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120 闇になじむ

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「次がウィスク、折り返すときに、歩幅を考えて、お互いの距離感がバラバラだとみっともない踊りに見える」
 なぜか、この歩幅、距離感が、サーシャとは息が合わせやすい。自然に足が出る。
 マージとのときは、ああこいつはダイナミックだからちょっと大きめに出した方がいいんだろうなぁと考えて合わせないといけないけど。
「次はシャッセですわね。つま先に意識を持っていく必要がありますわ。ただ足を漫然と出して進めるのでは美しくありません」
 私とサーシャの説明を聞き、踊りを見ながら選抜メンバーも体を動かし始めた。
「次はベーシックウィーブですわ。膝を柔らかく使いつつも、頭や腰はふらつかないことが大切です。これは騎士が体を鍛えるとき……体感の訓練にもなりますわよ」
 確かにね。全身くまなく意識しないといけないから。
「次は、クローズドチェンジ。ああ、ハザマノ君、リズムが違う。1,2,3じゃないんだ。こう、1、2ぃー、3って感じ。1、2ぃー、3、1、2ぃー、3」
 うん、ちょっとよくなった。
「今度はバックロックをやりますわ」
 と、10個目のステップに入ったころ、ストップがかかった。
「あ、ちょっと待って、一度には覚えられない……もう一度、お願いしていいかな」
 筆記テスト班からのギブアップだ。
 うん、まぁそうか。何年もかけて覚えるようなことを、1日そこらで覚えられるわけないか。
 私とサーシャはダンスをストップ。代表10人は引き続き踊りの練習。
 筆記テスト班は勉強するために集まる。あ、歌はここで終了。ソフィア先生が「1、2ぃー、3」と、リズムを取っている。
「そもそも、いくつステップあるの?」
 うん、いい質問だ。
「30かな」
「さ、30も?」
 驚かれた。
「今の曲なら30でしょ?」
 サーシャの言葉に、筆記テスト班の、ダンス未経験者が青ざめた。
「お、覚えられる自信がない……」
「とりあえずやみくもに勉強しても片手落ちになるかな、確かに。どの曲が出るか過去問題から予想してみるか……」
 兄に聞いてみよう。マイナーな曲は使われない気もする。あとステップが難解なやつとか……。
「はいっ!おいら、Sクラスの教室の近くに行ってくるよっ!」
 ん?
「耳がいいんだ」
 耳?
「怪しまれない距離でも、音楽が聞こえると思う」
「ああ、それいいわね!Sクラスが練習している音楽から問題でそうですもんね!」
 う、みんな、だんだんこの学園の闇に慣れ親しみだした……。むしろ、闇を利用することまで考えだすとは……。
 なんていうか、つおい。私が考えている以上に、みんな強かですっ。あ、九州の方の「つよか」じゃなくて「したたか」と読みますよ。
「じゃ、ちょっと行ってくる!」
 行ってらっしゃーい。
「たくさんあるステップどうやって覚えようか……」
「体を動かした方が覚えやすいんじゃない?」
 と、いろいろ話をしていると、おずおずと声がかけられた。
「あの、私たちにも何か協力できないかな?」
「そうだ。まだ衣裳部屋は入れないし、やることないからさ……」
 ふむ。確かに衣装班は暇だよね。
 んー。

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闇になじんだー。順応したー、利用を考えてるー、
ひゃー。
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