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番外編
ある伯爵の独白
しおりを挟む侯爵夫人は本当にうっとうしい。
関係者に「伯爵は妻にぞっこん。そして伯爵夫人はわたしの親友。」ということをまことしやかに囁くせいで、やりづらくて仕方ない。
僕が妻に弱いだと?
そんなはずはない。
いつでも自分の思う通りに行動してきた僕だ。
そんな噂がたつと、僕の協力者が動揺するからやめてほしい。
まぁ、それが狙いか。
宮廷の人間は基本、我が強い。
反対意見があろうと、力業で、懐柔策で、とにかくどうにかして自分の考えを通そうとする。
その中で侯爵夫人はなかなかの存在感を示している。
たまにトラブルを起こしながらもまったく頓着せず突き進んでいくのだ。
僕はあの女をイノシシだと思っている。
妻は‥‥どうだろうな。
彼女がなにを考えているのか、あまり分からない。
あまり自分の意見を言わないし、自分自身のことさえ人任せにしようとする。
たまに揺さぶりをかけると感情の発露を見せるから、なにも感じていないわけではなさそうだ。
僕たちの世界では、反対を示さなければ同意とみなされる。
「自分の意見を言わなければ、いいように扱われるということが分からないのか。」と妻の肩をつかんで言い聞かせてやりたくなることがある。
‥‥僕は彼女が少し苦手だ。
彼女のそばにいると、らしくもなく判断を誤る。
そもそも、僕はこの制度改正の話がまとまるまで、結婚をするつもりがなかったのだ。
結婚相手だって、実家の力の弱い、従順な娘がいいと思っていた。
それなのに‥‥。
あれは、彼女の父親が悪いのだ。
よりによって、王弟などを彼女の相手に選ぶとは。
あの軟弱者に彼女が守れるわけがない。
なにせ彼女は、なにもないところでつまずくわ、目に付いたものをふらふらと追いかけて王宮で迷子になるわ、とにかく、彼女一人では不安なのだ。
それでも、頭の中では傍観すべきだと警告していたのだ。
自分には関係ない、と。
だが実際の僕は、なんとかして彼女を自分のものにしようと行動していた。
僕は彼女の顔を見ると、なにかに突き動かされるように意味の分からない行動をしてしまう。
僕の友人の多くが、王権派の娘・古王国王家の末裔を娶ることを懸念していた。
確かに、よほど大きな野心がない限り、僕にメリットはない。
今現在の制度改正の勢いに影響を及ぼすだけでなく、この先、古王国の復活を目論む勢力と我が国とのいざこざに巻き込まれることは避けられない。
そんなことは、言われるまでもなく理解しているが、結婚してしまったものはどうしようもない。
すでに、妻の実家からの干渉はすさまじいものがある。
彼らになんらかの確信を持たせては、今後さらに食い込もうとしてくるだろう。
彼女の訳のわからない僕への影響力を、認めるわけにはいかないのだ。
まぁ、いい。
彼女の姿を視界に入れなければ、僕も落ち着いていられる。
彼女に動かれると僕が落ち着かなくて困るのだ。
外には出ずに、家の中でおとなしくしていてほしいものだ。
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