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プロローグ
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梓浜学園高等部一年の、僕、穂高千雪は、教室のすみにある己の席で、ひとり弁当に箸をつけていた。
昼食を食べながら、教室の中、楽しそうに話をする同級生たちを見やる。
トレンチコート風の大きな襟に、丈が長めのジャケットと、ワイシャツとズボンはすべて黒で統一されている。そこに銀のネクタイを合わせる、学園の個性的な制服を着こなす彼らは、どこか大人びていてファッショナブルだ。
でも僕には、この制服は似合わない。
制服の色目はシックだけど、デザインが奇抜だから、平凡顔の僕が着ると薄い印象になっちゃう。
身長が一六四センチと若干低めな上に、制服は少し大きめだから、子供っぽく見える。うぅ、母がいずれ大きくなると期待してくれたわけだから、ジャストサイズじゃないことを怒ることはできない。
短めにカットした髪型にも、丸いフレームの眼鏡にも、合わないなぁ。
だが、持って生まれた自分の地味さを改善できるわけもなく、ただ華のある同級生たちを羨望の眼差しでみつめるしかない。
僕は、生徒の中にひっそり埋没している、ちょっとイケていない男子高校生。
だけど、校内放送が流れると、たちまちクラスメイトの視線を集める存在になってしまうのだ。
「一のA、穂高千雪。至急生徒会室まで」
昼休みの食事どきに、全校生徒に知らしめるような無愛想な呼び出しがかかり。クラスメイトは俺に目を向けながらひそひそ話をする。
その居心地悪さから逃げるように、僕は席を立った。
廊下を出ると、女子生徒たちも僕を冷たい視線で見やる。
女子の制服は、上は男子生徒と同じデザインだが、スカートは緑系のチェック柄で、ネクタイが赤いリボンに変わる。男子はシックで、女子は明るい印象の制服なのだけど。可愛い制服を着こなす彼女たちは、僕とすれ違いざま『下僕だ』と毒舌を奮った。
その心無い言葉に、僕は瞳を揺らすが。
うつむいたら負けだと思って、背筋をまっすぐに伸ばしたまま生徒会室へと向かうのだった。
「遅い」
生徒会室の扉を開けた途端に怒られる。まぁ、いつものことだ。
校内放送で僕を呼び出したのは、生徒会長の藤代永輝。
アーモンド形の目元、小顔で輪郭はシャープ。十人中十人が美しいと称する容貌に、怒りの色がにじんでいる。
怒りたいのはこっちなんですけどぉ。
一八七センチの長身、均整の取れた体躯には、制服の黒シャツ銀ネクタイのシックな取り合わせがあつらえたかのように良く似合う。
薄茶の髪は長すぎず短すぎず、さらりと揺れた。
麗しい容姿のみならず、成績優秀、スポーツ万能、性格も明るく非の打ち所がない。大多数の人間が、藤代にひと目で魅了されるのだ。
「なんでずっと黙っているんだ? 穂高」
耳に穏やかに響く低い声で、彼は僕に言う。
なにもかもが及第点の男が、声もイケボとか、どんだけ差をつければ気が済むのだろう、神様め。
つか、僕は最短ルートで生徒会室までやってきたんだが? 遅いとか言うな。
しかし言い訳をすれば藤代は絶対に機嫌を損ねるから、黙っていただけだ。
「…同クラなのだから、わざわざ放送をかけて呼び出さないでくれ。で、用件はなんだ?」
眼鏡のつるを中指で押し上げ、素っ気ない声でたずねる。
藤代の、長いまつ毛、濃すぎない二重、流線を描く眉、その完璧な黄金比が不快にゆがんだ。
「午後の会議で使うプリントだ。セットにして、クリップでとめてくれ」
用件のみ伝える藤代に、僕はため息を飲みこんで、無言で椅子に座る。そして目の前に積まれたプリント、三つの山の上から、一枚ずつ取ってクリップでとめていった。単純作業だな。
生徒会室には、生徒会長が座る大きな執務机と、部屋の中央に円卓が置いてある。円卓は生徒会役員が座り、そこで仕事やら話し合いやらするみたい。
よくは知らないよ、僕は生徒会役員じゃないからね。
この雑用も、本来なら生徒会役員がするものだと思うけど。
なんでか、生徒会役員でもない僕がそれをやる羽目になっている。
なんでかって…まぁ、理由はわかっているけど。
藤代はなにかと僕を呼び出し、用事を押しつける。いつも放送をかけて呼び出すから、僕は影ながら『生徒会長の下僕』と言われているんだ。
そのことを、藤代は知っているのかな?
はぁ、なんでこんなことになってしまったのか。
僕は、すべての始まりである、藤代がこの学園に編入してきた日のことを思い返した。
昼食を食べながら、教室の中、楽しそうに話をする同級生たちを見やる。
トレンチコート風の大きな襟に、丈が長めのジャケットと、ワイシャツとズボンはすべて黒で統一されている。そこに銀のネクタイを合わせる、学園の個性的な制服を着こなす彼らは、どこか大人びていてファッショナブルだ。
でも僕には、この制服は似合わない。
制服の色目はシックだけど、デザインが奇抜だから、平凡顔の僕が着ると薄い印象になっちゃう。
身長が一六四センチと若干低めな上に、制服は少し大きめだから、子供っぽく見える。うぅ、母がいずれ大きくなると期待してくれたわけだから、ジャストサイズじゃないことを怒ることはできない。
短めにカットした髪型にも、丸いフレームの眼鏡にも、合わないなぁ。
だが、持って生まれた自分の地味さを改善できるわけもなく、ただ華のある同級生たちを羨望の眼差しでみつめるしかない。
僕は、生徒の中にひっそり埋没している、ちょっとイケていない男子高校生。
だけど、校内放送が流れると、たちまちクラスメイトの視線を集める存在になってしまうのだ。
「一のA、穂高千雪。至急生徒会室まで」
昼休みの食事どきに、全校生徒に知らしめるような無愛想な呼び出しがかかり。クラスメイトは俺に目を向けながらひそひそ話をする。
その居心地悪さから逃げるように、僕は席を立った。
廊下を出ると、女子生徒たちも僕を冷たい視線で見やる。
女子の制服は、上は男子生徒と同じデザインだが、スカートは緑系のチェック柄で、ネクタイが赤いリボンに変わる。男子はシックで、女子は明るい印象の制服なのだけど。可愛い制服を着こなす彼女たちは、僕とすれ違いざま『下僕だ』と毒舌を奮った。
その心無い言葉に、僕は瞳を揺らすが。
うつむいたら負けだと思って、背筋をまっすぐに伸ばしたまま生徒会室へと向かうのだった。
「遅い」
生徒会室の扉を開けた途端に怒られる。まぁ、いつものことだ。
校内放送で僕を呼び出したのは、生徒会長の藤代永輝。
アーモンド形の目元、小顔で輪郭はシャープ。十人中十人が美しいと称する容貌に、怒りの色がにじんでいる。
怒りたいのはこっちなんですけどぉ。
一八七センチの長身、均整の取れた体躯には、制服の黒シャツ銀ネクタイのシックな取り合わせがあつらえたかのように良く似合う。
薄茶の髪は長すぎず短すぎず、さらりと揺れた。
麗しい容姿のみならず、成績優秀、スポーツ万能、性格も明るく非の打ち所がない。大多数の人間が、藤代にひと目で魅了されるのだ。
「なんでずっと黙っているんだ? 穂高」
耳に穏やかに響く低い声で、彼は僕に言う。
なにもかもが及第点の男が、声もイケボとか、どんだけ差をつければ気が済むのだろう、神様め。
つか、僕は最短ルートで生徒会室までやってきたんだが? 遅いとか言うな。
しかし言い訳をすれば藤代は絶対に機嫌を損ねるから、黙っていただけだ。
「…同クラなのだから、わざわざ放送をかけて呼び出さないでくれ。で、用件はなんだ?」
眼鏡のつるを中指で押し上げ、素っ気ない声でたずねる。
藤代の、長いまつ毛、濃すぎない二重、流線を描く眉、その完璧な黄金比が不快にゆがんだ。
「午後の会議で使うプリントだ。セットにして、クリップでとめてくれ」
用件のみ伝える藤代に、僕はため息を飲みこんで、無言で椅子に座る。そして目の前に積まれたプリント、三つの山の上から、一枚ずつ取ってクリップでとめていった。単純作業だな。
生徒会室には、生徒会長が座る大きな執務机と、部屋の中央に円卓が置いてある。円卓は生徒会役員が座り、そこで仕事やら話し合いやらするみたい。
よくは知らないよ、僕は生徒会役員じゃないからね。
この雑用も、本来なら生徒会役員がするものだと思うけど。
なんでか、生徒会役員でもない僕がそれをやる羽目になっている。
なんでかって…まぁ、理由はわかっているけど。
藤代はなにかと僕を呼び出し、用事を押しつける。いつも放送をかけて呼び出すから、僕は影ながら『生徒会長の下僕』と言われているんだ。
そのことを、藤代は知っているのかな?
はぁ、なんでこんなことになってしまったのか。
僕は、すべての始まりである、藤代がこの学園に編入してきた日のことを思い返した。
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2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
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(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
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