三年分の記憶を失ったけど、この子誰?

富士とまと

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「殿下っ、子供だから許されますけど、もう二度と、レディにしてはダメですよ、これは、その、こ、恋人同士とか特別な間柄の大人がするだけで、普通は大人に対してする行為じゃないですからっ」
 と言ったら、殿下が一度離した手を、再び私のほっぺに当てて、両手で挟んだ。
「殿下っ!」
「ま、俺は子供だから、成人してないしな。構わないだろ?」
「殿下っ!」
「子供っぽいもなにも、俺は子供だからな!まだ、あと5年は子供だ!シャリナが膨れるたびにこうしてやるっ!」
 その時は、いつも皇太子として早く大人になろうとしている殿下が、子供でいるということが嬉しかった。他の子供のように、笑えるならば……と。
 それからもへたくそな絵を何度か殿下に見せたっけ。
「今度こそちゃんとドラゴンに見えるでしょ?」と。

「マー、たいの、たいの!」
「ああ、ルゥイごめんね。次のページが見たいのね?」
 ページをめくると、へたくそなドラゴンの絵。
 でも、もう牛には見えないわよね?殿下はこの絵を見たらどう言うかしら?
 へたくそだと言って笑って……それから、私が頬を膨らませると、両手で挟んで……。
 王都で会った、20歳になった殿下の顔を思い出す。
 あれは、子供だから許されることで……。
 今の殿下は成人したし、すっかり大人になったんだもの。
 もう、女性に対してそんなことをしてはいけないというのは分かっているはずだ。
 そう、殿下が触れる相手は……結婚する女性だろう。
「マー、たいのっ!」
 またもルゥイにせかされた。
「えーっと、王子がドラゴンに会ったところからね、これは……」
 有名な物語だ。ルゥイに読み聞かせながら、心の中には疑問符で満ちていた。
 ルゥイが私の産んだ子であれば……、父親は誰?
 どういう経緯で、私はルゥイを身ごもったの?
 何故一人で産もうと思ったの?
 ……どうして、ルゥイは殿下にそっくりなの?
 窓から、騒ぎが聞こえてきた。
 慌てて窓から見下ろすと、騎士たちの姿が見える。
 どうして、王都の騎士がいるの?
 制服が違う。この領にいる騎士じゃない。王家直属の騎士の制服だ……。
 まさか、ルゥイを探しに?
「ルゥイ、続きは後で読んであげるから、ちょっとここで待っててくれる?」
 クローゼットにルゥイを入れてドアを閉める。
「くらーい、きゃはは」
 ルゥイが暗いのが平気でよかった。楽しそうだ。
「しぃーよ、ルゥイ。かくれんぼ。見つからないようにね」
 と言っても分からないだろう。クローゼットの扉を開いて、王都で買った金平糖の瓶を手渡す。
「これ、食べて待っていて」
 口に金平糖を入れてしまえばルゥイは静かになる。金平糖は小さいから喉に詰まらせることはないし、たまにしか食べられないと分かっているから大事に口の中で味わってくれる。
 すぐに荷物を抱えて部屋を飛び出す。
 きっと、探しているのは私だろう。
 なら、私の姿を見れば追いかけてくるはず。
 店を出て、騎士たちが街の人と話をしているすきに走り出す。
「あ、待て、いや、お待ちくださいっ!」
 振り返ると焦った顔の騎士がこちらに駆け寄ろうとしている。
 逃げないと。捕まるにしても、できるだけ店から遠くで……。ルゥイだけはルゥイだけは……。
 そう思っていたのに、わずか4軒先の店さきで捕まってしまった。
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