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エピローグ
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◆エピローグ
「…そうして、戦をおさめて国の礎になった、大きな制度を次々に成功させ人々を導いた初代国王の将堂紫輝は、二十八歳の若さで亡くなったの。でも彼が始めたことは、千年経った今も脈々と受け継がれているのよ?」
「えーと、警察と、学校と、病院…あとは、や、役所?」
「役場よ。しっかり覚えてね」
「ありがとう、ばぁちゃんの話、面白いから覚えやすいよ。千年も前のこと試験に出るとか、もう、いいんじゃね? っておもうんだけどなぁ」
「大事なことよ」
祖母は孫に、国の成り立ちについて教えていた。
学校の試験に出るそうだ。
「だって、一年に三人しか龍鬼が生まれないとか、今は考えられないことだもん。今は、人口の三割は龍鬼なんだよ?」
「二十年に、三人よ。ここは試験に出るんじゃないかしら?」
「あ、そうだ。ばぁちゃん、ありがとう。間違えて覚えるところだったよ。あとさ、龍鬼がいじめられていた話もびっくりしちゃうよ。今なんか龍鬼ってだけで、すっごい羨ましがられているんだよ? 魔法みたいな能力がある子もいるし。みんな美人で、頭が良いんだよな。俺なんか、顔はそこそこだし。頭もそんなに良くないし。能力もないけど。翼がないだけで、リューキ、カッケー…って言われるもん。有翼の友達もいっぱいいるし。龍鬼でも全然、悪くない」
「そう。お友達がいっぱいなのは良いことね」
「ねぇ、そのあとは? 国王が死んだあとは、どうなったの?」
興味津々に、孫が祖母にたずねる。
しかし、遠くで孫のことを呼ぶ声がした。
「兄さん? そろそろ家を出ないと遅刻するよ」
「いっけない。じゃあ、ばぁちゃん。学校から帰ったら、またお話聞かせて?」
鞄を肩に引っかけて、孫は慌ただしく部屋を出て行った。
元気な孫の様子を、祖母は嬉しそうに見やる。
その祖母の膝の上に、ゆったりとした足取りで猫が乗る。祖母は猫を、優しい手つきで撫でた。
孫は無邪気に話を聞かせてと言うけれど。国王が死んだあとの話は、ちょっと悲しい物語だ。
★★★★★
大きな寝台の上に、横たわる紫輝。その周りには、天誠とライラはもちろん。大勢の、家族に等しい友人たちが集まっていた。
「お願い、天誠とライラ。俺たちだけにして」
弱々しい声で言う王の言葉に、みんなは従い。
室内には、紫輝の命に等しい大事な者たちが残った。
「天誠、ライラ。この世界で、いっぱい遊べて、楽しかったよなぁ? …でも、ごめん。天誠より、やっぱり先に逝くことになっちゃった」
「大丈夫だ、紫輝。俺も明日死ぬ。すぐ死ぬ。俺も、連れて行ってくれるだろう?」
声を震わせて天誠が聞くが。
紫輝は首を横に振った。
「ごめん、天誠。すぐに連れて行ってあげられない」
「どうしてっ?」
本当にわからないという顔で、天誠は微笑みさえ浮かべるが。
紫輝は天誠の頬を手で撫でて。
「愛しているから」
すでに温度のない冷たいその手が、パタリと落ちて。
紫輝は眠るように息を引き取った。
なぜだ。どういうことだ?
天誠は困惑するが、信じていた。
そうは言っても。自分もすぐに死ぬのだろうと。
だから、大丈夫。大丈夫。心の中で己に言い聞かせていた。
するとその横で、ライラがスクッと立ち上がる。
天誠はライラに目を向けた。
「てんちゃん。あたしも、いくわぁ」
驚愕して、天誠はライラを引き留める。
「待て、ライラ。紫輝もいなくなって、ライラまでいなくなったら。お、俺は…」
「あたしはおんちゃんがいなかったら、いきられないの。そういうものなの」
ライラは紫輝の能力が動力源だった。
紫輝の命の輝きがなければ、生きていけない。
わかっていた。それは、わかっていたことだ。覚悟もしていた。
でも。だけど…。
「だいじょうぶよ、てんちゃん。てんちゃんも、あたしの子供よ。いつでもそばにいるわぁ」
ライラと天誠は、紫輝を巡って対立することが多かった。
大概は、天誠が紫輝にキスしようとしてライラが怒るというもので、深刻な対立ではなかったが。
ライラは、紫輝を愛する同志であり。
そして、大事な家族。
母のごとき愛で、ライラは天誠を温め、いつも力になってくれた。
最高の、愛すべきママだ。
「いやだ。俺を置いて行くな。紫輝。ライラ。一緒に行こう。俺も一緒に連れて行ってくれ」
願いはむなしく響く。ライラは首を横に振った。
「おんちゃんのきめたことよ。でも。ずっとそばにいるわぁ。てんちゃん、いいこ」
天誠はライラを抱き締めた。
その大きな体躯を。白い毛に頭を埋めれば、涙がライラの毛を濡らした。
それでも。
いつまでも。いつまでも。
腕の中からライラが消え去る、そのときまで。ずっと。ずっと…。
★★★★★
天誠は紫輝の骸を見下ろす。
ライラが消え。紫輝の骸にも、もはや紫輝の魂はない。
それが、なんだかよくわかった。
もうここに、紫輝はいないのだと。
「くそっ。最後まで手厳しいな、兄さん。…紫輝。…俺を置いて、どこに行った?」
つぶやいて。天誠は王の寝室を出た。
紫輝のいないこの場所に、もう用はない。
廊下にいる赤穂に後のことをたくし。
天誠は自室に三日、閉じこもったのだ。
翌日、初代国王を悼む大きな葬儀が執り行われたが。
そこに天誠は姿を現さなかった。
★★★★★
日本国を統一し、初めての王座に君臨した将堂紫輝は、二十八歳という若さで逝去した。
二代目国王には、紫輝の弟である将堂夏藤、十六歳が就く。
しかし若輩なので、父である赤穂と月光が、宰相として夏藤を補佐することになった。
月光は、我が子を亡くしたことで失意の底に沈んで、かなり消耗してしまったが。
紫輝の残したこの国を、正しく進めていけるように。
それが紫輝の望みだと。その気持ちだけを心の支えにして。夏藤を守ると決めたのだ。
★★★★★
なにもかもが済んだ、紫輝が亡くなってから三日後の朝。
天誠は、表面上は変わらぬ様子で部屋を出てきた。
そして、なにもなかったかのように仕事を開始した。
紫輝が築き上げた日本国の基盤を守らなければならない。
それだけは。
そういう気持ちで、ただたんたんと、黙々と仕事をする。
紫輝を失い、ひと月が過ぎる。
たが天誠は、相変わらず生きている。
生きている、と言えるのかどうか。仕事をして、息をしている。それだけだった。
天誠にとって、紫輝もライラもいない世でひとり生きていくのは。
とにかくつらいばかり、だから。
暗い泥沼を這うような天誠を、夏藤は痛ましいという顔で見やる。
自分も王座についたばかりで忙しいというのに、天誠のことが気掛かりだったのだ。
「兄のようにはなれませんが。僕も貴方を支えていきたい」
夏藤は、天誠に淡い恋心を抱いているようだった。
天誠はぼんやりと夏藤をみつめる。
玉座に座る夏藤は、かつての紫輝を見るようだった。紫輝の若いときに、よく似ている。
でも、紫輝ではない。紫輝では…ないのだ。
「すまない。俺には、紫輝しか見えない」
一言告げ、天誠は夏藤の前を辞した。
その足で向かう先は、紫輝が眠る墓地だ。
紫輝のいない世界など滅びてしまえばいい。そんな、二十代の頃に考えていた過激な思想が再燃する。
天誠は。己の世界を滅ぼす決意をした。
紫輝の墓の前で、天誠は己の首に短刀を突きつける。
「まだひと月だよ? もう耐えられないのか?」
そのとき、声が聞こえた。
天誠が待ち望んでいた、紫輝の声。
「あぁ、もう一秒も待てない」
笑顔で天誠が振り返ると。
そこには紫の光に包まれた、紫輝とライラがいた。
あの柔らかい微笑み、ちょっと生意気そうな目元。艶やかな黒髪。
天誠が愛してやまない。紫輝の姿。
「自決をしたら、一緒にいられなくなるじゃないか」
「それでも。紫輝がいない。それだけが、ただただ耐え難いんだ」
「仕方がないなぁ、天誠は」
苦笑いするけれど、どこか嬉しそうにも見える紫輝に。
天誠は安堵した。
「それは、こちらの台詞だ。この期に及んで、俺を試すなんて…」
「なんのことかなぁ?」
「夏藤だ。彼が俺を好きなことを知っていて。俺をひとりここに残すとか。マジで考えられない。ひどい裏切りだ」
怒りの天誠に、紫輝は幽体ながら、手を横に振って慌てている。
「裏切りじゃないよ。でも、俺は夏藤のお兄ちゃんでもあるから。彼の気持ちを知って無視できなかった」
「優しいな。でも。残酷だ」
「…ごめん」
丘の上に風が通り抜けて、地に生える草や天誠の黒髪を揺らすけれど。
紫輝の髪もライラの白毛もなびかない。
眉根を寄せる紫輝の顔を、天誠はまじまじと見やる。
ひと月ぶりの、兄の顔。
どんな表情をしていても愛おしくて、見飽きることはない。最愛の人の顔。
「わかっていた。兄さんは、そういうところがあるよなって。紫輝がいなくなって三日、じっくり考えたよ。俺がここに残された意味を。なにか、俺がするべきことが残っているからなのだろうなって。なにが足りないのか。あの件か、この事業か? って。仕事を馬鹿みたいにこなして。紫輝が来るのを待っていた。そうしたら夏藤に今日、告られて。あぁ、これだったかと思ったんだ」
「いいのか? 夏藤は俺にそっくりで、ピッチピチのキッラキラの十代だぞ」
「でも、紫輝じゃない」
三十代になってからは、少しだけ口角を上げて笑うことが多かった、天誠が。
満面の笑顔で。紫輝に言う。
その顔を見たら。紫輝は。
なんだか、泣けてきた。
「ごめんな。天誠を待たせることがとっても残酷なことだって、わかっていたのに。それだけはしたくなかったのに…でも天誠は、まだ若い。俺に付き合わせたら駄目なんじゃないかって。夏藤のことも気になって…でも、だけど俺。天誠から離れられなかった。ごめん。ごめん…」
「いいよ。俺の愛を試したことは、許してやる」
そう言って、天誠は紫輝に手を差し伸べた。
「紫輝はちゃんと迎えに来てくれた。それで、いい。だから、もう泣くな。俺は兄さんの明るい笑顔が好きなんだ」
紫輝は涙を拭って、いつもの太陽のような笑みを浮かべる。
そして差し出された天誠の手に、手を重ね。
しっかり。ギュッと握って。
たずねた。
「すべて、やり遂げた?」
「抜かりはないよ」
「じゃあ、行こう。ずっと、この手を握りたかった」
「俺も。兄さんの手は、温かい」
紫輝の手の感触を確かめている天誠に、ライラが言った。
「てんちゃん、またいっしょね。ステキね」
「あぁ。また一緒だ。最っ高に、素敵だっ」
紫輝を真ん中にして、両脇に天誠とライラが。並ぶようにして光の中へ歩いていった。
紫輝の墓の前には、黒の大翼だけが残っている。
天誠の体は跡形もなく消えた。
三百年の時を超えた天誠の体は、時を操る龍鬼の加護から解き放たれ。
風化して、風に散ったのだ。
★★★★★
「兄さん、歴史なら僕が教えてやるのに」
学校へ行く道のり、同じ身長の弟が兄に言う。
ふたりは双子。
兄と弟だけど、同い年の八歳だ。
「ばぁちゃんの話が好きだから、何度も聞いちゃうんだ。まるで見てきたみたいな。舞台劇を見るみたいな。りんじょー感がさぁ…」
「そんなこと言って、遅刻しそうになっていたら世話ないよ。それに年号も覚えなきゃ、ダメなんだからな?」
「千年前なんだから、今の年に千を足せばいいんだろ? 楽勝だよ」
「正確には、千年の記念祭は去年あったんだから。今は西暦三三〇三年。建国は二三〇二年」
「わかってるっつーの」
「本当かなぁ? 兄さんは二〇三二年とか書きそう」
兄は、自分でもやらかしそうな間違いにウッとなった。
「あぁ、もう。小うるさいんだからぁ」
兄は手で耳を塞いで、唇をとがらせる。
その兄の顔を、弟は愛しげに見やった。
「そうだ、この歴史の話でさ、怪談話あるんだけど聞く?」
「聞く聞く。なに?」
怒っていたことをすぐに忘れて、話に食いついてくる兄が、猛烈にクッソ可愛いと弟は思ってしまう。
「王が亡くなってひと月後に、王の伴侶がいなくなった。でも、彼の翼が王の墓の前に落ちていたんだ。二代目の王が、王の伴侶の動向を心配して人に見に行かせたのだが、そのとき王の伴侶は一瞬で消えたという。どういう状況かわからなかったものの、翼がそこに残っていたので。彼は死んだのだと結論づけられた」
「うんうん。それで?」
「遺体はなかったが、王の伴侶だったから残った翼を王の墓に入れようということになり。棺を開けたんだ。そうしたら…」
「そうしたら?」
兄は眉を情けなく下げて、おそるおそる弟にたずねた。
「王の骸もなかったんだってよぉ…。だから、遠足で一度は行く初代王の墓の中には、黒い翼だけが入っているんだって、もっぱらの噂だ」
おどろおどろしく言う弟に、兄は肩をひくひくさせながらも。
虚勢を張って言う。
「こ、怖くねぇし。怪談なんて、たいしたことねぇし」
「本当か? 今日、一緒に寝てやろうか?」
「はぁ? いつもおまえが俺の布団に入ってくるんじゃんか。甘えんぼめっ」
そんなふうに、兄弟仲睦まじく、笑いながら学校へと向かって行った。
★★★★★
祖母は同性と結婚をしたので、子供がなく。
伴侶亡きあと、ひとりでわびしく暮らしていた。
しかし一年前、家の庭に、白い子猫を抱いたふたりの子供が倒れていたのだ。
祖母は子供を保護したが、子供たちはふたりとも以前のことはなにも覚えていないと言う。
警察に連絡しても、彼らの親はみつからず。
縁があったということで、祖母が子供たちを引き取ることになった。
保護したとき、子供たちは透明な紫色の玉と黒い玉を、それぞれ握っていて。
祖母がその玉に触れたとき、ある思念が入ってきた。
今も色鮮やかに脳裏に浮かぶ、千年前の出来事。
頭に直接伝達されたようなその景色は、史実ととても合っていて。
でも。そんなの。信じられないでしょう?
「あの子たちが、王とその伴侶…ではないわよね? ライラちゃん」
祖母は、膝の上に乗る白い猫に語り掛ける。
ライラは『ちがうわぁ』とばかりにニャーと鳴いたのだ。
★★★★★
弟は、金髪碧眼、白皙の美少年。まつ毛はバッサバサ。女の子にもモッテモテ。
炎も水もじゃんじゃん出す、強い能力を持つ龍鬼だ。
運動神経も抜群。頭脳もキレていて、優秀と言われる龍鬼の中でも、頭ひとつ分抜きん出た、スペシャルエリートである。
一方、兄は。ゴワゴワの黒髪で、目つきも悪く。顔も頭も冴えない。加えて能力もない。そして翼がない。ナイナイ尽くしの劣等龍鬼。
双子の設定で、この差はひどすぎます、神様。
「つか、初代国王、早く死に過ぎ。チュウもえっちも、し足りなかったっつうの」
まだ声変わりしていないくせに、すでにハイパーエロボイスの片鱗がある弟が、兄の耳元で囁く。
やめろ。耳がかゆくなるってば。
「子供の体で、そういうこと言うな」
「でも、今度は。同い年だから、ずっと兄さんにくっついていられるな。教室も一緒。なんでも一緒。御手々つないで、からスタートなのは。ちょっともどかしいけど」
そう言って、弟は兄の手を握る。
ぶんぶん振って子供らしさを演出した。
「それはそれで、楽しいじゃん?」
兄は、フーッと顔を弟に近づけて。
でも今は子供の体だから、唇のチュウはしないで。額と額をごっつんこさせた。
ほんの間近に、弟の瞳がある。夏の空の色。兄の大好きな、青色。
「ソーダ飴の色…美味しそう」
「舐めてみる?」
真面目に弟が返すから。おかしくなって。
ふたりはフフフと笑い合う。
「悪かったよ、早く死んで。ここでは能力封印して長生きする予定なんだから、許してくれよぉ」
「いいや、許さない。兄さんが愛してるって言ってくれなきゃ」
弟は兄のこめかみにチュッと、音の鳴るキスをした。
もう、マセたガキめ。
「三百年後も、千年後も、ずっとおまえのそばにいる。俺たちはずーっと一緒。つないだこの手を、しっかり握って、絶対、絶対、離さないから…愛してるよ、天誠」
紫輝は、両の手で天誠の手を握って。厳かに誓いの言葉を告げる。
ふたりの手首には、紫水晶と黒水晶がついた腕輪が光っていた。
だからね。
これが俺たちの、決して終わらない物語。
end。
「…そうして、戦をおさめて国の礎になった、大きな制度を次々に成功させ人々を導いた初代国王の将堂紫輝は、二十八歳の若さで亡くなったの。でも彼が始めたことは、千年経った今も脈々と受け継がれているのよ?」
「えーと、警察と、学校と、病院…あとは、や、役所?」
「役場よ。しっかり覚えてね」
「ありがとう、ばぁちゃんの話、面白いから覚えやすいよ。千年も前のこと試験に出るとか、もう、いいんじゃね? っておもうんだけどなぁ」
「大事なことよ」
祖母は孫に、国の成り立ちについて教えていた。
学校の試験に出るそうだ。
「だって、一年に三人しか龍鬼が生まれないとか、今は考えられないことだもん。今は、人口の三割は龍鬼なんだよ?」
「二十年に、三人よ。ここは試験に出るんじゃないかしら?」
「あ、そうだ。ばぁちゃん、ありがとう。間違えて覚えるところだったよ。あとさ、龍鬼がいじめられていた話もびっくりしちゃうよ。今なんか龍鬼ってだけで、すっごい羨ましがられているんだよ? 魔法みたいな能力がある子もいるし。みんな美人で、頭が良いんだよな。俺なんか、顔はそこそこだし。頭もそんなに良くないし。能力もないけど。翼がないだけで、リューキ、カッケー…って言われるもん。有翼の友達もいっぱいいるし。龍鬼でも全然、悪くない」
「そう。お友達がいっぱいなのは良いことね」
「ねぇ、そのあとは? 国王が死んだあとは、どうなったの?」
興味津々に、孫が祖母にたずねる。
しかし、遠くで孫のことを呼ぶ声がした。
「兄さん? そろそろ家を出ないと遅刻するよ」
「いっけない。じゃあ、ばぁちゃん。学校から帰ったら、またお話聞かせて?」
鞄を肩に引っかけて、孫は慌ただしく部屋を出て行った。
元気な孫の様子を、祖母は嬉しそうに見やる。
その祖母の膝の上に、ゆったりとした足取りで猫が乗る。祖母は猫を、優しい手つきで撫でた。
孫は無邪気に話を聞かせてと言うけれど。国王が死んだあとの話は、ちょっと悲しい物語だ。
★★★★★
大きな寝台の上に、横たわる紫輝。その周りには、天誠とライラはもちろん。大勢の、家族に等しい友人たちが集まっていた。
「お願い、天誠とライラ。俺たちだけにして」
弱々しい声で言う王の言葉に、みんなは従い。
室内には、紫輝の命に等しい大事な者たちが残った。
「天誠、ライラ。この世界で、いっぱい遊べて、楽しかったよなぁ? …でも、ごめん。天誠より、やっぱり先に逝くことになっちゃった」
「大丈夫だ、紫輝。俺も明日死ぬ。すぐ死ぬ。俺も、連れて行ってくれるだろう?」
声を震わせて天誠が聞くが。
紫輝は首を横に振った。
「ごめん、天誠。すぐに連れて行ってあげられない」
「どうしてっ?」
本当にわからないという顔で、天誠は微笑みさえ浮かべるが。
紫輝は天誠の頬を手で撫でて。
「愛しているから」
すでに温度のない冷たいその手が、パタリと落ちて。
紫輝は眠るように息を引き取った。
なぜだ。どういうことだ?
天誠は困惑するが、信じていた。
そうは言っても。自分もすぐに死ぬのだろうと。
だから、大丈夫。大丈夫。心の中で己に言い聞かせていた。
するとその横で、ライラがスクッと立ち上がる。
天誠はライラに目を向けた。
「てんちゃん。あたしも、いくわぁ」
驚愕して、天誠はライラを引き留める。
「待て、ライラ。紫輝もいなくなって、ライラまでいなくなったら。お、俺は…」
「あたしはおんちゃんがいなかったら、いきられないの。そういうものなの」
ライラは紫輝の能力が動力源だった。
紫輝の命の輝きがなければ、生きていけない。
わかっていた。それは、わかっていたことだ。覚悟もしていた。
でも。だけど…。
「だいじょうぶよ、てんちゃん。てんちゃんも、あたしの子供よ。いつでもそばにいるわぁ」
ライラと天誠は、紫輝を巡って対立することが多かった。
大概は、天誠が紫輝にキスしようとしてライラが怒るというもので、深刻な対立ではなかったが。
ライラは、紫輝を愛する同志であり。
そして、大事な家族。
母のごとき愛で、ライラは天誠を温め、いつも力になってくれた。
最高の、愛すべきママだ。
「いやだ。俺を置いて行くな。紫輝。ライラ。一緒に行こう。俺も一緒に連れて行ってくれ」
願いはむなしく響く。ライラは首を横に振った。
「おんちゃんのきめたことよ。でも。ずっとそばにいるわぁ。てんちゃん、いいこ」
天誠はライラを抱き締めた。
その大きな体躯を。白い毛に頭を埋めれば、涙がライラの毛を濡らした。
それでも。
いつまでも。いつまでも。
腕の中からライラが消え去る、そのときまで。ずっと。ずっと…。
★★★★★
天誠は紫輝の骸を見下ろす。
ライラが消え。紫輝の骸にも、もはや紫輝の魂はない。
それが、なんだかよくわかった。
もうここに、紫輝はいないのだと。
「くそっ。最後まで手厳しいな、兄さん。…紫輝。…俺を置いて、どこに行った?」
つぶやいて。天誠は王の寝室を出た。
紫輝のいないこの場所に、もう用はない。
廊下にいる赤穂に後のことをたくし。
天誠は自室に三日、閉じこもったのだ。
翌日、初代国王を悼む大きな葬儀が執り行われたが。
そこに天誠は姿を現さなかった。
★★★★★
日本国を統一し、初めての王座に君臨した将堂紫輝は、二十八歳という若さで逝去した。
二代目国王には、紫輝の弟である将堂夏藤、十六歳が就く。
しかし若輩なので、父である赤穂と月光が、宰相として夏藤を補佐することになった。
月光は、我が子を亡くしたことで失意の底に沈んで、かなり消耗してしまったが。
紫輝の残したこの国を、正しく進めていけるように。
それが紫輝の望みだと。その気持ちだけを心の支えにして。夏藤を守ると決めたのだ。
★★★★★
なにもかもが済んだ、紫輝が亡くなってから三日後の朝。
天誠は、表面上は変わらぬ様子で部屋を出てきた。
そして、なにもなかったかのように仕事を開始した。
紫輝が築き上げた日本国の基盤を守らなければならない。
それだけは。
そういう気持ちで、ただたんたんと、黙々と仕事をする。
紫輝を失い、ひと月が過ぎる。
たが天誠は、相変わらず生きている。
生きている、と言えるのかどうか。仕事をして、息をしている。それだけだった。
天誠にとって、紫輝もライラもいない世でひとり生きていくのは。
とにかくつらいばかり、だから。
暗い泥沼を這うような天誠を、夏藤は痛ましいという顔で見やる。
自分も王座についたばかりで忙しいというのに、天誠のことが気掛かりだったのだ。
「兄のようにはなれませんが。僕も貴方を支えていきたい」
夏藤は、天誠に淡い恋心を抱いているようだった。
天誠はぼんやりと夏藤をみつめる。
玉座に座る夏藤は、かつての紫輝を見るようだった。紫輝の若いときに、よく似ている。
でも、紫輝ではない。紫輝では…ないのだ。
「すまない。俺には、紫輝しか見えない」
一言告げ、天誠は夏藤の前を辞した。
その足で向かう先は、紫輝が眠る墓地だ。
紫輝のいない世界など滅びてしまえばいい。そんな、二十代の頃に考えていた過激な思想が再燃する。
天誠は。己の世界を滅ぼす決意をした。
紫輝の墓の前で、天誠は己の首に短刀を突きつける。
「まだひと月だよ? もう耐えられないのか?」
そのとき、声が聞こえた。
天誠が待ち望んでいた、紫輝の声。
「あぁ、もう一秒も待てない」
笑顔で天誠が振り返ると。
そこには紫の光に包まれた、紫輝とライラがいた。
あの柔らかい微笑み、ちょっと生意気そうな目元。艶やかな黒髪。
天誠が愛してやまない。紫輝の姿。
「自決をしたら、一緒にいられなくなるじゃないか」
「それでも。紫輝がいない。それだけが、ただただ耐え難いんだ」
「仕方がないなぁ、天誠は」
苦笑いするけれど、どこか嬉しそうにも見える紫輝に。
天誠は安堵した。
「それは、こちらの台詞だ。この期に及んで、俺を試すなんて…」
「なんのことかなぁ?」
「夏藤だ。彼が俺を好きなことを知っていて。俺をひとりここに残すとか。マジで考えられない。ひどい裏切りだ」
怒りの天誠に、紫輝は幽体ながら、手を横に振って慌てている。
「裏切りじゃないよ。でも、俺は夏藤のお兄ちゃんでもあるから。彼の気持ちを知って無視できなかった」
「優しいな。でも。残酷だ」
「…ごめん」
丘の上に風が通り抜けて、地に生える草や天誠の黒髪を揺らすけれど。
紫輝の髪もライラの白毛もなびかない。
眉根を寄せる紫輝の顔を、天誠はまじまじと見やる。
ひと月ぶりの、兄の顔。
どんな表情をしていても愛おしくて、見飽きることはない。最愛の人の顔。
「わかっていた。兄さんは、そういうところがあるよなって。紫輝がいなくなって三日、じっくり考えたよ。俺がここに残された意味を。なにか、俺がするべきことが残っているからなのだろうなって。なにが足りないのか。あの件か、この事業か? って。仕事を馬鹿みたいにこなして。紫輝が来るのを待っていた。そうしたら夏藤に今日、告られて。あぁ、これだったかと思ったんだ」
「いいのか? 夏藤は俺にそっくりで、ピッチピチのキッラキラの十代だぞ」
「でも、紫輝じゃない」
三十代になってからは、少しだけ口角を上げて笑うことが多かった、天誠が。
満面の笑顔で。紫輝に言う。
その顔を見たら。紫輝は。
なんだか、泣けてきた。
「ごめんな。天誠を待たせることがとっても残酷なことだって、わかっていたのに。それだけはしたくなかったのに…でも天誠は、まだ若い。俺に付き合わせたら駄目なんじゃないかって。夏藤のことも気になって…でも、だけど俺。天誠から離れられなかった。ごめん。ごめん…」
「いいよ。俺の愛を試したことは、許してやる」
そう言って、天誠は紫輝に手を差し伸べた。
「紫輝はちゃんと迎えに来てくれた。それで、いい。だから、もう泣くな。俺は兄さんの明るい笑顔が好きなんだ」
紫輝は涙を拭って、いつもの太陽のような笑みを浮かべる。
そして差し出された天誠の手に、手を重ね。
しっかり。ギュッと握って。
たずねた。
「すべて、やり遂げた?」
「抜かりはないよ」
「じゃあ、行こう。ずっと、この手を握りたかった」
「俺も。兄さんの手は、温かい」
紫輝の手の感触を確かめている天誠に、ライラが言った。
「てんちゃん、またいっしょね。ステキね」
「あぁ。また一緒だ。最っ高に、素敵だっ」
紫輝を真ん中にして、両脇に天誠とライラが。並ぶようにして光の中へ歩いていった。
紫輝の墓の前には、黒の大翼だけが残っている。
天誠の体は跡形もなく消えた。
三百年の時を超えた天誠の体は、時を操る龍鬼の加護から解き放たれ。
風化して、風に散ったのだ。
★★★★★
「兄さん、歴史なら僕が教えてやるのに」
学校へ行く道のり、同じ身長の弟が兄に言う。
ふたりは双子。
兄と弟だけど、同い年の八歳だ。
「ばぁちゃんの話が好きだから、何度も聞いちゃうんだ。まるで見てきたみたいな。舞台劇を見るみたいな。りんじょー感がさぁ…」
「そんなこと言って、遅刻しそうになっていたら世話ないよ。それに年号も覚えなきゃ、ダメなんだからな?」
「千年前なんだから、今の年に千を足せばいいんだろ? 楽勝だよ」
「正確には、千年の記念祭は去年あったんだから。今は西暦三三〇三年。建国は二三〇二年」
「わかってるっつーの」
「本当かなぁ? 兄さんは二〇三二年とか書きそう」
兄は、自分でもやらかしそうな間違いにウッとなった。
「あぁ、もう。小うるさいんだからぁ」
兄は手で耳を塞いで、唇をとがらせる。
その兄の顔を、弟は愛しげに見やった。
「そうだ、この歴史の話でさ、怪談話あるんだけど聞く?」
「聞く聞く。なに?」
怒っていたことをすぐに忘れて、話に食いついてくる兄が、猛烈にクッソ可愛いと弟は思ってしまう。
「王が亡くなってひと月後に、王の伴侶がいなくなった。でも、彼の翼が王の墓の前に落ちていたんだ。二代目の王が、王の伴侶の動向を心配して人に見に行かせたのだが、そのとき王の伴侶は一瞬で消えたという。どういう状況かわからなかったものの、翼がそこに残っていたので。彼は死んだのだと結論づけられた」
「うんうん。それで?」
「遺体はなかったが、王の伴侶だったから残った翼を王の墓に入れようということになり。棺を開けたんだ。そうしたら…」
「そうしたら?」
兄は眉を情けなく下げて、おそるおそる弟にたずねた。
「王の骸もなかったんだってよぉ…。だから、遠足で一度は行く初代王の墓の中には、黒い翼だけが入っているんだって、もっぱらの噂だ」
おどろおどろしく言う弟に、兄は肩をひくひくさせながらも。
虚勢を張って言う。
「こ、怖くねぇし。怪談なんて、たいしたことねぇし」
「本当か? 今日、一緒に寝てやろうか?」
「はぁ? いつもおまえが俺の布団に入ってくるんじゃんか。甘えんぼめっ」
そんなふうに、兄弟仲睦まじく、笑いながら学校へと向かって行った。
★★★★★
祖母は同性と結婚をしたので、子供がなく。
伴侶亡きあと、ひとりでわびしく暮らしていた。
しかし一年前、家の庭に、白い子猫を抱いたふたりの子供が倒れていたのだ。
祖母は子供を保護したが、子供たちはふたりとも以前のことはなにも覚えていないと言う。
警察に連絡しても、彼らの親はみつからず。
縁があったということで、祖母が子供たちを引き取ることになった。
保護したとき、子供たちは透明な紫色の玉と黒い玉を、それぞれ握っていて。
祖母がその玉に触れたとき、ある思念が入ってきた。
今も色鮮やかに脳裏に浮かぶ、千年前の出来事。
頭に直接伝達されたようなその景色は、史実ととても合っていて。
でも。そんなの。信じられないでしょう?
「あの子たちが、王とその伴侶…ではないわよね? ライラちゃん」
祖母は、膝の上に乗る白い猫に語り掛ける。
ライラは『ちがうわぁ』とばかりにニャーと鳴いたのだ。
★★★★★
弟は、金髪碧眼、白皙の美少年。まつ毛はバッサバサ。女の子にもモッテモテ。
炎も水もじゃんじゃん出す、強い能力を持つ龍鬼だ。
運動神経も抜群。頭脳もキレていて、優秀と言われる龍鬼の中でも、頭ひとつ分抜きん出た、スペシャルエリートである。
一方、兄は。ゴワゴワの黒髪で、目つきも悪く。顔も頭も冴えない。加えて能力もない。そして翼がない。ナイナイ尽くしの劣等龍鬼。
双子の設定で、この差はひどすぎます、神様。
「つか、初代国王、早く死に過ぎ。チュウもえっちも、し足りなかったっつうの」
まだ声変わりしていないくせに、すでにハイパーエロボイスの片鱗がある弟が、兄の耳元で囁く。
やめろ。耳がかゆくなるってば。
「子供の体で、そういうこと言うな」
「でも、今度は。同い年だから、ずっと兄さんにくっついていられるな。教室も一緒。なんでも一緒。御手々つないで、からスタートなのは。ちょっともどかしいけど」
そう言って、弟は兄の手を握る。
ぶんぶん振って子供らしさを演出した。
「それはそれで、楽しいじゃん?」
兄は、フーッと顔を弟に近づけて。
でも今は子供の体だから、唇のチュウはしないで。額と額をごっつんこさせた。
ほんの間近に、弟の瞳がある。夏の空の色。兄の大好きな、青色。
「ソーダ飴の色…美味しそう」
「舐めてみる?」
真面目に弟が返すから。おかしくなって。
ふたりはフフフと笑い合う。
「悪かったよ、早く死んで。ここでは能力封印して長生きする予定なんだから、許してくれよぉ」
「いいや、許さない。兄さんが愛してるって言ってくれなきゃ」
弟は兄のこめかみにチュッと、音の鳴るキスをした。
もう、マセたガキめ。
「三百年後も、千年後も、ずっとおまえのそばにいる。俺たちはずーっと一緒。つないだこの手を、しっかり握って、絶対、絶対、離さないから…愛してるよ、天誠」
紫輝は、両の手で天誠の手を握って。厳かに誓いの言葉を告げる。
ふたりの手首には、紫水晶と黒水晶がついた腕輪が光っていた。
だからね。
これが俺たちの、決して終わらない物語。
end。
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北川様、心配しておりました。
少しだけ、感想を追加します。先に書いた性行為の描写に関してです。
60/159 番外 側近、瀬来月光の前後、紫輝と安曇、廣伊と千夜、そして堺と青桐ががっつりやっている。
特に赤穂の弟、青桐、山奥から出てきて堺に一目ぼれして、堺とイチャコラしたい欲満々。
兄の赤穂は月光の身を案じて抱きしめるだけ。
双子のそっくりさん。かたや燃え盛る恋。かたや熾火のようにふんわり温まる愛。
なんていうか、対照的で見事と思った。
性行為の描写があるとね、性行為なしでの表現もあって、表現が広がるんだな、と思ったのです。
そろそろ、本の書影が拝めそうですね。それに伴っての作業もあるので、色々忙しいかと思いますが、無理せず、お体を大事にしてください。
また、本を買ったら、感想を書きます。待っていてください。
operahouseさま、いつも感想をくださりありがとうございます💕
体のことを気遣わせてしまいましたが、良い薬がみつかり、今は大丈夫ですので心配なさらずで🌸
元気なときとそうでないときの差が激しくて、私も試行錯誤の日々です。しかし、このように感想をいただいたりすると、本当に元気が湧いてきます。どうか、まだまだ感想をいただきたいです(催促・笑)
えっちシーンは、赤穂と月光のものはなしにしました。というか、この話を書いているときは紫輝が私に憑依しているので、パパとママのエロシーンは見たくないでしょ??の気持ちなのでした(笑)
赤穂たちも、現役のときはバリバリでしたのよぉ✨✨
青桐は、環境により禁欲生活が長かった。はじけちゃったというのもあるかもですね。紫輝が一生懸命青桐が暴走しないようにコントロールしていましたけど…(笑)
健康な成人男子たちのお話ですから、そりゃあもう、いろいろエロエロあるわけです💕
だけど情熱的な彼らの話の合間に赤穂たちを差し込むことで、赤穂の話も映えるし、他の方たちの情熱も読者様には熱く感じられるのでしょう。これがメリハリというやつですよ、小説家を目指している方たちがこの感想を目にしていたら、参考にしてくださいませ^^。(上から目線。精進せいよ、ほっほっほ。仙人風)
本の書影、出ましたよ! 夏乃あゆみ様と三廼様の美麗なイラストを、ぜひサイトの書籍新刊案内でご覧くださいませ。Xを見られるようなら、そちらでも見れます。いろいろつぶやいていますので、よろしくお願いしますね(宣伝かっ!)
もちろん、operahouseさまの感想をお待ちしていますとも。ゆっくり読んで、鋭い考察をビシバシ展開してくださいませぇ💕楽しみにしています。
先回、文字数の関係で書けませんでしたので、赤穂と月光のことで、少しだけ感想を追加します。
60/159 番外 側近、瀬来月光の一番最後の部分、一年前にいなくなった5歳の紫月が18歳の紫輝として、赤穂と月光の前に現れて、二人とも紫輝が紫月であることの確証を得て、嵐のような1年が終わって、自分たちも将堂軍と縁が切れたある意味一番落ち着いた状況。
状況や諸々のことでうまく向き合えなかった赤穂と月光が息子の安否が確認できて、自分たち自身も将堂軍の柵から抜け出したタイミング。赤穂を慰めようとする月光の手をとめて、赤穂が月光を膝にのせてお互いがキチンと向き合って抱きしめあうって、ものすごく深い愛情描写だな、と思った。
この作品はキチンと性行為の描写があるからこそ、性行為をせずに抱き合ってキスをするだけの描写はそこを超えた愛情の表現に見える。
紫輝と安曇、堺と青桐みたいまだまだ恋愛中の性にギラギラなカップルと違って、赤穂と月光は子どもがいてその子どもは結婚して巣立ってしまいましたみたいな熟年夫婦みたいなカップルだけど、まだまだ20代前半。月光の体のことがあって激しい性行為からは卒業してしまったけど、赤穂の気遣いと月光の赤穂への独占欲の現れみたいな穏やかな愛情表現で、そこへ至る紆余曲折の道のりを歩んで、この二人はここへ行きついたんだ、と感動するすごく好きな場面です。
また、感想を書きます。いつも、ありがとうございます。
operahouseさま、いつも感想をくださりありがとうございます💕
少々体調を崩していまして、返信が遅くなったことをお詫びします。とはいえ、まだまだ今は元気いっぱいですよ(笑)
キチンと性描写がある作品だからこそ、性描写のないラブシーンに愛情表現が見える…というお言葉に、私はもうとても感動しています。赤穂と月光の背景はしっかり書けたので、それゆえに、最後のこのシーンが生きてきた。そう思って。環境に引き離された二人ですが、別れの道を選んでも二人は飄々と違う人生を歩んで、でも別れたということに後ろめたさや避け好きみたいな遠慮などもない。赤穂と月光はいつも自然体で、からかったり喧嘩したり、手を繋いだりする。子供のときから変わらないスタンスです。そういう関係がいいなと思って。
なんか、友達以上恋人未満、じゃなくて。友達で恋人で夫婦で家族で、でも籍はない、みたいな? ですね💕
operahouseさまの感想をいつも楽しみにしています。またよろしくお願いしますね✨✨
46~61/159あたりを読み返しています。
赤穂と月光(+月光に横恋慕する瀬間)の物語。うまくいかない恋に気持ちがギュっとする。月光の父親はやっぱり毒親。子どもの才能に嫉妬して子どもを未来をつぶそうとする親。赤穂が、月光の父親を殺しちゃうのも分かる。
でも、59/159 番外 側近瀬来月光を読むと、赤穂と月光がお互いにうまく向き合えない状況で結婚したにもかかわらず、赤穂は金蓮との間に子どもを作ってしまった。赤穂を夫、月光を妻に置き換えると、夫が浮気して相手を妊娠させて、そのせいで浮気相手の仕事が夫にまわってきて、体調の悪い妻とほとんどあってないって状態。その挙句、浮気相手の産んだ子どもを連れて、ほったらかしにしていた妻の家に助けてってなかなか最低なシチュエーション。そんな状況で浮気相手との「龍鬼」の子を受け入れた月光は神かと思った。
その子ども「紫月」を挟んで赤穂と月光が再びキチンと向き合えるようになったというのは、すごくいい。赤穂と月光が婚姻という関係がなくとも切れない愛と情を互いに確信して、紫月のために月光は赤穂から離れるって、うまくいかない恋の答えだったのだろうな、と。うまくいかなかった恋を婚姻という形で無理やり縛り付けても、結局、うまくいかず。赤穂と月光は紫月を挟んで、キチンと向き合って、愛情を確信する形に落ち着いたのかなと思った。
紫月を赤穂と育てている5年の間が月光にとっては一番幸福な時間だったから、月光が必死で消えた紫月を探していたかと思うと、物語の頭の方で月光が紫輝に結構強引に接触してカマかけたりしていたんだなぁ、と改めて思った。
そして、横恋慕男瀬間はいい奴だな。最後まで月光に自分の気持ちを悟らせなかった。
いつも、コメントというか裏話をありがとうございます。金蓮と銀杏姉妹は面食いか・・・でも赤穂と青桐もはかなげ美人が好き、紫輝と夏藤も天誠が好きだったから、双子は好きになる相手の傾向が似るんだ。
また、感想を書きます。
operahouseさま、いつも感想をくださりありがとうございます💕
来た来た✨✨赤穂と月光の話!私もいろいろ話したかったです。
赤穂は悪い男というつもりで書いていたので、賛否両論あるとは思うのですが、悪い男ってなにやら魅かれるところがあるというか、そういうのを赤穂では表現したかったのです。悪い男が、愛する者にだけうまくいかない、そこでモダモダするのも…うまく言えないけど、自業自得だって思いながらも応援したくなっちゃうというか?
赤穂と月光は両想いでありながら、環境とか、タイミングとかで引き裂かれてしまう。赤穂は、据え膳食わぬは…みたいなところもあって、浮気というか、モテたら拒否しない、みたいなところがあって。それで月光と別れることになって、二度と同じ過ちは繰り返さないとは思うのだけど…紫月を授かってしまったと。
悪い男だぁ。
でも、あの時点では、月光のためでもあったのですよ。己のせいで将堂の(赤穂の)子孫を残せないとなれば、月光は打ちひしがれ、自死しそうな勢いでもあった。赤穂は月光の意思を汲み取ったのです。それが、良い方法であるかはともかくとして、ですが。
紫月は子はかすがいの典型例。子煩悩の月光だからこそ、あの幸せな家庭の図を描けたのですが。紫月を生かすためのワンチームに月光と赤穂はなったのですよね。
毒親にさらされた月光が、環境やタイミングで赤穂とうまくいかなくて、でも紫月を中心にして赤穂と再び愛を育むことができるようになった…赤穂と月光の物語は本当に良い話だと我ながら思っております。
うむ、自画自賛(笑)
最後に、瀬間ですけど…彼は既婚者ですから、初恋を後生大事に抱きしめているのは、現奥様への最大の裏切りなので、彼も悪い男だと思いまーす(笑)
やだぁ、話足りないです🌸また感想くださぁい、よろしくお願いします!