君を好きになりました〜その気持ちは受け取れないので早めに諦めてくれると助かります〜

歩くの遅いひと(のきぎ)

文字の大きさ
1 / 3

君を好きになりました

しおりを挟む
寒い冬の始まり。
私はため息をついた。

「先輩」
「わひっ! あ、あはは……」

コソコソしてはいるがまるで隠れられていない。頭も隠せてないしおしりも隠す気が見られない。
私、東堂(とうどう)はじめ はため息をもう一度。そして思った。この人は本当に先輩なのかと。
この先輩、原民(はらたみ)ひなめ は私と接点のない人だった。つい先日までは。

「へへ、見つかっちゃいました……」
「一応に隠れる気はあったんですね」

「かくれんぼは得意だったんだよ?」
「どうせ影が薄いからというオチでしょう」

「何でわかったの?」

ダメだ、この人。
私には苦手なタイプ。正直いっしょに居たくない。ーーなのに。

「好きだよ、はじめちゃん」
「そうですか。はじめちゃん呼びはやめてください」

彼女は私を好きらしい。
先日に初対面の先輩に告白されてからというもの、このやり取りが日課みたいになっていた。
もちろん、応える気はさらさらない。
しかし小動物のような目で追ってくる先輩を邪険に追い払えるほど、私だって鬼じゃないのだ。

「私は好きにならないので早めに諦めてくれると助かります」
「それは無理だなぁ」

……はぁ。まぁ実害はないから構わないけど。
第一、先輩とは部活も学年も違うし私の何をどう好きになったのか。それだけは気になるかな。

「それよりさ、一緒に学校いこう? それはいいんでしょ?」
「……まぁ」

つくづく小動物のような人だ。私とは正反対。

「先輩はなんで私を好きになったんですか?」
「んぇっ? は、恥ずかしいよぉ……」

通学路でコソコソしてる方が恥ずかしいと思うんだけど。ゴニョゴニョ言われても分かんないし。

「まぁあまり興味がないので大丈夫です」
「ドライだなぁ、はじめちゃん」

「だからはじめちゃんはやめてくださいってば」

傍から見れば可愛い方なんだろう。
私は思わないけど。

「待ってよはじめちゃんっ」

だからはじめちゃん呼びはやめてほしい。
もう言うのもめんどくさいから、言わないけどさ。

後ろで何か言ってる先輩を置いて、私は無言で歩き続けた。


☆☆

「懐かれたねー、はじめ」
「他人事だと思ってるでしょ、ほまな」

同じクラスの玉川(たまがわ)ほまな。色恋沙汰に疎かった私に春が来たと勝手に喜び、先輩側に付いている。

「まぁ実際、他人事だし」
「……そうね」

「でも、ちょっとくらい先輩に惹かれたりしない?」
「もし私にそんな感情があったとしても初対面の先輩に告白されたってときめかないでしょ」

「まぁ、たしかに」

数日に渡って関わった中で、あの先輩が私をからかうような人ではないと分かる。なにせ不器用だし。なにより不器用だ。

「どこで私と会ったのか、私のどこを好きになったのか。教えてくれないから分かんないし」
「まぁ、恋は正論じゃ推し量れないんだよ」

テキトーなこと言っちゃって。まぁ実際に他人なわけだから文句もいえないけど、ほまなは面白がってるところもあるから気に入らない。
私と先輩を引き合わせようとする行動にはデコピン1つじゃ物足りない。

「早く諦めてくれないかな」
「まぁはじめ冷たいからねー、割とすぐに飽きられちゃったりして」
「ありがたいことだよ」

どんなに距離を取って、諦めろと啓しても、先輩は私のそばを離れてはくれない。

「ほんと、迷惑なんだ」

私なんか、好きになる理由はないよ。先輩。


☆☆


「好きだよ、はじめちゃん」
「はぁ……」

「む…聞いてる?」
「聞いてます聞いてます。諦めてください」

何度めかなんて数えていないけど、なかなかの回数に到達したんじゃないか。なんでこの人は諦めないんだろう。

「はじめちゃん、今日はなんだか眠そう?」

なんで、私ばかり見てるんだろう。
先輩は、こんなに可愛いのに。

「……先輩はもっと上を見た方がいいですよ」
「へ?」

「私なんか見なくても、もっと素敵な人がいるでしょう」
「……どうしたの?」

どうもしないよ、先輩。お願いだから分かったような顔しないでよ。私はあんたに好かれるほど素敵じゃない。

「年下がいいなら、友達を紹介します。まぁ少ないですけど」
「ねぇ」

「身長が高いのが好みならたくさんいますし、あと」
「ねぇってば!」

うるさい。うるさいよ。

「はじめちゃん、好きだよ」
「私なんか、嫌ってくださいよ」

「それは無理かなぁ」

笑わないで。
優しい笑顔を見せないで。
早く私を好きじゃなくなってよ。じゃないと。

「好きに、なっちゃう……から」
「へへ」

「笑い事じゃない!私みたいな冴えなくて可愛くもない奴と一緒にいたら先輩まで霞んで見えちゃうんですよ!」

あぁもう。
どこからだ、どこから間違えたんだ。
好きにならないと決めたのに。好きになるはずなんかないって思ってたのに。

「はじめちゃんは可愛いよ」
「可愛くない……」
「はじめちゃんは可愛い」

うるさい。可愛いはずがないよ。こんなみっともない私。

「他人が近寄ることを拒否するくせに、急に自信がなくなっちゃうとこ。可愛いね」
「うるさい……!」

「私が離れちゃうのが怖くなった? はじめちゃん」
「うる、さい……」

「どこにも行かないよ、私は。だって、はじめちゃんが好きなんだもん」

いつからか、私の周りに人がいないのは当たり前になっていて。それを寂しいとも苦しいとも思わなくなった。
でも実際は、思わないようにしてただけだったんだ。

「好きだよはじめちゃん。不安なら何回だって言ってあげる」
「……物好きですね、ひなめ先輩」

ゆっくりと抱きしめてくれる先輩の腕の中は暖かくて、少しだけ小さかった。
好きにならないと決めた人。今もまだ、恋しているかなんて分からない。
でもこの胸の温もりが気持ちいいから、きっと答えはもうすぐ分かってしまうだろう。

「前言撤回します、諦めないでください。ひなめ先輩」
「もちろん。好きだよ、はじめちゃん」




その時が来るまでもう少し、この温もりに甘えていよう。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...