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5 マルヴェルくんとお友達になりました

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 そして、公爵家八男「リザーク」の誕生日会は、多くのがっかりする貴族の顔を眺めながら終わった。
 いやぁ、面白かった。
 お母様には同情の声もあった。そう、女の子が生まれるまでと産み続けること8人目も男の子だった……と、思われての同情。
 うん、本当に母のことを思って涙している人には申し訳ないと思ったけどね。
 お母様の友達は、女を産み続け5人目にして男の子を授かったらしく、それはもう、母の気持ちを考えると涙せずにはいられないようで。
「ふふふ、でも、私は幸せだから大丈夫よ、クレア」
「うん、そうよね。そう。とてもいい子たちばかりだもの。公爵家の将来は安泰ね。それに、男の子なら、うちのマルヴェルと同じ年だから、いいお友達になれるわね」
 クレアとお母様が呼んだ女性の後ろからぴょこんと黒い頭が飛び出した。
 黒髪に黒目っ!うわー。顔ものっぺりして日本人っぽいっ。なんか落ち着く顔だ。
 乙女ゲームらしいイケメンぞろいのこの世界において、なんと平凡な顔なのだろう。とはいえ、十分かっこいい顔してるんだけどね。日本でいうと、クラスで1,2を争う人気者レベルには。
「ほら、マルヴェル、リザーク様にご挨拶しなさい」
「お、お誕生日おめでとうございましゅリザークしゃま。俺……あ、うんと、僕はラクテ・マルヴェルで、4歳です」
 ラクテといえば、侯爵家だったはず。
 ぺこりとマルヴェルが頭を下げた。
 ふふ。後ろの髪に寝ぐせ発見。
 か、か、かわいいっ。
「僕はリザークでしゅ。様はいらない。マルヴェル、友達になろう」
 つい、礼儀作法とかいろいろ忘れて、右手を差し出す。
 挨拶が握手なのはこの世界では普通じゃなかった。うっかりしてたー。手を差し出すイコール、手をつなぐ以外の使用法はないのである。
「うん」
 差し出した手を、マルヴェルが握る。
「あら、よかったわね。さっそくお友達ができたのね。リザーク、もうお披露目は済んだのだから、遊んできていいわよ」
 やった。もう愛想笑いを振りまく必要ないんだ。
「じゃ、あっち行こう!」
 そのままつないだ手を引っ張って会場を離れる。
 バラ園についたところで、手を離して、マルヴェルの手の平を見る。
「何?」
「すごいね、マルヴェル、これ、豆がいっぱい」
 手を握ったときに気が付いた。マルヴェルの手の平は硬くて、豆のごつごつがあった。
 まだ私と同じ4歳だというのに。
「俺、騎士になりたいんだ。だから、剣の練習するのは当たり前だろ?」
 マルヴェルの目がキラキラと輝く。
「そっか、騎士になるんだ」
「そう。それで、いつか、悪いドラゴンをやっつけるんだ!」
 うん。この世界にはドラゴンいませんけどね。子供向けの絵本には出てくるけれど……。
 ふふふと思わずほほえましくて笑ってしまう。
「なんだよ、俺には無理だって言うのか?」
「違うよ、騎士ってお姫しゃま守るのかと思ったら違ったから」
「ん?ドラゴンをやっつけるのは姫を守るためだろ?知らないのか?」
 ああ、そういえば、絵本はそんなストーリーだったっけ。
 マルヴェルが、私が絵本の内容を知らないと思ったのか、一生懸命舌ったらずな口調で物語を聞かせてくれた。
 かわいい。弟がいたら、こんな感じなのかな。
 あ、私の方が生まれたのは遅いんだっけ。
 それにしても、なごむわぁ。
 日本人っぽい色合い、なごむわぁ。

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