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149 ブルース、ワルツ、クイックルワイパー

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 王子は?マージは?ほかの代表選手は?
 こ、これはまずい。実にまずい。
 Sクラスの授業を偵察に行った生徒の話では、最もメジャーな曲だった。
 大会では3曲踊るはずだ。メジャーな曲ということは、Sクラスは素晴らしいダンスを見せるだろう。他のクラスもそれなりに上手い子はいるだろう。……ってことは、点差を広げるには……踊れない人が多い曲を選ぶのが早いのかもしれない。それほど、Sクラスは勝利に貪欲だとは思わなかった。
 って、Sクラスが考えたかどうか知らないけど、誰の作戦なのっ!もうっ!
 見てなさい!見てなさい!Fクラスなめんなよ!
「お兄様、あとはなんの曲を練習しているのですか?」
 兄6の胸倉をつかんで揺さぶる。
 おっと、失礼。つい、男のときの仕草が……てへぺろ。って、兄6歓んじゃだめ、妹につかみかかられて歓んじゃだめ!変な性癖覚醒しちゃうからっ!
 兄6に情報を聞き出し、兄7と兄6と交互にダンスの練習。
 やばいやばいやばい。
 他の2曲はいい。
 マイナー曲……クイックは……やったことない可能性があってやばい。

 次の日は、いつもより30分早く学校についた。
「ほえええええっ」
 教室に入ると、もうすでに全員そろってる。
「あれ?僕、遅刻?」
「遅いぞリザーク、もう朝練始まってるぞ!」
 あ、朝練?
 聞いてないんですけど。
「マージ、朝練が決まったときにはリザークはいなかっただろ」
 ぷっとフレッドが笑う。
 決まった?朝練?
 いや、頑張りすぎじゃないの、皆。でも、嫌いじゃない。
 嫌いじゃないし、その努力が少しでも報われるといいなって思う。
「兄から聞いた。皆に話がある」
 と、言うと、練習を中断して皆が集まってくれた。
「Fクラスの兄二人に、練習内容を聞いた。たぶん、ダンス大会の3つで間違いがないと思う。ブルース、ワルツ……」
 そこまでははダンス経験者は想像していたようで、なるほどと頷いている。
「それから、クイック」
 と、最後のダンス種目を口にすると、え?と声が上がった。
「クイックって……」
 声を上げたのはフレッドだ。
「踊れるか?」
「まぁ、一通り全部踊れるが、クイックか……」
 小さなため息を吐き出す。
「想定外だなぁ」
 と。だよね。過去の種目を研究すると、クイックが出るとは思わないよね。
「やったぜ!あれ、楽しいよな!」
 マージが、想像通り兄4と同じ反応を示す。体を動かすのが好きな人間向きなんだよな。
 テンポが速くて動きが激しいから。優雅に優雅に優雅にって言われることが比較的少ないから。
 青い顔をしている代表選手がいる。
「知らない……」
「踊ったことがありません」
 あー、やっぱり。
 代表10名のうち、3名がアウトか。
 経験者だった他の人間も首を横に振る。
「クイックってどんな踊りなんですか?」
 というクラスメイトの質問に、手拍子を始める。

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