上 下
92 / 159

91 平均点80点越え

しおりを挟む
 数学科職員室のドアを乱暴に3回ノックし、返事も待たずにドアを開ける。
「なんだ、お前たちはっ!」
 他学年のテストの採点をしていたのか、数学科の教師たちは昼休みだというのに全員机に向かっていた。
「先生、この結果には納得がいきません。採点し直してくださいっ!」
 破り取った紙を広げて教師たちに見せる。
「お前らは、1Fの生徒か。採点しなおしたって結果は変わらないぞ」
 教師の一人が立ち上がった。ひょろりとして眼鏡をかけた中年の男だ。
「どうしてですか?全員が0点なんておかしいでしょう?」
「ふんっ、おかしいのはこれだよ」
 教師が、机の上に置いてあった紙の束を投げてよこした。
 ばさりと落ちて、床に紙が広がる。
「あっ」
 それは採点済みの数学のテスト。
 サーシャ、マージ、ミルガレット、フレッド……クラスメイトの名前が次々に読み取れる。
 丸、丸、丸……丸ばかりが並んだテストだ。
 100点……。
「100点じゃないかっ!なのに、なぜ0点だなんて……!」
 100点がボクも入れて7人。ほかの生徒も90点台、80点だい……一番低い点数で、68点。
 すごい、みんな本当に頑張った。
「おかしいだろう?お前たちFクラスが、100点が取れるわけがない」
 は?
「なんで、取れるわけないなんてっ!」
「我々教師陣でも、1時間という時間で100問も計算するのは大変なことだ。それを、クラスの半分以上の人間がこなせるわけない」
 はぁ?
「教師の癖に、こんな簡単な計算問題がたった100問、1時間で解けない人がいるの?そっちのが驚きなんだけど」
 と、怒りにかませてつい、本音が出てしまった。
「なんだとっ!教師に逆らう気か!」
 しまった!
 ひょろ長い眼鏡の教師がポケットから黄色いカードを取り出した。
「待ってくださいセルシーオ先生っ」
「なんですか、イリス先生」
 ちょっと頼りなさそうな人の好さそうなぽっちゃりとした教師がひょろながセルシーオ先生の手を止めた。
「Fクラスはクラス分けテストで100点を取った生徒もいます。必ずしも、今回のテストの100点、取れるわけがないと言い切れないのでは?」
 む?いい先生だ。
「それに、100点ではなかったものの、19問目を解いた生徒が他に3人いたのも確かです」
「は?Fクラスに?馬鹿馬鹿しい、クラス分けテストの時も、不正を働いたんじゃないのか?」
 不正?
 クラス分けテストの時も?
「不正とは、どういうことでしょうか?」
 フレッドがセルシーオ先生を見た。
「で……殿下……。いくら、殿下と言えども、我々教師としては不正を見逃すわけにはまいりませんから……」
「僕は、見逃してくれなんて一言も言っていませんよ?どういうことなのか尋ねているだけで」
 セルシーオ先生の後ろに、別の教師が立った。
「主任」
「あのねぇ、Sクラスですら、平均点は70点あるかないかのテスト。いくら優秀な人間が1人2人いたからといって、Fクラスが平均で80点も取れるわけがない。とれるわけがないのに、取れてる。だとすると、常識的に考えられることは一つしかないでしょう」
 主任と呼ばれた教師がふぅっと小さく息を吐きだした。
「不正行為。優秀な誰かが他の者に答えを教えたのでしょう。ああ、もしかすると、50問ずつ担当を決めて教えあったのかもしれませんねぇ。100問も時間内に解いて教えるのは困難でしょうから」
 え?
 なんだそれ……。
しおりを挟む

処理中です...