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世界の黒い砂
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頬が、冷たい。
何かに腕の辺りを揺らされて瞼が上がる。
「あ、良かった。目を開けたわ! ねえ、あなた大丈夫?」
聞き心地の良い、女性の声だ。ぼんやりと開けていただけの目が視覚として機能し始め情報を脳に送る。
黒のミニスカート。大胆に飛び出たスラッと白い足。辿るように視線を上げれば、昨日見ていた番組でモデルが着ていたハイネックのノースリーブニットに包まれた柔らかそうな胸が、これまた白くて細い腕に挟まれて強調されている。
ふわふわ揺れる長い髪、ぷっくりとした唇、通った鼻筋、綺麗なアーチを描く瞳、無駄のない輪郭。物語の世界から出てきたのかと思うほどバランスの取れた顔立ちに、一度も見たことのない女神を重ねた。
どうやらこの女性が屈んで、横向きに倒れている私の腕を揺らしていたらしい。
「……ねえ、大丈夫? どこか打っちゃった?」
なかなか動かない私に、彼女は心配そうにおでこに触れた。先程よりも近い距離に次いで機能を再開した嗅覚はフラワーブーケの甘い匂いを感知する。
選択したての洋服のような良い香りに何故だか体内にじわ、と黒い染みが広がる気がした。何もかもに理解が追いつかない。まずは体を起こすことが先だと腕に力を入れる。
重たい上半身をなんとか自立させて周りを見渡すとそこには白い空間があるだけで、せっかく動き始めた脳が再び動きを停止した。
ここは、どこ。
そして、私は誰だ。
この女性は何か知っているのだろうか。
口を開こうとした瞬間に何もない空間に扉が現れた。
「やあやあ、世界の命運を握るお二人さん! ご機嫌麗しゅう?」
扉が開くと同時に飛び出してきたのは、緩くウェーブのかかった金髪を一つ結いにした、中華的な服装の人物だった。
「は?」
私の口から飛び出た一文字かと思えば、発したのは彼女の方だった。
モデルのような足取りで広めの袖や裾を優雅に揺らしながら音もなくこちらへ近付いてくるその人物をまじまじと見つめていた。
身長や体つき、髪型は男性にも女性にも見える。声の感じが男性よりかと思えたが確定するには曖昧すぎる。
顔立ちは整っているものの、初対面ながらにその笑顔がどうも胡散臭い。
出来れば関わりたくないタイプだと目を逸らそうとした瞬間、その気持ちが伝わったかのように目が合い、ニヤと笑われる。
心臓が、一回目のひゃっくりのように跳ねた。
今まで感じたことのない印象を受け困惑する。
「もー。せっかくの出会いなんだからもっと楽しくいこうよ」
中華風な人物は彼女に視線を移し大袈裟なほどのため息をついた。
先程から空気を読まない発言を繰り返す人物に彼女も不信感を抱いたのか、不安そうに身を縮こませ顎を引いている。
「なんだい。お嬢さんA。怪しい人物を見るような目で。僕はこれでもイケメンで通っている神様だよ? もうちょっと胸をときめかせたって良いんじゃないかい」
「……かみさま?」
「そうだとも! 君たちに世界の命運を決めるチャンスを与えに来たとっても優しい神様だよ」
「意味がわからないんですが。ここは何処ですか? デートに向かう電車に乗っていたはずなのに一体どうやって……。私と彼女は面識がありませんが……私たちだけが何故ここに? まさか誘拐!?」
混乱していた脳内に更に処理不能な情報を与えられ増幅した不安を吐き出すように女性が言葉を続ける。
「ああ、待って待って今からちゃんと説明するから。まったく、お嬢さんAはせっかちだなぁ。お嬢さんBはあんなにも落ち着いているというのに」
神様(?)が私にウインクをする。同時に私を非積極的であると判断したのか女性の視線がキツく刺さる。
また、体が跳ねる。先程よりも大きく、既視感のある不快さを伴って。
速まる鼓動から気を逸らすように口を開く。
「いや、あっあの……私はまだ混乱していただけで……その、はやく、説明してください」
「そうよ! この子もそう言ってるじゃない。早く説明してよ! 早く帰らないと彼が……」
焦りからか女性のイラついて気持ちがが口調に表れる。
だがその態度に神様が表情をなくすと、身を震わせさりげなく私の後ろに身を寄せた。
必然的に神様の表情がこちらに向いてしまいその雰囲気に心臓が煩いが、黙ってしまう方がこわくて口を開く。
「あなたが……、神様が、私たちをここに呼んだんですか?」
「そう。僕が呼んだの。二人とも神様の特別な力でちょちょいとね」
神様はコロッと表情を変え、ケラケラ笑い私達を交互に指を差す。女性は私の後ろから口を開いた。
「じゃあここは何処ですか! なんで私たちを呼んだんですか! 誘拐で訴えますよ!」
先程怖い思いをしたばかりだというのに私という盾があるからか随分と強気な発言に背筋が寒くなる。
「さすがスーパーラッキーガールは威勢が良いな。こんな場面でも強気でいられるなんて余程周りに愛されて守られてきたんだなぁ。今みたいにさ。やっぱり美人は得だよね」
神様は頬に手を当ててうっとりしている。ひとまず怒ってはいないようなので胸をなで下ろす。彼女の美しさは神様にも通じるほどらしい。腹の奥底がまた少し熱くなった。
「でも残念ながら人間の法律が神様に適用されるわけがないだろ? 世界の命運なんて僕の手のひらだよ。ほら、あれ見て」
神様が指を立てると空中にモニターのようなものが映し出される。当然、プロジェクターなど見当たらない。
「……地球?」
「そうだね、宇宙から見た地球だね」
「それが何よ、なんでこんな映像……早く家に帰してよ!」
先程の発言が許されたことで神様に害意を感じなくなったらしい彼女は、ますます口調が強くなる。
決して私には真似できない芸当に頬が引き攣った。
この中華風の人物が本当の神様であるという確証はない。けれど確実なのは、数々の発言や行動を見るにこの場においてこの人物が絶対的な決定権を持つということだ。
生きて帰りたいのなら出来るだけ気に障るような発言は避けるべきであると本能的に危機回避能力が警告を発している――私は。
幸いなことに神様は特に気にもせず笑っていた。
「まあまあお嬢さんA落ち着いて」
「誘拐されて関係ない宇宙の映像見せられて落ち着けるわけないじゃない! 大事なデートの日だってのにこんな怪しい奴に……!」
怖くて人の後ろに隠れるくらいならせめて大人しく黙っていてほしい――と、もどかしく思うのに、彼女に言う勇気はなかった。
神様は益々笑みを深くして「関係あるよ」と再び指を振る。
モニターの範囲が広がる。
……あれは。
「なに、あれ」
「今、お嬢さん二人がいるこの世界ではどんなに話していても時間は進まない。つまり停止させているんだけど、今宇宙ではこんな風になっていまーす」
「大きな石……まさか、隕石!?」
「そう大正解! しかもこのまま落ちれば君たちの故郷の日本に直撃! まあ日本とけち臭いこと言わず地球が跡形もなく消滅するね!」
あちゃー、と古いリアクションをとる神様には焦りなど一切感じられない。あまりにもあっけらかんと言うものだから冗談だと思えなくもないのに、真実だと何故か確信した。
それは彼女も同じだったようで、先程まで血色の良い顔色は真っ青になっている。それでも病弱キャラとして人気が出そうだと考えが浮かんでしまうのだから美人は恐ろしい。
「な、なに、それ……そんな話、信じられるわけ……」
「信じなくてもいいけど何もしなければ本当に日本も地球も滅びるよ。この隕石は特殊でね、今地球上にある機械では観測出来ない。だから目で見えるようになるまで誰も気付かない。もし観測出来てなにか対策をしようとしても手遅れで今に至る。僕は星が一つ消えるくらい、コップを一つ割っちゃったくらいの感覚だからそれでもいいんだけど」
その言葉も、嘘じゃない。
でも何か本題を隠している。
それを聞きたいような、聞きたくないような行き場のない思いで神様を見つめていると神様はまた私の顔見て、笑った。
「こんな巨大な隕石が地球に落ちるのなんて言っちゃえば稀だけど自然現象だからね。僕がどうこうする義理はないんだけどさ、ほら人間達も頑張ってきたじゃん? 進化して発明して文明作ってここまできたのはすごいなって思うわけ。だからさ」
神様は、強く手を握り、そっと開く。
そこには漫画でよく見るような簡易的なスイッチが一つ。
「選択肢、あげようと思って」
その笑みを見ていられなくて目を閉じる。
「なんなの、それ……」
信じないと言いつつ、状況が状況だけに信じざるを得ない彼女はそれに興味を示した。
「あえて名付けるなら救済スイッチだよ」
「救済スイッチ……? そ、それを押せば地球は助かるの?」
「そうだよ~。すごいでしょ。僕のチカラ」
「ええ、すごい、すごいわ! 本当に神様なのねありがとう!」
彼女の声に興奮が混じっている。もう、信じたらしい。さっきまで喚いていたというのに今はもう目を輝かせている。こんなにも簡単に一喜一憂して、彼女の人生はさぞかしカラフルだったのだろう。
それに比べて私は――。……? 私は……?
なぜだかわからない。わからないけれど、急に。
さっきまでぼんやりとしていた『自分』というものがどういう存在であったかが腹のずっと奥底から沸々と湧き出てくる。
私とは――。私とは――。私とは――。私とは――。
――――――――ああ、そうだ。私とはそういうものだった。
情報処理の完了と同時に、自分が何のためにここに呼ばれたのかの意味が、推測される。
じゃあ、これは、きっと。
目を開けると早速、彼女は私の背後から飛び出してスイッチを押そうと手を伸ばしていた。
僅かな時間ではあったが出会ってから今までで一番、その彼女を見る。
彼女は、美しかった。
神様と名乗る存在がいるくらいだからこの美女はもしかしたら天の使いなのかもしれないと見惚れてしまうほど。
遠目から見たら大体の人は美人に見えるという。だが、彼女の美しさは本物で、顔の黄金比が完璧で、肌には毛穴の一つも見当たらない。
まさに人類の宝のような存在。
逸らした視線の先に自分の短くて節くれ立った手が、無数の黒子や毛穴や傷や痣が散らばっている腕が、皮肉にもより自分という人間の根幹を呼び起こす。
彼女の手がスイッチに触れる瞬間、神様が口を開いた。
「でもね、これは選ばれし二人が力と心を合わせて一緒に押さないと意味がないんだ」
やっぱり、そういう展開になる。
「世界を救うにはそれなりの想いのエネルギーが必要でね、だから想いの強そうな二人を呼んだんだよ」
「そういうことだったのね。それならそうと早く言ってくれればいいのに!」
「あの子の記憶が戻ってなくて想いの強さが足りなかったんだよ。――でも、もう大丈夫みたいだね」
「そうなんだ。でも良かった、世界を救う代償に命を捧げて……とかじゃなくって。これなら楽勝ね!」
こんな非現実的で曖昧な情報でも彼女はもう神様の言葉を疑うことすらなくなったらしい。嬉しそうに駆け寄ってくるその眩しい圧力に、反射的に後退ろうとするが彼女が私の両手を握る方が速かった。
「私ね、実はもうすぐ結婚するの。五年付き合ってた三歳年上の彼氏にプロポーズされてね。彼ったら気が早くてもうマイホームを建てる計画もしてて、新婚旅行も世界一周の予定を立てたらしいの。更には海外に住む友人に勧められて別荘まで作るとか言い出して、ビックリしたけどそういう所も彼らしいというか。家族も協力してくれるっていうから海外で過ごすのも悪くないかなとか。みんなでわいわいするのもいいなって思ってたから」
ギュッ、と力が込められる。思いがそのまま熱になったかのように彼女の手のひらは熱い。
「そんな、みんなが幸せな未来を守りたいの!」
思わず目を細めてしまうほど彼女の瞳は希望に満ちて眩しい。
「お願い、協力して! 貴女にだって守りたい人達や未来があるでしょう?」
屈託のない笑顔。
彼女の言葉と笑顔には生きることへの希望と美しさがある。そしてそれが普遍的なものだとも思っている。
私が「はい」か「イエス」しか答えないと思っているに違いない。
これを信頼とするか押し付けとするかは言及し難いのだが、どんどん喉の奥が苦しくなってくる。
彼女は美しい。でもそれは容姿だけじゃない。自信と、希望とを惜しみなく持ち表しているからだ。
自分の中の黒いものが浄化されていくようなむず痒さに顔を背けると――神様と目が合う。
神様は、今日初めて、とてもやさしく、慈しみ深い笑みを『私』に向けた。
「あ――、――」
すべてを、見透かす瞳。腹の底で煮詰まり続けた黒い塊が解けて砂のように流れ始める。
こんなもの、外に出して良いわけがない。なのに、神様の無言の赦しに心が決まっていく。
私は彼女の両手を握り返し、自分で意識しうる限り最大の笑顔を向けた。
「私がスイッチを持ってきますね」
私が彼女にそう言うと、彼女は安心したようにその場に座った。
神様はスイッチを手に乗せたまま、離れる時を今か今かと待っている。プレゼントの蓋を開ける前の子供のように、全身から待ちきれないと聞こえてきそうだった。もうこの神様は怖くない。
神様の真ん前に立つ。実際に現実とは異なるかもしれないがふわふわとしていた。神様が差し出したスイッチに触る前に口を開く。最終確認だ。
「神様。一つ聞いても良いですか」
「もちろんだとも。何でも聞いて。愛しい愛しい不遇な子」
その言葉だけで――。涙が出そうになるけれど奥歯を嚙みしめ、続ける。
「たとえば、私が一人でこのスイッチを押したらどうなりますか?」
予想外の発言に後ろで彼女が驚きの声を上げた。
神様は言った。
「さっきも言ったけど、君一人じゃ世界を救うようには機能しない。二人で押さないと」
彼女がホッと安堵の息をつく。
神様は続けた。
「でも、君の願いは叶えられるよ」
目の前が潤む。まだ、堪える。
一息ついて、振り返ると会話を理解出来ず戸惑っている彼女がいる。
少しだけ心が痛んだが、飲み込んだ。
「――あのね。美人で恵まれた天使みたいな貴女。ごめんなさい。私生まれてから一度も、幸せなんて感じたことがないから、愛されたこともないから守りたい未来なんてないの」
「…………え?」
「親には放置されるか殴られるかだったし碌な衣食住も保証されてなかったから施設暮らしだったけど遊びに見せかけたいじめがあって傷つけられるわ変な大人を唆されて誘拐されるわでずっと怯えて生きてきたの。学校生活もそんな感じで私と喋ったからって汚いもの扱いされて屋上から飛び降りた子もいた。悪者扱いされて、ブスだと罵られて、無視されて周りの大人は知らんふり。耐えて大人になれば変わると思ったけど、体裁的ですら守ってくれる人がいなくなって、あっちに行ってもこっちに行っても人間としての尊厳は踏みにじられるばかり」
誰だったかが私に言った。
「お前は感謝が足りないから幸せになれない」「もっと辛い人生の人は大勢いる」と。
私の人生の全てを見てきたわけでもないそいつはさもそれが正しいことであるかのように押し付ける。
同じ人生を辿ってから同じことを言ってみろよ。
……いや、いっそ同じ人生を辿って本当に同じことを言って笑い飛ばしてほしかった。「大丈夫だ」と「お前は幸せになれる」と言ってほしかった。
「人間は平等じゃないし、生きているだけで幸せなのは恵まれた人だけ。今を生きるのに精一杯な人間に未来を想像する余裕なんてない。惨めになるだけだから」
周りの幸せを見てはいつか自分もと希望を抱いた時もあった。幸せになる権利は誰にでもあると聞いたから信じていたのに。
「でも、信じていれば、生きてさえいればいつかは……!」
「いつくるか、来ないかもしれないそれに耐えて生きるつらさを、知らないでしょ」
こうやって言葉を交わしても、きっと彼女は私の言葉の一割も実感出来ない。
「生きるのは疲れる。だからね、終わらせたかったの。世界ごと。私だけが死んでも意味がないから。でも誰かを悲しませたいわけでもないから世界を一瞬で誰にも気付かれず消したかった」
スイッチの上に手を置く。少し震えていたのはきっと、歓喜の震えだ。
「絶対に無理だと思ってた。そんな非現実的なこと。――非人道的なこと」
「そう、だよ……、罪のない人も、みんな、死んじゃうんだよ……そんな、ひどいこと」
「この世の中でマイナスに働く要素ってあるでしょ。必ずじゃないけど不利になる方が多い要素。性質としてこの体に与えられたマイナス要素。それらを強みに出来る人がいただけなのに、出来ない人は努力不足だって言う奴が蔓延る世界なの。与えられた理不尽を嘆くことも許されない世界。どうしようもないのだからしょうがない。それで納得出来る人はすれば良い。でも私は出来なかった。納得出来る程度の環境すらなかった。きっと、言っている意味すら貴女にはわからないでしょうけど」
「でも、でも……」
「だから神様に願ったの。最初はこんな理不尽を与えた神様を恨んだけど。私に明るい未来がないのなら私にも『天命的な理不尽』を与えるチャンスをくださいって。いいよね。天命なんだからしょうがないよね。みんなそうやって納得できるんだもんね」
スイッチの上に手を置く。
「最後にあったのが最上級に恵まれた貴女で良かった。――バイバイ」
彼女が駆け寄ってくるより先に、スイッチを押す。
彼女はその大きな瞳からガラス玉のような涙を落とし、出会ってから今までで初めてその顔面に皺を刻み大きな音と共に白い靄に包まれて、消えた。
モニターはもう消えていて、本当に衝突したのかはわからない。
初めて与えた理不尽はとても苦しくて、それでも漸く自分のために何かをしてあげられた喜びで涙が止まらなかった。
神様が私を抱きしめる。
「ああ、今まで本当につらかったね愛しい不遇の子。ごめんね。人類の進化のためには優劣が必要だから最初から平等なんて存在しないんだ」
白が白と認識されるためには他の色という概念が必須になる。比較の中にしか存在し得ないものが世の中にはごまんとある。
「多少はみな受け入れ乗り越えていけるけれど、君に与えられたものは非道いものが多すぎた。人の努力ではどうしようもないほどに。奇跡じゃなきゃ救われないほどに。だから君の所為じゃない」
「うっ、ううう……!」
『君の所為じゃない』その言葉をどれほど私が欲しかったか。
「さあ、もうゆっくりおやすみ。そして君が次に目覚める時は全く新しい世界になっている。大丈夫、こんなに頑張ったのだから今度こそちゃんと素敵な未来をあげよう」
初めて感じる安心に身を委ねていると、私の意識は次第に光の中へと溶けていった。
何かに腕の辺りを揺らされて瞼が上がる。
「あ、良かった。目を開けたわ! ねえ、あなた大丈夫?」
聞き心地の良い、女性の声だ。ぼんやりと開けていただけの目が視覚として機能し始め情報を脳に送る。
黒のミニスカート。大胆に飛び出たスラッと白い足。辿るように視線を上げれば、昨日見ていた番組でモデルが着ていたハイネックのノースリーブニットに包まれた柔らかそうな胸が、これまた白くて細い腕に挟まれて強調されている。
ふわふわ揺れる長い髪、ぷっくりとした唇、通った鼻筋、綺麗なアーチを描く瞳、無駄のない輪郭。物語の世界から出てきたのかと思うほどバランスの取れた顔立ちに、一度も見たことのない女神を重ねた。
どうやらこの女性が屈んで、横向きに倒れている私の腕を揺らしていたらしい。
「……ねえ、大丈夫? どこか打っちゃった?」
なかなか動かない私に、彼女は心配そうにおでこに触れた。先程よりも近い距離に次いで機能を再開した嗅覚はフラワーブーケの甘い匂いを感知する。
選択したての洋服のような良い香りに何故だか体内にじわ、と黒い染みが広がる気がした。何もかもに理解が追いつかない。まずは体を起こすことが先だと腕に力を入れる。
重たい上半身をなんとか自立させて周りを見渡すとそこには白い空間があるだけで、せっかく動き始めた脳が再び動きを停止した。
ここは、どこ。
そして、私は誰だ。
この女性は何か知っているのだろうか。
口を開こうとした瞬間に何もない空間に扉が現れた。
「やあやあ、世界の命運を握るお二人さん! ご機嫌麗しゅう?」
扉が開くと同時に飛び出してきたのは、緩くウェーブのかかった金髪を一つ結いにした、中華的な服装の人物だった。
「は?」
私の口から飛び出た一文字かと思えば、発したのは彼女の方だった。
モデルのような足取りで広めの袖や裾を優雅に揺らしながら音もなくこちらへ近付いてくるその人物をまじまじと見つめていた。
身長や体つき、髪型は男性にも女性にも見える。声の感じが男性よりかと思えたが確定するには曖昧すぎる。
顔立ちは整っているものの、初対面ながらにその笑顔がどうも胡散臭い。
出来れば関わりたくないタイプだと目を逸らそうとした瞬間、その気持ちが伝わったかのように目が合い、ニヤと笑われる。
心臓が、一回目のひゃっくりのように跳ねた。
今まで感じたことのない印象を受け困惑する。
「もー。せっかくの出会いなんだからもっと楽しくいこうよ」
中華風な人物は彼女に視線を移し大袈裟なほどのため息をついた。
先程から空気を読まない発言を繰り返す人物に彼女も不信感を抱いたのか、不安そうに身を縮こませ顎を引いている。
「なんだい。お嬢さんA。怪しい人物を見るような目で。僕はこれでもイケメンで通っている神様だよ? もうちょっと胸をときめかせたって良いんじゃないかい」
「……かみさま?」
「そうだとも! 君たちに世界の命運を決めるチャンスを与えに来たとっても優しい神様だよ」
「意味がわからないんですが。ここは何処ですか? デートに向かう電車に乗っていたはずなのに一体どうやって……。私と彼女は面識がありませんが……私たちだけが何故ここに? まさか誘拐!?」
混乱していた脳内に更に処理不能な情報を与えられ増幅した不安を吐き出すように女性が言葉を続ける。
「ああ、待って待って今からちゃんと説明するから。まったく、お嬢さんAはせっかちだなぁ。お嬢さんBはあんなにも落ち着いているというのに」
神様(?)が私にウインクをする。同時に私を非積極的であると判断したのか女性の視線がキツく刺さる。
また、体が跳ねる。先程よりも大きく、既視感のある不快さを伴って。
速まる鼓動から気を逸らすように口を開く。
「いや、あっあの……私はまだ混乱していただけで……その、はやく、説明してください」
「そうよ! この子もそう言ってるじゃない。早く説明してよ! 早く帰らないと彼が……」
焦りからか女性のイラついて気持ちがが口調に表れる。
だがその態度に神様が表情をなくすと、身を震わせさりげなく私の後ろに身を寄せた。
必然的に神様の表情がこちらに向いてしまいその雰囲気に心臓が煩いが、黙ってしまう方がこわくて口を開く。
「あなたが……、神様が、私たちをここに呼んだんですか?」
「そう。僕が呼んだの。二人とも神様の特別な力でちょちょいとね」
神様はコロッと表情を変え、ケラケラ笑い私達を交互に指を差す。女性は私の後ろから口を開いた。
「じゃあここは何処ですか! なんで私たちを呼んだんですか! 誘拐で訴えますよ!」
先程怖い思いをしたばかりだというのに私という盾があるからか随分と強気な発言に背筋が寒くなる。
「さすがスーパーラッキーガールは威勢が良いな。こんな場面でも強気でいられるなんて余程周りに愛されて守られてきたんだなぁ。今みたいにさ。やっぱり美人は得だよね」
神様は頬に手を当ててうっとりしている。ひとまず怒ってはいないようなので胸をなで下ろす。彼女の美しさは神様にも通じるほどらしい。腹の奥底がまた少し熱くなった。
「でも残念ながら人間の法律が神様に適用されるわけがないだろ? 世界の命運なんて僕の手のひらだよ。ほら、あれ見て」
神様が指を立てると空中にモニターのようなものが映し出される。当然、プロジェクターなど見当たらない。
「……地球?」
「そうだね、宇宙から見た地球だね」
「それが何よ、なんでこんな映像……早く家に帰してよ!」
先程の発言が許されたことで神様に害意を感じなくなったらしい彼女は、ますます口調が強くなる。
決して私には真似できない芸当に頬が引き攣った。
この中華風の人物が本当の神様であるという確証はない。けれど確実なのは、数々の発言や行動を見るにこの場においてこの人物が絶対的な決定権を持つということだ。
生きて帰りたいのなら出来るだけ気に障るような発言は避けるべきであると本能的に危機回避能力が警告を発している――私は。
幸いなことに神様は特に気にもせず笑っていた。
「まあまあお嬢さんA落ち着いて」
「誘拐されて関係ない宇宙の映像見せられて落ち着けるわけないじゃない! 大事なデートの日だってのにこんな怪しい奴に……!」
怖くて人の後ろに隠れるくらいならせめて大人しく黙っていてほしい――と、もどかしく思うのに、彼女に言う勇気はなかった。
神様は益々笑みを深くして「関係あるよ」と再び指を振る。
モニターの範囲が広がる。
……あれは。
「なに、あれ」
「今、お嬢さん二人がいるこの世界ではどんなに話していても時間は進まない。つまり停止させているんだけど、今宇宙ではこんな風になっていまーす」
「大きな石……まさか、隕石!?」
「そう大正解! しかもこのまま落ちれば君たちの故郷の日本に直撃! まあ日本とけち臭いこと言わず地球が跡形もなく消滅するね!」
あちゃー、と古いリアクションをとる神様には焦りなど一切感じられない。あまりにもあっけらかんと言うものだから冗談だと思えなくもないのに、真実だと何故か確信した。
それは彼女も同じだったようで、先程まで血色の良い顔色は真っ青になっている。それでも病弱キャラとして人気が出そうだと考えが浮かんでしまうのだから美人は恐ろしい。
「な、なに、それ……そんな話、信じられるわけ……」
「信じなくてもいいけど何もしなければ本当に日本も地球も滅びるよ。この隕石は特殊でね、今地球上にある機械では観測出来ない。だから目で見えるようになるまで誰も気付かない。もし観測出来てなにか対策をしようとしても手遅れで今に至る。僕は星が一つ消えるくらい、コップを一つ割っちゃったくらいの感覚だからそれでもいいんだけど」
その言葉も、嘘じゃない。
でも何か本題を隠している。
それを聞きたいような、聞きたくないような行き場のない思いで神様を見つめていると神様はまた私の顔見て、笑った。
「こんな巨大な隕石が地球に落ちるのなんて言っちゃえば稀だけど自然現象だからね。僕がどうこうする義理はないんだけどさ、ほら人間達も頑張ってきたじゃん? 進化して発明して文明作ってここまできたのはすごいなって思うわけ。だからさ」
神様は、強く手を握り、そっと開く。
そこには漫画でよく見るような簡易的なスイッチが一つ。
「選択肢、あげようと思って」
その笑みを見ていられなくて目を閉じる。
「なんなの、それ……」
信じないと言いつつ、状況が状況だけに信じざるを得ない彼女はそれに興味を示した。
「あえて名付けるなら救済スイッチだよ」
「救済スイッチ……? そ、それを押せば地球は助かるの?」
「そうだよ~。すごいでしょ。僕のチカラ」
「ええ、すごい、すごいわ! 本当に神様なのねありがとう!」
彼女の声に興奮が混じっている。もう、信じたらしい。さっきまで喚いていたというのに今はもう目を輝かせている。こんなにも簡単に一喜一憂して、彼女の人生はさぞかしカラフルだったのだろう。
それに比べて私は――。……? 私は……?
なぜだかわからない。わからないけれど、急に。
さっきまでぼんやりとしていた『自分』というものがどういう存在であったかが腹のずっと奥底から沸々と湧き出てくる。
私とは――。私とは――。私とは――。私とは――。
――――――――ああ、そうだ。私とはそういうものだった。
情報処理の完了と同時に、自分が何のためにここに呼ばれたのかの意味が、推測される。
じゃあ、これは、きっと。
目を開けると早速、彼女は私の背後から飛び出してスイッチを押そうと手を伸ばしていた。
僅かな時間ではあったが出会ってから今までで一番、その彼女を見る。
彼女は、美しかった。
神様と名乗る存在がいるくらいだからこの美女はもしかしたら天の使いなのかもしれないと見惚れてしまうほど。
遠目から見たら大体の人は美人に見えるという。だが、彼女の美しさは本物で、顔の黄金比が完璧で、肌には毛穴の一つも見当たらない。
まさに人類の宝のような存在。
逸らした視線の先に自分の短くて節くれ立った手が、無数の黒子や毛穴や傷や痣が散らばっている腕が、皮肉にもより自分という人間の根幹を呼び起こす。
彼女の手がスイッチに触れる瞬間、神様が口を開いた。
「でもね、これは選ばれし二人が力と心を合わせて一緒に押さないと意味がないんだ」
やっぱり、そういう展開になる。
「世界を救うにはそれなりの想いのエネルギーが必要でね、だから想いの強そうな二人を呼んだんだよ」
「そういうことだったのね。それならそうと早く言ってくれればいいのに!」
「あの子の記憶が戻ってなくて想いの強さが足りなかったんだよ。――でも、もう大丈夫みたいだね」
「そうなんだ。でも良かった、世界を救う代償に命を捧げて……とかじゃなくって。これなら楽勝ね!」
こんな非現実的で曖昧な情報でも彼女はもう神様の言葉を疑うことすらなくなったらしい。嬉しそうに駆け寄ってくるその眩しい圧力に、反射的に後退ろうとするが彼女が私の両手を握る方が速かった。
「私ね、実はもうすぐ結婚するの。五年付き合ってた三歳年上の彼氏にプロポーズされてね。彼ったら気が早くてもうマイホームを建てる計画もしてて、新婚旅行も世界一周の予定を立てたらしいの。更には海外に住む友人に勧められて別荘まで作るとか言い出して、ビックリしたけどそういう所も彼らしいというか。家族も協力してくれるっていうから海外で過ごすのも悪くないかなとか。みんなでわいわいするのもいいなって思ってたから」
ギュッ、と力が込められる。思いがそのまま熱になったかのように彼女の手のひらは熱い。
「そんな、みんなが幸せな未来を守りたいの!」
思わず目を細めてしまうほど彼女の瞳は希望に満ちて眩しい。
「お願い、協力して! 貴女にだって守りたい人達や未来があるでしょう?」
屈託のない笑顔。
彼女の言葉と笑顔には生きることへの希望と美しさがある。そしてそれが普遍的なものだとも思っている。
私が「はい」か「イエス」しか答えないと思っているに違いない。
これを信頼とするか押し付けとするかは言及し難いのだが、どんどん喉の奥が苦しくなってくる。
彼女は美しい。でもそれは容姿だけじゃない。自信と、希望とを惜しみなく持ち表しているからだ。
自分の中の黒いものが浄化されていくようなむず痒さに顔を背けると――神様と目が合う。
神様は、今日初めて、とてもやさしく、慈しみ深い笑みを『私』に向けた。
「あ――、――」
すべてを、見透かす瞳。腹の底で煮詰まり続けた黒い塊が解けて砂のように流れ始める。
こんなもの、外に出して良いわけがない。なのに、神様の無言の赦しに心が決まっていく。
私は彼女の両手を握り返し、自分で意識しうる限り最大の笑顔を向けた。
「私がスイッチを持ってきますね」
私が彼女にそう言うと、彼女は安心したようにその場に座った。
神様はスイッチを手に乗せたまま、離れる時を今か今かと待っている。プレゼントの蓋を開ける前の子供のように、全身から待ちきれないと聞こえてきそうだった。もうこの神様は怖くない。
神様の真ん前に立つ。実際に現実とは異なるかもしれないがふわふわとしていた。神様が差し出したスイッチに触る前に口を開く。最終確認だ。
「神様。一つ聞いても良いですか」
「もちろんだとも。何でも聞いて。愛しい愛しい不遇な子」
その言葉だけで――。涙が出そうになるけれど奥歯を嚙みしめ、続ける。
「たとえば、私が一人でこのスイッチを押したらどうなりますか?」
予想外の発言に後ろで彼女が驚きの声を上げた。
神様は言った。
「さっきも言ったけど、君一人じゃ世界を救うようには機能しない。二人で押さないと」
彼女がホッと安堵の息をつく。
神様は続けた。
「でも、君の願いは叶えられるよ」
目の前が潤む。まだ、堪える。
一息ついて、振り返ると会話を理解出来ず戸惑っている彼女がいる。
少しだけ心が痛んだが、飲み込んだ。
「――あのね。美人で恵まれた天使みたいな貴女。ごめんなさい。私生まれてから一度も、幸せなんて感じたことがないから、愛されたこともないから守りたい未来なんてないの」
「…………え?」
「親には放置されるか殴られるかだったし碌な衣食住も保証されてなかったから施設暮らしだったけど遊びに見せかけたいじめがあって傷つけられるわ変な大人を唆されて誘拐されるわでずっと怯えて生きてきたの。学校生活もそんな感じで私と喋ったからって汚いもの扱いされて屋上から飛び降りた子もいた。悪者扱いされて、ブスだと罵られて、無視されて周りの大人は知らんふり。耐えて大人になれば変わると思ったけど、体裁的ですら守ってくれる人がいなくなって、あっちに行ってもこっちに行っても人間としての尊厳は踏みにじられるばかり」
誰だったかが私に言った。
「お前は感謝が足りないから幸せになれない」「もっと辛い人生の人は大勢いる」と。
私の人生の全てを見てきたわけでもないそいつはさもそれが正しいことであるかのように押し付ける。
同じ人生を辿ってから同じことを言ってみろよ。
……いや、いっそ同じ人生を辿って本当に同じことを言って笑い飛ばしてほしかった。「大丈夫だ」と「お前は幸せになれる」と言ってほしかった。
「人間は平等じゃないし、生きているだけで幸せなのは恵まれた人だけ。今を生きるのに精一杯な人間に未来を想像する余裕なんてない。惨めになるだけだから」
周りの幸せを見てはいつか自分もと希望を抱いた時もあった。幸せになる権利は誰にでもあると聞いたから信じていたのに。
「でも、信じていれば、生きてさえいればいつかは……!」
「いつくるか、来ないかもしれないそれに耐えて生きるつらさを、知らないでしょ」
こうやって言葉を交わしても、きっと彼女は私の言葉の一割も実感出来ない。
「生きるのは疲れる。だからね、終わらせたかったの。世界ごと。私だけが死んでも意味がないから。でも誰かを悲しませたいわけでもないから世界を一瞬で誰にも気付かれず消したかった」
スイッチの上に手を置く。少し震えていたのはきっと、歓喜の震えだ。
「絶対に無理だと思ってた。そんな非現実的なこと。――非人道的なこと」
「そう、だよ……、罪のない人も、みんな、死んじゃうんだよ……そんな、ひどいこと」
「この世の中でマイナスに働く要素ってあるでしょ。必ずじゃないけど不利になる方が多い要素。性質としてこの体に与えられたマイナス要素。それらを強みに出来る人がいただけなのに、出来ない人は努力不足だって言う奴が蔓延る世界なの。与えられた理不尽を嘆くことも許されない世界。どうしようもないのだからしょうがない。それで納得出来る人はすれば良い。でも私は出来なかった。納得出来る程度の環境すらなかった。きっと、言っている意味すら貴女にはわからないでしょうけど」
「でも、でも……」
「だから神様に願ったの。最初はこんな理不尽を与えた神様を恨んだけど。私に明るい未来がないのなら私にも『天命的な理不尽』を与えるチャンスをくださいって。いいよね。天命なんだからしょうがないよね。みんなそうやって納得できるんだもんね」
スイッチの上に手を置く。
「最後にあったのが最上級に恵まれた貴女で良かった。――バイバイ」
彼女が駆け寄ってくるより先に、スイッチを押す。
彼女はその大きな瞳からガラス玉のような涙を落とし、出会ってから今までで初めてその顔面に皺を刻み大きな音と共に白い靄に包まれて、消えた。
モニターはもう消えていて、本当に衝突したのかはわからない。
初めて与えた理不尽はとても苦しくて、それでも漸く自分のために何かをしてあげられた喜びで涙が止まらなかった。
神様が私を抱きしめる。
「ああ、今まで本当につらかったね愛しい不遇の子。ごめんね。人類の進化のためには優劣が必要だから最初から平等なんて存在しないんだ」
白が白と認識されるためには他の色という概念が必須になる。比較の中にしか存在し得ないものが世の中にはごまんとある。
「多少はみな受け入れ乗り越えていけるけれど、君に与えられたものは非道いものが多すぎた。人の努力ではどうしようもないほどに。奇跡じゃなきゃ救われないほどに。だから君の所為じゃない」
「うっ、ううう……!」
『君の所為じゃない』その言葉をどれほど私が欲しかったか。
「さあ、もうゆっくりおやすみ。そして君が次に目覚める時は全く新しい世界になっている。大丈夫、こんなに頑張ったのだから今度こそちゃんと素敵な未来をあげよう」
初めて感じる安心に身を委ねていると、私の意識は次第に光の中へと溶けていった。
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