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19 君にメロメロだ 藤代side
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僕がいなくなったら…と千雪に聞かれ、俺ははなはだしく動揺した。
「君の前から、僕がいなくなったら。学校にも、家にも、近所にもいなくなったら…」
「そんなの、許さないっ。地の果てまでも追いかけて、決して逃がさない。必ず探し出す」
その場面を思い浮かべ、俺の胸に狂気的な怒りが巻き起こった。
千雪が俺の前から姿を消す? は? あり得ない。
想像だけで、耐えがたい。腹の底が煮えたぎる。いらだたしい。燃える感情が胸に渦巻いて焼けただれるかのように痛くなる。
千雪を完全に失ったら…そのことは考えることを脳が拒否した。想像でも、無理無理無理。
「いなくなるくらいなら殺してやる。そう思わない?」
千雪の透明な視線が、俺の体を貫いた。
いなくなったときのことを想像しただけで激昂する、己の激情を千雪に見透かされた。
俺は、操られたかのように、本音が口をついた。
これを言ったら、千雪の信用を失う。それがわかっているというのに、なぜか自分で自分を止められない。
「そう…かも」
「だよね。君はそういう男だよ」
千雪がまぶたを伏せたと同時に、俺は大きく息を吐き出せた。
「なに? 今の…言いたくない本音を言わせるような、そんな能力が千雪にもあるんじゃない?」
千雪に肯定してしまった、己が信じられない。
俺の能力が効かない千雪だ、なにかしらの能力があってもおかしくはないかも。俺の能力をしのぐような…。
現に、こうして言わないでおきたい本音を口にしてしまった。
だが千雪は、俺の疑念を軽く笑い飛ばす。
「はは、まさか。僕は普通の人間だ」
「千雪はいつも、普通だって言うけど。千雪は絶対に普通じゃないからな。俺の能力が効かないのがそもそも普通じゃないんだからな」
「効いているだろう? 君にメロメロだ」
そう言う千雪の瞳は、冴え冴えとしていて、まったく自分に溺れているようには見えないのだった。
俺はいかにも拗ねていますというように、口をとがらせた。
「だったら…メロメロなら、生徒会に入ってくれるはずだ」
「それとこれとは別」
「…ケチ」
俺は千雪の肩を抱き寄せて、キスした。
彼がメロメロなのか、確かめたくて。
とはいえ、メロメロではないことは最初からわかっていることだ。わかっているけど、能力が効いてもいないのに身を委ねてくれる千雪を、俺のほうが手放せないのだ。
好きだから。千雪も俺を好きであってほしい。
キスが好きだという理由でもいい。千雪とキスができるなら、それでもいい。
千雪がメロメロなんじゃない。俺が千雪にメロメロなんだ。
彼の気持ちを欲しがって、俺は千雪の髪を左手で撫でながら情熱的にくちづける。少しでも彼が気持ち良くなるように、柔らかくなめらかな千雪の桃色の舌に舌を絡めたり、上あごや歯列を舌でくすぐったり。千雪が悦楽の吐息を漏らすまで愛撫し続けた。
「ん…ふ…」
艶めいた声を耳にし、俺はキスをほどく。
千雪の唇が色づいて少し赤くなっている。濡れた口元を、恥じらうように千雪が手で押さえた、その仕草がとにかく可愛くて、萌える。
あぁ、今すぐにでも押し倒して、千雪の白い肌に吸いつきたい。
そんな衝動に駆られるが、千雪の本心がわかるまでは下手な行動はとれない。妄想は妄想で終わらせて、グッとこらえた。
「今日、家に寄れよ」
「わかった」
すぐに返ってきた千雪の答えに、俺は気を良くする。
嫌いなやつの家に着いては来ないだろう。そんなふうに、俺は千雪をいつも試していた。
ここまでは、いい。この先はダメ。
家に寄るのはオッケー、生徒会はダメ、みたいに。
能力が効いていなくても、拒まれないのは、千雪が俺を許しているからだ。
好かれているからだ。
そう、自分に言い聞かせている。
「早く、プリントを寄越せ。昼休みが終わるぞ」
だけど、千雪はすぐに、色気のないことを言う。
恋人同士が密室にいるのだ、もっとイチャイチャしたいのに。そんな気持ちで俺は千雪を睨むが。
でも、放課後にこの書類が必要なことも事実。
仕方なく、俺は作業に戻るのだった。
でもまぁ、こうして千雪と雑用するのは楽しいから、それだけでもいいか。
「君の前から、僕がいなくなったら。学校にも、家にも、近所にもいなくなったら…」
「そんなの、許さないっ。地の果てまでも追いかけて、決して逃がさない。必ず探し出す」
その場面を思い浮かべ、俺の胸に狂気的な怒りが巻き起こった。
千雪が俺の前から姿を消す? は? あり得ない。
想像だけで、耐えがたい。腹の底が煮えたぎる。いらだたしい。燃える感情が胸に渦巻いて焼けただれるかのように痛くなる。
千雪を完全に失ったら…そのことは考えることを脳が拒否した。想像でも、無理無理無理。
「いなくなるくらいなら殺してやる。そう思わない?」
千雪の透明な視線が、俺の体を貫いた。
いなくなったときのことを想像しただけで激昂する、己の激情を千雪に見透かされた。
俺は、操られたかのように、本音が口をついた。
これを言ったら、千雪の信用を失う。それがわかっているというのに、なぜか自分で自分を止められない。
「そう…かも」
「だよね。君はそういう男だよ」
千雪がまぶたを伏せたと同時に、俺は大きく息を吐き出せた。
「なに? 今の…言いたくない本音を言わせるような、そんな能力が千雪にもあるんじゃない?」
千雪に肯定してしまった、己が信じられない。
俺の能力が効かない千雪だ、なにかしらの能力があってもおかしくはないかも。俺の能力をしのぐような…。
現に、こうして言わないでおきたい本音を口にしてしまった。
だが千雪は、俺の疑念を軽く笑い飛ばす。
「はは、まさか。僕は普通の人間だ」
「千雪はいつも、普通だって言うけど。千雪は絶対に普通じゃないからな。俺の能力が効かないのがそもそも普通じゃないんだからな」
「効いているだろう? 君にメロメロだ」
そう言う千雪の瞳は、冴え冴えとしていて、まったく自分に溺れているようには見えないのだった。
俺はいかにも拗ねていますというように、口をとがらせた。
「だったら…メロメロなら、生徒会に入ってくれるはずだ」
「それとこれとは別」
「…ケチ」
俺は千雪の肩を抱き寄せて、キスした。
彼がメロメロなのか、確かめたくて。
とはいえ、メロメロではないことは最初からわかっていることだ。わかっているけど、能力が効いてもいないのに身を委ねてくれる千雪を、俺のほうが手放せないのだ。
好きだから。千雪も俺を好きであってほしい。
キスが好きだという理由でもいい。千雪とキスができるなら、それでもいい。
千雪がメロメロなんじゃない。俺が千雪にメロメロなんだ。
彼の気持ちを欲しがって、俺は千雪の髪を左手で撫でながら情熱的にくちづける。少しでも彼が気持ち良くなるように、柔らかくなめらかな千雪の桃色の舌に舌を絡めたり、上あごや歯列を舌でくすぐったり。千雪が悦楽の吐息を漏らすまで愛撫し続けた。
「ん…ふ…」
艶めいた声を耳にし、俺はキスをほどく。
千雪の唇が色づいて少し赤くなっている。濡れた口元を、恥じらうように千雪が手で押さえた、その仕草がとにかく可愛くて、萌える。
あぁ、今すぐにでも押し倒して、千雪の白い肌に吸いつきたい。
そんな衝動に駆られるが、千雪の本心がわかるまでは下手な行動はとれない。妄想は妄想で終わらせて、グッとこらえた。
「今日、家に寄れよ」
「わかった」
すぐに返ってきた千雪の答えに、俺は気を良くする。
嫌いなやつの家に着いては来ないだろう。そんなふうに、俺は千雪をいつも試していた。
ここまでは、いい。この先はダメ。
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能力が効いていなくても、拒まれないのは、千雪が俺を許しているからだ。
好かれているからだ。
そう、自分に言い聞かせている。
「早く、プリントを寄越せ。昼休みが終わるぞ」
だけど、千雪はすぐに、色気のないことを言う。
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