伯爵夫人も大変なんです。

KI☆RARA

文字の大きさ
38 / 55
王宮編

夫は情熱的に語ります。

しおりを挟む



「そうか‥‥。」
帰ってきた夫に母の話をすると、彼は目を伏せて少し考えた様子だった。

「きみのお母様はなんでもお見通しだな‥‥。たしかに、北西方面のやりかたには興味がある。きみが気付かせてくれたんだよ。人に投資することを。」

「え?」

「小作人に、自由民になるための金を貸し、きみの家令のところで修行させただろう?あれは、北西方面がよくやる手だ。自由民になる人間が増えて都市に人が集まったけど、食べて行ける人ばかりではない。子どもが生まれても、養えない人も多い。北西方面の商人は、その中から見込みのある人間の衣食住の世話をして、その費用を貸しにするんだ。そして、金を稼ぐ力をつけるための訓練費用も、貸しにする。そうして稼げるようになったら、利息をつけて返させるのさ。前に言ってた、止まり木亭。あそこに貸し出されてる高級娼婦もそう。歌、踊り、知性、教養を学ばせた美しい女たちを育て上げ、働かせている。」

「それってなんだか‥‥。」

奴隷みたい、という声が聞こえたのか、夫は「彼らは自由意志に基づく契約だと言っている。」と答えた。

「実際、教育を受けた後に、彼らの斡旋するところで働くことは定められていないんだ。でも、彼らの指示通りに働けば、返済が優遇されるようになっている。それに、やっぱり安心感があるし、実入りが良いってことで、ほぼみんな、金を借りた人間の手の内で、働くことを選ぶ。」

夫はこれまで聞いたことがないくらい饒舌だった。
こんなに長く話すところなど、今まで見たことがない。

「これまでは、商人や金貸しは得体が知れないとして避けられがちだった。小作人にとっては、理解できないものだろうことは分かる。でも、これだけ交易が盛んになってきて、貨幣も浸透してきたんだ。これからは、そうしたものから学んでいくことが重要なんだと思うんだ。僕は王権自体に反対しているんじゃない。陛下には、これまで周囲にいた者たちだけで固まっているのではなく、こうしたことにも‥‥っ!悪い、退屈な話だろう。」

夫はポカンとしたわたしの表情に気付き、顔を赤らめた。

「いいえ、そんなことないわ。」
話はよく分からなかったけど、夫の思いが伝染してわたしまで熱くなってくる。
情熱的に話す姿を見ているのが、楽しい。

「ああっと、そうだな。きみのお母様の話だ。北西方面も一枚岩ではないから、商人や金貸しの中でも、北西方面の出身だってことを隠している者も多いし、古王国復活を支持していない者もいる。だけど、秘密結社って言われるくらいだから、もちろん裏で何を考えているかは分からない。それで、きみの立場だ。僕は、彼らの経済システムがこれからどんどん流入してくることを考えて、国として統一的に対応する体制の整備が必要だと思っている。でも、古王国復活に関しては、一切拒否する。きみを古王国に渡すつもりはない。」

「分かりました。」
わたしはこっくりと頷いた。

「きみはそれでいいのか?」

「わたしは‥‥実は、古王国の末裔の人たちって、あまり好きじゃないの。なんだか怖くて。昔、お母様と一緒に直轄領に行ったことがあるんだけど、すごい目を向けてくる人もいて‥‥ひどいことを言ってくる人も。」

思い出しても悔しくて、具体的な言葉は言えなかった。
「偉大なる王国の魂を汚す売女」「裏切り者」といった言葉が、今でも耳に残っている。
かの土地の人から見たら、彼らの目の前で、毎年、陛下に膝を折る姿を見せつける母は、その度に古王国の誇りを地に落とす者なのだろう。
そんな人ばかりではないと分かっていても、北西方面のことを考えるとすぐに、あの憎悪の瞳を思い出してしまって、どうしても苦手意識が消えない。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...