【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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44 周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

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     ◆周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

 ぼくは今、王城の庭の花壇の前にしゃがんで、花をみつめています。
 春先なので、日差しは燦燦さんさんですが。まだ肌寒いので、今日はコートを着ています。
 裾が汚れないように、しゃがむ後ろ足に裾を巻き込んで、全面は胸の前で抱えているのですが。
 そんなことはどうでもよくて。

 ぼくは、とうとう、ヤバいことに気づいてしまった。

 それで、頭を整理しようと思い。ここで花をみつめながら考え事をしているわけなのです。
 事の起こりは、今日の朝。
 いつも、食事のワゴンを配膳してもらっていたのだけれど、部屋から出ても良いことになったので。少しでも手助けになれば、と。朝食のあと、ワゴンを厨房に返しに行きました。

 ちなみに、食事を届けるのは、ラヴェルがしてくれて。それもぼくがしますよ、と言ったのだけど。
 そうしたら、ラヴェルが涙目になっちゃって。
 これくらいさせてくださいっ。と怒るものだから。
 まぁ、いいですよ? 助かりますし。ということになった。ラヴェルは本当に働き者だね?

 それで、ワゴンを押して廊下を歩いていたら。厨房の入り口で、アルフレドとアイリスが談笑している場面に、出くわしまして。
 なにやら、ふわふわと花が飛ぶような雰囲気です。

 ぼくは躊躇ちゅうちょした。
 ここで割って入ったら、お邪魔なクロウになりそう。
 でも先日、アイリスに聞けなかったこととかあったから。勇気を出して、ふたりに声をかけたのだ。

「アイリス様、アルフレド様、おはようございます。ワゴンを持ってきましたよ。アルフレド様、今日の朝食も、とても美味しかったです」
 ぼくに気づいたアルフレドは、笑顔でワゴンを受け取り。
 かたわらのアイリスも、にこやかで。
 お邪魔した様子はうかがえなかった。良かった。

「ありがとうな、クロウ。おまえは細身だから、この王城にいる間は、じゃんじゃん食べろ。少し太るくらいで、ちょうどいいぞ? あとな、俺も平民だから。様はいらねぇよ?」
 薄青色の短髪は、清潔感があり。垂れ目でにっかり笑うと、親しみがある。
 アルフレドはいつもフレンドリーで、ぼくのように基本コミュニケーションベタな陰キャには、接しやすく、ありがたい人物だった。
 まぁ、この世界では、生きていくのにコミュ障とか言っていられず。商会で鍛えられて、それほどひどくはないんだけど。

「わかりました、アルフレド」
 彼はにっこり笑うと、ワゴンを厨房の中へ押していった。

「あの、アイリス様は、アルフレド…と仲が良いのですか?」
 転生のこととか、アイキンのこととか。どうやってアイリスにたずねようかと悩み。
 まずは、目で見たことから入っていったわけだが。
 アイリスは、ぼくにそっと近づくと。口に手を当てて、こっそり言った。

「好感度上がっていたら、いいんだけど…私、アルフレド様が本命なの。だって、強くて、たくましくて、料理ができるイケメンで、優しくて、力持ちで、お菓子が作れるイケメンなのよ? つか、垂れ目で、目の下ほくろアリってどんなご褒美よ? 結婚するなら、断然アルフレド様だわぁ?」

 イケメンと料理系、二回ずつ言った! 大事なことなんだね?

「アイリスさん? ワゴンを返すだけなのに、時間かかり過ぎよ?」
 遠くから侍女長に呼ばれ、アイリスは明るく、はーいと返事をする。
 またもや、ひらりとスカートを揺らして、行ってしまった。
 ええぇぇ? つか、アイリスぅ…? 今、さりげなく爆弾発言だったね?

 主人公ちゃんがっ、アイリスがっ、アルフレドルートに進んでたぁ?

 そんなことがあり。
 ぼくは、仕事そっちのけで、花をみつめながら考え事をしているわけなのです。
 いえ、全く仕事をしていないわけでは、ないのですよ?
 むしろ、ちょっと根を詰めすぎて、目がシパシパで。鼻の上辺りは重ダルで。目の健康のためにも休憩しているところなのですから。それはともかく。

 つか、アイリスがアルフレドルートに行ったら、王様はどうなっちゃうの?

 アイリスとアルフレドが、タッグを組んで、王様の窮地を救う方向かな?
 いやいや、もう、この先の展開がわからないよ。どうすれば、陛下はハッピーエンドになれるんだ?

 そういえばさぁ、アイリスが王様のそばにいるの、見たことなかったんだよね?
 その事実から、今まで目をそらしていたんだよなぁ。

 だって、主人公なら、王道の王様ルートを選んでくれるって、思うじゃん?
 当たり前のように、ぼくはそう思っていた。
 ぼくの見ていないところで、アイリスは、王と愛を育んでいるんだって…。

 それに、この国のためにも、陛下を救わなきゃ。
 バミネが王様になったら、滅びちゃうよ。確実に。
 それとも、アイリスは。アルフレドルートでも、王様を救える手立てがあると、考えているのだろうか?
 アイリスのこと、そんなに詳しく知らないけど。国のことを考えないで、自分の恋愛を優先するような、自分勝手な子には、見えないしなぁ。
 そう思いたいっていう気持ちの方が、強いか。願望。懇願。そうであってほしいぃ。

 でもさ、アイキンの名前は『愛の力で王を救え』なんだけど。やっぱ、誰かが王様を愛さないと、話が進まないんじゃないかな?
 でもさ、でもさ、アイリスがその役目をしないとなったらさ。攻略対象と家族とアイリスを抜いちゃったらさ。

 王様の周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

 ぼく? ぼくですかい?
 いやいや、無理でしょ?
 モブで、平民で、仕立て屋で、男だよ?
 乙女ゲームで男同士が恋愛したら、マズいんじゃね?
 つか、陛下がぼくを相手になんか、しないだろうけど。うん、うん。

 あぁ、もしかしたら。ご結婚相手がいるのだから、そっちとうまくいくとか?
 でも陛下は、結婚話に消極的なご様子。
 それに、いまだ登場していない人物に期待するのは、駄目じゃないか?
 どんな人かも。陛下をちゃんと愛してくれるのかも、わからないのに。

 うーん。ここは。頼りにできない結婚相手のことは抜きで考えるか。どう転んでも良いようにしておかないと。

 恋や愛は、ぼくにはよくわからないけど。
 でも、無理とかマズいとか、言ってられないんじゃないか?
 このままなにもしなかったら、バミネは陛下を殺してしまうかもしれない。
 あいつ、王座のためならなんでもやりそうだもの。
 うがった見方をしたら、陛下の婚姻話もさ。バミネの息がかかったお相手様が、陛下を暗殺、とか…。ありそう、やりそう。
 あいつ、性格最悪だから。幸せの絶頂からの暗殺で、絶望を味わわせるとか。ありそう、やりそう。

 だったら、陛下も警戒するのは当然だな。結婚話に消極的なわけだよ。
 ま、悪いように考えたら、だけど。いよいよ結婚相手に、期待はできない。

 バミネが、この国の王様になってしまったら。この国はマジで終わりだ。
 不正と腐敗に満ちた、暗黒政治真っ逆さまだよ。
 すでにその片鱗は出ている。金と権力で、強引に舵取りしているもん、あいつ。
 その横暴さは、いずれ国民にも災いをもたらす。
 いや、すでにちょっとしたイザコザはあると、ジェラルド商会を束ねる大叔父様が、言っていたよ。

 それよりなにより、陛下が殺されるとか、そういうの考えたくない。
 陛下は、死なないもん。
 死なない。絶対、死なせない。バミネなんかに、手を出させない。

 ぼくの役所が、モブだろうと、主人公だろうと。関係ない。ぼくは、とにかく陛下をお救いしたいんだ。って。塔の上で、そう思ったじゃないか?
 アイリスも結婚相手も、陛下のそばにいないなら。ぼくが、陛下を守ればいいんだっ。

 でも、どうやって?
 ぼくにはなんの力もない。剣術もない。ただ、針と糸を持っているだけなのに。
 この身を盾にして、陛下を守ることはできる。
 でもそのあとは? ぼくが死んだあと、陛下は死なずに済む?
 それは、自分がただ陛下の死を見ないというだけで、真に陛下を救う、ということにはならないんじゃない?

 でも、だったら。どうやったら、陛下をバミネから守ることができるんだ?

 あぁ、一回でも、アイキンを攻略できていたら。陛下をお守りする策が、みつけられたかもしれないのに…。
 アイキン…そうだ、愛の力で王を救う…んだよな? 愛か、愛。
 好きかどうかと言われたら、ぼくは好きだよ? だって陛下は、推しだもの。

 でも、ぼくは恋愛をしたことがないんだよなぁ。
 好きって思ったら、もう恋愛? そんなこともわからないヘタレな恋愛ビギナーが、陛下を救うことなんかできるのか?

 つか、愛ってなんですかぁ?

「ふふ…」
 突然、押し殺したような笑い声が聞こえ。顔を上げたら。
 花壇の向こう側に、いつの間にか陛下が立っていて。ぼくを見下ろしていた。
「なにをひとりで百面相しているのだ? クロウ。さぼりか?」
 見られてたっ。
 ぼくがあじゃこじゃ考えていたときの顔、陛下に見られてた? は、恥ずかしいぃィ。

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