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第2章
16 炎帝
しおりを挟む「俺の今の名前はオスカー・ブルクハルトだ。昔はただのオスカーだった。お前と同じ孤児院にいたんだよ」
「は、え?ええええっ?」
ルカは改めてオスカーの容姿をまじまじと眺める。確かに、顔の作りや髪の色などこんな子どもが居た、と言われれば居たかも、というレベルではあるが。
ということは、もしや前世でもオスカーと学園入学当初から面識があったのだろうか。だから無理矢理舎弟にされてしまったのか?ルカは脳内の引き出しから記憶を呼び起こそうとしたが、全くこれっぽっちも思い出せなかった。特に前世はいろんな意味でルカは病んでいたので記憶が曖昧な部分が多すぎる。
オスカーが階段から腰を上げると、その身長の高さが際立った。威圧感がすごい。正面から見ると、実に端整な顔立ちをしていることが分かる。切れ長の目は鋭い光を宿し、双眸から覗く双眸から覗く緋色の眼光に射抜かれると身動ぎさえできなかった。
「ルカ。お前、死んだかと思ってたわ。ちゃんと、生きてたんだな」
どこか感慨深そうに名前を呼ばれ、ルカは少しだけ困惑した。彼には前世の記憶がないように見受けられるが、前世では彼が気を失っている間に、ルカは勇者に殺されてしまったからだ。当然、最期の別れの挨拶もしていない。
今世のルカは魔獣に攫われて行方不明になってしまったことにされているので、野垂れ死しているものと思われていたのだろう。多分それだけの理由だとは思うが、オスカーの物言いがどこか寂しげに聞こえて、ルカは少しだけ罪悪感を覚えた。
何故か彼の視線から逃げ出したくなる。
「えっと……すみません。人違いです」
「なんでだよ」
オスカーは不服そうに眉を顰めると、ルカに一歩近付いた。
「お前、ちょっと俺の部屋に来い。聞きたいことが山ほどある」
「え、いや……あの……」
不味い。このままではまた舎弟コースまっしぐらだ。何とか逃げなければ。
ルカは無意識に転移魔法を発動するべく、脳内で座標の計算を始めた。しかし、その刹那、オスカーが素早くルカの手首を再び掴むと、乱暴に引き寄せた。
「逃げるなよ」
ドスの利いた声で凄まれ、ルカは固まった。オスカーはルカの腕を掴んだまま、強引に階段を上り始めた。振りほどこうにも力が強すぎて、全く抵抗できない。ルカの意志は関係ないらしい。そういえば、この男は昔からこういう奴だった。
「レオのこと、聞きてえだろ?お前が行方不明になった後、あいつが貴族の養子になったことは知ってるか?まあ、俺も魔力量が多いことが分かって、孤児院から引き取られたクチだがな」
オスカーは一方的に話し続け、そのままルカを引きずるようにしながら階段を上っていく。
「……養子に?」
「レオは俺と違って要領が良かったからな。暫くして、あの王子様の遊び相手兼従者として、王宮に召し上げられたのさ」
オスカーの言葉にルカは息を呑んだ。
「あの、王子様ってまさか……」
ルカは、オスカーに腕を掴まれた状態で、恐る恐る尋ねる。
「……今、レオはどこに?」
「続きは、部屋に着いてから教えてやる」
オスカーはルカの動揺を見抜いているようで、ニヤリと笑った。
「来い」
強引に腕を引かれ、ルカは抵抗を諦めた。そのまま連れて行かれそうになったとき「ちょっと待ってください!!」という声が響く。
オスカーとルカが同時に声のする方を見ると、階段を駆け上る少年の姿があった。ルカのルームメイトのアベルである。肩で息をしており、相当慌てて駆けつけた様子だった。
「オスカー先輩!新入生を騙して何をするつもりですか?強引に迫るのはお止めください!貴方のような危険人物を、何も知らないルカ君に近付けるわけにはいきません!!」
「あ?」
オスカーは鋭い眼光をアベルに向けた。それだけで、辺りの空気が震えるほどの殺気が放たれる。アベルは震えながらも、ルカの腕を掴んでいるオスカーの手を引き剥がした。
「ルカ君!!逃げるよ!!」
「え、いやでも」
アベルはルカの腕を掴むと、そのまま駆けだした。オスカーが追ってくる気配はなかった。チラリと後を振り向くと、彼は新たな煙草を燻らせながら不敵に笑っていた。
「もう!なんで抵抗しないのさ?君はもっと危機感を持った方がいいよ!」
寄宿舎の居室まで戻って来ると、アベルはようやく足を止めた。そしてルカに向き直ると、腰に手を当て説教するように、説明をはじめた。
「あの先輩は危険だから、近付いちゃ駄目なんだ」
「……そう……なの?」
「そう!あの人、『炎帝』って言われてる、怖い先輩だよ!!」
「炎帝……?」
アベルによれば、『炎帝』とは、オスカーの二つ名だそうだ。彼の髪色から名付けられたらしい。彼は火属性魔術のエキスパートで、特に攻撃魔法が得意なんだそうだ。またその苛烈な戦闘スタイルと圧倒的な魔力で敵を容赦無く屠ることから、畏怖と尊敬を込めて『炎帝』という異名が付いたのだそうだ。番長ではないらしい。
前世も含めてそれは知らなかった。本人からは一度も聞いたことがなかったが、なんだか恥ずかしい二つ名だな、とルカは少し気の毒に思った。
「学園の不良のトップで、まるで魔王みたいだって噂されてる。けど、あの外見だから、すごくモテるけど手も早い。さっきみたいに強引に迫られて、『ちょっと俺の部屋に来い』って言われた女子は数知れず!男も部屋に連れ込んでるって噂もあるし。ルカ君みたいな可愛い子は、騙されてすぐに食べられちゃうから」
アベルが大袈裟に身震いして見せると、ルカは首を傾げた。
「僕なんか食べても美味しくないけど」
「……そういうとこだよなあ。何かルカ君って、無自覚に攫われやすそう」
アベルは溜息をつきながら呟いた。
「……今日、朝起きたら部屋にいないし、入学式にも出席してなかったし、心配してたんだよ?入学式の最中に、学園に魔物の襲撃があったとかで大騒ぎだったんだ。なのに、ルカ君、医務室にも居なくて、寄宿舎の部屋にも戻って来なくて……先生に呼ばれて探してたら、炎帝に捕まってるし……」
「悪い……。ちょっと迷子になってしまって」
ルカがもごもごと答えると、アベルは申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「……ごめんね。僕がきちんと最初に案内して、いろいろと説明してあげていれば良かったね」
「いや、それは違う。僕の方向オンチのせいだから」
ルカが首を振ると、アベルは複雑そうな表情を浮かべた。
「……ごめん。昨日、サミュエル殿下のことを尋ねられたときに、ちょっといろいろと言い過ぎちゃったかな、と思って気になってたんだ。ストーカーは良くないとは思うし、目立っちゃうと危険だけど、殿下に憧れるのは仕方ないもんね……」
アベルは神妙な面持ちで謝罪の言葉を口にする。
「あ?いや、それはもういいんだ。なんか逆に悩ませてごめん」
王子様にゲロをぶち撒けるという最悪の再会をしたので、サミュエルがルカの顔を忘れてしまうまで、ルカはもう関わらないつもりだ。こっそりと観察はしたいが。
ルカがそう伝えると、アベルは納得しかねる表情を浮かべながらも頷いた。
「まあ、それならいいんだけど……。僕たちクラスも同じだから、改めてよろしくね。……ルームメイトとして、仲良くしてくれると嬉しいな」
「あ、うん。えっと、こちらこそ」
ルカが慌てて頭を下げると、アベルはにっこり微笑んだ。
(あれ?もしかして、これってお友達として認められたってことなんだろうか?)
ルカは心の中がじんわりと温かくなるのを感じた。前世では友達がいなかったので、純粋に嬉しい。
「あ、そうだ。忘れるところだった。先生がルカ君を探してて……。なんか、魔法省から来た人が、ルカ君に用事があるみたいなんだ」
アベルの言葉に、せっかく温かくなった胸が、急速に冷えていくのをルカは感じた。
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