検索魔法で助けたもふもふ奴隷が伝説の冒険者だったなんて聞いてませんっ

富士とまと

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沸騰

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「モンスターは人を理由もなく襲う生き物です。神獣は、人を襲うことがないモンスターの中でも、強大な力を持ったものをそう呼びます。人を襲うモンスターを駆除してくれるため、そう呼ばれ始めたのですよ」
 なるほど。なんとなくわかった。
 モンスターだけど、人には害がない上に、人に害になるモンスター退治してくれるからありがたい存在。それで、さらに強いから、神獣ってモンスターと区別して呼ぶようになっててことだね。
「ユーキ、しっかり僕につかまっていてください」
 バーヌが私に手を回した。
 っていうか、人を襲わないなら、どうしてみんな顔を青くして震えてるの?
 バーヌの声には緊張がある。
「バーヌ、神獣は人を襲わないんじゃないの?」
 私の問いに、ソーサスさんが口を開いた。
「いや。赤目はダメだ。赤目は正気を失った色だ。人を襲う……襲って食らう」
 え?
「つ、強いの?」
 声が震える。
 バーヌが緊張しているということは、強いんだよね……。
「大丈夫です。ご主人様は僕が命に代えても守りますから」
 にこりとバーヌが笑った。笑顔ではない。愛想笑いというか、作った顔だ。
「バーヌ、僕は、バーヌの命を懸けてなんて欲しくない。それに、またご主人様って言ったっ」
 そんなことを言っている場合じゃないかもしれないけれど、でも、あまりにも空気が重たくて、バーヌの緊張がこちらにも伝わてきて息苦しくて口にする。
 ふっと、今度はバーヌの口元が緩んだ。
「おい、そうだ、お前、強いんだろ?」
 乗客の一人がバーヌの肩をつかんだ。
「早くあいつを何とかしてくれよっ!」
 商人の一人だ。その男に首を振って見せたのは女性冒険者。
「いくら金狼が強いとはいえ、さすがに神獣が相手では……」
 女性冒険者の言葉に、バーヌの腕をぎゅっとつかむ。
 そうなんだ。
「倒せなくても、ひきつけておくことくらいできるだろ!その間に私たちは逃げるっ!」
 声を上げた商人の言葉に、何人かが賛同した。
「そうだ、早く行けよっ」
 頭が沸騰しそうだ。
「バーヌ、この動きが鈍そうな人たちがおとりになっている間に、私を抱えて逃げてね。バーヌの能力なら、逃げ切れるよね?」
 にこりとバーヌに笑いかける。
「は?いい加減にしろよ、どういうことだっ!」
 バーヌを買うと言った商人が、汚い手で私の腕をつかんだ。
「どういうことって、あなたたちが言ったのと同じことを言っただけですよ?誰かをおとりにして自分が逃げる、どこが違いますか?一緒ですよね?しかも、先に言ったのはあなたたちなので、僕はその手があったかと真似しただけです。問題があるとは思いません」
 自分が言うのはいいけど、人が言うのはダメなんてそんなのありえないし。
「いい加減にしろよ、全然違うだろう!そいつは奴隷だろ?いいからさっさとその奴隷を馬車から降ろせっ!」
 背の高い商人がバーヌを指さす。
 腹が立つ。なんで、皆バーヌを奴隷だ、奴隷だって……。
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