8 / 55
領地編
夫の機嫌が悪いです。
しおりを挟む夫の機嫌が悪い。
「きみは男という生き物が、怪物かなにかに見えるのかね。」
部屋の真ん中に立つわたしと、その周囲をゆっくりと歩く夫。
「得体がしれないという点では当たっていますわ。」
夫の靴音が、わたしの右斜め後ろで止まった。
気のせいかもしれないが、右耳の裏に、男の熱を感じる。
「男ほど単純なものはない。ほら、きみみたいな綺麗な女性がほほえみ一つ寄越すだけで、すぐ言いなりになってしまう。」
くい、と手で顎を持ち上げられ、首を反らせて夫を見上げた。
添えられた指が、すす、と顎のラインを辿って離れた。
わたしはのどを晒したまま、夫の瞳をのぞきこんだ。
「そのほほえみ、男の浮気に効果はないのかしら。」
「浮気?あぁ、もしかして、あれのことを言っているのか。」
大げさに目を見張る男。わざとらしい。この男の半分は演技だと思っていい。
「僕が医師の真似事をしているのは知っているね?」
首が疲れてきたので顔を正面に戻し、小さく頷いた。
実際は、夫のは真似事というレベルではなく、かなり本格的な治療も行っている。
今回もその関係で王宮に呼ばれていたので、これはしばらくぶりの再会なのだ。
「あれは治療のようなものだ。女性というのは、ここに‥‥。」
男の右手が、わたしの下腹部をそっと指を当てた。
「熱がたまると、感情が爆発し、心が散りぢりになってしまう。だから熱を放出させるための、いわば治療だ。‥‥なにより、手っ取り早く大人しくさせられるしね。」
ポツリとこぼした最後の一言こそ彼の本音だろう。声が真に迫っていた。
下腹部に当てられた指が、するすると上へのぼっていく。
胸の膨らみまで辿りつくと、わざと頂を避け、優しくその周りを一周する。
右耳に、夫がささやく。
「きみも、胸にたまったものがあるみたいだね。僕がみてあげるよ。このままだと、段々と胸が苦しくなるよ。」
夫の左腕が、背後からわたしの身体に回された。
「なんでも言ってごらん。きみのすべてを、僕に見せて。」
大きな右手が、襟の隙間から服の下に忍び込んで、胸の膨らみをじかに包む。女よりも硬い皮膚の感触を、敏感な肌で感じる。
「僕のことは、医者だと思って。先生って呼んでごらん。」
「っせ‥‥ん、せい‥‥。」
不埒な右手がうごめいているせいで、時折息を詰まらせながら「先生」と呼んだ。
「はは、きみに先生と呼ばれるのは気分がいいな。」
くりくり、と頂がこねくり回される。
じっとしていられない衝動に、芋虫のように身体をよじらせる。
「ほら、患者さん。力を抜いて、身を任せて。どんな感じがするか、言って。」
10
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる