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第二十一話 瑠璃と風邪
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ある日瑠璃が目を覚ますと・・・・・・女の子になっていた。
「・・・・・・は?」
最初に気づいたのは何故かパジャマがぶかぶかになっていたことである。最初はあれ?もしかして俺が寝てる間にパジャマがデカくなったのかな?とか思ったが、髪も伸びてるし、それにいつも下半身に感じるアレの存在を感じられなくなってしまっている。それで、枕元に置いてあるスマホを自撮りモードにしてようやく、瑠璃は自分が朝起きたら女の子になっているという、TSモノによくありがちなシチュエーションに見舞われているのだということに気がついた。
「いや・・・・・・この展開やるの遅すぎないか?」
こういうのをやるなら普通1話目とかだろう。なんで21話にもなってから・・・・・・しかも普段からTSに慣れている俺にこんな展開を・・・・・・・?
まあいいか。おそらく寝ぼけて、無意識に変身してしまったとかだろう。魔物と戦う夢でも見て、変身してしまったに違いない。なんだかおねしょみたいだが、多分そんな感じだろうと思う。
で、とりあえず瑠璃は変身を解こうとした。しかし───
「あれ?」
突然なんだかくらっときて、目の前が真っ白になり瑠璃はそのまま再びベッドの上へと仰向けに倒れてしまった。
「んー・・・・・・」
瑠璃は自分の額に手を当ててみる。炎熱系の能力にでも目覚めたのかと思うくらいに熱々になっていた。
「あれえ・・・・・・?」
瑠璃はとりあえず、スマホで今家にいる姉に連絡を入れるのだった。
・・・・・・
「うーん、どうやら風邪みたいだね」
瑠璃の姉、緑鏡花は連絡を見て即駆けつけ、額に手を当ててみたりお守りを使ってみたり色々したあとにそう言った。
「風邪かあ・・・・・・」
「全く、同じ家にいるのに急に電話で連絡してきて、何かと思ったら・・・・・・珍しいね瑠璃が風邪ひくなんて」
瑠璃は風邪など久しく引いたことがない。小学校低学年くらいの頃は割と体が弱くてしょっちゅう風邪やらインフルエンザやらで休んだりしていたのだが、高学年になってからは体も成長してきて丈夫になったのか、そんなに体を壊さなくなったのだ。
鏡花は体温計を見て言った。
「38度もあるぞ」
「38度。そんなにか」
「うん。完全に風邪だ。おそらく、その魔法少女状態で目覚めたのも風邪が理由だろうな。無意識に、体の不調を治そうとして寝ている間に変身したのだろう。ただ、無意識の変身だからちょっと不完全だな」
「ほんとだ」
瑠璃は自分の体を改めて見てみる。いつもは変身すると、髪は自動的にツインテールになるのだが、今は普通にストレートになっている。それに、いつもより気持ち短い気もする。あと、服がいつもの某プリキュアみたいな服装ではなく、さっきも言った通り寝る前に着てたパジャマである。
「魔法少女は魔力を自分の体内に循環させて、回復力を強化するという技能を持っている。おそらく、変身することでそれを使おうとしたのだろう。ただ、変身が不完全だから上手くそれを使えなかったらしいね。だから、風邪が完全に治りきらないで、朝になったということだと思う。まあそれに、その基本技能は体の傷を治す用のもので、病気を治すためのものじゃないからね」
「なるほど・・・・・・」
鏡花は、腰に手をあて、はーっと深くため息をついて言った。
「全く、どうせ例の先入捜査の時に、食事にかける時間が惜しいからってろくなものを食べてなかったのだろう?それで体を壊したんだよ、きっと」
「い、いやけっこういいものを食べてたよ・・・・・・」
「具体的には?」
「えっと、大体おさかな食べながら紅茶を飲んでいたかな・・・・・?」
瑠璃はややおずおずと言った。思い返してみれば、ほとんど魚と紅茶だけを摂取していただけだった気がする。
「・・・・・・何その食生活。一体何があったらそんなことになるんだい?・・・・・・全く、ちゃんとバランスよくいろんなものを食べなきゃ体壊すのは当たり前だろう?」
「い、いやけっこういろんなものをバランスよく食べてたよ!焼き魚とか、煮魚とか・・・・・・海鮮丼とか・・・・・・」
「ただいろんな調理法で魚を食べただけじゃないか」
それはそう。
実際瑠璃が潜入捜査の時に食べたちゃんとしたものといえば、初日辺りに鏡花が差し入れとして持ってきてくれたお弁当を食べたくらいだ。瑠璃がセイと一緒にお昼休みを過ごした時に、食べてたアレだ。あれ以外は、大体近所のスーパーで魚関係のものばっかり食べてて、偏った食生活になっていた気がする。
それで徹夜とかして・・・・・・それは風邪もひくだろう。
「まあ今日は安静にするんだね。学校には私から連絡入れとくから・・・・・・ああ、もしセカンドの仕事でどうしても休めないものがあるなら、私が代わりにいくから」
「いや大丈夫だよ・・・・・・仕方ない。今日はお言葉に甘えて、休むとしようか」
「それがいいよ」
「ああじゃあ、変身とかなきゃ・・・・・・」
「今日はそのままでいいんじゃないのかい?」
「は?なんで?」
「いや、今日はなんとなく妹をお世話したい気分だからさ」
「何言ってんの・・・・・・?」
勝手なことを言ってんな、と瑠璃は思ったが今日風邪になって鏡花に迷惑をかけることになったのは瑠璃自身のせいなので、仕方なく鏡花の言葉に従ってそのままでいることにした。
「わかったよ。今日はこのままでいる」
「おや、珍しい。でも嬉しいね」
と、いうことで、今日は魔法少女モード(不完全)で姉・鏡花の看病を受けることになったのだった。
◇
瑠璃はとりあえず冷えピタを額に貼って寝ていた。パジャマは着替えてある。瑠璃の妹、つまり緑家の一番下の妹、佳織のお古(?)のパジャマである。
「もー、わざわざ佳織の古いパジャマまで引っ張り出してこなくてもよかったのに・・・・・・」
「いやいや、あのままぶかぶかのパジャマでいるわけにもいかないだろう?あれじゃ風通しが良くて、余計風邪が悪化してしまうよ」
「まあ確かにそうか・・・・・・そういえば、佳織は?」
「佳織はもう学校に行ったよ」
今日は普通に平日なので、佳織は学校に行った。緑家は夫婦とも共働きなので、母親も父親も家にはおらず、鏡花と瑠璃の2人きりである。
鏡花はベッドのそばに椅子を持ってきて、瑠璃の顔を覗き込んでいたが、やがて立ち上がって言った。
「さてと・・・・・・とりあえずおかゆでも作ってくるか。何かお腹に入れておかないと、薬を飲めないからね」
「おかゆか・・・・・・変なものを入れないでくれよ?」
「入れないさ。普通に作ってくるよ」
「ほんとに?不安だなあ・・・・・・」
鏡花は小説のためならいろんなことを経験しようとする人間だ。そんな鏡花がおかゆを作るとなったら、せっかくだからと風邪薬混ぜ込みおかゆとか、紫色のおかゆとかを作るとかして、この機会を利用して変なことを経験してみようとしかねないのである。
「ちょっと待っていてくれたまえ」
鏡花はそう言って、一旦瑠璃の部屋から出ていった。
「不安だ・・・・・・」
瑠璃は不安に思いつつも天井を見つめながら待っていると、やがて鏡花がおぼんに土鍋を乗せて戻ってきた。いつも家にいる時と同じで着物を着ているので、着物にエプロンというややミスマッチな格好になっている。
「お待たせー。王道の土鍋おかゆだよー」
そう言って鏡花は瑠璃のもとへとおかゆを持ってくる。瑠璃はベッドの上に起き直った。
「あれ?普通のおかゆだ・・・・・・・」
蓋を開けられた土鍋の中身を見ると、意外なことに普通のおかゆが入っていた。真っ白なおかゆの上に、梅干しが乗っている様は、オーソドックスながらも美味しそうなおかゆだ。
「意外だな。姉さんが普通におかゆを作ってくるなんて」
「ああ、私も漫画とかアニメに出てくるメシマズキャラよろしく、風邪薬混ぜ込みおかゆとか紫色のおかゆとかを作ろうとしたんだけど・・・・・・流石に思い止まったよ」
「思い止まってくれてよかった・・・・・・」
鏡花は瑠璃に笑いかけながら言った。
「私はこんなんでも一応は瑠璃と佳織の姉だからね。妹が風邪をひいて大変だって時に、ふざけるようなことはしないさ」
「うん・・・・・・いや、俺は妹じゃないんだよ妹じゃ。自然に言うからうっかり流しそうになったわ。・・・・・・姉さんはずるいよ。姉さんは。普段はあれだけ周りを振り回す癖に、肝心な時だけ弟妹思いのいい姉になるんだからさ」
「ははは、ふむ、それじゃあ良き姉である私は、瑠璃の世話をするとしようかな」
鏡花は、ベッドのそばの椅子に座ると、おぼんに乗ったスプーンでおかゆをすくうと瑠璃の口元へと持ってった。
「ほら、私が手ずから食べさせてあげよう」
「・・・・・・前もこんなことしなかったか?」
「こういうのは何度やってもいいものなんだよ」
前は人前だったので恥ずかしがった瑠璃だが、今は2人だけしかいない。瑠璃は素直に口を開けて、おかゆを食べさせてもらった。
「すりおろしたりんごもあるから、このあと食べようね」
「・・・・・・うん」
さて、瑠璃はおかゆとすりおろしりんごを食べ、風邪薬を飲んだあとはしばらく鏡花と話をしていたが、やがて鏡花は
「さてと、そろそろ寝た方がいいだろう。私はこれで去るよ」
と言って、立ちあがろうとした。しかし────
「ん?」
きゅっ、と服の裾を掴まれた。瑠璃はやや恥ずかしそうにしながら、こう言った。
「・・・・・・あのさ、もし用事がないんだったらさ・・・・・・・もう少しだけ、話していかないか?」
風邪の時、人はけっこう不安になるものだ。鏡花はふふっと笑って座り直して、瑠璃に向かって笑いかけた。
「そうだね。別に用事もないことだし、もう少しだけ瑠璃と話していこうかな。かわいい妹の頼みだしね」
「だから妹じゃないって・・・・・・って、撫でるな!」
こうして、瑠璃と鏡花はまたしばらくいろんな話をして、やがて瑠璃が寝てしまうと鏡花は瑠璃を起こさないように、そっと部屋を出ていくのだった。
こうして、瑠璃の風邪の一日は鏡花のおかげで、悪化することもなく無事(?)に過ぎていったのであった。
◇
で、翌日。
完全に復活した瑠璃の前に出されたのは、紫色に蠢く名状しがたいおかゆのような何かだった。
「・・・・・・おい」
瑠璃がじろっと鏡花を睨みつけると、鏡花は笑いながら言った。
「いやー、もう完全に回復したみたいだし、今日はふざけてみてもいいかなと思ってな・・・・・・!」
「台無しだよ色々と」
にこにこしている鏡花を見て、瑠璃はため息をつきつつも、仕方なくその名状し難いおかゆを口へと運ぶのであった・・・・・・。
どうやら、いいオチもついたようである。
「・・・・・・は?」
最初に気づいたのは何故かパジャマがぶかぶかになっていたことである。最初はあれ?もしかして俺が寝てる間にパジャマがデカくなったのかな?とか思ったが、髪も伸びてるし、それにいつも下半身に感じるアレの存在を感じられなくなってしまっている。それで、枕元に置いてあるスマホを自撮りモードにしてようやく、瑠璃は自分が朝起きたら女の子になっているという、TSモノによくありがちなシチュエーションに見舞われているのだということに気がついた。
「いや・・・・・・この展開やるの遅すぎないか?」
こういうのをやるなら普通1話目とかだろう。なんで21話にもなってから・・・・・・しかも普段からTSに慣れている俺にこんな展開を・・・・・・・?
まあいいか。おそらく寝ぼけて、無意識に変身してしまったとかだろう。魔物と戦う夢でも見て、変身してしまったに違いない。なんだかおねしょみたいだが、多分そんな感じだろうと思う。
で、とりあえず瑠璃は変身を解こうとした。しかし───
「あれ?」
突然なんだかくらっときて、目の前が真っ白になり瑠璃はそのまま再びベッドの上へと仰向けに倒れてしまった。
「んー・・・・・・」
瑠璃は自分の額に手を当ててみる。炎熱系の能力にでも目覚めたのかと思うくらいに熱々になっていた。
「あれえ・・・・・・?」
瑠璃はとりあえず、スマホで今家にいる姉に連絡を入れるのだった。
・・・・・・
「うーん、どうやら風邪みたいだね」
瑠璃の姉、緑鏡花は連絡を見て即駆けつけ、額に手を当ててみたりお守りを使ってみたり色々したあとにそう言った。
「風邪かあ・・・・・・」
「全く、同じ家にいるのに急に電話で連絡してきて、何かと思ったら・・・・・・珍しいね瑠璃が風邪ひくなんて」
瑠璃は風邪など久しく引いたことがない。小学校低学年くらいの頃は割と体が弱くてしょっちゅう風邪やらインフルエンザやらで休んだりしていたのだが、高学年になってからは体も成長してきて丈夫になったのか、そんなに体を壊さなくなったのだ。
鏡花は体温計を見て言った。
「38度もあるぞ」
「38度。そんなにか」
「うん。完全に風邪だ。おそらく、その魔法少女状態で目覚めたのも風邪が理由だろうな。無意識に、体の不調を治そうとして寝ている間に変身したのだろう。ただ、無意識の変身だからちょっと不完全だな」
「ほんとだ」
瑠璃は自分の体を改めて見てみる。いつもは変身すると、髪は自動的にツインテールになるのだが、今は普通にストレートになっている。それに、いつもより気持ち短い気もする。あと、服がいつもの某プリキュアみたいな服装ではなく、さっきも言った通り寝る前に着てたパジャマである。
「魔法少女は魔力を自分の体内に循環させて、回復力を強化するという技能を持っている。おそらく、変身することでそれを使おうとしたのだろう。ただ、変身が不完全だから上手くそれを使えなかったらしいね。だから、風邪が完全に治りきらないで、朝になったということだと思う。まあそれに、その基本技能は体の傷を治す用のもので、病気を治すためのものじゃないからね」
「なるほど・・・・・・」
鏡花は、腰に手をあて、はーっと深くため息をついて言った。
「全く、どうせ例の先入捜査の時に、食事にかける時間が惜しいからってろくなものを食べてなかったのだろう?それで体を壊したんだよ、きっと」
「い、いやけっこういいものを食べてたよ・・・・・・」
「具体的には?」
「えっと、大体おさかな食べながら紅茶を飲んでいたかな・・・・・?」
瑠璃はややおずおずと言った。思い返してみれば、ほとんど魚と紅茶だけを摂取していただけだった気がする。
「・・・・・・何その食生活。一体何があったらそんなことになるんだい?・・・・・・全く、ちゃんとバランスよくいろんなものを食べなきゃ体壊すのは当たり前だろう?」
「い、いやけっこういろんなものをバランスよく食べてたよ!焼き魚とか、煮魚とか・・・・・・海鮮丼とか・・・・・・」
「ただいろんな調理法で魚を食べただけじゃないか」
それはそう。
実際瑠璃が潜入捜査の時に食べたちゃんとしたものといえば、初日辺りに鏡花が差し入れとして持ってきてくれたお弁当を食べたくらいだ。瑠璃がセイと一緒にお昼休みを過ごした時に、食べてたアレだ。あれ以外は、大体近所のスーパーで魚関係のものばっかり食べてて、偏った食生活になっていた気がする。
それで徹夜とかして・・・・・・それは風邪もひくだろう。
「まあ今日は安静にするんだね。学校には私から連絡入れとくから・・・・・・ああ、もしセカンドの仕事でどうしても休めないものがあるなら、私が代わりにいくから」
「いや大丈夫だよ・・・・・・仕方ない。今日はお言葉に甘えて、休むとしようか」
「それがいいよ」
「ああじゃあ、変身とかなきゃ・・・・・・」
「今日はそのままでいいんじゃないのかい?」
「は?なんで?」
「いや、今日はなんとなく妹をお世話したい気分だからさ」
「何言ってんの・・・・・・?」
勝手なことを言ってんな、と瑠璃は思ったが今日風邪になって鏡花に迷惑をかけることになったのは瑠璃自身のせいなので、仕方なく鏡花の言葉に従ってそのままでいることにした。
「わかったよ。今日はこのままでいる」
「おや、珍しい。でも嬉しいね」
と、いうことで、今日は魔法少女モード(不完全)で姉・鏡花の看病を受けることになったのだった。
◇
瑠璃はとりあえず冷えピタを額に貼って寝ていた。パジャマは着替えてある。瑠璃の妹、つまり緑家の一番下の妹、佳織のお古(?)のパジャマである。
「もー、わざわざ佳織の古いパジャマまで引っ張り出してこなくてもよかったのに・・・・・・」
「いやいや、あのままぶかぶかのパジャマでいるわけにもいかないだろう?あれじゃ風通しが良くて、余計風邪が悪化してしまうよ」
「まあ確かにそうか・・・・・・そういえば、佳織は?」
「佳織はもう学校に行ったよ」
今日は普通に平日なので、佳織は学校に行った。緑家は夫婦とも共働きなので、母親も父親も家にはおらず、鏡花と瑠璃の2人きりである。
鏡花はベッドのそばに椅子を持ってきて、瑠璃の顔を覗き込んでいたが、やがて立ち上がって言った。
「さてと・・・・・・とりあえずおかゆでも作ってくるか。何かお腹に入れておかないと、薬を飲めないからね」
「おかゆか・・・・・・変なものを入れないでくれよ?」
「入れないさ。普通に作ってくるよ」
「ほんとに?不安だなあ・・・・・・」
鏡花は小説のためならいろんなことを経験しようとする人間だ。そんな鏡花がおかゆを作るとなったら、せっかくだからと風邪薬混ぜ込みおかゆとか、紫色のおかゆとかを作るとかして、この機会を利用して変なことを経験してみようとしかねないのである。
「ちょっと待っていてくれたまえ」
鏡花はそう言って、一旦瑠璃の部屋から出ていった。
「不安だ・・・・・・」
瑠璃は不安に思いつつも天井を見つめながら待っていると、やがて鏡花がおぼんに土鍋を乗せて戻ってきた。いつも家にいる時と同じで着物を着ているので、着物にエプロンというややミスマッチな格好になっている。
「お待たせー。王道の土鍋おかゆだよー」
そう言って鏡花は瑠璃のもとへとおかゆを持ってくる。瑠璃はベッドの上に起き直った。
「あれ?普通のおかゆだ・・・・・・・」
蓋を開けられた土鍋の中身を見ると、意外なことに普通のおかゆが入っていた。真っ白なおかゆの上に、梅干しが乗っている様は、オーソドックスながらも美味しそうなおかゆだ。
「意外だな。姉さんが普通におかゆを作ってくるなんて」
「ああ、私も漫画とかアニメに出てくるメシマズキャラよろしく、風邪薬混ぜ込みおかゆとか紫色のおかゆとかを作ろうとしたんだけど・・・・・・流石に思い止まったよ」
「思い止まってくれてよかった・・・・・・」
鏡花は瑠璃に笑いかけながら言った。
「私はこんなんでも一応は瑠璃と佳織の姉だからね。妹が風邪をひいて大変だって時に、ふざけるようなことはしないさ」
「うん・・・・・・いや、俺は妹じゃないんだよ妹じゃ。自然に言うからうっかり流しそうになったわ。・・・・・・姉さんはずるいよ。姉さんは。普段はあれだけ周りを振り回す癖に、肝心な時だけ弟妹思いのいい姉になるんだからさ」
「ははは、ふむ、それじゃあ良き姉である私は、瑠璃の世話をするとしようかな」
鏡花は、ベッドのそばの椅子に座ると、おぼんに乗ったスプーンでおかゆをすくうと瑠璃の口元へと持ってった。
「ほら、私が手ずから食べさせてあげよう」
「・・・・・・前もこんなことしなかったか?」
「こういうのは何度やってもいいものなんだよ」
前は人前だったので恥ずかしがった瑠璃だが、今は2人だけしかいない。瑠璃は素直に口を開けて、おかゆを食べさせてもらった。
「すりおろしたりんごもあるから、このあと食べようね」
「・・・・・・うん」
さて、瑠璃はおかゆとすりおろしりんごを食べ、風邪薬を飲んだあとはしばらく鏡花と話をしていたが、やがて鏡花は
「さてと、そろそろ寝た方がいいだろう。私はこれで去るよ」
と言って、立ちあがろうとした。しかし────
「ん?」
きゅっ、と服の裾を掴まれた。瑠璃はやや恥ずかしそうにしながら、こう言った。
「・・・・・・あのさ、もし用事がないんだったらさ・・・・・・・もう少しだけ、話していかないか?」
風邪の時、人はけっこう不安になるものだ。鏡花はふふっと笑って座り直して、瑠璃に向かって笑いかけた。
「そうだね。別に用事もないことだし、もう少しだけ瑠璃と話していこうかな。かわいい妹の頼みだしね」
「だから妹じゃないって・・・・・・って、撫でるな!」
こうして、瑠璃と鏡花はまたしばらくいろんな話をして、やがて瑠璃が寝てしまうと鏡花は瑠璃を起こさないように、そっと部屋を出ていくのだった。
こうして、瑠璃の風邪の一日は鏡花のおかげで、悪化することもなく無事(?)に過ぎていったのであった。
◇
で、翌日。
完全に復活した瑠璃の前に出されたのは、紫色に蠢く名状しがたいおかゆのような何かだった。
「・・・・・・おい」
瑠璃がじろっと鏡花を睨みつけると、鏡花は笑いながら言った。
「いやー、もう完全に回復したみたいだし、今日はふざけてみてもいいかなと思ってな・・・・・・!」
「台無しだよ色々と」
にこにこしている鏡花を見て、瑠璃はため息をつきつつも、仕方なくその名状し難いおかゆを口へと運ぶのであった・・・・・・。
どうやら、いいオチもついたようである。
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