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130 ぜーっと

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 自主練で、あっちの曲、授業でこっちの曲と別の曲を練習できるならさ。
「まずは、曲のリズムを体に染み込ませてねぇん。リズムはこうよ。いっち、に、さんっ、し、ご、ろくぅ」
 教師がパンパンパンと手拍子を打ちながらリズムを口にする。
 あ、これ、あれだ。
 一番ステップが簡単なダンスだ。
 なんせ、他のダンスだと、なんたらステップとかなんとかステップとか、はたまたステップとか、やっぱりステップとか、こうしたステップとか、うるせー、そんなに覚えられるか!って感じなんだけど……。うう、そりゃ覚えたけどさ。何年もかけて……。
 この曲だけは、ステップが、一つだけなんだよ!素晴らしい!ビバ!
 そして、動きは、アルファベットのZのような感じ。
「足の運びはこうです。いいですか、リズムに合わせて、いっち、に、さんっ、し、ご、ろくぅ、いっち、に、さんっ、し、ご、ろくぅ……はい、では、経験者はやってみましょうね」
 と言われて、教師の手拍子に合わせて動き始める。
「うん、うん、いいわよぉ。さすが経験者だけのことはあるわぁん。完璧。皆さん完璧ですわよ!」
 ……完璧というには、ちょっと動きが雑な人もいますけどねぇ、マージとか。後、微妙にリズム感ない人もいますけど……。褒めて伸ばすタイプの先生だろうか。
「そうよ、そうそう、経験のない人も、やってみましょうか、まずは、こっちの足をこう、それから、こっちにこうして、ゆっくりいきましょうね」
 手拍子のリズムを少し落とす。
 おずおずと未経験の生徒たちが足を運びだす。
「まぁ、素敵よぉ!初めてにしては上出来っ!なんてすばらしいの!」
 あ、やっぱり褒めて伸ばす系の先生だ。
 ……いい先生?
 だって、Fクラスなのに褒めてくれるんだよ?
 生徒たちの表情がだんだん明るくなっていくのが明らかに分かる。
 なぁんだ。警戒して損した。そうだよね。ソフィア先生とかいい先生もいる。数学科でも、人数は少なかったけどいい先生はいた。あ、主任はどうもただの数学馬鹿で、踊らされていた感じだったし。
 このダンスの先生……えーっと、名前なんだっけ、ああ、そうそう、イーヤミー先生だ。
 イーヤミー先生も、いい先生かもしくはダンス馬鹿。うん、そうに違いない。
「はい、では続けてちょうだいねぇん」
 先生が手拍子をしながら口でいちっ、に、というのを中断。
 それから、教室の中を歩いて一人ずつにアドバイスを始めた。
「あらぁん、あなた、ちょっと乱暴じゃないかしら?もうちょっと、優雅に、ああ、そうそう、足の出し方よ、つま先を上向いて出すから乱暴に見えるの。ほら、ダンスは格闘じゃないのよぉ?女性を蹴りあげる必要なんてないんですからねぇ?うふっ」
 と、雑な踊りをしているマージにアドバイスをする。
 ああ、なるほど。足の出し方が蹴りでも入れるような……ぷぷっ。舞踏会じゃなくて、武道会かよっ!マージらしい。
 思わず笑いをこらえると、フレッドと目があった。


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ちなみに、ステップの多い方はワルツを参考に、こちらはメヌエットを参考にしておりますが、異世界のダンスなので完全一致はしませんので、あしからず。
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