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第1章
05 王子様
しおりを挟む「こんにちは」
不意に声をかけられたルカは思わず固まってしまう。いつの間にか、王子様がルカらの近くまでやってきていた。
「こんにちは」とレオは無表情で挨拶を返す。ルカも慌てて「……こんにちは」と警戒しながら挨拶をした。
「君、名前はなんていうの?珍しい髪の色だね」
王子様はルカを見てそう言った。どうやらルカの銀髪が気になったらしい。王子様のような艶々でさらさらの金髪と違って、ルカの髪は手入れをしていないので、ごわごわでパサついていた。
「……ルカ、です」
ルカが小さな声で名乗ると、王子様はふわりと微笑んで言った。
「ルカか……良い名前だね。少し触ってみてもいい?私の周りには銀髪の人はいないから珍しくて」
「……いいです、けど」
本当は嫌だが、相手を考えれば断る訳にはいかないので、ルカは渋々了承しながら身構えた。
(不味いな、やはり前世と同じ展開だ。だから部屋に引き籠もっておきたかったのに)
ルカは体調不良を理由に、今日は部屋に閉じこもって一日を過ごす予定だったのだ。けれど、毎回理由をつけては行事をサボろうと目論むルカの態度を快く思っていない孤児院の院長先生が、今日は王子様の慰問があるから絶対に参加しろとルカを部屋から引きずり出したのだ。仮病だとバレてしまっていた。
「ありがとう」
王子様はお礼を言うと、嬉しそうにルカに向かって手を伸ばしてきた。レオがすごく嫌そうな顔でそれを見ているのが横目で見えた。
王子様はルカの髪を梳くようにして優しく触れたあと、頬に指を滑らせてきた。ルカは、その指の感触に硬直した。レオ以外の人に触られるのは怖いし、正直逃げ出したいけど、相手はとんでもなく身分の高い子どもなのでなんとか耐える。
王子様の手つきはとても優しくて、まるで割れ物を扱うように丁寧だったけど、触られた箇所がどんどん熱くなってきて、ルカは身震いがとまらなくなる。
王子様は、『光属性』の魔力の持ち主だ。一般的に闇属性持ちのルカとは相性最悪なのだ。
前世では王子様に触られた瞬間、ルカは魔力暴走を引き起こした。闇属性の魔力は、魔族に連なる者から授かったものだ。そのためか、闇属性の魔力を持つルカには光属性の魔力が天敵となり得るのだ。レオだけが、何故か例外なのだ。
前世では、その瞬間、ルカは全く魔力制御ができなかった。ルカはたまたま王子様に随行していた魔術師に魔力の暴走を止められ、一命を取り留めた。その魔術師にはルカが闇属性であることを見抜かれたが、彼はそれを誰にも話さず、ルカを引き取り自分の養子にした。彼はルカに魔力を制御する魔道具を与え、魔力を制御する術を授けてくれた。
たが今、その魔道具はルカに与えられていない。
「綺麗な銀髪だね。それに君、すごく瞳が澄んでいる。まるで水晶みたいだ」
王子様はうっとりとしながらルカの瞳を覗き込んで、歯の浮くような台詞を言ってきた。しかし、ルカはそれどころではない。身体が熱すぎて、泣きそうになってしまう。
(ヤバい。思った以上にキツい。やっぱりこの王子様、子どもの頃から魔力量がデカ過ぎる……)
ルカは意識が飛びそうになるのを堪えながら必死に王子様の手の感触に耐えていた。なんだか息も苦しくなってきた気がする。視界がぐるぐると回り出して、周りの様子もうつらない。
不意に腕を引かれ、身体が傾いた。そのまま誰かに抱きしめられる感覚がする。安心する体温と匂いに包まれ、ルカは漸く自分の身体が上手く動かせないほど脱力しているのを自覚した。
「……申し訳ございません、殿下。ルカは朝から体調が悪かったようで、少し熱が出てきたかもしれません。本日はこれで下がらせていただいても宜しいですか?」
「え?あ、あぁ……そうだったのか。それは気が付かずにすまなかったね」
レオの淡々とした声に、王子様は少し驚いたようにルカから手を離したあと、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べた。
結局それをきっかけに、王子様は家来の人に促され、馬車に戻って行った。
随行者の一人であるローブを羽織った魔術師が、レオとルカのことを無表情で眺めていたが、何も言うことはなく馬車に乗り込んで行った。
ルカはほっと息を吐いた。
(サミュエルに悪いことしちゃったかな……)
ルカは、申し訳なさそうな顔をしていた前世でのかつての友人の姿を思い出す。けれど、これでもうあの王子様と今生で再び遭遇することはないだろう。
ルカはぐったりと身体を預けながらレオを見上げた。
「……ありがとう、助かった」
「いや……大丈夫か?顔真っ赤だぞ」
「……うん、大丈夫じゃない……」
ルカはなんとかそう答えながらも、身体が熱くて仕方がなかったし、なんだか頭もぼーっとしてきた。
「部屋まで運んでやる。ほら、のれよ」
レオがルカに背を差し出す。おんぶしてくれるつもりらしい。いつもだったら、恥ずかしさと申し訳なさで抵抗していただろうが、今は身体が重くていう事をききそうになかった。
「……ごめん……」
「いいって。気にすんな」
ルカはレオの背に身を預けて目を瞑る。とても温かくて良い匂いに包まれていたからなのか、少しだけ身体の熱も落ち着いてきた気がした。
「お前、本当に軽いのな」
「……うるさいな」
レオはルカをおんぶしながら孤児院の中を歩く。すれ違う子供たちがみんな羨ましそうに見てくるのがちょっと鬱陶しかった。
ルカの部屋は二階に上がって一番端にある。レオと同じ部屋だ。ルカは孤児院の他の子供たちとほとんど交流がないが、レオだけには懐いていた。ルカは、レオの服の裾をぎゅっと握りしめて離そうとしない。その仕草が可愛くて、レオは思わず笑みが溢れてしまった。
出会った頃は表情がなく、ほとんど喋らず、まるで人形みたいにただそこに在るだけだったのに。ルカがこんなに懐いてくれるなんてレオは想像もしていなかった。自分だけに見せるその無防備な姿がたまらない。
「ほら、着いたぞ」
「……うん……」
部屋に入りベッドに下ろすと、ルカはぐったりとしたまま動かない。レオは軽く溜め息をついた。
「ルカ、口開けろ。少し我慢しろよ」
「……ん?」
レオはルカの頬を撫でると、その綺麗な顔をルカに近付け、そのまま唇を重ねた。
「んんっ……」
重ねられた唇の隙間から、レオの魔力がゆっくりとルカの中に流れ込んでくる。ルカは目を閉じてその心地よい魔力を受け入れていた。レオの魔力はとても温かくて、優しい。いつもレオに触れられると、ルカは気持ちよくなってしまうのだ。直接魔力を流し込まれれば、その満足度はさらに上昇する。今もふわふわとして幸せな気持ちでいっぱいだった。
ルカは無意識の内にレオの背に腕を回して、彼の服をぎゅっと握りしめていた。離れたくなくて、いつまでもこうしていたいと願ってしまう。
(……けど、やっぱりこの力、封印しておかないと、危ないよな……)
ルカは、心地よさに身を委ねつつも、頭の片隅で冷静に今の状況を分析していた。
ほんの少しだけ、彼の魔力に違和感を感じていた。
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