僕が勇者に殺された件。

フジミサヤ

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第1章

04 勇者

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 ルカがこの教会の孤児院にやって来たのは3年前、7歳を迎えた春のことだ。家族に捨てられ、孤児院の前に放置されていたらしい。
 白銀の髪に、透き通るような白い肌。そして、アメジストのような紫色の瞳はどこか遠くを見るようにぼんやりしていて、まるでこの世の全てに絶望しているように見えた。そのどこか浮世離れした容姿と、なにがあっても表情ひとつ変えず、口数も少ないルカに、周囲の子供たちは最初は不気味がっていて、近づこうとしなかった。


「ルカ、俺の名前はレオだ。年も近いし、仲良くしてくれると嬉しい」

 誰もが彼を避けようとする中、レオだけが彼に笑顔で話しかけた。しかし、その頃のルカは片眉を僅かに上げ、人形のような瞳でレオを見つめるだけで返事をすることはなかった。それでもレオがめげずに何度も話しかけて行くうちに、少しずつだがルカから反応が返ってくるようになり、やがて言葉も発するようになった。

 孤児院に預けられる子は、様々な事情を抱えていた。捨てられた子、親を亡くした子、虐待を受けた子など。ルカのような反応をする子も珍しくはない。レオは、周囲を良く見ていて、そんな子供たちの面倒を率先して見ていた。


 ルカがときどき、夜中にうなされ、叫び声を上げて飛び起きることに、レオが気づいたのはいつ頃からだろう。

「ルカ、大丈夫か?またうなされてたぞ?怖い夢でもみたのか?」
「あ、うん……ごめん。起こしちゃって」

 ルカは、そう言って申し訳なさそうに謝るけれど、その目元は涙で濡れていた。レオは、彼が苦しそうな様子なのが気になってしまう。
 それからというもの、レオはルカの隣で眠るようになった。そして、夜中に飛び起きた彼を抱き寄せ、優しく背を撫でながら、大丈夫。大丈夫だよ。と繰り返し、落ち着かせるように言葉を紡ぐ。そうすると、次第にルカの呼吸も落ち着いてくるのだ。ルカは安心したように体の力を抜き、レオの肩に頭を寄せた。


 レオの言葉のひとつひとつがルカにとっては心地よく感じられ、いつしか悪夢を見る回数も減っていった。




 レオは、ルカにとって初めての友達であり、心の支えとなっていた。

 レオは明るくて、優しくて、いつも笑顔で周りの人たちを元気づけてくれるような少年だった。剣の腕も立ち、運動神経も良い。お兄さんのような存在だ。大人たちの手伝いも率先してよくしているし、面倒見も良い。困っている人がいれば、迷わず手を伸ばして助ける。

 そんなレオが、孤児院の子供たちに慕われるのは当然のことで、ルカもそんな彼をとても尊敬していた。彼が自分に構ってくれるのは、欠陥がある自分を心配しているからなのだと、ルカは知っている。
 ルカにとってレオは唯一無二の、大切な存在だったが、レオにとっての自分はそうではないことも分かっていた。




 彼が、『勇者』といずれ呼ばれるようになることも、ルカは前世の記憶で知っている。


***

 その日は高貴な人が孤児院に慰問に来るとかで、朝からみんなが浮き足立っていた。多分施しがもらえるからだろう。


 豪奢な馬車に乗って孤児院にやって来た高貴な人は、この王国の王子様だった。金色の髪に碧い瞳の美しい少年。煌びやかな装飾が施された衣装を身に纏い、たくさんの家来に守られながら歩いている。年齢はルカと同じくらいの子供なのに、どこか威厳があって気品もある。
 こうして改めて見れば、やはり別世界の人間だなとルカはぼんやり思いながら王子様を眺めていた。


「地位も金も持ってて、さらに顔もいいなんてムカつくな。めちゃくちゃアホじゃないと許されないだろ」
 
 静かに本を読んでいるルカの隣で、レオが珍しく悪態をついていた。確かに、王子様はすごく綺麗な顔をしているし、着ているものも高級品ばかりのようだ。


 けれど、ルカは隣にいるレオの方が綺麗だし、カッコいいと思っている。

 プラチナブロンドの髪に、同じ色の瞳。光を浴びて輝く髪はすごくさらさらだし、太陽の光を受けて更にキラキラする瞳は宝石みたいだ。
 レオも王子様と同じような高級な服を着れば良く似合うだろうなと簡単に想像できるし、彼が優雅に微笑めば、きっと誰もが彼に目を奪われるだろう。
 見比べてみれば、王子様とレオは何処となく雰囲気が似てる気がした。


「レオの方がカッコいいし、王子様みたいだよ」

 本に目を落としたまま、素直に思ったことをそのまま告げると、レオは少し驚いたような顔をしてから笑ってくれた。

「……そうか?ルカにそう言われるとちょっと嬉しいかも。けど、なるなら、王子様より勇者の方がいいな」

「勇者?」
「そう。お前が読んでる本のソイツだよ」
 そう言ってレオが指差した先は、ルカが手にしている本だ。

 その表紙には、大きな剣を構えた一人の青年が描かれていた。本の内容は勇者が悪い魔王を倒しに行くという、冒険譚だ。青年は旅の途中で仲間を集め、勇猛果敢に魔族の軍勢と戦い、最後には魔王を倒す。

 勇者はお姫様と結婚し、世界は平和になり、人々には平等な幸福が訪れる。よくある話で、子ども向けの絵本の題材としても使われている。現実とかけ離れたお伽話だ。


 孤児院にいる子供の中には、家族を魔物に殺されたり、魔族に攫われたりした子もいる。
 レオは元々母子家庭で、母親を魔獣に殺されたと聞いた。親を亡くした平民の子の未来なんて、碌なものじゃない。だから、彼は魔族を憎み、勇者に憧れるのだろうか。

 魔族と契約したルカを蔑んで、殺したくなるのは当然だ。




(心配しなくても、君は勇者になれるよ。)

 ルカは心の中でそう呟きながら、レオにひとつだけ忠告をした。

「……このお話の勇者、最後にずっと一緒に戦ってきた仲間に裏切られるんだ。だから、レオも勇者になれたら気を付けた方が良いよ」
「は?マジで?……それは嫌だな。そんな人望ナシの勇者は願い下げだな」


 レオはアッサリと意見を翻した。ルカは目を瞬かせた。失望する相手が裏切った仲間ではなく、ソッチなのか。と。しかしその意見はとても彼らしいとも思えた。

 ルカは、ふと前世の勇者は自分が死んだ後、どうなったのか気になった。このお話のように、残った仲間と一緒に魔王を倒してお姫様と結婚して、ハッピーエンドを迎えたのだろうか。それとも……。


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