断らなかった」
指でウイスキーの氷を回した。
何て答えればいいんだろう。上手く断れなくて。
「それは」
「同期と仲良くするのもいいが、俺のことも」
遮るように彼はそこまで言うと無言になった。それから何を話してもお酒を飲み反応も薄かった。
いつもよりペースが早い。そして、強い酒を頼んでいる。
「ちょっと、もう少しペース落とした方が」
「うん」
気のない返事。あっという間にベロベロに酔いつぶれてしまった。
「帰りますよ」
「ん、ああ」
肩を貸してあげる。お会計はいつも俺が出すからと言うけれど、代わりに済ませる。
これを歩いて連れて帰るのは無理だな。タクシーを止め、押し込んで部屋に連れて帰る。
ちょっとだけ意識を取り戻した彼をソファに座らせる。
「お水飲んで」
コップの水を渡すも、うつらうつらとしていて服に溢してしまった。
一気に飲むと息をついた。
「…情けない」
珍しく落ち込んでいた。
「束縛したいわけじゃない」
ぐしゃっと前髪をかきあげる。
「俺の大嫌いな俺の部分が出てくる、また同じことを。」
その姿を見てられなくて頭を抱き締めた。
「大丈夫。落ち着いて。」
彼はぎゅっと服を掴む。
「そんなことで嫌いになると思った?感情が目に見えてむしろ嬉しい。」
はっとしてすぐに笑った。
「ならないな。もっと嫌なこと沢山言ったもんな。」
二人の笑い声が重なる。
「上においで。」
猫なで声でドキリとする。向かい合って膝の上に座る。
「佐伯さんと影山ちゃん付き合ったらしいですよ」
「そうか」
首筋に柔らかい唇が這う。
「本気だと思いますか」
「佐伯は、あーいう男だ。のらりくらりしていて、だけど、股はかけるやつじゃない。なんていうか、彼女の本気度を見てるんだ。
自分と付き合うのは人気者の隣にいられる優越感でなのか、本当に好きなのか。
つまり、あえて引いておいて様子を伺い、彼女の方からのアプローチを待っている。そうすることで構ってもらえない影山さんは佐伯のことが気になって仕方がなくなるはずだろう。」
「面倒ですね。恋愛てのは」
指が唇に優しく触れる。
「だから面白い」
ソファに押し倒される。
「俺たちもずっとすれ違っていた。恋の駆け引き(ゲーム)は頭脳戦。」
すーと指が服を撫でる。
「目をそらすな、いまは俺だけを見るんだ。」
低い声で熱い息があたる。額に唇が落ちる。アルコールの匂いがした。
「シてもらえると思ったか?」
意地悪だ。
「ほしいって顔してる」
本当に欲しいのは貴方の方の癖に。
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