婚約者に売られ子供ができたけど、訳あり元騎士様が代理パパになってくれたので幸せです

富士とまと

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 アイシャさんに声をかけてケーキを買いに出かける。
 まだ昼を少し過ぎたところだ。
「ジャン、どんなケーキが食べたい?」
「うんと、ジャンね、あまくて、ふわふわのがいい!」
 まだジャンはいろいろなケーキを知らなかったんだ。
 どうしようかな。
「ママは?」
「ママはね……」
 伯爵令嬢だった時にお茶会にも呼ばれいろいろなお菓子も食べる機会があったけれど、だいたいはその家の料理人が作ったお菓子だ。買おうと思って買えるものではない。
 王都から少し離れたこのスピルドの街で帰るケーキと言うと……。
「そうだ、ジャムが生地に混ぜ込んであるケーキがおいしいって聞いたわ!」
「ジャン、ジャムもケーキもちゅき」
「よし、じゃあ、買いに行きましょう!」
 ジャンを抱っこして街の西側へと足を進める。
 そのケーキ屋は、2か月住んでいたアパートのさらに先にある。
 ……クリスのことを反対されて家を出て住んでいた場所だ。騙されているとも知らずに、結婚できると思って引き払ってからは一度も近づいたことはない。
「おや、アリーちゃんじゃないか?」
 声を掛けられ振り返ると、アパートの大家さんがいた。あの当時はクリスが私をアリーと呼んでいたので、周りの人にもアリーですと自己紹介していたんだ。
 すぐに大家さんの視線はジャンに向けられる。
「結婚するって言ってたけれど、子供も生まれて幸せそうだね。よかったよ」
 大家さんはうんうんと小さく頷いた。
「なんか訳ありそうだったから、心配していたんだよ」
 大家さんの言葉に胸がギュッとなる。あの頃は怪しいものを見るような目で見られているとちょっと警戒していたけれど、あれは心配してみていてくれたんだ。
「悪い男に騙されそうでね」
 はははと豪快に笑う大家さんに、苦笑するしかない。
 しっかり、だまされてましたと心の中で返す。
「賢そうな子だね」
 大家さんがジャンの顔を覗き込んだ。
「おや、不思議な目の色をしているね。なんてきれいな色なんだい」
 ジャンを誉められて自分のことのようにうれしくなる。
「ジャム、ジャムぅ」
 立ち話をしていると、ジャンが退屈そうに私の腕を叩いた。
「はいはいジャン。ジャムのケーキね」
「ああ、あの店に来たのかい。じゃあ元気でね。店子だった子はみんな私の子供みたいなもんさね、また顔を見せにおいで」
 手を振って忙しそうに立ち去る大家さんがくるりと振り返った。
「そうそう、アリーを訪ねてこの間人が訪ねてきたよ」
「え?」
 誰が?
 あのアパートに私が住んでいたのを知っているのは、クリスだけだったはずだ。
 いや、私はどこにいるのかと、誰かがクリスに尋ねたのかもしれない。誰が?
 考えられるのは家族だろうか。クリスと結婚すると家を出たのに、クリスと結婚していないと分かって、私を探している?
「どんな人でした?」
「んー、そうだね、帽子を目深にかぶって半分顔を隠した男だったよ。どうにも風体が怪しかったからね、気を付けなよ」
 顔を隠した男……?
 顔を見られたくないってこと?私を探していることを知られたくない……?
 それはどうして?……まさか、クリスの被害者仲間のヒガナカさん?
 戦争が終わっても現れなかったのに、今更どうして?アイシャさんの宿にいると思わなくてクリスに住んでいる場所を教えてもらったとか?
 ……生きてるの?
 ジャンの父親が、生きてる?
 バクバクと心臓が鼓動を早める。
 生きて、私を探している?子供ができているなんて知らないだろうし……。
 はっと、ヒガナカさんの言葉を思い出す。
『必ず君の元へ帰ってくる』そう言い残して部屋を出て行った。
 誠実そうな人だった。自分のためではなく仲間のためにジンクスにすがろうとするくらい。
 もし、ヒガナカさんが現れたら?

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