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番外 マルチェロのたくらみ 3
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サリエルと友達になって、私は彼に好感を持つようになった。
最初こそ、サリエルの容姿を丸いなと思っていたけど、その人となりを知ったことで、あのフォルムがなんだか愛らしいと思えてくるから、不思議だね。
レオの、秘書に取り立てるという言葉がなかったら、私はサリエルと本気で友達になろうとは考えなかったはずだ。そう思うと、私の家柄や魔力的有能さに魅かれるような打算もなく、私と友達になってくれたサリエルに後ろめたさを感じるが。
今はサリエルのこと、純粋に好きだよ。
しかしその後ろめたさは、サリエルの護衛に失敗したら、本気で、リアルで、冗談抜きで、レオに殺されるのだと知って、霧散した。
それほどに、レオはサリエルを溺愛しているのだ。
知らない間に、私の命がかかっていたようだね。
恐ろしいね。
先に言っておいてほしいね。
まぁ、だからといって。サリエルのお友達をやめたりはしないけど。
ニッコリ笑顔で私に手を差し伸べるサリエルは、かけがえのないお友達だ。
だから、私の大切なお友達を命がけで守るだけの話だ。
サリエルは、今まで出会った誰とも違う、はじめてで、貴重で、不思議な人物。
どうやら、今まで私が友達だと思ってきた者たちは、友達ではなかったようなのだ。
表面的な私の美しさに気を取られる者、強者のそばにいれば自分は安泰だと思う者、そんな人物ばかりだったからね。それは真の友ではないと、サリエルと相対することで知ったのだ。
私個人を見て、喜んで遊んでくれるサリエルこそ、本当の友なのだと素直に思える。
なぜだろう。
サリエルとだったら、私も子供みたいに無邪気に遊べるんだ。
年相応になって、遊べるんだ。
ある日、町に買い物に来ていた私とサリエルは、レストランで昼食をとったあと、腹ごなしに公園に行った。
サリエルは興味津々で噴水を見ている。
その光景を、少し離れたところで微笑ましく見つつ、私は彼の侍女であるエリンに忠告した。
「母親に醜いと言われたと、サリーが私に言ったことはレオンハルトに報告しないほうが良いよ。たぶん、レオ、殺しちゃうよ」
市場に向かう道中で、そのような話になったのだ。
エリンはサリエルの付き添い侍女だが、レオンハルトの部下であり、サリエルを守る護衛であり、監視員でもある。今日の出来事はすべてレオンハルトに筒抜けになると見込んでいた。
しかし、なにもかもを包み隠さず報告されたら、レオが暴走するかもしれないからね。
エレオノラが殺されることは別にどうでもいいんだけど、レオが怒れば災害級の大惨事になりかねない。
「レオンハルト様はすでにその言葉を直に聞いております」
だがエリンは予想もつかぬことを口にしたのだ。
「直に? レオンハルトはその場に居合わせたということか?」
「いえ、サリエル様の話はおそらく幼少期のことと思われますが、レオンハルト様はサリエル様との婚約の折に聞いたのです。あの女は、醜いサリエルではなくディエンヌと婚約して…などということをおっしゃいまして」
「は? レオの前でそんなことを? あの女、よく生きているな。その場に私がいたら、即殺す。魔王に殺されても、殺す」
侍女であるエリンが、魔王の側妃であるエレオノラをあの女呼ばわりするくらいに、彼女も怒っているのだろうが。私もまた、怒りがふつふつと沸いてしまった。
「レオンハルト様はもちろん、雷は落としましたが……」
雷、落としたんだ、レオ。
でしょうね、と私は思い、苦笑する。
手中の珠をけなされて、黙っている男ではない。
しかしときに、己の邪魔になる者は凶悪な魔力を放出して容赦なく排除する暴君のレオが、雷ひとつで済ませたことを不思議に思う。
その疑問は、すぐにエリンが答えを口にした。
「レオンハルト様があの女を殺さないのも、ディエンヌ様を殺さないのも、すべてサリエル様のためです。サリエル様を悲しませたくないからです」
「わからないなぁ。なんであのような仕打ちをされて、サリーはまだあの親子をかばうのだろう? 私がそのような憂き目にあったら、そんな者が死んでも悲しいなどとは思わないよ。ディエンヌはなんでかサリーに殺意がある。あの母も妹も、サリーには百害あって一利なしだ」
「その点は私も同感です。サリエル様も、もうさすがにかばうようなことはないでしょうが、どんな親でも親が死んだら悲しいと、サリエル様は思ってしまうようなのです。それがサリエル様の気性だから、としか申せません」
「それがサリーだから、か。レオはそれを理解して、サリーのためにあの親子への殺意をおさえているんだね?」
私の言葉に、エリンはそっとうなずいた。
なるほど。レオンハルトの境地に達するまでは、まだまだ遠い道のりのようだ。
すなわち、サリエルが私にお友達以上の感情が芽生えるまで、のことだが。
しかし。ならば私は、私にできることをしよう。大切な、我が友のために。
遊び疲れて、帰りの馬車で寝てしまったサリエルに、私はそっと話しかける。
「サリー、私はディエンヌと婚約することにしたよ。打診が来ていてね、普通なら一も二もなく断るところだけど、今日の君の話を聞いて決めたんだ。あいつらから君を守りたい。私が君とあいつらの間に立って、君に伸ばされる魔の手を払ってあげる。どこまでやれるかはわからないが、どす黒いあいつらの悪意を君がなるべく感じないようにできたらいいな。ふふ、よく寝ているね」
今日はいっぱい遊んで、いっぱい笑って、いっぱい楽しかった。
だからサリエルはぐっすり寝ている。
今の、私の話は聞こえていないだろう。でも、それでいいんだ。
私にもちぃと寄りかかる彼の重みを感じ、私はそっと微笑んだ。
最初こそ、サリエルの容姿を丸いなと思っていたけど、その人となりを知ったことで、あのフォルムがなんだか愛らしいと思えてくるから、不思議だね。
レオの、秘書に取り立てるという言葉がなかったら、私はサリエルと本気で友達になろうとは考えなかったはずだ。そう思うと、私の家柄や魔力的有能さに魅かれるような打算もなく、私と友達になってくれたサリエルに後ろめたさを感じるが。
今はサリエルのこと、純粋に好きだよ。
しかしその後ろめたさは、サリエルの護衛に失敗したら、本気で、リアルで、冗談抜きで、レオに殺されるのだと知って、霧散した。
それほどに、レオはサリエルを溺愛しているのだ。
知らない間に、私の命がかかっていたようだね。
恐ろしいね。
先に言っておいてほしいね。
まぁ、だからといって。サリエルのお友達をやめたりはしないけど。
ニッコリ笑顔で私に手を差し伸べるサリエルは、かけがえのないお友達だ。
だから、私の大切なお友達を命がけで守るだけの話だ。
サリエルは、今まで出会った誰とも違う、はじめてで、貴重で、不思議な人物。
どうやら、今まで私が友達だと思ってきた者たちは、友達ではなかったようなのだ。
表面的な私の美しさに気を取られる者、強者のそばにいれば自分は安泰だと思う者、そんな人物ばかりだったからね。それは真の友ではないと、サリエルと相対することで知ったのだ。
私個人を見て、喜んで遊んでくれるサリエルこそ、本当の友なのだと素直に思える。
なぜだろう。
サリエルとだったら、私も子供みたいに無邪気に遊べるんだ。
年相応になって、遊べるんだ。
ある日、町に買い物に来ていた私とサリエルは、レストランで昼食をとったあと、腹ごなしに公園に行った。
サリエルは興味津々で噴水を見ている。
その光景を、少し離れたところで微笑ましく見つつ、私は彼の侍女であるエリンに忠告した。
「母親に醜いと言われたと、サリーが私に言ったことはレオンハルトに報告しないほうが良いよ。たぶん、レオ、殺しちゃうよ」
市場に向かう道中で、そのような話になったのだ。
エリンはサリエルの付き添い侍女だが、レオンハルトの部下であり、サリエルを守る護衛であり、監視員でもある。今日の出来事はすべてレオンハルトに筒抜けになると見込んでいた。
しかし、なにもかもを包み隠さず報告されたら、レオが暴走するかもしれないからね。
エレオノラが殺されることは別にどうでもいいんだけど、レオが怒れば災害級の大惨事になりかねない。
「レオンハルト様はすでにその言葉を直に聞いております」
だがエリンは予想もつかぬことを口にしたのだ。
「直に? レオンハルトはその場に居合わせたということか?」
「いえ、サリエル様の話はおそらく幼少期のことと思われますが、レオンハルト様はサリエル様との婚約の折に聞いたのです。あの女は、醜いサリエルではなくディエンヌと婚約して…などということをおっしゃいまして」
「は? レオの前でそんなことを? あの女、よく生きているな。その場に私がいたら、即殺す。魔王に殺されても、殺す」
侍女であるエリンが、魔王の側妃であるエレオノラをあの女呼ばわりするくらいに、彼女も怒っているのだろうが。私もまた、怒りがふつふつと沸いてしまった。
「レオンハルト様はもちろん、雷は落としましたが……」
雷、落としたんだ、レオ。
でしょうね、と私は思い、苦笑する。
手中の珠をけなされて、黙っている男ではない。
しかしときに、己の邪魔になる者は凶悪な魔力を放出して容赦なく排除する暴君のレオが、雷ひとつで済ませたことを不思議に思う。
その疑問は、すぐにエリンが答えを口にした。
「レオンハルト様があの女を殺さないのも、ディエンヌ様を殺さないのも、すべてサリエル様のためです。サリエル様を悲しませたくないからです」
「わからないなぁ。なんであのような仕打ちをされて、サリーはまだあの親子をかばうのだろう? 私がそのような憂き目にあったら、そんな者が死んでも悲しいなどとは思わないよ。ディエンヌはなんでかサリーに殺意がある。あの母も妹も、サリーには百害あって一利なしだ」
「その点は私も同感です。サリエル様も、もうさすがにかばうようなことはないでしょうが、どんな親でも親が死んだら悲しいと、サリエル様は思ってしまうようなのです。それがサリエル様の気性だから、としか申せません」
「それがサリーだから、か。レオはそれを理解して、サリーのためにあの親子への殺意をおさえているんだね?」
私の言葉に、エリンはそっとうなずいた。
なるほど。レオンハルトの境地に達するまでは、まだまだ遠い道のりのようだ。
すなわち、サリエルが私にお友達以上の感情が芽生えるまで、のことだが。
しかし。ならば私は、私にできることをしよう。大切な、我が友のために。
遊び疲れて、帰りの馬車で寝てしまったサリエルに、私はそっと話しかける。
「サリー、私はディエンヌと婚約することにしたよ。打診が来ていてね、普通なら一も二もなく断るところだけど、今日の君の話を聞いて決めたんだ。あいつらから君を守りたい。私が君とあいつらの間に立って、君に伸ばされる魔の手を払ってあげる。どこまでやれるかはわからないが、どす黒いあいつらの悪意を君がなるべく感じないようにできたらいいな。ふふ、よく寝ているね」
今日はいっぱい遊んで、いっぱい笑って、いっぱい楽しかった。
だからサリエルはぐっすり寝ている。
今の、私の話は聞こえていないだろう。でも、それでいいんだ。
私にもちぃと寄りかかる彼の重みを感じ、私はそっと微笑んだ。
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