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117 言わないけどね!

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 曲が変わったというのに、無意識に体が反応して動いている。
 あれ?さっきまであれほどぎくしゃくとしか踊れなかったのに……。
 流れるような動き。
 サーシャも、とても滑らかな動き。
 ああ、サーシャはこの曲が得意なのかな。すごく、踊りやすい。
 なんだろう、えっと、兄と踊る時よりも、あれだけうまいフレッドと踊っていたとくよりもしっくりくる。
 なんだろう、こう……
「僕たち、二人でこの曲を踊るために生まれてきたんだね」
 というくらいの……って、言わないけどね!
 サーシャの顔を見ると、サーシャもちょっと驚いた顔をしている。
 そりゃそうだろう。1曲目はあれほどへたくそ全開だったのに。
 ああ、あれかな。これが、世にいう「ゾーンに入った」ってやつかな。
 てなわけで、曲が終わる。
 ……。
 ははは。どや。やればできる子偉い子の私。
 と、どや顔でクラスメートの顔を見る。
 あれ?拍手喝さいとまでは言わないけど、すごい上手でしたわと一人くらい言ってくれてもよくない?
 ソフィア先生の顔を見る。
 あ、目をそらした。
 ちょ、なんだよ。上手だったろ?
 フレッドは口元を押さえている。
 え?何、何かに耐えるようなその顔。
 マージを見る。かわいそうな子を見る顔してるんだけど。
 なんだよ、何がかわいそうなんだよっ!
「おまえら……途中で男女のパート入れ替わってたぞ……」
 マージの言葉に、ついにフレッドが耐えきれなくて吹き出した。
「ぷっ、ははははっ。いやもう、何やってんだよ。めっちゃ、めっちゃ自然に2曲目踊りだして……ぷぷぷっ。いや、リザーク、完璧だったぞ、完璧なご令嬢だっ!」
 フレッドがゲラゲラ笑う。
 え?
「あれ……マジで?」
 体が自然に動きすぎて、あまりにも自然で、逆に気が付かないとか、何やってんだ私……。
 いや、それよりも……。
「サーシャは男性パートの方が上手なんだ……」
 姉に男役やらせててるって、私と逆パターンだったっけ?礼儀のときはそう言ってたし。ダンスもその可能性が……。
 サーシャの顔を見ると、怒っていた。
 失言っ。
「リザーク、まるで女の子みたいでしたわ……」
 あ、はい。
「どうして……もっと男らしくしないのっ!」
 へ?
「騎士になるんでしょ?せっかく男なのに……どうして、どうして……女の子みたいな……」
 サーシャが叫ぶ。
 ちょっと落ち着いて。
 騎士にはなる気ないし。そもそも元は女だし……とか、そうじゃないんだよね。
 サーシャは女だけど、騎士になりたくて。それでも体力的に劣っていて、だけど、騎士になるのがあきらめられなくて……。
 必死にあがいている。必死に努力している。
 男なのに、男らしくなる努力をしない私が……にくいのかもしれない。


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サーシャに怒られたよー。
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