婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ

文字の大きさ
14 / 33
第二章

13 王子様と秘密の会合3



「っ……ノア!しっかりしろ!!」

 誰かが大声で呼んでいる声が聞こえて意識が現実に戻される。ゆっくりと目を開けると心配そうなサミュエルの顔が目の前にあった。いつの間にかソファに座らされていたようだ。涙が止まらないままの顔をサミュエルが優しく拭ってくれる。

「具合は悪くない?どこか異常はないか?」
「……大丈夫です」

 動揺している気持ちを抑えて答える。ノアは冷静に考える余裕を持とうとした。しかし気持ちが落ち着かず、手足が冷たくなっていく。


「……ごめん。魔力の相性悪くなかったから大丈夫かと思って。こんなに酷い副作用を起こすとは思わなかった」

 先程ほどまでの余裕は消え失せており、サミュエルが青褪めた顔で謝罪の言葉を並べてくる。明らかに彼の調子も乱れている。やはりノアの闇属性の魔力を直接受け取ったことで、何かしらの影響を受けてしまったのだろう。



 高貴な彼を自分が穢してしまった罪悪感が胸を締め付ける。禁忌を犯してしまった自責の念と自己嫌悪に苛まれ、ノアの瞳から再び涙が零れ落ちた。






  
***

 

「おい、ノア。何があったか吐け」
「何もない。サミュエル殿下に迷惑をかけてしまっただけだ。反省している」

 帰宅した途端待ち構えていたヴェイルに捕まり問い詰められたが、ノアは視線を逸らしたまま淡々と返す。





 涙が止まらないノアをサミュエルは慌てた様子で支えた。全て自分が悪い、申し訳なかったと何度も謝罪されながら、彼から色々と手厚い介抱を受けてしまった。サミュエル自身もひどく狼狽していた。あの後、どうやって帰宅したのか正直あまり覚えていない。
 
 王族の前で晒態を晒してしまうなど、不作法極まりない。ノアは己を恥じ、情けなさで死にたくなっていた。



「……じゃあ、何でノアの身体にサミュエルの魔力がベッタリと纏わりついてんだ。まさかもう喰われたんじゃねえだろうな」

 ヴェイルが牙を剥き出しにして唸り声を上げる。サミュエル王子に対して何故ここまで敵愾心を燃やすのかノアには理解できない。確かに強引な部分はあったけれど。

「喰われてはいない。俺を心配してくれるのは嬉しいが、サミュエル殿下はそんな方ではない」

 サミュエルには悪いことをしてしまった。きっと彼は魔術的な好奇心で闇属性の魔力と接触してみたかっただけだろう。なのにノアが拒絶したり泣いてしまったりしたものだから、彼に罪悪感を抱かせてしまったようだ。不甲斐ない。



「俺のノアを汚しやがって!!絶対許さん!!」
「いや汚されてない。そもそも俺はお前のものでもないしな」

 憤慨するヴェイルに冷静に突っ込みを入れる。嫉妬深い恋人のようなセリフを口にするものだからつい笑ってしまった。

 ノアは外出着を乱暴に脱ぎ捨てると、下着姿のままベッドに倒れ込んだ。酷い疲労感と倦怠感が全身を支配している。はじめての相手と魔力のやり取りをしたことで、消耗したのだろう。緊張していたのもあるのかもしれない。


「疲れたから寝る」
「こら!寝るならちゃんと寝間着を着ろ!風邪を引くだろ!!そして服を脱ぎ散らかすな!」
「うるさいな……」

 ノアは煩わしそうに身動ぎをする。前言撤回。ヴェイルはまるで保護者だ。そして過保護過ぎる。しかし親の前ですら全く気を抜けないノアが、こんな風に素直に甘えられるのは、今は彼だけなのだ。
 ノアは不機嫌な顔をしながらも、ヴェイルに向かって両手を拡げた。

 ノアの求めに応じて、ヴェイルが覆い被さってくる。モフモフの毛皮に包まれて心地よい。ノアは彼の背中に腕を回すとギュッと抱きしめた。柔らかな毛並みに顔を埋めると安心感に包まれる。


「……今日の昼間は、どこで何をしていたんだ?」

 ノアがウトウトしながら訊ねると、ヴェイルの動きが止まった。彼は常にノアと一緒にいる訳ではなく、たまにフラリといなくなり、数日帰ってこないこともある。

「まあ、仕事って言うか、修行みたいなものをこなしていたな。いろいろだ」

 闇の眷属の仕事とは何なのだろうか。ヴェイルは人の言葉を操ることができるから、それなりに高位の存在のはずだ。人間界の調査をして魔王に報告しているのかもしれない。もしかすると魔王軍の一員の可能性だってある。だが、その辺りの事情については敢えて聞かないようにしている。

「……人間を襲ったりしてないだろうな」

 ヴェイルが言葉を濁したことで不安になり確認する。ノアの魔力目当てで近づいてくる闇の眷属たちには人間を害するものもいる。ヴェイルがそんなことはしないと信じているが確認せずにはいられなかった。

「ノアが魔力を与えてくれるから、そこまで飢餓状態に陥ることはない。心配無用だ」
「そうか……それならいい」

 ノアはヴェイルの首筋に顔を埋めると目を閉じた。大人しくされるがままになってくれているヴェイルはやはり優しい。


「ヴェイル。残念ながらサミュエル殿下は『浄化』の力を自由に使えないらしい」
「……そうか、残念だったな」

 寝言のような独白にヴェイルが相槌をうつ。彼がどこまでノアの計画に協力してくれるか分からないが、話せることは出来るだけ共有しておくようにしている。

「……第一王子はそもそも光属性自体持ってないし。神殿も聖女の不在が続いてるから、望み薄だな……。あとは……アリシア・ドミニク伯爵令嬢はどうだろう。『癒し』の力が特別強力だと聞いたことがあるが、『浄化』能力もひょっとして……」
「おい、ノア。今日は疲れてるんだろ?明日考えたらどうだ?弱ってるなら、魔力提供してやろうか?」


 耳元で囁かれた甘美な誘惑にノアはうっすらと目を開ける。珍しい申し出に思わず笑みが溢れる。いつもノアの魔力を搾取することばかりで逆は皆無だ。どういう心境の変化だろうか。

「お前の魔力を俺がもらって……大丈夫なのか?」
「闇に堕ちるって意味でか?大丈夫だ。俺の魔力はノアにとって毒にならないから」

 ヴェイルが自信満々に言い切った。何故そう言い切れるのだろうか。しかし、彼が大丈夫と言えば信じていい気がするから不思議だ。

 ノアは首を横に振った。興味はあったが、サミュエルの魔力が自分の中に残っている今、それはもったいないような気がした。


「今日はいらない」
「何でだ?」
「なんとなく」
「なんだそりゃ」
 

 ヴェイルが呆れたように呟く。そしてノアの額に鼻先を擦り寄せてくる。今日の昼間は屋敷を抜け出して外出していたからなのか、ヴェイルからは懐かしくて切ない、光のにおいがした。

 
感想 8

あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる

レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。 ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。 死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A