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第二章
13 王子様と秘密の会合3
「っ……ノア!しっかりしろ!!」
誰かが大声で呼んでいる声が聞こえて意識が現実に戻される。ゆっくりと目を開けると心配そうなサミュエルの顔が目の前にあった。いつの間にかソファに座らされていたようだ。涙が止まらないままの顔をサミュエルが優しく拭ってくれる。
「具合は悪くない?どこか異常はないか?」
「……大丈夫です」
動揺している気持ちを抑えて答える。ノアは冷静に考える余裕を持とうとした。しかし気持ちが落ち着かず、手足が冷たくなっていく。
「……ごめん。魔力の相性悪くなかったから大丈夫かと思って。こんなに酷い副作用を起こすとは思わなかった」
先程ほどまでの余裕は消え失せており、サミュエルが青褪めた顔で謝罪の言葉を並べてくる。明らかに彼の調子も乱れている。やはりノアの闇属性の魔力を直接受け取ったことで、何かしらの影響を受けてしまったのだろう。
高貴な彼を自分が穢してしまった罪悪感が胸を締め付ける。禁忌を犯してしまった自責の念と自己嫌悪に苛まれ、ノアの瞳から再び涙が零れ落ちた。
***
「おい、ノア。何があったか吐け」
「何もない。サミュエル殿下に迷惑をかけてしまっただけだ。反省している」
帰宅した途端待ち構えていたヴェイルに捕まり問い詰められたが、ノアは視線を逸らしたまま淡々と返す。
涙が止まらないノアをサミュエルは慌てた様子で支えた。全て自分が悪い、申し訳なかったと何度も謝罪されながら、彼から色々と手厚い介抱を受けてしまった。サミュエル自身もひどく狼狽していた。あの後、どうやって帰宅したのか正直あまり覚えていない。
王族の前で晒態を晒してしまうなど、不作法極まりない。ノアは己を恥じ、情けなさで死にたくなっていた。
「……じゃあ、何でノアの身体にサミュエルの魔力がベッタリと纏わりついてんだ。まさかもう喰われたんじゃねえだろうな」
ヴェイルが牙を剥き出しにして唸り声を上げる。サミュエル王子に対して何故ここまで敵愾心を燃やすのかノアには理解できない。確かに強引な部分はあったけれど。
「喰われてはいない。俺を心配してくれるのは嬉しいが、サミュエル殿下はそんな方ではない」
サミュエルには悪いことをしてしまった。きっと彼は魔術的な好奇心で闇属性の魔力と接触してみたかっただけだろう。なのにノアが拒絶したり泣いてしまったりしたものだから、彼に罪悪感を抱かせてしまったようだ。不甲斐ない。
「俺のノアを汚しやがって!!絶対許さん!!」
「いや汚されてない。そもそも俺はお前のものでもないしな」
憤慨するヴェイルに冷静に突っ込みを入れる。嫉妬深い恋人のようなセリフを口にするものだからつい笑ってしまった。
ノアは外出着を乱暴に脱ぎ捨てると、下着姿のままベッドに倒れ込んだ。酷い疲労感と倦怠感が全身を支配している。はじめての相手と魔力のやり取りをしたことで、消耗したのだろう。緊張していたのもあるのかもしれない。
「疲れたから寝る」
「こら!寝るならちゃんと寝間着を着ろ!風邪を引くだろ!!そして服を脱ぎ散らかすな!」
「うるさいな……」
ノアは煩わしそうに身動ぎをする。前言撤回。ヴェイルはまるで保護者だ。そして過保護過ぎる。しかし親の前ですら全く気を抜けないノアが、こんな風に素直に甘えられるのは、今は彼だけなのだ。
ノアは不機嫌な顔をしながらも、ヴェイルに向かって両手を拡げた。
ノアの求めに応じて、ヴェイルが覆い被さってくる。モフモフの毛皮に包まれて心地よい。ノアは彼の背中に腕を回すとギュッと抱きしめた。柔らかな毛並みに顔を埋めると安心感に包まれる。
「……今日の昼間は、どこで何をしていたんだ?」
ノアがウトウトしながら訊ねると、ヴェイルの動きが止まった。彼は常にノアと一緒にいる訳ではなく、たまにフラリといなくなり、数日帰ってこないこともある。
「まあ、仕事って言うか、修行みたいなものをこなしていたな。いろいろだ」
闇の眷属の仕事とは何なのだろうか。ヴェイルは人の言葉を操ることができるから、それなりに高位の存在のはずだ。人間界の調査をして魔王に報告しているのかもしれない。もしかすると魔王軍の一員の可能性だってある。だが、その辺りの事情については敢えて聞かないようにしている。
「……人間を襲ったりしてないだろうな」
ヴェイルが言葉を濁したことで不安になり確認する。ノアの魔力目当てで近づいてくる闇の眷属たちには人間を害するものもいる。ヴェイルがそんなことはしないと信じているが確認せずにはいられなかった。
「ノアが魔力を与えてくれるから、そこまで飢餓状態に陥ることはない。心配無用だ」
「そうか……それならいい」
ノアはヴェイルの首筋に顔を埋めると目を閉じた。大人しくされるがままになってくれているヴェイルはやはり優しい。
「ヴェイル。残念ながらサミュエル殿下は『浄化』の力を自由に使えないらしい」
「……そうか、残念だったな」
寝言のような独白にヴェイルが相槌をうつ。彼がどこまでノアの計画に協力してくれるか分からないが、話せることは出来るだけ共有しておくようにしている。
「……第一王子はそもそも光属性自体持ってないし。神殿も聖女の不在が続いてるから、望み薄だな……。あとは……アリシア・ドミニク伯爵令嬢はどうだろう。『癒し』の力が特別強力だと聞いたことがあるが、『浄化』能力もひょっとして……」
「おい、ノア。今日は疲れてるんだろ?明日考えたらどうだ?弱ってるなら、魔力提供してやろうか?」
耳元で囁かれた甘美な誘惑にノアはうっすらと目を開ける。珍しい申し出に思わず笑みが溢れる。いつもノアの魔力を搾取することばかりで逆は皆無だ。どういう心境の変化だろうか。
「お前の魔力を俺がもらって……大丈夫なのか?」
「闇に堕ちるって意味でか?大丈夫だ。俺の魔力はノアにとって毒にならないから」
ヴェイルが自信満々に言い切った。何故そう言い切れるのだろうか。しかし、彼が大丈夫と言えば信じていい気がするから不思議だ。
ノアは首を横に振った。興味はあったが、サミュエルの魔力が自分の中に残っている今、それはもったいないような気がした。
「今日はいらない」
「何でだ?」
「なんとなく」
「なんだそりゃ」
ヴェイルが呆れたように呟く。そしてノアの額に鼻先を擦り寄せてくる。今日の昼間は屋敷を抜け出して外出していたからなのか、ヴェイルからは懐かしくて切ない、光のにおいがした。
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