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「どちたの、ママ?いたい、いたいちたの?」
ジャンがいない生活を想像しただけで、涙がこぼれてしまった。
ジャンが心配してケーキを食べる手をとめている。
「ううん、大丈夫。目に、ゴミが入っただけ。それで、ジャン、どれを買って帰ろうか?どれがおいしかった?」
「じぇんぶ!じぇんぶじぇんぶ!」
両手を万歳してジャンが主張している。
「ふふ、全部は無理よ。私とジャンと、アイシャさんとエディと4つ」
指を1本ずつ立てて4を作る。
「えっちょ、ジャンと、ママとあいちゃばぁたんと、パパしゃん、よっちゅ」
ジャンが真似して4本指を立てる。二歳の二本はできないけれど、4は得意だ。
ケーキを4つ包んでもらう。
……4つのケーキ……。
4人分の、ケーキ。
重たくないはずなのに、やたらと重く感じる。
ああ、そうか。
もう、これが最後かもしれないからだ。
大切で幸せな時間……。4人で食卓を囲むのは、今日で最後になるかもしれない。
最後の晩餐の重みなんだ……。
ジャンと手をつないでのろのろと街を歩く。
この町にいればすぐに見つかると言っていた。
ならば、町を出なければ。
ジャンと二人で。
だけど、親子で町を出る人なんてそれほど多くはない。門番の記憶に残るだろう。あとを追おうとすればすぐに足取りがつかめてしまうはずだ。
どうしたらいい、どうしたら……。
ジャンを奪われないように家にずっといてもらう?
師匠なら守ってくれるはず。
……いいえ。これ以上迷惑はかけられない。
相手は、たぶん貴族だ。ヒガナカさんは戦争に向かった。部下がいた。貴族のクリスと友達で、親は跡継ぎにとジャンを狙っている。
庶民ならそこまで跡継ぎが必要な者は少ないだろう。
それに、母親である私ごとジャンを迎え入れる気がないのは「息子をたぶらかした女」だとか「母親が庶民など体裁が悪い」とかいくらでも貴族なら理由を並べるだろう。
……平民であることが気に入らないというのなら、伯爵令嬢であることを伝えれば解決するのだろうか?
いや、そんな簡単な話ではないかもしれない。私やジャンの気持ちを無視して連れ去ろうと考えるような人たちなら、たとえ私もジャンの傍にいられると言われても、どう扱われるかわかったものではない。ジャンが不幸になるのは受け入れられない。
貴族相手では、いくらアイシャさんの腕っぷしが強くても抵抗できないこともあるだろう。ジャンを守ってなんて頼めない。
やっぱり、逃げるしかないのだろう。
家のドアを開くと、奥からエディが両手を広げながら向かってきた。帰っていたんだ。
「パパしゃんっ」
いつものエディとジャンが逆の立ち位置だけれど、いつもと同じように抱き上げている。
「シャリア、見てくれ!」
エディが嬉しそうにギルドカードを見せてくれた。
「わー、ぴかぴか。ママといっちょだ」
「おめでとう、!エディも銀色級になったのね!」
早っ。もう追いつかれちゃったんだ。ちょっとショック。
「シャリア、実は今日以外にも時々ソロで依頼を受けていたんだ」
私が何を考えているのか分かったのかエディが言葉を続ける。
「そんなに、ショック?」
「え?あ、ううん。違うよ」
「でもなんか顔色が悪いよ?」
それは、この町から逃げることになれば、エディとも会えなくなるから。
「そりゃ、まさかエディも今日銀色級になるなんて思わなくて、今日は私の昇級パーティー、今度エディの昇給パーティーと2回楽しめるはずだったのに……!と思って」
私の下手な言い訳に、エディは笑って答えた。
「大丈夫、今日はシャリアの昇級パーティー、僕のは来週にしよう!」
「ジャンは?ジャンのぱーちーは?」
「あはは、そうだな、ジャンのパーティーもしよう!なんのパーティーにしようか?」
エディが振り返って私の顔を見た。
エディが驚いた顔をして、私の頬にそっと手を当てた。
「どうしたの?」
ああ、私、また泣いてしまっているのか。
「幸せって、こういうことかなって思ったら……ご、ごめんなさい驚かせたわね」
エディの手から逃れて、ハンカチで涙をぬぐう。
「僕も……幸せです……」
ハンカチで目を押さえている私の頭上から声が降ってくる。
「こんなに幸せで、怖いくらいです」
怖い?
幸せとは不釣り合いな言葉に顔を上げる。
ジャンがいない生活を想像しただけで、涙がこぼれてしまった。
ジャンが心配してケーキを食べる手をとめている。
「ううん、大丈夫。目に、ゴミが入っただけ。それで、ジャン、どれを買って帰ろうか?どれがおいしかった?」
「じぇんぶ!じぇんぶじぇんぶ!」
両手を万歳してジャンが主張している。
「ふふ、全部は無理よ。私とジャンと、アイシャさんとエディと4つ」
指を1本ずつ立てて4を作る。
「えっちょ、ジャンと、ママとあいちゃばぁたんと、パパしゃん、よっちゅ」
ジャンが真似して4本指を立てる。二歳の二本はできないけれど、4は得意だ。
ケーキを4つ包んでもらう。
……4つのケーキ……。
4人分の、ケーキ。
重たくないはずなのに、やたらと重く感じる。
ああ、そうか。
もう、これが最後かもしれないからだ。
大切で幸せな時間……。4人で食卓を囲むのは、今日で最後になるかもしれない。
最後の晩餐の重みなんだ……。
ジャンと手をつないでのろのろと街を歩く。
この町にいればすぐに見つかると言っていた。
ならば、町を出なければ。
ジャンと二人で。
だけど、親子で町を出る人なんてそれほど多くはない。門番の記憶に残るだろう。あとを追おうとすればすぐに足取りがつかめてしまうはずだ。
どうしたらいい、どうしたら……。
ジャンを奪われないように家にずっといてもらう?
師匠なら守ってくれるはず。
……いいえ。これ以上迷惑はかけられない。
相手は、たぶん貴族だ。ヒガナカさんは戦争に向かった。部下がいた。貴族のクリスと友達で、親は跡継ぎにとジャンを狙っている。
庶民ならそこまで跡継ぎが必要な者は少ないだろう。
それに、母親である私ごとジャンを迎え入れる気がないのは「息子をたぶらかした女」だとか「母親が庶民など体裁が悪い」とかいくらでも貴族なら理由を並べるだろう。
……平民であることが気に入らないというのなら、伯爵令嬢であることを伝えれば解決するのだろうか?
いや、そんな簡単な話ではないかもしれない。私やジャンの気持ちを無視して連れ去ろうと考えるような人たちなら、たとえ私もジャンの傍にいられると言われても、どう扱われるかわかったものではない。ジャンが不幸になるのは受け入れられない。
貴族相手では、いくらアイシャさんの腕っぷしが強くても抵抗できないこともあるだろう。ジャンを守ってなんて頼めない。
やっぱり、逃げるしかないのだろう。
家のドアを開くと、奥からエディが両手を広げながら向かってきた。帰っていたんだ。
「パパしゃんっ」
いつものエディとジャンが逆の立ち位置だけれど、いつもと同じように抱き上げている。
「シャリア、見てくれ!」
エディが嬉しそうにギルドカードを見せてくれた。
「わー、ぴかぴか。ママといっちょだ」
「おめでとう、!エディも銀色級になったのね!」
早っ。もう追いつかれちゃったんだ。ちょっとショック。
「シャリア、実は今日以外にも時々ソロで依頼を受けていたんだ」
私が何を考えているのか分かったのかエディが言葉を続ける。
「そんなに、ショック?」
「え?あ、ううん。違うよ」
「でもなんか顔色が悪いよ?」
それは、この町から逃げることになれば、エディとも会えなくなるから。
「そりゃ、まさかエディも今日銀色級になるなんて思わなくて、今日は私の昇級パーティー、今度エディの昇給パーティーと2回楽しめるはずだったのに……!と思って」
私の下手な言い訳に、エディは笑って答えた。
「大丈夫、今日はシャリアの昇級パーティー、僕のは来週にしよう!」
「ジャンは?ジャンのぱーちーは?」
「あはは、そうだな、ジャンのパーティーもしよう!なんのパーティーにしようか?」
エディが振り返って私の顔を見た。
エディが驚いた顔をして、私の頬にそっと手を当てた。
「どうしたの?」
ああ、私、また泣いてしまっているのか。
「幸せって、こういうことかなって思ったら……ご、ごめんなさい驚かせたわね」
エディの手から逃れて、ハンカチで涙をぬぐう。
「僕も……幸せです……」
ハンカチで目を押さえている私の頭上から声が降ってくる。
「こんなに幸せで、怖いくらいです」
怖い?
幸せとは不釣り合いな言葉に顔を上げる。
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