Who am I.

花やま

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1、命日

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―――ねえ、どんな子にしよっか。

(私達と同い年くらいの女の子がいいなあ。)

―――***は、ちょっとお姉ちゃんな方がいいなあ。

(**ちゃんは、いつも上の兄弟欲しがってたもんね。いいよ、ひとつお姉ちゃんの子にしよう。見た目はどんな感じにする?)

―――外国のお姫様みたいな子が良い!金色のきらきらした髪に、空みたいな青い目。
そんなお姉ちゃんが居たら、毎日綺麗な声でお歌を歌ってもらうんだ。

(それいいね。お歌の上手なお姉ちゃん、私も欲しい。凄くオシャレで、可愛いドレスを着るの。)

―――それすっごく素敵!豪華なお屋敷で、毎日三人で楽しく過ごしたい!ああでも、優しい使用人さんや不思議なペットもいたらもっと面白いよね?

(うん。ねえ、お姉ちゃんの名前はどうする?)

―――二人の名前から取ろうよ!***の*と、それから・・・。


けたたましい電子音が部屋に響いていた。
ぼんやりと目を開ければ、長編映画を見終えたような倦怠感が身体をつつむ。
何か懐かしい夢を見ていたことだけが分かるが、内容は吹き消されたようにおぼろげになってしまっていた。

「・・・起きなきゃ。」
身体にまとわりついてくるような蒸し暑さを引き剥がすように、起き上がって寝巻き代わりのTシャツを脱ぐ。袖口に少しだけしわの寄った制服に腕を通して、部屋にかけられた姿見の前へと立った。
昨日までは無かった目のクマが、今日1日の重苦しさを物語っているみたいに見えた。

今日は、どうしても忘れられない1日。

かつて親友だった彼女が、事故で死んだ日。




目的の場所に着いたのは、ちょうど昼の3時くらいだった。
少し砂埃のついたインターホンを押すと、中から小さな足音が近づいてくるのが分かる。
「はい。・・・あら、奏ちゃん!いらっしゃい。」
静かにドアが開いた拍子に、ほんのりとお線香の匂いが漂った。
「こんにちは、おばさん。・・・伊織いおりちゃんの命日だから、お参りにきました。」
「あらまぁ、暑いのにありがとうね。今日は学校だったの?」
「はい、少し用事があって・・・。」
「夏休みなのに大変ねぇ。もしかして、部活?」
部活のことを口にしながら、伊織の母の目がほんの少しだけ潤んだように見えた。
「いいえ、違いますよ。・・・中学三年の夏休みだから、そろそろ受験のことも考えなくちゃって、学校の図書室に行って来たんです。」
その拍子に、みるみるうちに伊織の母の目が涙ぐんだ。
やってしまった、と思ったがもう遅い。
「そうよね、もう三年生なのよね・・・。早いわねえ、もう受験生だなんて・・・。」
「そう、ですね・・・。」
「・・・ごめんなさいね。さあ、暑いし上がって頂戴。冷たい飲み物もあるからね。」
そう言って、少し背中を丸めながら伊織の母が家の奥へと進んでいく。
(きっと、心中では伊織のことを考えているんだろうな。)
か細い声で「お邪魔します」と一言かけ、ローファーを脱いだ。

伊織の写真が飾られている仏間は、去年から何も変わっていなかった。
細かい作法が分からないので、下手なことはしないよう簡単に手を合わせるだけにしておく。
顔を上げて辺りを見れば、朝から客人が来ていたらしく机の上にはお菓子や果物が所狭しと並んでいた。
「ごめんなさい、手ぶらで・・・。」
「そんなのいいわよ、こうやって来てくれるだけで十分嬉しいわ。私も、もちろん伊織も。」
出してくれた冷たい麦茶を飲みながら、行き場も無く視線をさ迷わせた。
よく分からない白黒のおじいさんの隣に飾られた真新しいカラー写真は、まるで卒業アルバムの中の一枚みたいに見えた。
純粋な笑顔を見ているうちに、胸の中に黒いもやが溜まって息が苦しくなる。
居心地の悪い沈黙の中、伊織の母が遠慮がちに口を開いた。
「・・・今日もね、たくさん生徒さんや先生が挨拶に来て下さったの。」
「そうですか。・・・伊織ちゃんは、皆から人気でしたもんね。」
たくさんの人の輪の中で、嬉しそうに微笑む彼女の姿が思い出される。
明るい彼女は、年齢も性別も関係なく皆から大事にされるような人間だった。
「でも、奏ちゃんはやっぱり特別なの。」
「え?」
「伊織はたくさんお友達が居たけど、奏ちゃんのことを話している時が一番楽しそうだったのよ。」
「・・・。」
「だから・・・。これ、奏ちゃんが貰ってくれないかしら?」
そう言いながら立ち上がり、お供え物の中に手を伸ばす。
「あの子と、よくお絵かきして遊んでたでしょ?受験で絵を描く余裕も無いかもしれないけど、もし高校でも絵を書くことがあれば・・・。」
彼女が手にしたものを捉えた瞬間、喉が何者かに締め付けられたみたいに空気が上手く取り込めなくなった。

「この色鉛筆を使って頂戴?」

こちらを見つめる伊織の母の瞳が、ぽっかりと空ろになっているように見えた。




あの後どうやって家に帰ってきたのかは、正直覚えていない。
気がつけば外が薄暗くなっていて、外灯が当然の様に我が家の玄関を照らしていた。
重い足取りで階段を上り、自分の部屋へと入って鞄を無造作に放り投げる。
中に入っている物になど一切関心が無かった。

やっぱり、彼女の命日参りなんて行くべきではなかったのだ。
不快な気持ちが全身をぐるぐると循環していく。


本当は、わざわざ今日学校になど行く必要が無かった。
朝からまっすぐ彼女の家に行くことが嫌で、言い訳がましく用事を作っただけだ。
(・・・もう寝よう。)
着替えも夕飯も気に留めず布団にうずくまると、そのまま視界がぼやけていく。

(・・・大嫌いだ。)
そう心の中で呟いたとたん、完全に意識が途切れた。



「ん・・・?」
目が覚めると、そこは見慣れない真っ白な部屋だった。
確かに私は自分の部屋のベッドで寝ていたはずだったのに、今自分はどこかの王室やお金持ちが使っていてもおかしくないようなアンティーク調のチェアに腰掛けていた。
焦って立ち上がると、さらりとした感触が膝を柔らかく撫でた。
「ここどこ?それに私、こんな服持ってたっけ?そもそも着替えてなんて・・・。」
質の良さげな生地の白いシャツワンピースを着て、胸元には赤いリボンが控えめにゆれていた。

そして、もうひとつ気になることがあった。
立ち上がった拍子に見えた『それ』が、無機質な部屋の中で異質を放っていた。

「・・・誰?」
真っ白な床には似つかわしくない、真っ黒な布を身にまとった白髪の人間が倒れていた。
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