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34 なんで、猫に自慢するんだ? (イアンside)
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◆なんで、猫に自慢するんだ? (イアンside)
春の麗らかな日が射す、午後の庭で。我は久しぶりにセドリックと、剣の模擬戦をした。
我は、黒ズボンに白シャツという、いつもの軽装で。帯剣ベルトをつけていないので、鞘はシヴァーディが持っている。
対するセドリックは、騎士服の第一ボタンを外した、着崩しリラックスモード。全く不敬なやつだな。
我とセドリックは、本気で打ち合う。
キーン、キーンと、鋼が弾き合う、庭には不似合いな金属音が、断続的に鳴った。
セドリックは大きな体格なので、それに見合った、身幅の大きめな、重い剣を振り回す。
我は、手に持つ重さが一番しっくりくる、古い剣を振っていた。
あの、クロウが言うところの、ミハエルの剣だ。
しばらくは鍔迫り合いのような形で、打ち合っていたが。大きく体を弾かれて、身が離れたところで、セドリックが地を揺らす魔法を使った。
我は足を取られることなく、ジャンプして回避し。
そこに、シヴァーディが『動くな』と叫んで精神魔法を飛ばしてくる。我は、強い魔力でそれを弾いた。
魔法を放った者よりも、強力な魔力を放てば、ある程度は中和できる。
中和、というか。これ以上来るな、的な盾のイメージだ。
我は、炎の魔法を扱うのだが。魔法と魔力は別のものである。
魔力を使って、なにかしらを生み出すのが魔法で。
魔力は、純然たる生命エネルギーのようなものだ。
意志の強さに似たものというイメージかな。
そうした、剣と魔法を駆使した戦いが、この世界の最高峰の戦闘方式だった。
ふたりの魔法をかいくぐって、我は再び、セドリックと打ち合う。
今、我は魔法を使用できない。
ゆえに、もしも、誰かが、どんな卑怯な手を使って来ようとも、対処できるように。こうして実戦を繰り返し、技を身につけていくのだ。
「お見事です、陛下」
「いや、最後のセドリックの大振りは、紙一重だった。もう少し、余裕のある戦い方が、出来るようにならなければ…」
ひと段落ついて、我とセドリックは互角のまま、模擬戦を終えた。
ま、セドリックは教える側として、手加減しているのだろうが。
シヴァーディが差し出してくる鞘に、我は抜き身の剣をおさめる。
「そういえば。クロウが、このミハエルの剣をもう一度見たいと、前に言っていたな」
唐突に思い出し、我はつぶやいた。
そして、おもむろに足をサロンへ向ける。
靴音を響かせて、エントランスホールを抜け、曲線の階段を上がり。廊下の突き当りにある、大きく扉が開かれたサロンへ、足を踏み入れた。
またもや、猫がにゃおーんと鳴いて。クロウは顔を上げる。
突然に現れた我の顔を見て、驚き。そして、我が手に持つ剣を見て、青ざめる。
以前と同じリアクションだ。
「見たいのだろう? ミハエルの剣」
だが、以前と違うのは。我の言葉を聞いて、パッと華やかな笑みを浮かべたところだ。
クロウは髪を直しながら、椅子から立ち上がり。我に暖炉前の応接セットをすすめた。
「はい、イアン様。どうぞ、こちらへお掛けください」
暖炉に一番近い椅子は、黒猫が大きな顔で居座っているので。我は二人掛けの椅子に腰を下ろす。
目の前に立つクロウに、無造作に剣を渡した。
「わ、わ、わ…よ、よろしいのですか? セドリック様に、たとえ仕事用のハサミでも、刃物を王族に向けてはなりませんと、きつく言われているのですが」
すでに、剣を持つ手が、ぶるぶるしている。そんなサマで、我を害せるとでも?
「はは、やれるものなら剣を抜いてみろ。おまえが剣を振りかざしたところで、我は斬られる気が全くしないぞ?」
「と、とんでもない」
鞘におさまるミハエルの剣を、捧げ持った状態のまま、動けずにいるクロウを見て。これではネズミ一匹殺せないだろうと、改めて思うのだった。
「チョン、見て見て、ミハエル様の剣だよ。や、ヤバくね?」
両手を上にしたまま、クロウは猫に見せるように、ソロソロと動いていく。
なんで、猫に自慢するんだ?
黒猫も、迷惑そうにしながらも、椅子の上で立ちあがり。それでも剣を見やって、なにやらニャーニャー言っている。
クロウと話しているみたいにも見えるから、不思議な猫だ。
「イアン様、こ、腰が抜けそうです。ミハエル様の剣が、手の中にあると思うと…」
おののきながらも、頬を紅潮させ、嬉しげに、珍しげに、食い入るように、クロウは猫と一緒に宝剣をみつめている。
つい先ほどまで、その剣でぞんざいに、セドリックと本気の打ち合いをしていたとは、言えない。
我にとっては、これは、日常使いの剣なのだがな。
…宝物として扱うべきだろうか?
だが、王城の中では、この剣が、我には相性が一番いいのだ。悩むな。
「ミハエル様のように、何者にも負けない強さを持ちたいって。僕、憧れていたのです」
ほぅと、感嘆のため息をつき。クロウは恭しい仕草で、剣を我に返した。
彼の所作に、王族を敬う気持ちが読み取れる。
王族がいまだ、民の心の中に生き続けているのだと、クロウを通して実感し。我はなんだか嬉しくなった。
「あの、イアン様。ボタンの糸がゆるんでいます。後程シャツを預けていただければ、お直しいたしますが?」
指摘され、我は胸元を見る。
確かにボタンが取れかけていた。
あぁ、先ほどの稽古で。最後の最後で、セドリックの大振りをうまく回避できず。そのときボタンを引っかけたようだ。
もしくは、風圧で糸を切ったか? 化け物め。
だが、これはチャンスではないか? なにかと気になるクロウを、近くで観察できる。
我は、心の中でニヤリと笑ったが。その気配を察知したのか。クロウはちょっと頬を引きつらせた。
「今、直せ」
「でも、イアン様のおそばで針を使うことになります」
「構わぬ」
剣を椅子に立てかけて置き。我は、クロウの動向を凝視した。
クロウは微笑みつつも困り顔で、しばらく逡巡していたが。心を決めたのか、我の隣に腰かけた。
さぁ、死神よ。これからどうする?
春の麗らかな日が射す、午後の庭で。我は久しぶりにセドリックと、剣の模擬戦をした。
我は、黒ズボンに白シャツという、いつもの軽装で。帯剣ベルトをつけていないので、鞘はシヴァーディが持っている。
対するセドリックは、騎士服の第一ボタンを外した、着崩しリラックスモード。全く不敬なやつだな。
我とセドリックは、本気で打ち合う。
キーン、キーンと、鋼が弾き合う、庭には不似合いな金属音が、断続的に鳴った。
セドリックは大きな体格なので、それに見合った、身幅の大きめな、重い剣を振り回す。
我は、手に持つ重さが一番しっくりくる、古い剣を振っていた。
あの、クロウが言うところの、ミハエルの剣だ。
しばらくは鍔迫り合いのような形で、打ち合っていたが。大きく体を弾かれて、身が離れたところで、セドリックが地を揺らす魔法を使った。
我は足を取られることなく、ジャンプして回避し。
そこに、シヴァーディが『動くな』と叫んで精神魔法を飛ばしてくる。我は、強い魔力でそれを弾いた。
魔法を放った者よりも、強力な魔力を放てば、ある程度は中和できる。
中和、というか。これ以上来るな、的な盾のイメージだ。
我は、炎の魔法を扱うのだが。魔法と魔力は別のものである。
魔力を使って、なにかしらを生み出すのが魔法で。
魔力は、純然たる生命エネルギーのようなものだ。
意志の強さに似たものというイメージかな。
そうした、剣と魔法を駆使した戦いが、この世界の最高峰の戦闘方式だった。
ふたりの魔法をかいくぐって、我は再び、セドリックと打ち合う。
今、我は魔法を使用できない。
ゆえに、もしも、誰かが、どんな卑怯な手を使って来ようとも、対処できるように。こうして実戦を繰り返し、技を身につけていくのだ。
「お見事です、陛下」
「いや、最後のセドリックの大振りは、紙一重だった。もう少し、余裕のある戦い方が、出来るようにならなければ…」
ひと段落ついて、我とセドリックは互角のまま、模擬戦を終えた。
ま、セドリックは教える側として、手加減しているのだろうが。
シヴァーディが差し出してくる鞘に、我は抜き身の剣をおさめる。
「そういえば。クロウが、このミハエルの剣をもう一度見たいと、前に言っていたな」
唐突に思い出し、我はつぶやいた。
そして、おもむろに足をサロンへ向ける。
靴音を響かせて、エントランスホールを抜け、曲線の階段を上がり。廊下の突き当りにある、大きく扉が開かれたサロンへ、足を踏み入れた。
またもや、猫がにゃおーんと鳴いて。クロウは顔を上げる。
突然に現れた我の顔を見て、驚き。そして、我が手に持つ剣を見て、青ざめる。
以前と同じリアクションだ。
「見たいのだろう? ミハエルの剣」
だが、以前と違うのは。我の言葉を聞いて、パッと華やかな笑みを浮かべたところだ。
クロウは髪を直しながら、椅子から立ち上がり。我に暖炉前の応接セットをすすめた。
「はい、イアン様。どうぞ、こちらへお掛けください」
暖炉に一番近い椅子は、黒猫が大きな顔で居座っているので。我は二人掛けの椅子に腰を下ろす。
目の前に立つクロウに、無造作に剣を渡した。
「わ、わ、わ…よ、よろしいのですか? セドリック様に、たとえ仕事用のハサミでも、刃物を王族に向けてはなりませんと、きつく言われているのですが」
すでに、剣を持つ手が、ぶるぶるしている。そんなサマで、我を害せるとでも?
「はは、やれるものなら剣を抜いてみろ。おまえが剣を振りかざしたところで、我は斬られる気が全くしないぞ?」
「と、とんでもない」
鞘におさまるミハエルの剣を、捧げ持った状態のまま、動けずにいるクロウを見て。これではネズミ一匹殺せないだろうと、改めて思うのだった。
「チョン、見て見て、ミハエル様の剣だよ。や、ヤバくね?」
両手を上にしたまま、クロウは猫に見せるように、ソロソロと動いていく。
なんで、猫に自慢するんだ?
黒猫も、迷惑そうにしながらも、椅子の上で立ちあがり。それでも剣を見やって、なにやらニャーニャー言っている。
クロウと話しているみたいにも見えるから、不思議な猫だ。
「イアン様、こ、腰が抜けそうです。ミハエル様の剣が、手の中にあると思うと…」
おののきながらも、頬を紅潮させ、嬉しげに、珍しげに、食い入るように、クロウは猫と一緒に宝剣をみつめている。
つい先ほどまで、その剣でぞんざいに、セドリックと本気の打ち合いをしていたとは、言えない。
我にとっては、これは、日常使いの剣なのだがな。
…宝物として扱うべきだろうか?
だが、王城の中では、この剣が、我には相性が一番いいのだ。悩むな。
「ミハエル様のように、何者にも負けない強さを持ちたいって。僕、憧れていたのです」
ほぅと、感嘆のため息をつき。クロウは恭しい仕草で、剣を我に返した。
彼の所作に、王族を敬う気持ちが読み取れる。
王族がいまだ、民の心の中に生き続けているのだと、クロウを通して実感し。我はなんだか嬉しくなった。
「あの、イアン様。ボタンの糸がゆるんでいます。後程シャツを預けていただければ、お直しいたしますが?」
指摘され、我は胸元を見る。
確かにボタンが取れかけていた。
あぁ、先ほどの稽古で。最後の最後で、セドリックの大振りをうまく回避できず。そのときボタンを引っかけたようだ。
もしくは、風圧で糸を切ったか? 化け物め。
だが、これはチャンスではないか? なにかと気になるクロウを、近くで観察できる。
我は、心の中でニヤリと笑ったが。その気配を察知したのか。クロウはちょっと頬を引きつらせた。
「今、直せ」
「でも、イアン様のおそばで針を使うことになります」
「構わぬ」
剣を椅子に立てかけて置き。我は、クロウの動向を凝視した。
クロウは微笑みつつも困り顔で、しばらく逡巡していたが。心を決めたのか、我の隣に腰かけた。
さぁ、死神よ。これからどうする?
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